艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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307話 画伯と空飛ぶ医者(2)

《お勉強でちか⁇》

 

メインルームに入って準備をしていると、艦内をウロチョロしているヨナより先にゴーヤがモニター越しに反応してくれた

 

「そっ。ゴーヤも来るか⁇」

 

《こっから見てるでち。今巡回中でち》

 

「ありがとな」

 

「いらっしゃいませ、お父様」

 

ヨナがメインルームに来た

 

よほど気に入っているのか、アロハシャツを着ている

 

「この人の過去を一緒に調べて欲しいんだ」

 

「畏まりました。ヨナにお任せを‼︎」

 

出したバインダーをヨナはすぐに手に取ってくれた

 

ヨナはバインダーとモニターを交互に見る…

 

「出しますね」

 

「頼んだ」

 

秋雲の経歴がモニターに打ち出されていく…

 

 

 

《だーっはっはっは‼︎こら傑作でち‼︎》

 

「斜め上から来たな…」

 

ゴーヤはモニター越しに腹を抱えて笑い、俺は机に肘を置いて悩む

 

香取先生と横須賀がピーキャー騒いでいたのはこれか…

 

「お父様。このじゅうはちき…」

 

「ヨナ⁇あのだな…」

 

《あれでち、ヨナ。大人向けの漫画屋さんでち》

 

出るわ出るわ秋雲の経歴

 

それもちょっとディープな経歴だ

 

決して犯罪に加担している訳ではないが、これは…

 

「大人向け…ヨナは読んではいけませんか⁇」

 

「そうだな…ヨナが大きくなったら読んでもいいかもな⁇」

 

「ヨナは絵本好きです。ジェミニ様にも読んで貰います」

 

「今度は一緒に読もうな⁇」

 

「はいっ、お父様」

 

「…忙しくなるな、こりゃ」

 

 

 

スカーサハを出ても頭を抱える

 

「どうしたレイ。二日酔いか⁇」

 

たまたまアレンが通り掛かった

 

「新しい子が来てな…」

 

アレンに今しがた出た結果を言う…

 

「ははははは‼︎そいつはいい‼︎初めてじゃないか⁉︎」

 

「さっき診察したんだが、決して悪い奴じゃないんだ…そこが、な⁇」

 

「まぁいいさ‼︎一緒に行こう‼︎」

 

アレンも爆笑し、一応横須賀に報告する為に執務室に来た

 

「どぞどぞ‼︎お近付きの印に‼︎」

 

「ぐへへ…これはこれは…」

 

「ヤバ…」

 

「何だ、今の悪寒は…」

 

執務室に入ろうとした瞬間に久々に聞いた、横須賀のぐへへ声

 

アレンでさえドアノブに手を置くのを躊躇っている

 

「んふっ…とても素晴らしいです…」

 

タイミング良く香取先生が何かを読みながら来た

 

「…やるか⁇」

 

「…あぁ」

 

執務室から少し離れ、角に隠れる

 

「んんっ⁉︎」

 

「随分隙だらけだな」

 

隙だらけの香取先生の口元を抑え、角に引き込み、お腹に手を回して抱き留める

 

「香取先生、頼みがある」

 

口を抑えているので香取先生は頷くしか出来ない

 

「デカイ声出さないか⁇」

 

再び香取先生は頷く

 

「ぷは…あっ…」

 

手を離すと、香取先生は身震いした

 

「今暴れられると厄介だから、しばらくこうしてる」

 

「あ、あの…ずっとでも…」

 

「先生、頼みがある」

 

「二人掛かりで…な、なんなりとっ…」

 

アレンが前に回り、事の事情を話す

 

「今、執務室でヤバい取引をやってる。ドアを開けて欲しい」

 

「先生にお任せを」

 

「よし…」

 

香取先生を前に置き、執務室の前に戻って来た

 

「…頼む」

 

「…行きますよ」

 

香取先生がゆっくりとドアを開ける…

 

「いやぁ〜、まさかこの秋雲さんのファンとは〜‼︎」

 

「おほっ‼︎おほほ‼︎これいいわね‼︎」

 

「どれっ」

 

「「あっ‼︎」」

 

横須賀が読んでいた本を手に取り、中を見る

 

「…」

 

「…」

 

何というか、とりあえず凄い

 

「程々にな」

 

「怒んないの⁇」

 

「俺達だってグラビアは見るからな⁇」

 

「そっ。人の趣味をあれこれ言う趣味はない」

 

「あの、ありがと…」

 

「大事なんだろ、それ」

 

「うんっ」

 

横須賀に本を返すついでに、診察結果と経歴の結果を渡す

 

「スケベブックの作家だってな⁇」

 

「あ、はい…」

 

秋雲は有名な同人誌作家

 

今チラッと絵を見たが、内容はさて置き、絵は凄く上手い

 

「被写体にする時は一言言ってから描く事、終わったら見せる事、それだけだ」

 

「では早速大尉を〜」

 

「一つ答えたらな」

 

「何でも聞いて下さいよ〜」

 

「何故艦娘になろうと思ったんだ⁇」

 

まだ秋雲が艦娘になりたい理由の本質を聞いていない

 

被写体や目の保養になる子が多いから〜とかと思うが…

 

「小さい頃から夢だったんです」

 

急に秋雲の雰囲気が変わる

 

真面目な空気だ

 

「小さい頃に大尉の写真…あの広告の写真を見て、いつか大尉の近くに行きたいなぁと…」

 

「あれね」

 

執務室の壁に額縁入りで飾られてある、傭兵時代に使われた広告塔の写真

 

「イケメンだしな、うん」

 

「あぁいう人よ、レイは」

 

「大尉と知ってるのは、ここに来た時に聞いたからです」

 

「ならいいさ。宜しくな⁇」

 

「宜しくお願いしますっ‼︎」

 

 

 

 

「やっと逢えた…」

 

夜、一人になり、秋雲は思い出す

 

自分が本当に小さい時、家族を救ってくれたパイロットの事を

 

数年前、自分の乗った旅客機を敵の航空機から守ってくれたパイロット

 

当の本人は数多の戦いの中の一つの作戦に過ぎず、窓越しに見た少女の顔なぞ覚えているはずも、見えているはずもない

 

だけど、秋雲の目には鮮明に映っていた

 

バイザーを外し、此方に手を振ってくれたあのパイロットの顔を…


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