艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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299話 おでかけワシントンちゃん(2)

「ここね⁇」

 

「おー」

 

タナトス級が補給を受けている横で、出番を待つスカーサハ級

 

ヨナの所にいるとの事なので、恐らくここだわ⁇

 

「おふね」

 

「そうよ。これは潜水艦よ⁇」

 

「せんすいか」

 

やっぱり“ん”を言わない

 

でも、自己紹介する時の“わしんとん”は言うわね…

 

何が違うのかしら…

 

《ようこそスカーサハへ、お母様》

 

「ありがとっ」

 

ヨナが気付いてくれて、ハッチが開く

 

「おー」

 

自動で開くハッチを見て、ワシントンはビックリしている

 

「パピーはいるかしら⁇」

 

「いた」

 

いつもレイがいるメインルームに自然と足が向かい、そこにはレイ、ヨナ、そしてゴーヤがいた

 

「おっ‼︎ワシントン‼︎マミーとお出掛けか⁉︎」

 

「おでかっけ」

 

ワシントンは早速レイに抱き着く

 

「あら、お食事会⁇」

 

「そっ。ひとみといよ達が迅鯨ととって来たらしいんだ‼︎」

 

テーブルの上には三匹の焼き魚

 

今正に三人が食べようとしている

 

「やきざかな」

 

「おっ‼︎ワシントンも食べたか⁉︎」

 

「おいすいやきざかな」

 

「ヨナも楽しみです」

 

「あの二人がとったのはオイスイでちよ‼︎」

 

ゴーヤはワシントンに合わせて言葉を変えてくれている

 

「この人はゴーヤちゃん、あの人はヨナちゃんよ⁇」

 

「ごーやちゃ、よなちゃ」

 

「物覚えが良い子でちな‼︎」

 

「ヨナも覚えたてです。一緒ですね⁇」

 

「よなちゃ」

 

ヨナとワシントンは色々覚え始めた同士

 

何処か波長が合うのかも知れない

 

「あ。そうだわレイ…」

 

私は少し気になった事を聞いてみた

 

さっきのひとみといよの件が、やっぱり引っかかる

 

「あぁ、大丈夫だ‼︎」

 

「ひとみといよは邪魔しちゃダメな時は来ないでち‼︎」

 

「基地でもそうなんだ。貴子さんがアトランタを見ている時、ひとみといよは寄らないんだ」

 

「お母さんが教えてるのを邪魔しちゃダメって分かってるでち」

 

「ひとみちゃ、いよちゃ」

 

「ひとみといよが焼き魚くれたのか⁇」

 

「おくちふっき」

 

「そっかそっか‼︎心配しなくても大丈夫だ‼︎」

 

心配して損をした

 

そうだわ。あの子達は困った時に必ず手を差し伸べてくれる子達

 

…目の前にいる男と一緒で、優しい子だったのを忘れてた

 

「おいすいです‼︎ヨナ、これ好きです‼︎」

 

ヨナは気に入っているのか、レイに買ってもらったあのアロハシャツを着ている

 

レイはレイでいつもの革ジャン

 

ゴーヤは変わらずスクール水着と、今日はチャックが付いたパーカーを羽織っている

 

「ねりねりね」

 

いつの間にかワシントンはヨナナス製造機の前に移動して、出て来るヨナナスを見ている

 

「お召し上がり下さい。今日はイチゴのヨナナスです」

 

「いちご」

 

「ワシントン⁇マミーのもお願い‼︎」

 

「んっ」

 

ワシントンはちゃんと二つヨナナスが入った容器を持って来てくれた

 

「ワシントン⁇これは覚えた⁇」

 

「すぷー」

 

「ふふっ‼︎」

 

ここまで来ると面白くなって来た

 

癖なのか意地なのか、絶対ワシントンは最後の”ん”を言わない

 

「おいすい」

 

ワシントンはヨナナスを食べていてもへの字口を直さない

 

顔を見ているだけでは感情が掴みにくいわね…

 

「おさかな」

 

スプーン片手にワシントンはモニターに目が行く

 

モニターには水中の映像が映し出されている

 

「おー」

 

モニターに映る魚群を目で追っている

 

「どれっ、外に行ってみような⁇」

 

「うん」

 

レイがワシントンを抱っこし、五人でスカーサハから降りる

 

降りてすぐの埠頭でワシントンと一緒にレイは海を見る

 

「おさかな」

 

「ワシントンにこんにちは〜って言ってるぞ⁇」

 

「こんにちわ」

 

海中でキラキラしている魚群に挨拶するワシントン

 

「んー」

 

早速双眼鏡で魚群を見始める

 

「きらきら」

 

「ワシントンはキラキラ好きか⁇」

 

「きらきらすき」

 

「あらっ」

 

少しだけだけど、ワシントンは初めて笑ってくれた

 

ほんの少し口角を上げただけだけど、やっぱり笑ってくれると嬉しい

 

それと、レイもつられて笑っている

 

やっぱり私、この光景が好きなのね…

 

「よしワシントン。マミーに繁華街でお菓子買って貰うか‼︎」

 

「おかすぃ」

 

「ヨナもゴーヤも行くわよ‼︎」

 

私の周りに子供達を置き、レイはいつも通り少し後ろを着いて来る

 

足柄の駄菓子屋に着き、子供達はワシントンを連れてお菓子を選び始める

 

「んー」

 

「悩んでるでち」

 

ワシントンはまだ文字が分からない

 

見た目だけでお菓子を判断するのは難しいみたいね

 

「ワシントンはどんな食べ物が好きだ⁇」

 

「どりあ」

 

「そうかそうか。そしたら…」

 

レイがワシントンのお菓子を選ぶ

 

おせんべいとミルクパンを選んだ

 

「おせんべいと、ミルクパンにしようか‼︎」

 

「おせんべい、みるくぱ」

 

ワシントンはお菓子の名前を繰り返した後、二度小さく頷いた

 

「ヨナはこれにします」

 

ヨナが選んだのは缶のドロップとラーメンスナック

 

ゴーヤは既に私の所に持って来たラムネ菓子がある

 

「いらっしゃい‼︎新しい子ね⁇」

 

レジに行くと足柄が待っていてくれた

 

「アメリカから来たの。ね⁇ワシントン⁇」

 

「私は足柄‼︎お菓子屋さんなの‼︎」

 

「あしがらさ。わしんとん」

 

ワシントンは足柄を少し見た後、丁度ワシントンの目線にある何かを見続ける

 

「ぱぴー」

 

「どうした⁇」

 

私がお菓子を買っている最中、レイはワシントンの横で膝を曲げ、それを見る

 

「きらきら」

 

「それはマジカル☆ジェミニだな⁇」

 

ワシントンとレイの目線の先には、マジカル☆ジェミニのシールがある

 

キラキラ加工がしてあるそれは、ワシントンが見ても綺麗に見えるのね

 

「可愛い、だな⁇」

 

レイは普通に教えてくれたのだろう

 

だけど、ちょっとドキッとした…

 

「かわいい」

 

「それの指人形もあるんだぞ⁇」

 

レイとワシントンの右側にある、箱のお菓子

 

その中にマジカル☆ジェミニの指人形があった

 

「おー」

 

「これはパピーが買ってやろうな⁇ゴーヤとヨナはどうする⁇」

 

「ならゴーヤはこれにするでち‼︎」

 

「えと…ヨナもこれを」

 

ゴーヤとヨナはレイの手にマジカル☆ジェミニのシールくじを置いた

 

外に出てベンチに座り、子供達はお菓子を食べ始める

 

「あが、あが、あが」

 

ワシントンはおせんべいに悪戦苦闘中

 

への字口を止め、何とかおせんべいを齧ろうとするが、噛み方が緩いのか、ただ歯を立てているだけになっている

 

「ぐーって噛むでち‼︎」

 

「あが」

 

おせんべいを咥えたまま、ゴーヤの方を見るワシントン

 

「んー」

 

ゴーヤの言っている事が分かったのか、ワシントンは目を閉じて噛む力を強める

 

パキッ

 

「ふぉ」

 

「かむかむでち」

 

ゴーヤに言われた通り、ワシントンは口の中でおせんべいをバリバリ噛む

 

「おいふぃ」

 

「良かったでち‼︎」

 

ヨナはレイの横でラーメンスナックを食べるのに必死

 

そんな子供達を、レイはずっと見ている

 

私は子供達を見るレイに自然と目が行っていた…

 

 

 

執務室に戻り、レイは工廠に向かい、私は席に座る

 

「まじかるじぇみに」

 

「行くよ‼︎」

 

ワシントンはレイに買って貰った指人形を清霜の車のラジコンに乗せて遊んでいる

 

「ワシントン。今日はマーカスと何して遊んだのだ⁇」

 

膝に早霜を乗せたガングートがワシントンに話し掛ける

 

「おせんべいたべた。おさかなみた。まじかるじぇみにかった」

 

「そうかそうか‼︎」

 

「ジェミニ様」

 

「どうしたの親潮」

 

今の何気無い会話で親潮がふと気付く

 

「ワシントンさんは、創造主様を認識しています」

 

「あら、分かるの⁇」

 

「今、ガングートさんが仰りました。マーカスと何して遊んだのか、と。それに対してワシントンさんは創造主様の事を仰りました」

 

「…ホントだわ。ガングート‼︎」

 

「何だ⁇」

 

ガングートに寄り、少しだけ耳打ちする

 

「分かった‼︎ワシントン‼︎」

 

「ん」

 

ガングートが呼ぶと、ちゃんとガングートの方を見るワシントン

 

「ジェミニとは今日は何して遊んだのだ⁇」

 

「やきざかなたべた。おでかっけした」

 

「ジェミニ様も認識しています‼︎」

 

「ワシントン‼︎覚えてくれたのね‼︎」

 

「まみー」

 

ワシントンの頭を撫で、また席に戻る

 

少しずつ、ワシントンは色々な事を覚えて行く

 

感情はもう少し先になりそうだけど、それもレイといると早まっている気がする

 

明日はどんな成長をするのかしら…


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