艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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お久し振りです、苺乙女です

今しばらく時間を開けてしまい、申し訳ございません

ここ数ヶ月色々な事があり、精神的にも身体的にも参ってしまっていました

読者の皆様に心配をかけるような事になってしまい、大変申し訳ございません

そんな精神状態で書いたお話ですが、お楽しみ頂けたら幸いです



今回のお話ですが、パースの過去のお話になります

パースは果たしてどこで産まれたのか…

過去に何を忘れて来たのか…


314話 あの日のパンの味

「朝霜ちゃーん‼」

 

「んぁ??パースさんか!!どした??」

 

この日、珍しくパースは工廠に来ていた

 

「ぼっちゃんいるパース??」

 

「すぐ戻って来んぜ!!ちょっとそこで待ってんだな!!」

 

パースは朝霜の指差した方向にある椅子に座り、マーカスの帰りを待つ

 

朝霜は少し離れた位置でマーカス含めた三人分のコーヒーを淹れ始める

 

「そいや〜、パースさんは父さんのベビーシッターだったっけか??」

 

「そうパース‼赤ちゃんの頃のぼっちゃんはパースによく懐いてくれてたパース!!」

 

「父さんも幸せモンだなぁ〜…美人のベビーシッターが二人かぁ〜」

 

「…上手くやれたかは、パースにも分からないパース」

 

パースは急に真面目な顔になる

 

「何の心配してんだ??」

 

何の心配もないと朝霜は言うが、パースには一つ気掛かりがあった

 

「パースは、あんまりおかーしゃんの記憶がないパース…」

 

「そ…そか…んまぁあれだ!!父さんがほら!!人に優しく出来てるって事はだ!!」

 

まずい事を聞いたと思い、朝霜は話を切り替えようとした

 

「でもでも!!パースはちょっとだけ、おかーしゃんに愛して貰ったパース!!」

 

「大丈夫さっ。父さんには、ちゃんと伝わってんぜ」

 

コーヒーをパースの前に置きながら、朝霜は自身の物を飲む

 

「これは何パース??」

 

「これか??これは…」

 

朝霜が言う前にパースが言う

 

「このダイヤルは何パース??」

 

「それは行きたい時間に合わせるとその時代に行けるんだ。内緒だかんな!?」

 

「ほへ〜…すっごいパース…」

 

朝霜は、パースなら悪さしないだろうと少し目を離した

 

「もしホントなら…これで…パースもおかーしゃんと…」

 

………

 

朝霜がパースに目を戻す

 

「パースさん!?」

 

数十秒前までそこにいたパースが、忽然と姿を消した

 

「どうした朝霜??」

 

「父さん!!」

 

タイミング良く帰って来た俺に、事の経緯を話す…

 

 

 

「つまり、パースはタイムマシン使ってどっか行ったと…」

 

「そゆ事だ…タイムマシンのスペアはあっけど、問題は何処に行ったか何だよな…」

 

「何か手掛かりになりそうな事がありゃいいんだが…」

 

考えるが、如何せんいつもあの調子のパースだ

 

過去にあった美味しい物を食べに行った〜なら良いのだが…

 

「そいやぁさっき、お母さんに会いたいとか言ってたな…」

 

「パースの母親か…」

 

「あんまアタイの口から言うのも良くねーからさ…あ!!ほら!!おばあちゃんならどうだ⁉」

 

「ちょっくら聞いてみるか…」

 

朝霜の口が堅い事を知った後、母さんに無線を繋げる

 

「母さん、俺だ」

 

《どうしたのマーカス》

 

「母さん、パースと何処で出会った??」

 

《ウィットビーよ??》

 

「いつ位の話だ」

 

《いつだったかしら…マーカスが産まれる3年位前に、そこで空爆があったのよ。その後ね》

 

「分かった。ありがとう!!」

 

無線を切り、時間を合わせる…

 

「ウィットビー…ウィットビー…あった、これだ!!」

 

PCで、過去に起きた空戦の記録を出す

 

その中に、数十年前に起きた空爆の記録が確かにあった

 

その時間に、タイムマシンを合わせる…

 

「分かったんか!?」

 

「あぁ。恐らくパースはっ…この街で何かあったんだ。ちょっと迎えに行って来る」

 

「アタイも行く!!」

 

「来るな!!空爆の最中を行く!!」

 

「ちょっ!!マジか!!父さん!!」

 

朝霜の静止虚しく、俺は過去へと戻る…

 

 

 

 

「いでっ!!ここどこパース??」

 

パースは見知らぬ街の外れに着いていた

 

「あ…」

 

記憶には無いだけで、ここで暮らしていたのは確か

 

だからこそ、パースは何となくこの街を覚えていた

 

「パースー!!お家帰るわよー!!」

 

「あ、はーい!!」

 

自分を呼ぶ声に反応し、街を見るのを止めて振り返る

 

「パース!!」

 

「えっ…」

 

パースが振り返った先に居たのは、紛れもなくパースの母親

 

「お…おか…おかあしゃ…」

 

「おかあしゃーん!!」

 

パースが母親の所に行こうとした時、少女が母親に抱き着いた

 

「あっ…」

 

「あら??貴方は??」

 

「な、何でもありません…」

 

いつものパースが消え、真面目なパースになる

 

「貴方お家は??もう暗くなるわ??」

 

「私が分からないのですか…」

 

「えっと…」

 

「私は…私はずっと覚えていたのに…どうして…」

 

「お腹空いたのかしら??一緒にどう??大した物は無いけれ…」

 

「お前なんか…お前なんか!!母さんじゃない!!」

 

涙だけは見せるまいと、パースは親子から離れた

 

「おかーしゃん。あの人なぁに??」

 

パースの母親は、小さい頃のパースの頭をにこやかに撫で、街へと戻って行った…

 

 

 

 

「私はずっと覚えていたのに…母さんは私が分からないんだ…」

 

街からもう少し離れた場所に一本の木があり、パースはその下で腰を下ろした

 

「…ま、いいや。どうせこの後街は一度焼かれる…ははっ、私を覚えてない母さんなんて、どこかに行ってしまえばいいんだ」

 

そうすればパースの中から、ほんの少し残っている母親の記憶は炎と共に消えて行く

 

だったら早く、なくなってしまえばいい

 

自分を忘れた母親も…

 

自分を待っていた故郷も…

 

「親孝行はしとくもんだぞ」

 

木の裏側で声がしたので、パースは覗いてみた

 

「坊っちゃん!!どうしてここに!?」

 

「とりあえずこれは預かる」

 

パースが背中に挿していたタイムマシンバットを取る

 

「母親には会えたか??」

 

「さぁ…母親と言えるのかどうか…」

 

「そう言うな。どれだけ変わろうが、母親は母親だ」

 

「私の事が分からなかったのです。私は…ずっと覚えていたのに…」

 

「パース」

 

「スパイト様は立派です。どれだけ坊っちゃんと離れていようが、坊っちゃんとすぐに分かりましたから…」

 

「パース、あのな??」

 

「何です」

 

人の話を聞かずに話し続けるパースをようやく遮る

 

「小さい自分の娘がいるのに、いきなり大人になった娘の姿を見たらどう思う??」

 

「あっ…」

 

ここに来て、やっぱりパースはパースなんだと良く分かった

 

「では本当にタイムスリップしたのですか!?」

 

「それも数十年前にな」

 

パースは街を見直す

 

あの人は本当に自分の母親であるならば…

 

「…坊っちゃんには、話しておきます」

 

パースから経緯を聞く

 

ここで産まれた事

 

ここで育った事

 

この後、戦火に巻き込まれる事…

 

「母親とはここで別れたんだな??」

 

「はい」

 

「そこで待ってろ」

 

「私も行きます‼」

 

「今から空爆が始まるんだろ??」

 

「その後兵隊が乗り込んで来ます!!今この時代で坊っちゃんを守れるのは私だけ…」

 

「今も未来も、だ。行くぞ」

 

「はいっ‼」

 

パースと共に、ウィットビーの街に入る…

 

 

 

「空爆までの時間は分かりますか??」

 

「残り一時間って所だ。家はどっちだ??」

 

「あそこのパン屋さんです」

 

パースの実家はパン屋さん

 

母親がパンを焼き、ちょこちょこ動くちいさいパースがいる

 

「いらっしゃいませ〜!!」

 

「お、おか…」

 

「あら、貴方はさっきの!!」

 

「このパンを2つ貰えるか??」

 

パースの母親が売っている"カリェーパン"を2つ貰う

 

「ありがとうござ…」

 

紙袋に入れて貰って此方に渡してくれた瞬間、彼女の腕を掴んで頭を寄せた

 

「…じき空爆が始まる。娘を連れて逃げろ」

 

「…本当ですか??」

 

「…今アンタを見ている女は、アンタを救う為にここに来た。ありがとう!!美味そうだな!!」

 

彼女を離し、早速パンを頂く

 

カリェーパンと書いてあったが、想像通り甘口で美味しいカレーパンだ

 

「おかーしゃん。逃げましょう」

 

「貴方一体…」

 

「今は分からなくて良いです。とにかく行きましょう!!」

 

「パース!!行きましょう!!」

 

「おかーしゃ」

 

小さいパースが母親の所に寄ろうとした瞬間、爆弾が落ちて来た

 

「ちっ‼」

 

パースが小さいパースを抱き締め、何とか事無きを得る

 

「今ので分かったでしょう!!早く!!」

 

「わ、分かったわ!!」

 

「こわいよー!!」

 

「大丈夫。"私が生きてる"なら、貴方も生きてる」

 

もしここで小さいパースがやられれば、俺の知ってるパースは無かった事になる

 

「坊っちゃん行きましょう!!」

 

「さっきの所まで避難するぞ!!」

 

パースは小さいパースを抱き上げ、丘の上まで走る

 

それに合わせて母親も走る

 

俺は母親の横で一緒に走る

 

投下された爆弾に気付き、避難を始める市民が大量に出始めた

 

「どけ!!」

 

「あっ!!」

 

市民に押され、パースの母親が転けてしまう

 

「「おかーしゃん!!」」

 

「ほら!!立…」

 

二人のパースが振り向き、俺も振り向く

 

たった少し離れた距離のはず

 

俺の届く範囲にいた

 

母親とパースを割くかの様に、爆発と瓦礫が隔たりを作った

 

「おかーしゃん!!おかーしゃんが!!」

 

「パース!!行きなさい!!その人の手を離しちゃダメよ!?」

 

瓦礫の向こうで母親の声がした

 

「嫌だ!!おかーしゃん!!」

 

小さいパースは、パースの腕の中でもがく

 

「行ってはダメです!!貴方まで!!」

 

パースはそれを何とか抑えようとする

 

「嫌だ!!おかーしゃんのとこ行く!!」

 

「…坊っちゃん」

 

「おかーしゃーん!!」

 

俺は何とかパースの母親を助けようと瓦礫を退ける

 

「坊っちゃん…お願いがあります…」

 

「何だ!!」

 

「私の母親を…救って頂けませんか…」

 

「分かった!!その子を連れて行け!!」

 

「申し訳ありません…!!」

 

小さいパースの手を引き、パースは丘の上に走る

 

本来、自分が護らなければならない人…

 

その人を危険に晒して自分の母親を救って貰う事に、パースは今まで感じた事の無い罪悪感を抱いていた…

 

 

 

 

考えろ…考えろ俺…

 

「ゲホッ…も、もう、行って下さい…ありがとう…」

 

「諦めるな!!」

 

「もうっ…ゲホッ…火がそこまでっ…パースをお願いしますっ…」

 

この期に及んで瓦礫の向こうで自分の娘を心配するパースの母親

 

「…待ってろ、すぐに戻る」

 

俺はバットを元の時代に合わせ、地面を小突いた…

 

 

 

「父さん!!」

 

「すぐまた戻らなきゃならん!!」

 

待っていてくれた朝霜を横目に、過去に戻る準備をする

 

「ほんの少し後に戻れるか⁉」

 

「まぁ誤差程度の時間差ならな!!」

 

必要な物をバッグに詰め、バットで床を叩く

 

「あんま時代変えんなよ!!」

 

「分かった!!」

 

パースの母親を救う為、再び過去へとさかのぼる…

 

 

 

 

「ゲホッ…ううっ…」

 

「こいつは上玉だな…」

 

「怪我してるが、まぁいい。連れて行け」

 

「やめてっ…離して…」

 

空爆の後、すぐに敵が乗り込んで来た

 

敵兵二人はパースの母親を見つけ、連れ去ろうとする

 

「ヘヘ…来」

 

「おい!!何っ」

 

敵兵二人の意識が急激に遠のく

 

誰かが後頭部にストレートを入れ、二人はしばらくの間気絶

 

「しばらく大人しくしててくれ」

 

「貴方は…」

 

「これ付けてろ。3時間は酸素と鎮静剤が出る」

 

元の時代から持って来たのは、新しく開発した酸素マスク

 

3時間は酸素が出続け、必要ならば鎮静剤が口腔内に散布される物だ

 

「痛っ…」

 

パースの母親は腹部に瓦礫の破片が刺さっており、そこから出血していた

 

「説明は後だ。アンタを連れて行く。掴まってろ」

 

「…」

 

鎮静剤が作用したようで、パースの母親は眠ってしまった

 

…今日はよく動く

 

いや、今日なのかさえ、定かじゃないな…

 

 

 

「えーんえーん!!」

 

「すぐに戻って来ますから…私の坊っちゃんは強いですよ??」

 

丘の下に広場があり、避難した市民はそこに集まっていた

 

「おにーしゃーん!!」

 

「パース!!よいしょっ!!」

 

「はっ!!坊っちゃ…」

 

戻って来た俺の腕に、パースの母親はいない

 

小さなパースの前で膝を折り、目線を合わせる

 

「お嬢ちゃん、名前は??」

 

「パース…」

 

「そっか。俺はリヒター、あの人は…」

 

パースの顔を見た瞬間、ほんの少し左目を閉じた

 

過去で自分の名前を明かすのは、時代が大きく変わってしまう

 

パースは俺がリヒターと言った時点でそれに気付いてくれた

 

「う…ウェンディです」

 

「おかーしゃんは??」

 

「君のお母さんは治療を受けてる。心配しなくていいよっ」

 

小さなパースの頭を撫でると、ようやく泣き止んでくれた

 

「ホント??」

 

「ホントさ!!空軍は嘘付かないんだ!!そうだ、パースは何が好きかな??」

 

「パースは…パンが好き…」

 

「そっかそっか。ウェンディお姉ちゃんと一緒に作ってあげるからな??」

 

「やったぁ!!」

 

「ウェンディ、手伝ってくれるか⁉」

 

「はいっ、坊っちゃん」

 

パース改めウェンディと共に、小さなパースに食べさせるパンを探す…

 

「焼け野原です…」

 

ウェンディと俺の目線の先には、見るも無惨に壊滅した街がある

 

空爆と上陸して来た敵兵の第一波が過ぎ去っただけで、まだ街に戻るには危険が多い

 

「どっかの家にパンの一つ二つあるだろ…」

 

「過去の私に灰まみれのパンを食べさせるのですか」

 

「うっ…」

 

「ふふっ、ここは"ウェンディお姉ちゃん"にお任せを」

 

「一生言われそうだ…」

 

パースは瓦礫の中から必要な物を集め始める

 

「坊っちゃんはレンガを沢山お願いします。私はパンに必要な物を集めて来ます」

 

「まだ敵兵がいる。大きく動くなよ??」

 

「畏まりました」

 

俺はパースに言われた通り、レンガを集める…

 

 

 

 

その頃…

 

「貴方ですか、私の母親に手を出したのは」

 

「何だこのアマ!!」

 

「殺せ!!」

 

「坊っちゃんは生かしたみたいですが…ふふっ、私相手に」

 

パースは腰からナイフを抜き、敵兵のつむじに突き刺した

 

「慈悲はありませんよ」

 

つむじからナイフを抜き、敵兵を見ずにそのままの勢いで鳩尾を貫く

 

再び引き抜かれたナイフは真っ黒に染まった刃をしている

 

元から黒かったのか、それとも、今日に至るまで生き血を吸って来たのか…

 

パースはナイフを仕舞い、パンの材料を集めて皆が待つ場所に戻って来た

 

 

 

「戻りました」

 

「こんなもんでいいか??」

 

パースが帰って来た頃には、ある程度のレンガが集まっていた

 

「ありがとうございます。これでっ…良い物が作れます」

 

パースが集めていたのは小麦粉等パンを作る材料

 

「ふふっ…見ていて下さい」

 

パースのパン作りが始まる…

 

3時間後…

 

「これで出来上がりです。皆さん、召し上がって下さい」

 

市民に出来上がったパンを配るパース

 

「ありがとうお嬢ちゃん」

 

「どうぞ」

 

一人の老人がパンを受け取る

 

パースは普通に渡している

 

「ウェンディおねーしゃん!!美味しいパンありがとう!!」

 

「どういたしまして。即席ですが、この窯は残しておきますので」

 

小さいパースも喜んでくれた

 

「坊っちゃん、ライターを拝借出来ますか」

 

「ほらっ」

 

パースにライターを渡すと、そこかしこにある焚き火に火を灯し始める

 

「これで一晩は超えられます」

 

最後に火を灯したのは、俺と小さいパースの前にある焚き火

 

火に当たりながら、小さいパースを横にさせて休ませる

 

「坊っちゃん、これを」

 

「ありがとう」

 

パースにブランケットを被せて貰い、片手を火に当てる

 

「パースの分はどうした」

 

「私は構いません」

 

「来いっ」

 

そう言うと、パースは俺と同じブランケットに入った

 

「これが…私の過去です」

 

「何も言うな…」

 

「酷いですよね…私…街も母もいなくなれって…」

 

「もういい…自分を責めるな」

 

「私は坊っちゃんを危険に晒して…」

 

「もういい」

 

火に当たっていない手で、パースを抱き寄せる

 

「貴方に好かれる事なんて!!私にはもうないんで、うっ…」

 

パースをキツめに抱き寄せる

 

「優しい人…坊っちゃんはいつもそうです…」

 

「次言ったら、口を塞ぐからな」

 

「塞いで下さい。ずっとお待ちしています」

 

「うっ…」

 

パースは既に受けの体制

 

「坊っちゃん」

 

「俺には妻が…」

 

顔を逸らした瞬間、物凄い力で顔を持たれ、唇を合わせたパース

 

「この時代は、まだ坊っちゃんは未婚のはずです。スパイト様のお腹にハナクソもない時期です」

 

「言ってくれるな…」

 

「いつの間にか…私は抱かれる方になっていたのですね…坊っちゃんを背負っていたのが、つい先日の様なのに…」

 

パースは俺に頭を寄せる

 

「ごめんなさい…今はこうさせて下さい…」

 

何も言わず、パースの肩を抱く…

 

パースの甘い匂いに、いつの間にか俺もまぶたが落ちて行く…

 

 

 

坊っちゃんにブランケットを被せ、私は立ち上がる

 

ごめんなさい、坊っちゃん…

 

私には、やり残した事があるのです

 

二人の所からそっと離れ、別の焚き火に向かう…

 

一人の男が寝ているのを揺さぶって起こす

 

「何だ…」

 

私は無言のまま、笑顔で胸を両手で持つ

 

「おぉ…」

 

「あちらでどうですか…」

 

男を誘い、街の離れの崩壊した建物の裏に来た

 

「いいのかこんなっ…」

 

パースは背後から男の口を塞ぎ、左胸にナイフを突き立てていた

 

「老人の分際で…貴方が母を突き飛ばすから…」

 

「ゔっ…!!」

 

先程パンをいけしゃあしゃあと受け取っていた老人の男は、ここで歴史から消える

 

「食うにも足らない奴…」

 

汚したのは貴方だと言わんばかりに、男の服で血を拭い、カチン…と、ナイフが仕舞われる

 

 

 

次の日の朝、老人の一件は敵兵のせいにされた

 

どうやら元からあまり良い人間ではなかったらしい

 

「いいですか私」

 

「なぁにウェンディおねーしゃん??」

 

「じき、貴方を拾ってくれる人に出逢います」

 

「うん…」

 

小さなパースは不安そうにうつむく

 

「大丈夫…」

 

パースは小さなパースを抱き締める

 

「その人は貴方を実の娘の様に可愛がってくれます…」

 

「ウェンディおねーしゃん、どこかに行くの??」

 

パースは何も答える事が出来ず、ふと俺の方を見る

 

俺はパースの後ろで二人を見ていた

 

「リヒターお兄さんは好きですか??」

 

「うんっ!!リヒターおにーしゃんすき!!」

 

「ふふっ…私と同じ…私もリヒターお兄さんが大好きです。護って頂けますか??」

 

「なにを??」

 

「今は分からなくていいです…」

 

パースは小さなパースの頭を撫でる

 

 

 

あぁ、思い出した…

 

私、この日から坊っちゃんが好きだったんだ…

 

 

 

空襲から助けてくれて…

 

美味しいパンを焼いてくれて…

 

一緒に寝てくれて…

 

 

 

ごめんなさい…護られていたのは私の方なのに…

 

 

 

「帰ろう、ウェンディ」

 

「はい、坊っちゃん」

 

「まって!!おにーしゃん!!おねーしゃん!!」

 

帰ろうとした時、小さいパースが寄って来た

 

「ごめんなさい…貴方を連れて行けないの…」

 

「パースおいてかないで…」

 

パースも情が湧いてしまったのか、小さいパースを抱き締めた

 

俺も小さいパースを抱き締め、二人で小さいパースを慰める

 

「そうだパース。おまじないをしよっか」

 

「おまじない??」

 

「そっ」

 

俺は腰の後ろから、シースごとナイフを取り出した

 

「お兄さんがお友達から貰った宝物だ。いつかお兄さんに会ったら、返しに来てくれるかい??」

 

そっか…このナイフ、坊っちゃんから…

 

パースは思い出した

 

この使い古したナイフは、あの日未来から来た坊っちゃんから貰った物だと…

 

「それをどう使うかはパース次第だ。料理に使うのも、誰かを護るのも…なっ??」

 

最後にパースの頭を撫で、バットで地面を小突いた

 

「おにーしゃん!!おねーしゃん!!ありがとー!!」

 

俺もパースも、ちょっとだけ微笑みながら小さなパースに手を振る…

 

 

 

 

「父さん!!パースさん!!」

 

「ただいまっ」

 

「戻ったパースゥ!!」

 

元の時代に戻って来た

 

パースはいつものパースに戻っている

 

「んとびっくりしたぜ…」

 

「すまなかったな。俺はちょっとやる事があるから行って来るよ」

 

「いってらっしゃ~い!!」

 

俺が工廠から出た後を、パースはちょこちょこ着いて来た

 

俺がまず来たのは工廠の裏

 

事が終わったので一服したくなった

 

「坊っちゃん」

 

「疲れたか??」

 

パースは俺を見るなり、自身の腰の後ろを弄くり始めた

 

「お返しに参りました」

 

パースの手には、数十年前に彼女にあげたはずのナイフがシースごとあった

 

「やるよ」

 

「お返しする約束です」

 

「どれ…」

 

シースをパースに持って貰い、ナイフを引き抜く

 

随分と黒くなった刀身がすぐに目に入った

 

「これはアビサル・ケープで造った、深海の子達からの贈り物なんだ」

 

「その様な大切な物を…」

 

刀身を見た後、シースにナイフを仕舞う

 

「やるよ」

 

「ですが坊っちゃん」

 

「なら預かっていてくれ」

 

「畏まりました」

 

やると言うと受け取らず、預かってくれと言えば、パースは再び腰にシースを着けた

 

パースはどうしても聞きたかった事を俺に聞いた

 

「…母の最期はどうでしたか」

 

「美人な人だな、パースの母さんは」

 

「もう殆ど忘れていました…」

 

俺はパースに気付かれない様に時計を見た

 

「予定があるんだ。一緒に来るか??コーヒーを淹れて欲しい」

 

「はいっ、坊っちゃん!!」

 

パースと共に来たのは医務室の前

 

「ぼっちゃんも大変パース。いーっつもあくせく動いてるパース!!ささ!!どうぞパース!!」

 

パースがドアを開けてくれたので、先に中に入る

 

そしてすぐに足を止める

 

「パース」

 

「どうしたパースぼっちゃん??」

 

「親孝行って…良い響きだよな??」

 

「キツいですよ…坊っちゃん…」

 

本来のパースに戻ったのを背中で感じ、パースの方に振り返る

 

「悪かった。何かお詫びをしなきゃな…」

 

そう言って、そっと横に逸れた

 

「…パース??パースなの!?」

 

「お、おかっ…」

 

そこにいたのはパースの母親

 

「おかあしゃーーーん!!」

 

すぐに母親に走って行き、飛び付く様に抱き着く

 

「凄い凄い!!ぼっちゃんが助けてくれたパース!!」

 

「ごめんなさい…最初貴方と気付かなくて…」

 

「おかあしゃん、おかあしゃん…」

 

「マーカスさん、ありがとうございま…」

 

「ぼっちゃん??」

 

既に俺はそこにはいなかった

 

最初の親孝行の邪魔をしてはならないと思い、横に逸れたと同時に医務室を出ていた

 

「そういえば、マーカスさんがこれを…」

 

パースの母親には、手紙を渡して置いた

 

パースと共に、手紙を開ける…

 

 

 

パースへ

 

すまない。こうするしかなかった

 

君の母親は、過去で行方不明になっている

 

未来に連れてこれば、過去では同じ行方不明になる

 

君の未来を奪ってしまってすまない

 

 

 

 

"パメラへ"

 

パースは俺のベビーシッターです

 

俺は彼女にまだ恩を返していません

 

もし、これが最初の恩返しになるのなら、貴方に親孝行する事だと思い、未来に連れて来ました

 

こんな私が言うのもですが、どうかこれからパースと共に第二の人生を歩んで下さい

 

私はいつでも、貴方達の手助けをします

 

 

 

 

「そっかそっか!!パースは良い人に会ったのね??」

 

「うんっ!!ぼっちゃんはとーっても良い人パース!!」

 

パースは母親にたっぷり撫でて貰い、二人で医務室を出て来た

 

「んと美人さんだなぁ…」

 

たまたま外にいたのは朝霜

 

「アタイは朝霜!!マーカスの娘さぁ!!これ、父さんから!!」

 

「これは…」

 

パースの母親は、朝霜からドックタグを受け取った

 

「それ持ってっと、ここで暮らしてます〜って証明になんだ!!んじゃ!!後は母さんが説明すっから、今は楽しんでくんな!!」

 

ドックタグだけ渡すと、朝霜はそそくさと帰って行った

 

「行っちゃったわ…」

 

「おかーしゃん!!パースのお店見て欲しいパース!!」

 

「あらっ!!パースお店持ってるの??どれどれ〜??」

 

 

 

パースの母親は

 

"Pamela Victorious"

 

と打たれたドックタグを首から掛け、パースの後を追って行った…




ヴィクトリアス…パースママ

数十年前に行方不明になったはずのパースの母親

過去の世界ではそのままにしておくと行方不明になっていたが、そこを突いてマーカスが未来に連れて来た

未来に連れて来ても影響のない人なので、特に変わった事も無かった

当時の年齢のままの美人な顔で活発で良く笑うので、横須賀にいてもかなりモテる

普段はパースのピザ屋におり、ピザを焼いたりとパースと楽しく生活を送る



余談
怒ると"冷凍バラクーダ"なる物でぶん殴って来る

横須賀の繁華街には血気盛んな女性陣が多いが、ヴィクトリアスもその一人になってしまう日も近い

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