艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

1031 / 1086
302話 許す力(2)

「…」

 

隼鷹はずっと港にいた

 

涼平と顔を合わせたくないのではない

 

二度と彼の居場所を奪われる事がないよう、そこで見張っていた

 

「隼鷹」

 

「あっ…りょっ、涼平君じゃないか‼︎あははは‼︎」

 

涼平の両手には、試食会で振る舞われている魚介類が紙皿に乗っている

 

「あたしのとこより会場に行きなよ‼︎ねっ⁉︎」

 

「隼鷹にも食べて欲しいんだ」

 

隼鷹をベンチに座らせ、涼平は魚介類を渡す

 

「い、良いのかい⁇」

 

「酒は出ないよ」

 

「ん…いただきますっ」

 

割り箸を割り、隼鷹も試食にありつく

 

「美味いなぁ…あたしはこんな…」

 

「何も言わなくていい。全部分かってる」

 

「…」

 

隼鷹はそれを聞き、少し鼻をすすりながら食べ進める

 

「お腹一杯になりましたか⁇足りないならもっと…」

 

「もうお腹一杯だよ。ありがとう、涼平君。さぁ、もうお行き。あたしが憎いだ…下がってな‼︎」

 

「隼鷹⁉︎」

 

泣きそうな顔だった隼鷹の顔が凛々しく変わる

 

《こんな所にいたのか、隼鷹》

 

隼鷹と涼平の無線に通信が入る

 

「…」

 

無線を聞いてから隼鷹の様子がおかしい

 

「第三居住区、絢辻です。其方は⁇」

 

《答える義務は無い。その基地、我々が貰い受ける》

 

無線が切れ、水平線を見る

 

巡洋艦二隻、イージス艦が一隻、離れた場所に見えた

 

「涼平君は戻りな‼︎あたしがやるから‼︎」

 

「すぐに戻っ…」

 

涼平が戻ろうと一緒隼鷹から目を離した時、背後で爆発が起こる

 

「隼鷹‼︎」

 

イージス艦からのミサイルだろうか…

 

隼鷹は吹き飛ばされた後、コンクリートの上に倒れていた

 

涼平はすぐに隼鷹に駆け寄る

 

「何してんだい…早く行きな‼︎」

 

「隼鷹、足が…」

 

攻撃の影響で隼鷹の左足が折れていた

 

「爆発のダメージはないけどっ…吹き飛ばされた衝撃で…はは、因果応報かぁ…」

 

隼鷹の体が持ち上がる

 

「ちょっと…何考えてんだい…」

 

「逃げるよ」

 

「…」

 

隼鷹をお姫様抱っこで抱え、皆がいる広場を目指そうとした

 

「うわっ‼︎」

 

二発目の着弾が目の前に落ちる

 

「涼平君‼︎」

 

「…隼鷹、前…見えますか⁇」

 

「あんた…目が…」

 

破片を食らったのか、涼平の目からは血が流れていた

 

隼鷹は両目が見えなくなった状態の涼平を見て、あの日の自分の愚かさを実感した

 

「…真っ直ぐ走って‼︎」

 

涼平を誘導し、広場を目指す…

 

 

 

広場では港で起きた爆発と、近くにいる敵艦の処理で慌ただしく動いていた

 

「涼平‼︎」

 

「隼鷹‼︎」

 

「真っ直ぐ…真っ直ぐだ…」

 

隼鷹を抱えた涼平が戻って来た

 

「良く頑張った涼平‼︎」

 

「隊長…」

 

涼平は両目をやられており、すぐにでもカプセルに放り込まなければいけない

 

「何で放っておかなかったんだい…」

 

「そこにいるんですか…隼鷹…」

 

「いるよ…ここにいる‼︎」

 

隼鷹は折れた足を引き摺り、涼平の手を握る

 

「死んだら…終わりなんです…」

 

「そうだね…」

 

「言ったでしょう…二度と大切な人を奪わないでくれって…」

 

「言った…だから今日…」

 

「誰かが終わらせなきゃダメなんだ…負の連鎖は…自分は許します…だから隼鷹、隼鷹も大切になった…」

 

「…‼︎」

 

「とりあえず涼平をカプセルに放り込む‼︎呉さん‼︎隼鷹を‼︎」

 

「分かった‼︎」

 

涼平と隼鷹は今では病院施設になった元研究棟で、隣り合わせのカプセルに入れられた

 

互いに一部分のみの損傷なので、比較的短時間で治療は終わりそうだ

 

問題は敵艦だ…

 

表に出て、対策を練らねば…

 

「て〜て、てって〜、ててててっ〜ん‼︎準備は宜しいかな⁉︎」

 

「準備完了だっ‼︎」

 

互いにタバコを咥えた親父とヴィンセントが何かを構えている

 

「てれっててって、てってて〜‼︎」

 

「その歌どうにかならんのか‼︎」

 

「お前も歌え‼︎てててって〜‼︎ロックオ〜ン‼︎」

 

「…て〜て、てって〜‼︎終わりだぁ‼︎」

 

二人の標準が定まり、真剣な顔になる

 

「「Check Mate‼︎」」

 

二人が手にしていたのは、俺の知る限りスティンガーか何かのランチャー

 

二発の弾は巡洋艦二隻へと向かう…

 

「お〜お〜‼︎良く燃える燃えるぅ‼︎」

 

二発共見事に着弾し、一度爆発を起こした後、何故か異常に燃え上がる

 

「流石は何十隻も撃沈しただけはあるな⁇」

 

「燃料庫に貫通弾を撃ち込めば艦船でも燃える燃えるぅ‼︎フゥ‼︎」

 

「あのイージスも一発かますか⁇」

 

「いんや。孫に任せるとしよう‼︎」

 

親父は全てを見透かしているかの様に、タナトスとスカーサハが浮上するのを知っていた

 

「ゴーヤちゃん、ヨナちゃん。こっちまで曳航出来るか⁇」

 

《お任せでち‼︎》

 

《お任せ下さい、リチャード様‼︎》

 

親父とヴィンセントは咥えタバコをしたままハイタッチをし、広場に戻って来た

 

「召し捕ったりぃぃぃい‼︎」

 

親父は敵を撃退した事の喜びを全身で表現

 

ヴィンセントは照れ臭そうだが、スティンガーを持っていない左手を天に掲げた

 

「「「オォォォオ‼︎」」」

 

深海の子達が親父とヴィンセントの姿を見て歓喜する

 

「さっ‼︎尋問は彼女達に任せて‼︎治療は…治療だ‼︎マーカス、涼平と隼鷹は‼︎」

 

「大丈夫だ‼︎助かったよ‼︎」

 

「大尉…その…今の私の姿はガンビアには内密に…」

 

ヴィンセントはまだ照れ臭いのか、目線を逸らし、スティンガーを背中に回した

 

「分かったっ。ガンビアさんには、旦那は勇猛果敢だって言っとくよ‼︎」

 

「それは参りました‼︎では‼︎」

 

「ほら食うぞ‼︎」

 

どうやら親父達は到着して間近で異変に気付いてくれたらしい

 

二人のお陰で怪我人は出たものの死者は無く、最小限で収められた…


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。