艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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302話 許す力(3)

「どうだ⁇見えるか⁇」

 

「凄い…もう見えます‼︎」

 

「リョーチャン‼︎」

 

目が治った涼平に飛び付くシュリさん

 

隼鷹は少し前に完治してカプセルから出ている

 

「オイシャサン、アリガトウ‼︎」

 

「いつでもっ」

 

「ア、ソウダ。ソトデサッキノフネノノリクミインガイルヨ」

 

「どれっ…ちょっと見物に行くか」

 

乗組員がいる場所はすぐに分かった

 

周りに深海やら艦娘が集まり、縛った乗組員を囲っている

 

「殺せ‼︎」

 

「貴様等の施しなど受けん‼︎」

 

「アラアラ、アバレンボサン」

 

「タベチャイマショウカ」

 

戦艦棲姫の姉妹が来た

 

「…」

 

「タベラレルトワカッタラダマルノ⁇」

 

「我々にも意思がある‼︎」

 

「ドウシテワカリアオウトシナイノ⁇」

 

「ここは我々の基地だ‼︎」

 

「ナラ、ヤリナオシマショウ。イッショニ」

 

戦艦棲姫の姉妹は手を差し伸べた

 

「やり直す⁇一緒に⁇は。笑わせるな‼︎我々の基地だと言っているのが分からんか⁇」

 

「選択肢は無いわよ」

 

そこに横須賀が来た

 

イージス艦の艦長らしき人物の前に腕を組んで立つ

 

「貴方達に与えられたのは生きるか死ぬかじゃない。死しかないの。私は部下を傷付けられた。この子達は貴方達に酷い目に遭わされた。選択肢は死しか残ってないの」

 

「此奴等は敵だぞ‼︎裏切り者が‼︎」

 

「私からすれば貴方達が敵なの。いい⁇置かれた立場を分かって。私は貴方を絶対に許さない。だけど…」

 

久々に見る、横須賀の冷たい目

 

今は滅多に見なくなったサディスティックな表情で、イージス艦の艦長の背後に回り、後ろから頬を撫でる

 

「この子達はあれだけ酷い目に遭わされたのに、貴方達と和解しようとしているの…」

 

「…」

 

イージス艦の艦長の顎を掴み、戦艦棲姫の方に向けた時、彼の頭から冷や汗が流れた

 

「…殺せよ」

 

「ワタシタチハシナイ」

 

「コロシテドウナルノ」

 

「あら。彼処にスティンガーを持った怖〜いおじさんが見えるわね⁇」

 

イージス艦の艦長は目を背けようとしたが、再び横須賀が顎を掴み、其方に向ける

 

その方向には、厳つい目をした親父とヴィンセントがスティンガー片手に立っている

 

「簡単には死なせないわ。一番痛〜い方法で…ゆ〜っくり、じ〜っくり…貴方達を“解体”してあげる…それとっ…貴方の部下はもっともっと酷い方法で…」

 

「魔女め…」

 

イージス艦の艦長は震えだす

 

「膝を砕いて動けなくされて、体中に毒針を刺されて、心臓を貫かれても意識はあるの…ふふっ…呼びましょうね⁇」

 

「わ、分かった‼︎降伏する‼︎」

 

「なんて言うの」

 

「す、すまない‼︎」

 

「ウラギッタラ、ヨコスカサンノトコツレテク」

 

「イケスノオサカナノゴハンニシチャウ」

 

「ですって」

 

「わ、分かった…」

 

「契約書を持って来るから、ここで今しばらく手伝いをなさい」

 

「分かった…おい‼︎聞いたな‼︎降伏だ‼︎」

 

彼の言葉に全員が俯く

 

「命があっただけまだマシだ…逆らうべきではなかったのだよ…」

 

「…了解です」

 

一人がそう言うと、連鎖反応で皆が頷く

 

「さっ‼︎これでおしまい‼︎二人共ありがとうね⁇」

 

「イイノイイノ‼︎」

 

「ミンナトナカヨクスルノガイチバン‼︎」

 

「ねぇ…どうしてそんなに優しいの⁇」

 

横須賀はずっと疑問に思っていた

 

シュリさんは涼平がいるから分かるが、この戦艦棲姫姉妹は特に友好的

 

「タイセツナヒトト、ヤクソクシタノ」

 

「ケンカシナイ、イガミアワナイッテ」

 

「そう…」

 

悲しそうに、しかし優しく微笑む二人を見て、横須賀はそれ以上聞かない事にした…

 

 

 

「絢辻少尉…」

 

まだ横になっている涼平の所に呉さんが来た

 

シュリさん達は表にご飯を食べに行っており、今は二人きり

 

「涼平、でいいです」

 

「涼平、ありがとう…」

 

涼平は呉さんの感謝の言葉に少し微笑んだ後、真剣な表情に変わる

 

「自分は全てを知りました。だからこそ、隼鷹も救われるべきなんです」

 

「申し訳ない…君には頭が上がらない…」

 

「隼鷹は逆らえなかったのでしょう⁇」

 

呉さんは無言で何度も頷く

 

涼平は全てを知った

 

あの日隼鷹は逆らえずにいた

 

逆らう事すら出来なかったのかも知れない

 

何処の人かも分からぬまま連れ去られ、体を弄られ、戦場に放り込まれた

 

失敗すれば体に教え込まれた

 

それを全て知った上で、涼平はあの日の事を許そうと思った

 

「しかし涼平…やった事は事実だ。君の家族を…」

 

「自分には、家族と呼べる人がいませんでした…」

 

「…」

 

涼平には家族がいない

 

あの島で涼平はずっと一人でいた

 

だけど、周りの皆が涼平の面倒を見てくれていたのだ

 

「今は呼べます。ここの皆が、自分をそう言ってくれる限り」

 

「そうだな…涼平、何かあったら何でも言って欲しい。小遣いが欲しいでもいい」

 

「ならっ、皆が作った料理を食べて来て下さい‼︎」

 

「分かったっ‼︎後で隼鷹にも御礼を言わせに来ても構わないか⁇」

 

「楽しい話ならいつでもと言って下さい‼︎」

 

呉さんの笑う顔を見て、涼平も笑顔で呉さんを見送る…

 

 

 

 

「涼平君…」

 

「傷は治りましたか」

 

数分後、隼鷹が涼平の所に来た

 

「ありがとう…今までは助ける側だったから…その…」

 

涼平の前でモジモジする隼鷹

 

隼鷹はこの体になって以降、救う事はあれど、救われる事は少なくなった

 

なので、こう言った時にどう礼をして良いのか分からなくなっていた

 

「いつもの気さくな隼鷹に戻ってくれませんか」

 

「ん…分かったっ‼︎」

 

「それがいいです」

 

涼平が隼鷹を見る目はとても真面目な目

 

設計図と向き合っている時に垣間見えるのと同じ、真剣な目だ

 

「そ、そ〜だ‼︎何かお礼しなきゃな‼︎近々、一晩付き合おうじゃない‼︎」

 

「お酒ですか⁇」

 

「涼平君。あたしが言えた事じゃないけど…涼平君もあたしに対して軽くでいいよ」

 

それを聞いて、涼平が頭に思い浮かべたのはマーカスとリチャード

 

彼等ならどう返すだろうか…

 

「分かったっ‼︎なら、一晩隼鷹をベッドの上でメチャクチャにしてやる‼︎」

 

涼平は二択の選択を誤った

 

ここはマーカスを選ぶべきだった

 

マーカスなら

 

“お前が眠るまで横にいてやるから、ここ一番のおめかしで来いよ⁇”

 

と、粋な事を言ってくれる

 

此方を取るべきだったのに、涼平は選択ミスをした‼︎

 

その結果…

 

「よしっ‼︎分かった‼︎」

 

隼鷹は二つ返事で快諾してしまう

 

「良くない良くない‼︎冗談だよ‼︎」

 

「あたし、綺麗におめかしして来るから‼︎じゃっ‼︎」

 

「待って隼鷹‼︎あー‼︎」

 

隼鷹は行ってしまう

 

涼平は目が点のまま、叫び声に気付いたシュリさんが来た

 

「ジュンヨーナンテイッテタ⁇」

 

「後日、一晩付き合ってあげるって…」

 

「ヨカッタ‼︎」

 

「怒っていいんですよ、シュリさん…」

 

シュリさんはこう言う所が天然

 

シュリさんの中では、涼平と隼鷹が仲直りしたと思っている

 

が、現実はロマンチックに言うならば一夜の逢瀬

 

「コレデジュンヨーヲベッドデコロセル‼︎」

 

ニヤケ顔のシュリさんが右手でガッツポーズをする

 

この二人、ちょっと思考も近いので互いに惹かれあった節もある

 

「行きませんよ‼︎」

 

「ワタシハイッテホシイ。ソレデ、マタハジメテホシイ」

 

「何をですか⁇」

 

「サイショハコロシアイ。ダケド、ココカラハジマルノ、ワタシタチノオトモダチガ‼︎」

 

シュリさんはちゃんとした考えを持っていた

 

「リョーチャンエライ‼︎アッパレ‼︎」

 

「…分かりましたっ‼︎なら、行ってみます‼︎」

 

後日、涼平と隼鷹は会う事になった

 

それは互いの陣営にとっても、長い一夜となる…


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