艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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さて、309話が終わりました

今回のお話は一話だけです

第三居住区の外れで何かを見ているリチャード

リチャードの目線の先にいたのは…


310話 Sea Mom's

第三居住区…

 

一日の作業が終わり、皆が広場で持ち寄った材料でご飯を作ってるダズル

 

「こいつはどうするんダズル⁇」

 

「コレハ、ヤイテタベルノ‼︎」

 

面白半分とアルバイトで来ていた榛名も食事に誘われたダズル

 

「リチャードはどうしたダズル⁇」

 

「ホントダ、ドコイッタンダロ…」

 

今日一緒に作業していたリチャードが見当たらねぇ

 

F-14はまだあるので、第三居住区の何処かにいるはずダズル…

 

 

 

その頃…

 

「…」

 

私は研究所の壁にもたれながら煙草を吸っていた

 

本当は食事に誘われたので、広場に行こうとした

 

だが、戦艦棲鬼の姉妹が埠頭に立ったのを見て、少しだけ留まっている

 

「ランララ〜ラランララ〜」

 

「ソラハ〜ララ、ララ〜」

 

美しい歌声だ…

 

この間、スティンガーを撃った時もこの声が聞こえた

 

歌声が聞こえた時、何故か撃つ場所が目に見えた

 

不思議な力があるのだろう…

 

「ここに居たダズルか」

 

「よっ」

 

一瞬榛名に目をやった後、壁の向こうにいる彼女達の方向に顔を戻す

 

「何見てるんダズル⁇」

 

「見てるんじゃない…聞いてるんだ…」

 

榛名の目にも移る、戦艦棲鬼姉妹が海に向かって歌う姿

 

いつもの榛名ならガン見するはず…

 

そんな榛名でさえ、リチャードと同じ様に身を潜めて聴き入る…

 

「見ちゃいかん気がするダズル…」

 

「奇遇だな…」

 

普段おちゃらけのリチャードでさえ、この二人の時間は邪魔してはならないと気付く

 

埠頭はステージ…

 

海は観客…

 

手振り付きで歌うその姿は、あたかもそこにマイクがある様に見える…

 

そして気付く

 

リチャードも榛名にも、胸に刺さる歌声と歌詞…

 

「随分古い曲ダズル…」

 

「良く知ってるな⁇私の世代だぞ⁇」

 

「知ってちゃいかんダズルか」

 

「いんや…名曲と呼ばれる歌は、時代も世代も国境も越えて愛される」

 

「榛名は古い曲好きダズルよ」

 

二人が歌う曲は、リチャードの世代に一世を風靡した曲

 

きっと、何処かで優しい奴が聞いていたか、歌っていたのだろう…

 

「あれは弔いの歌だ」

 

「誰に向けてんダズル⁇」

 

「榛名」

 

「何ダズル」

 

「人には他人が触れちゃならん傷がある。きっと、あの子達の抱える傷も、触れちゃならんのだろうな…」

 

歴戦を潜り抜けて来たリチャードの言葉は、榛名にも響く

 

「なるほどなるほどダズル…榛名なら、山城ぶっ飛ばした事ダズルな」

 

「お前のその素直な所、結構好きだぞ」

 

「へっ。スパイトさんの相手は御免被りたいダズル」

 

戦艦棲鬼の姉妹は歌を終える

 

広場に戻って行くのを二人で見届け、榛名も戻ろうとした

 

が、リチャードに腕を取られる

 

「ほら」

 

「これはこれは…良いんダズル⁇」

 

リチャードが榛名の前に出したのは煙草の箱

 

榛名は吹雪が来てから、単冠湾の基地では煙草を吸わなくなっていた

 

「今戻ると盗み聞きしたと怪しまれるからな‼︎」

 

「へへ…んじゃ、お言葉に甘えて頂くダズル‼︎」

 

本当はずっと我慢していたのだろう

 

榛名はリチャードが差し出す煙草の箱から一本取り出し、火を点けて貰う

 

深く深く息を吸い、今まで溜めた分を吐き出すかの様に煙を吐いた

 

「好きな銘柄は⁇」

 

リチャードは壁にもたれ、榛名は屈んで煙草を吸う

 

「ミルドセブンダズルな。あのシンプルにガツンと来るのが堪らんダズル」

 

「今度会う時は準備しとくさ」

 

リチャードの吸っている銘柄は、榛名の言うミルドセブンではなく、鳥のマークが描かれた紺色の箱

 

「ピザ作ってそうな銘柄ダズルな」

 

「“パース”だからなぁ…」

 

「…あれダズルな」

 

「何だ⁇」

 

「スパイトがリチャードに惚れた理由が、ちょと分かったダズル」

 

「あいつは惚れてなんかいないさ」

 

珍しくリチャードが悲しい顔をする

 

「あいつが惚れてるのは別の男さっ…惚れてるのは出会ってからずっと、私の方だっ…」

 

話を終えると同時に、リチャードは指で吸い殻を飛ばし、海へと落とす

 

「ん〜、そゆとこダズルな。リチャードに惚れる女は。うんうん」

 

榛名も同じ様に吸い殻を捨てながら、このリチャードと言う男を少しだけ理解した

 

ずっと前から知っていたが、この男は絶対に一線を越えない

 

良く考えてみれば、相方がいない艦娘ばかりだ

 

心の奥深くでくすぶっている闇を、この男は癒せるんだ…

 

今の話で分かった。全て自分のせいに出来る優しい男と、榛名は思っていた

 

「何だ⁉︎」

 

「鯉みたいな奴がいるダズル‼︎」

 

二人の投げた吸い殻辺りで急にガボガボ言い始める

 

「ア‼︎リチャードサン‼︎」

 

「おっ‼︎ハ級の坊主‼︎」

 

その正体は、たまたま施設の前を泳いで来たまだ小さい駆逐ハ級の群

 

「何でオスって分かるんダズル‼︎」

 

「こいつにはガッツがあるからさ‼︎それに、自分でオスと言ってたしな‼︎」

 

「ア、ハルナサンダ‼︎」

 

「一仕事終えて一服してるんダズルな」

 

「ご飯だぞ〜って言ってたぞ⁇」

 

「オナカスイタ‼︎」

 

「オシゴトオワリ‼︎」

 

「オサカナタベヨウ‼︎」

 

ハ級達が海からゾロゾロ上がる

 

それぞれが頭に数個のサザエを乗せている

 

「ははは、何か可愛いダズルな‼︎」

 

リチャードと榛名より圧倒的に小さいハ級達は、単縦陣の状態で広場に向かって行く

 

「あの子達と一緒に行こうか‼︎」

 

「腹減ったダズル‼︎」

 

二人も広場へと向かう…




ハ級の群…チビハ級

第三居住区の近海でサザエをメインに小さな漁をしている三体のハ級

時々漁の最中に貝を食べちゃうけどご愛嬌

煙草の吸い殻を良く食べるが、特にハ級に害は無く、それどころか好物らしい

良い子は絶対に真似しないでね‼︎

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