艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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30話 海鷲から雷鳥へ…(2)

二人を海まで見送り、また部屋に戻って来た

 

「あれ⁇スティングレイは⁇」

 

「工廠に行くと言っていたぞ」

 

「ちょっと見てくる」

 

工廠に行くと、目玉が飛び出そうになった

 

《パ、パパ‼︎》

 

「お、お前…スペンサーか⁉︎」

 

《そ、そう。何だか新しい気持ちだよ》

 

黒いボディと、発光信号で会話出来る所は変わらない

 

会話に至っては、直接会話出来る様になっている

 

だが、それ以外は全てが変わっていた

 

ブラックバードの様な容姿を捨て、F-15の様な容姿に変わっていた

 

「どうしたんだ…」

 

《チェルシーに何かあったの⁇》

 

「あぁ、生まれ変わったんだよ。スペンサーみたいに。グラーフって言う」

 

《そっか…あ、この機体の名前は、”F-15SE”通称、サイレントイーグルって言うの。電子支援もちゃんと出来るし、スペンサーだけの装備もあるよ⁇》

 

「どれ…」

 

スペンサーは自身の腹部ハッチを開くと、中からミサイルが何発も出て来た

 

《自分で操れる対艦ミサイル。グラーフなら出来るはず》

 

「また、強力な仲間が増えたな…」

 

「おわぁぁあ‼︎なんじゃこりゃあ‼︎」

 

「スティングレイだ」

 

《スティングレイ、デカくなったね》

 

「あいつも生まれ変わったのさ。また、彼女を護ってやってくれ」

 

《勿論‼︎パパも護ってみせるよ‼︎》

 

「ありがとう」

 

スペンサーの格納庫を後にし、スティングレイの所に向かう

 

「大丈夫か⁇」

 

スティングレイは尻餅をつき、目の前の機体に驚いていた

 

「俺のフィリップを返せ‼︎」

 

《ボクがフィリップだっ‼︎》

 

「嘘つけ‼︎」

 

《スティングレイさん、おめでとう‼︎元に戻れたんだね⁉︎》

 

「隊長、本当にフィリップなのか⁇」

 

「そう。お前の機体だ」

 

《初めましては違うかな⁇》

 

「どうみてもF-35じゃねぇか…どういう事だ…」

 

「生まれ変わったんだよ。フィリップも」

 

「…もうゲーム出来ないのか⁇」

 

《出来るよ。後方にカメラもあるし、全体を見渡せるよ》

 

「変わらないのか⁇」

 

《さっき調べたけど、普通のライトニングⅡより、ちょっと違うみたい。二人共来て》

 

フィリップのコックピットが開き、中の電子機器を見せてくれた

 

《ゲームは勿論、武装と電子機器の性能。そしてこれ‼︎》

 

電子機器の一つにフィリップの全体像が映し出され、何かを起動した直後、フィリップの姿が消えた

 

「な、何だこれ…スゲェ…」

 

《凄いでしょ⁉︎光学迷彩システムだって‼︎》

 

「時代の最先端だっ‼︎」

 

「良かったな、スティングレイ」

 

「まっ、あれだ。死ぬまで俺の片腕だしな、強くなくっちゃ困るって所だ」

 

「あ、いた‼︎スティングレイさん‼︎」

 

「来た‼︎」

 

しおいは、何かを抱えながらこちらに来た

 

「あ、艦載機ですねぇ」

 

「お前にゃ積めんぞ⁇」

 

「またたいほうちゃんの艦載機になるんですか⁉︎」

 

「まぁな。あいつは妖精の時に世話になった」

 

「しおいの艦載機にはならないですか⁇」

 

しおいは肩からぶら下げた射出装置をポンポンしている

 

「時が来たらな。あ、そうだ…よいしょ」

 

スティングレイはハシゴから飛び降り、内ポケットから紙切れを取り出した

 

「何ですか、これ」

 

「代わりにこいつをお前にプレゼントしてやる」

 

「うわぁ〜‼︎」

 

しおいは目を輝かせていた

 

「試製だからな、乱暴に使ったらぶっ壊れるぞ⁇それでもいいか⁇」

 

「うんうん‼︎大切にする‼︎」

 

「よし‼︎じゃあこれ持って工廠に行って来い。ちゃんと装備したら、俺に見せてくれ」

 

「ありがと‼︎」

 

しおいは小走りでその場を後にした

 

「お前、何で…」

 

「隊長に拾われるまで俺ぁ工作員だった…忘れたか⁇」

 

スティングレイは、元スパイだった

 

私がまだ国に所属していた頃、スティングレイは整備士として在籍していた

 

表向きは…

 

裏では色々な武器や兵器のデータを集め、それを自国に引き渡すのが彼の任務

 

まだグラーフはいなかったが、私と横須賀がそれに気付き、彼を問いただした

 

すると、彼は天涯孤独

 

生きて行くには、スパイでもしなければならない…と

 

それならば、私達と一緒に飛べと言った

 

幸いにも彼は戦闘機の教育を受け、それを修了していた

 

私達に追い付くのは、一瞬だった

 

他の部隊にも居た事もあったが、言う事を聞かない事が多々あり、外される事が少なくなかった

 

私は彼に一つ命令をした

 

”俺の隊に入って、背中を護ってくれ”

 

あの時のスティングレイの輝いた瞳を、今も忘れない

 

それから彼は隊の三番機になり、それ以来ずっとだ

 

「俺ぁ、間違った道を歩いてしまう所だった…だから、しおいには間違った道を歩いて欲しくない」

 

「しおいと一緒に居たら、彼女が過ちを犯してしまう…か⁇」

 

「そう…だからもう少したいほうの所でいて、全うな人間になったら、あいつの艦載機になってやる。ま、妖精で無くなった今じゃあ、陸から飛んで、護るのが精一杯だ」

 

「もう少し、たいほうを頼んだぞ」

 

「任しとけ‼︎」

 

「あ、そうだ。パパさん」

 

しおいが戻って来た

 

肩には何も下げていない

 

「どうした⁇」

 

「これをパパさんに渡してって、横須賀さんが」

 

手渡された書類を見ると、明日の日付で、横須賀で航空演習をするとの御達しが書いてあった

 

「来るか⁇」

 

「あぁ‼︎勿論‼︎」

 

スティングレイの満面の笑みを見て、私は安堵のため息を吐いた


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