艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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題名は変わりますが、前回の続きです


309話 Love Has Just Gone

「あら⁇夜間哨戒かしら…」

 

バーに行くまでの間、三機の戦闘機が頭上を通過して行く

 

「今日はリチャードが先頭ですね」

 

「えぇ…」

 

リチャード、彼の二番機、そして涼平…

 

ここに来て、カトリはようやく一機の強さを理解する

 

鮮やかに、緩やかにカーブをし、飛び去って行く真っ黒な影の様なF-14…

 

まるでその一機だけが、本物の鳥の様に振る舞うその姿は、長年教官を務めているカトリでさえ息が詰まる

 

美しいまでの姿を見せた後、三機は夜空に紛れ、獲物を狙う…

 

「ふふ…地上に降りてからもあの威厳を保って欲しいのですがね…」

 

「あら⁇そう言う割には嬉しそうですよ⁇」

 

「これはこれは…失礼っ」

 

二人は本物の恋人の様に笑いながら、バーに入る

 

 

 

「いらっしゃいませ中将、香取先生」

 

「何かオススメを二つ頂けますか⁇」

 

「畏まりました」

 

そうヴィンセントが頼むと、いつものピーナッツを出され、それを食べながらお酒を待つ

 

「ここは人によって違うカクテルが出るとお聞きしました」

 

「私、あまり来た事がなくて…いつも鳳翔さんの所で一人で飲んでいるので…」

 

「あれだけ慕われているのにですか⁇」

 

「…あれは慕われていると言えません‼︎」

 

イタズラにヴィンセントは微笑む

 

「お待たせしました。カラメルコマンダーになります」

 

「あら…」

 

「頂きます」

 

カラメルコマンダーと名付けられたそのカクテルは、本体は黄色、表層にカラメルがかけられている

 

「甘い…はぁっ…」

 

カトリは美味しさにため息を吐く

 

本体の味はプリンを彷彿させる卵やミルクの甘い味わい

 

その後にほろ苦いカラメルの味がやって来る

 

「今朝採れたての卵を使用しています」

 

「ふふっ…美味しいですっ」

 

採れたての卵と聞いて、ワシントンの事を思い出す

 

あの子は産まれてまだ間もない

 

色々な事を覚えている最中だ

 

卵の事をためぃごと言うのを聞いて、初めて子供に対して生徒ではなく別の感情を抱いた

 

それでも、自分の事をかとりせんせーと覚えてくれている

 

如何に自分の教え子がアンポンタンで、優しい男の子か良く分かった

 

「もう一杯だけお願いします…」

 

珍しくカトリはワガママを言った

 

ヴィンセントは微笑みを返し、それに無言で付き合う…

 

 

 

ほろ酔いでバーを出て、ヴィンセントは公園に来た

 

防波堤の上を歩き、若いカップルの様に海を眺めながら火照った体を冷ます

 

「そう言えばヴィンセントのワガママを聞いていませんね」

 

ヴィンセントはカトリの背後に回り、手で目を覆う

 

「あら…」

 

「少しだけ上を向いて頂けますか」

 

カトリは目を覆われた状態で上を向く

 

数秒した後、ヴィンセントは手を離した

 

「あっ…」

 

低空で背後からバラバラの戦闘機が五機現れ、カトリの髪が風で揺れる

 

カトリがずっと言っている、楽しかった時代のアカデミーの生徒が五人、夜空を駆けて行く…

 

ウィリアム、エドガー…

 

アレン、健吾…

 

そしてマーカス…

 

「貴女の育てた子供達です」

 

「…」

 

カトリはその光景を見て言葉を失う

 

時間通り、夜空をよぎって行く五機を見つめたままの香取に、ヴィンセントは優しく語り掛ける

 

「マーカスは言っていました。生きる為には、貴女の教鞭が必要だと」

 

「大丈夫です…あの子達には、誰かが喝を入れなければなりませんから…発光信号です」

 

五機が一斉に発光信号をカトリに送る

 

「バ、バ、ア…ふふっ‼︎あんな事を言う子達です‼︎お陰で引退も出来ません‼︎」

 

「良かったです…」

 

最後にカトリは無言でワガママを追加する

 

ただ、一線は超えない様、体をヴィンセントに寄せる

 

ヴィンセントはそれに応え、カトリを抱き寄せた…

 

 

 

 

「あの…今日はありがとうございました‼︎」

 

「此方こそ。また休暇の日にお逢いしましょう」

 

「宜しいのですか⁉︎」

 

「いつの時代もコミュニケーションは大切ですよ。では、また」

 

カトリを寮の前まで送り、ヴィンセントも帰路に着く

 

「楽しかったようで」

 

「大尉」

 

偶然なのか狙って来たのか、たまたまマーカスが来た

 

「あれは大尉の為に作ったんですっ‼︎」

 

「俺誘いたきゃ一言言えばいい。デートしてくれと。断わった事ないだろ」

 

「あっ…」

 

言われてみればそうだ

 

このマーカスと言う男の子は、誘えば必ず来てくれる

 

「何で俺を誘えてヴィンセントを誘えないんだよ…」

 

「そ、それはあれです‼︎貴方は生徒であってですね、最悪命令と言う形にすれば…その…」

 

「まっ‼︎あれだ‼︎次からは全部お断りするかな‼︎ははは‼︎」

 

「…」

 

カトリは泣きそうな顔でシュンとする

 

「…冗談さ。そうだ‼︎またあのお茶屋に連れて行ってくれないか⁇一人で行く勇気が無くて…」

 

「イタズラな子は連れて行きませんっ‼︎」

 

「悪かったよ、先生」

 

「もぅ…また手が空いたら誘ってあげますっ‼︎代わりに、先生にコーヒーでも奢って下さいね⁇分かりました⁇」

 

「はいはい」

 

「はいは一回‼︎」

 

「…はいっ‼︎」

 

二人で寮の前で笑い合う

 

こうして、カトリはまた香取に戻る…

 

 

 

「うむぅ…」

 

余程悔しかったのか、後日ヴィンセントが度々ビリヤードやボーリングに勤しむ姿が何度も確認される事になる




重ね重ねお詫びを申し上げます

投稿が遅れてしまい、大変申し訳ありませんでした

もう少ししたらまた新しいお話を投稿出来るかと思います

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