艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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312話 地獄の騎士(2)

「イェーガー、マニュアルに切り替えられるか」

 

《可能です。ですが、貴方ともう一人の女の子が…》

 

「心配するな。ちょっとドライブさっ」

 

イェーガーの操縦がマニュアルに切り替わる…

 

「ハヤーイ‼︎」

 

「加賀だ…」

 

加賀らしき人物が海上に立っているのが見えた

 

カプセルと同じ数の、量産型の加賀だ

 

「イェーガー、横を一気に通過する。覚悟はいいな」

 

《了解》

 

「さて…何体いるか…なっ‼︎」

 

加賀の頭スレスレを、煽る様に飛んで行く

 

「8体に見えたな‼︎」

 

「ハチニンイタ‼︎」

 

《量産型加賀、8体です》

 

8体の加賀は一斉にイェーガーが飛び去った方向を見る

 

が、発艦はして来ない

 

横須賀を一気に攻める気なのか…

 

いや…信じよう…

 

《横須賀基地、目視で確認》

 

「横須賀基地、応答せよ‼︎此方ワイバーン‼︎緊急着陸したい‼︎」

 

《了解ワイバーン。二番を開けるわ》

 

「サンキュー」

 

二番滑走路に着陸し、イェーガーから降りる

 

《…マーカスさん》

 

悲しそうな声一つ

 

地獄まで相棒を迎えに来た、立派な奴の声だ

 

「お前は戦士だ。誰かの為に命を張って地獄まで迎えに来た、立派な戦士だ」

 

《ありがとう…ごめんなさい…》

 

「いいんだ…いいんだ、イェーガー…」

 

イェーガーのボディを撫でる…

 

イェーガーは戦いを嫌っている

 

そんな奴に、もう一度制空権争いの空を飛ばせたくない

 

…だが、イェーガーも分かっているのだろう

 

何方かが止まる事があるなら、何方かが墜ちるまで、と…

 

「すまない…もう一度槍を持たせて…」

 

《マーカスさん。貴方の言葉にはずっと“悲しみ”が込められています》

 

「ヘンナコ…セントーキナノニ、タタカイタクナイノネ⁇」

 

離島棲姫の言っている事もごもっともだ

 

戦う為に造られた、それが戦闘機

 

それでもイェーガーは皆より倍、平和な空を望んでいる

 

《私には、悲しみと言う感情があまり分かりません》

 

「ずっと分かってるさ。じゃなきゃ、地獄まで相棒を迎えに来ない」

 

《…加賀さんを人質に取られたのが、高山さんがあの基地に出向くきっかけでした》

 

「…話してくれるのか」

 

《独り言として捉えて下さい》

 

無言で頷くと、イェーガーは話を続ける

 

《私は棚町さんの命令に背き、あの基地に向かいました》

 

「何と言われたんだ⁇」

 

《心配なのは分かるが、君まで失ったら私は…と。その時、妙な感情が産まれました》

 

「どんなだ⁇」

 

《怒り、です。加賀さんに対しての。私は少し、彼女に嫉妬していたのかもしれません》

 

「相棒を取られてか⁇」

 

《きっと、そうなのでしょう…お恥ずかしい…》

 

「人間らしいな、イェーガー」

 

《それで、あの基地に向かいました。そして、高山さんと加賀さんを返して欲しければ実験体になれ、と》

 

「…加賀はヤバい機体を積んでるのか⁇」

 

《貴方を狩る為には最適な機体だ、と》

 

「…」

 

その時、横須賀が向こうから走って来た

 

「レイ‼︎話は聞いたわ‼︎隊長がもうすぐ来るから、ラバウルの四機と一緒に飛んで頂戴‼︎」

 

「了解した。横須賀、この子を頼む」

 

「あら…連れて来たのね⁇」

 

屈んだ横須賀に対し、離島棲姫は俺の背後に隠れる

 

「大丈夫よ。ここには深海の子も沢山いるわ⁇」

 

「…ホント⁇」

 

「ホントよ⁇ほら、あそこにも‼︎」

 

横須賀が目線をズラす

 

「リョーチャン、キヲツケテネ‼︎」

 

「危なくなったら、すぐに逃げて下さいね‼︎」

 

目線の先には、今正に乗艦式を行っているシュリさんと涼平

 

涼平を矢に変えると、シュリさんは此方に気付いた

 

「アラ、カワイイコ‼︎」

 

「シュリさんって言うのよ⁇」

 

「ヨロシクネ。イマチョットタイヘンダケド、ココナラダイジョウブダヨ⁇」

 

離島棲姫を撫でるシュリさん

 

その姿は離島棲姫にはカッコ良く、そして綺麗なお姉さんに見え、言葉に詰まる

 

「俺は準備するよ」

 

大規模な空戦を前に、一旦その場を離れる…

 

 

 

 

《そっか…》

 

グリフォンに事の顛末を話す

 

「もしだ…もし、あいつと交戦になったら、すぐにマニュアルに切り替えろ」

 

《分かった》

 

あいつへの手向けが出来るのならば…

 

あいつが戦闘機である内に…

 

あいつが誇りある戦士である内に落とすしかない…

 

《隊長とラバウルさん達が来たよ‼︎》

 

《ワイバーン、聞こえるか》

 

無線に切り替わり、隊長の声が聞こえた

 

「聞こえる‼︎サンキュー隊長‼︎」

 

《大規模な空戦と聞いてな‼︎補給の為に一旦着陸する、その間、ラバウルの連中と一緒に援護を頼む‼︎》

 

「了解‼︎グリフォン、行くぞ」

 

《オッケー‼︎》

 

グリフォンが空に上がる…

 

 

 

 

その頃、横須賀繁華街…

 

「司令官さん、美味しいですか⁇」

 

「んっ‼︎美味しい‼︎上手に作れたじゃないか‼︎」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

繁華街から少しだけ離れたベンチ

 

そこは繁華街で買った物や少し休憩する為のベンチ

 

そこにはトラックさんと鳥海がいた

 

作ったサンドイッチを頬張るトラックさんを眺めながら、嬉しそうに語らう鳥海

 

《横須賀基地全域に注ぐ。空襲警報発令。繰り返す、空襲警報発令。待機中の艦娘及び戦闘可能な人員は配備して下さい。繰り返します…》

 

「空襲警報⁉︎鳥海、行こう‼︎」

 

「司令官さん。鳥海も参ります」

 

トラックさんはいつもと雰囲気が違う鳥海に動きが止まる

 

和かに佇む鳥海だが、目の奥に怒りがこもっている…

 

「そうだったな…」

 

「叩きのめして参ります。後で繁華街をご一緒に回って頂けませんか⁇」

 

「勿論さ‼︎」

 

それを聞いた鳥海は一度微笑んだ後、海の方を向く

 

「司令官さんは安全な場所に移動して下さい」

 

「…分かったっ‼︎」

 

トラックさんを見送った後、鳥海は皆が集まる場所に向かう…


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