艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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題名は変わりますが、前回の続きです

戦闘が終わり、マーカスは基地へと戻ります

鳥海達の治療をする中、一人のライバルがマーカスの所に来ます


313話 羽をたたむ潮時

「博士、そっちはどうだ⁇」

 

無線を繋いだ先は大淀博士

 

《ギリギリだったよ‼︎》

 

「話は出来るのか⁇」

 

《出来るよ‼︎ほら、レイ君から‼︎》

 

《マーカスさん、ありがとうございます》

 

無線の先から聞こえて来た声はイェーガー

 

撃墜の寸前、大淀博士が遠隔でイェーガーのAIを抜き取った

 

そして今、戦闘機のボディより遥かに小さなPCにまとまっているらしい

 

「お前にあのボディは似合わん。まぁ少し考えてな、新しいボディをな」

 

《高山さんは…》

 

「あいつはしぶとい奴だ。それに、まだお前に謝ってない」

 

《いいんです…彼は私の相棒ですから》

 

「ダメだ。悪い事をしたら謝るんだ。いいな」

 

《了解、マーカスさん》

 

《レイ君、後で大淀さんの所に来てね‼︎》

 

「飛んで行くさっ」

 

大淀博士との無線を切り、もう一度戦闘のあった空域、そしてその下の海を見る

 

《量産型加賀かぁ…》

 

「残りはいるか⁇」

 

《生体反応はあるけど、これじゃあ動けないね》

 

「ガンビアだ」

 

ようやくガンビアが到着した

 

《大尉、遅れて申し訳ありません‼︎》

 

「敵は片付いた。量産型加賀のボディの回収を頼みたい」

 

《了解です。横須賀からも同じ指令を受けました》

 

「任せた」

 

回収をガンビアに任せ、俺は横須賀に戻った…

 

 

 

 

「お疲れ様、レイ」

 

着陸すると、横須賀が出迎えに来てくれていた

 

「こっちの損害は⁇」

 

「特に無いわ。ま…強いて言うなら、イェーガーと鳥海かしらね」

 

「鳥海がか⁇」

 

参加していたのは上からチラッと見えていたが、損傷を受けたのは分からなかった

 

「今大淀博士が診てくれてるわ」

 

「分かった。行って来る」

 

「報告は僕が送っておくよ‼︎」

 

「頼んだ。ありがとな」

 

きその頭を撫で、大淀博士の研究室に向かう

 

 

 

「やー‼︎おかえりレイ君‼︎」

 

「ただいま」

 

「鳥海ちゃんは大丈夫だよ‼︎」

 

「ご心配をお掛けしました…」

 

既に鳥海は立っており、心配はなさそうだ…

 

「ここか…トラック基地の有村です」

 

「どうぞ〜、開いてますよ〜」

 

「失礼します‼︎」

 

鳥海を迎えに、トラックさんが来た

 

「鳥海‼︎怪我はもう大丈夫かい⁉︎」

 

「はいっ‼︎司令官さん‼︎鳥海は治りました‼︎」

 

トラックさんを見るなり、鳥海の顔が明るくなる

 

「しっかし驚いたねぇ…君の自然治癒力は異常に強い。どうしたらそうなるんだい⁇」

 

「司令官さんがお作りしてくれるごはんが美味しいからです‼︎」

 

「「なるほど…」」

 

鳥海の答えに、俺達二人は納得する

 

トラックさんの作るごはんは、ボリュームも栄養も満点でかなり美味しい

 

鳥海の異常な自然治癒力がそれと言われれば、ちょっと分かる気がする…

 

「司令官さん。お二人にならお話しても大丈夫でしょうか」

 

「大丈夫。二人は信頼出来る友人だよ⁇」

 

「他に何か秘密があるのかい⁇」

 

「やっぱスイーツか⁇どれもこれも絶品だからな…」

 

「自衛隊で産まれたんです。実験体として」

 

「おや…そうだったのかい…」

 

「そっか…」

 

「あの日、司令官さんに救出して頂いてから、この体の使い方が少し分かりました。決して悪い事をする為に産まれたのではない、と」

 

「それから鳥海はトラックで演習艦を勤めてくれているのです」

 

「トラックに行くと練度が異常に上がるのは鳥海が教えてたからか…」

 

「蒼龍さんや衣笠さんもいますよ。鳥海は横にいるだけです。ね⁇司令官さん⁇」

 

鳥海の問いに、トラックさんは笑顔と頭を撫でる事で返事とした

 

「ありがとう、聞かせてくれて。大淀さん達、内緒にしとくよ」

 

「これからもよろしくな⁇」

 

「此方こそ宜しくお願いします」

 

「あっ‼︎レイ君、男女の時間を邪魔しちゃダメだ‼︎」

 

「おお、そうだな‼︎何か体に異常があったら言ってくれ、すぐに行く」

 

「ありがとう、マーカス」

 

「ありがとうございます、大尉」

 

トラックさんと鳥海は研究室を後にした…

 

「さて、今日は来客が多いね…」

 

「隠れてないで来いよ」

 

大淀博士と俺は勘付いていた

 

「完敗だ…」

 

入口の向こうで隠れていたのは高山だ

 

「鳥海の話は聞かなかった事にしろ。それが俺が折れる条件だ」

 

「分かった…」

 

「何で俺を落とす事に固執する」

 

「それだけは聞かないでくれ」

 

「…まぁいい。次があるなら、本気で殺す」

 

「もうないさ。俺は降りるよ…」

 

「そうか。でだ…」

 

「そ、それだけかいレイ君‼︎」

 

「それだけだ。でだ…」

 

「問い詰めないのか⁇」

 

「問い詰めても話さないだろ。でだ…」

 

「言いたいんじゃないかなレイ君」

 

「聞いた所で変わらん。でだ…」

 

「鹿島と仲が良いお前が憎かった…それだけだ」

 

「そうか。でだ…」

 

「そんな反応なのか…」

 

「話をさせろ‼︎いいか、今聞きたいのはお前の過去の恋愛事情じゃなくて謝罪だ‼︎いいな‼︎」

 

「わ、分かった…」

 

ようやく話を聞く体制になった高山の前のモニターに、イェーガーのAIを表示する

 

《加賀さんはどうしました》

 

「今しがた報告を受けた。こっちに向かってるらしい」

 

《そうですか…良かったです》

 

イェーガーはちょっと冷たく高山に返す

 

それでも相棒の思い人である加賀の身を案じる

 

「イェーガー…すまなかった」

 

《気にしないで下さい。私が勝手にした事ですから》

 

「助けに来てくれたのに…俺はお前に…」

 

《高山さん。私はどうもここ辺りで潮時のようです》

 

「…」

 

《消える訳ではありませんよ。もう戦えなくなっただけです》

 

「…降りろ、か」

 

話が深刻になって来たので、大淀博士と共に研究室の外に出て来た

 

《貴方もこの辺りでどうでしょう。人を恨む旅は終わりを迎えました》

 

「何をすればいい…俺には、空しかなかった」

 

《…私はもうじき、別のボディを作って貰います。どうでしょう、私と一緒に探してみませんか⁇》

 

イェーガーがそう言った時、一人の女性が研究室に入る

 

「もう一人いるの、忘れないで欲しいわね」

 

今しがた到着したばかりの加賀だ

 

「無線で話は聞かせて貰ったわ。ごめんなさいね」

 

「すまなかった…」

 

「この後鹿島さんを追い掛けるか、今貴方を好いている私の傍にいるか、選んで頂戴」

 

加賀は澄ました顔で高山に問う

 

「加賀の傍にいるよ…」

 

高山の返答は即答

 

あってない様な問い掛けだったからな…

 

「なら、何処か戦いが無い場所でゆっくり過ごしましょう。一から始めましょう」

 

高山は加賀の言葉に二度頷いた

 

「イェーガーも来てくれるか⁇…イェーガー、どうした⁇」

 

「何かしら」

 

イェーガーからの反応は無い

 

二人は研究室の中で慌てふためく

 

そろそろ頃合いか…

 

「さ、行って来い」

 

「マーカスさん。ありがとうございます」

 

「今度は感謝から始まるんだね‼︎さ、行っておいで‼︎第二の人生だ‼︎」

 

俺と大淀博士の前には、茶髪の女の子がいた

 

ここに到着したばかりの彼女は、数分前に生を受けたばかり

 

一秒でも早く相棒の傍に行きたいが為、本来なら迎えに行くはずが、彼女は此処に来た

 

彼女は研究室のドアが開くと、二人の元に行った

 

「男の子じゃなくて良かったかな⁇」

 

「元々女の子だったんじゃないか⁇」

 

「そっちかぁ…レイ君は凄いねぇ…」

 

「どうだかな…」

 

大淀博士は頭を抑え、俺は大淀博士を横目で見て笑う

 

彼女はイェーガーがボディを持った姿

 

俺もイェーガーは男の子だと思っていたが、世の中は広い

 

元々女の子だったのか…

 

はたまた、第二の人生は別の形で歩みたかったのか…

 

その真相は、彼女しか知らない…

 

ただ、今は見守るのみ

 

開いたドアの向こうから、壁にもたれて三人を見る…

 

「名前は“若葉”らしいよ⁇」

 

「若葉ね…良い名前だっ」

 

あの三人の笑った顔を見るのは、久しぶりかもしれない

 

この先もきっと大丈夫だろう…

 

 

 

 

後日、高山は除隊

 

それと同時に、加賀も除籍になった

 

今は一旦、居住区で三人で暮らしている

 

近い内に、今度は本当の友人として会えるといいな…


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