艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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題名は変わりますが、前回の続きです

何故涼平は妖精化してしまったのか…

それはとても簡単で、二人にとってとても難しい理由でした


305話 世界で一番愛しい君

「乗艦式だと…」

 

「あれは互いに相思相愛じゃなきゃ出来ないはずだぞ⁇」

 

「…」

 

“あ、隊長〜自分、こんなちんまりサイズになりました〜”

 

ピーナッツを両手に持ちながら、酔っ払った涼平

 

「涼平は隼鷹好きか⁇」

 

ここまで来たら単刀直入に聞くしか無い

 

“隼鷹ですか〜⁇隼鷹は〜、好きとかじゃない気がするんですよ〜”

 

「憧れとか、尊敬か⁇」

 

“違うんです〜。その〜あの〜、求めてたのが隼鷹と言いますか〜”

 

酔っ払った涼平は話になっていない様で話はちゃんと聞いて返事をしている

 

「求めてたのが隼鷹…」

 

“ビリヤードの時に〜、おでこにチューして頂いたり〜、ギューってして頂いたり〜、好きじゃなくて〜、して欲しかったと言いますかぁ〜”

 

「…そっかっ」

 

涼平には親と呼べる存在がいない事を知っている

 

島の皆が涼平を育てたのも知っている

 

涼平が隼鷹にして貰ったのは、涼平が本来母親にされるべき行為だったものばかり

 

好き、のベクトルが違うと言ったのは良く分かった

 

「隼鷹、その…涼平がこうなったからには…」

 

「あ…あぁ‼︎そうだな‼︎」

 

涼平が妖精化してしまっては、デートにならない

 

「しっかしまぁ…どう戻すか…レイ、分かるか⁇」

 

「乗艦式は他人が入っちゃならんからな…」

 

俺とアレンが悩む中、ふと隼鷹の横顔に目が行く

 

「…」

 

「あっ…」

 

見た事がある…

 

妖精化した涼平を見る隼鷹の目は、女の目ではない

 

…優しい母親の顔だ

 

隼鷹のその顔を見て、いつか横須賀が同じ顔をして恨みを抱いた日を思い出した

 

「…アレン、涼平を寮に連れて行けるか⁇イントレピッドなら見てくれると思う」

 

「分かったっ‼︎涼平‼︎帰るぞ〜‼︎」

 

“あ〜い”

 

涼平はアレンに摘まれ、バーを出た

 

「隼鷹」

 

「…」

 

「…まぁ、座ろう。那智、いつものを」

 

「畏まりました」

 

隼鷹は下を向いたまま、先程まで座っていたカウンター席に腰を降ろした

 

「言いたくなけりゃ言わなくていい。今から俺が言うのは、憶測でしかない。タバコ、吸っていいか」

 

「いいよ」

 

タバコに火を点け、言葉の前に紫煙を吐き出す

 

「俺はあの日、涼平のそばにいた訳じゃない。だからこそ、憶測でしかない」

 

「あの日、涼平君を殺せただろ⁇かい⁇」

 

「何故見逃した」

 

「一人や二人、見逃しても誰も責めやしないと思っただけさ…」

 

「お待たせしました」

 

俺と隼鷹の前にガンジスの淀みが置かれる

 

「まぁ飲めよ」

 

「ありがと。頂くよ」

 

「決して責めてる訳じゃない。ただ、涼平があぁなった以上、此方側も戦力が削がれている」

 

「“あの子”にあれ以上、重荷を背負わせたくないんだよ…」

 

「それが答えだな」

 

グラスを置き、頷く隼鷹

 

「あの子は母親を求めてたのに、あたしは…」

 

「今からでもやり直せるさ…よく耐えたな…」

 

そう言って、隼鷹の背中をさする

 

今までずっと隠していたのだろう

 

本当は旦那である呉さんに背中をさすって貰うべきなのだろう

 

それでも、隼鷹は栓が外れたかの様に涙を流す

 

「俺の口からは涼平には言わない。ま…隼鷹が頼むなら、間に立つ位はするさ」

 

「ありがと…ありがと…マーカス…」

 

「泣き止んだら、また呼ぶといい。俺にしか吐けないなら、いつでも飛んで行く」

 

「へへ…アンタが言うと本当になるからやめときな‼︎」

 

人差し指で涙を払い、笑う隼鷹

 

「俺はアレンと飲み直して来る。今日は俺のツケで好きなだけ飲め」

 

「いいのかい⁇」

 

「すまない。それ位しかしてやれなくて」

 

隼鷹は小さく首を横に振ったのを見て、俺はアレンと飲み直す為にカウンター席から立ち、出入り口に向かう

 

「あぁ、そうだ隼鷹」

 

「なんだい⁇」

 

BAR 那智から出ようとした時、足を止めて隼鷹の方を向いた

 

「…良い“息子”を持ったな」

 

言葉さえなかったが、隼鷹は笑顔で頷いた…


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