艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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29話 雄鶏の弱点(3)

「パパ、チェルシーノテ、ツカマッテ⁇」

 

「ん…」

 

大佐は恐る恐るチェルシーの手を掴んだ

 

「イッチデ、カオヲミズニツケル。二ッデカオヲダス」

 

「いっち、に」

 

「イッチ、ニ」

 

案外上手に行っている

 

「チョットキュウケイ。チェルシー二ツカマッテ⁇」

 

「ん…」

 

まだ水に不安はあるようだ

 

「ダイジョウブ。チェルシーガツイテル」

 

「頼んだよ」

 

「オテテツナイデルカラ、プールヲイッシュウスルヨ⁇」

 

「ゆ、ゆっくりだぞ⁉︎」

 

「ン…」

 

チェルシーに引かれて、大佐はプールを一周し始めた

 

その間私は戦艦達と共にチビ達の面倒を見る事にした

 

「ン…ジョウズニナッテキタ」

 

ダレカニオシエルノ、ヒサシブリ…

 

ナンダカ、ナツカシイ…

 

オシエル…

 

キョウドウ…

 

キョウドウ…⁇

 

タイサ⁇タイチョウ⁇

 

ワタしは…コのヒトの…

 

「息ハイテ。モウちょっとダヨ」

 

「お…おぅ…」

 

「チェルシー⁉︎貴方もしかして…」

 

もうすぐで一周出来る所まで来た二人だが、チェルシーに異変が出ている

 

腕や顔の至る所にひび割れが出来ている‼︎

 

「あとジュウメートルくらい」

 

「…」

 

「あ…」

 

私は彼女の顔に見覚えがあった

 

忘れる事なんて、出来なかった

 

「さ、後一歩」

 

「お⁉︎おぉ…」

 

「ぐ…」

 

思い切って、彼女の名前を呼んでみた

 

「グラーフ‼︎」

 

「はっ」

 

その瞬間、チェルシーのひび割れが弾け、本来の姿が垣間見えた

 

「グラーフ⁉︎」

 

「た…隊長…私…」

 

大佐はかなり驚いていた

 

そりゃそうだ

 

数秒前まで、色白で角が二本生えた女の子が手を引いていたのだから

 

「そっか…私はグラーフだったな」

 

「お前だったのか…」

 

「ただいま、隊長」

 

「おかえ」

 

急に手を離したものだから、大佐が沈んで行く

 

「おっと」

 

沈む寸前でグラーフが掴み、そのままプールから上がらせた

 

「あ‼︎大佐‼︎分かりました‼︎何故泳げないか‼︎」

 

「何だ」

 

「ちょっと来て下さい‼︎」

 

横須賀に手を引かれ、脱衣所まで連れて行かれた

 

「これです」

 

「あ、あぁ…それもそうか。鉄製だったな」

 

これと言うのは、義足の事

 

鉄製の為、付けていては沈んでしまう

 

「明石に頼んで、水に浮く素材で造って貰いましょう」

 

「…頼む」

 

「では、近々持って来ますね」

 

その日はそのまま、水泳教習はお開きになった

 

 

 

「ぐらーふ‼︎」

 

「そう。私がグラーフ」

 

「あたしたいほう‼︎」

 

「うん。知ってる。いつも遊んでくれてありがとう」

 

「あ〜…まぁ、紹介する。俺の部下の…」

 

「航空母艦、グラーフツェッペリン。です」

 

”提督、毎度の事やけど、装備や”

 

手渡された電子板を見ると、いつも通り顔写真と全体像、そして装備の一覧が表示されていた

 

なし

 

なし

 

なし

 

 

 

「これでいい」

 

”ま、言ってもしゃ〜ないわな”

 

「そう…私には装備がない。だけど…」

 

「だけど…⁇」

 

全員が生唾を飲んだ

 

「航空機には乗れる」

 

「お…おぉ…」

 

「見て。紋章も、ほら」

 

「おっ、懐かしいな」

 

「そうでしょ」

 

彼女の紋章はドイツの紋章ではなく、サンダーバード隊のエンブレムが描かれていた

 

「これで全員揃ったな」

 

「ふっふっふ…ま、俺が変わらず二番機だがな‼︎」

 

腕を組んで自慢気に話しているスティングレイに迫力は無い

 

ましてたいほうの頭の上だ

 

「そう。スティングレイが二番機。凄い凄い」

 

「お…おぅ…」

 

否定されるどころかグラーフに肯定され、満更でもなさそうな顔をしている

 

「すてぃんぐれい、どきどきしてる⁇」

 

「あ…いや、してねぇよ‼︎」

 

「あたまのうえが、どっくんどっくんしてるよ⁇」

 

「してないっ‼︎」

 

そう言うスティングレイの顔は真っ赤になっていた

 

「ふっ…」

 

私は彼が真っ赤になっている理由を知っていた

 

恥ずかしい訳では無い

 

あれは、嬉しいんだ

 

長年付き合って来たから、大体は分かるし、昔からスティングレイは何故かグラーフだけには逆らわなかった

 

「な、なぁ、たいほう。ちょっとだけ、グラーフと二人にしてくれないか⁇」

 

「うん、いいよ。はい」

 

スティングレイをグラーフのポケットにこっそり入れ、そのまま何処かに行ってしまった

 

「いいのか⁇二人きりにして」

 

「いいさ”たまには年頃の二人”にしてやれ」

 

「とし…あぁ、そう言う事か」

 

武蔵もローマも気付いたみたいだが、子供にはまだ早かったみたいだ

 

「ま、スティングレイの一方通行とは思うがな…」

 

「パパ、年頃の二人ってなに⁉︎」

 

れーべとまっくすが目を輝かせている

 

たいほうは一人で積み木で遊び始めている

 

「あ〜…えっと…も、もう少ししたら分かる…かな⁇」

 

恋に多感な年頃だな…

 

「むさしはおうさまね‼︎」

 

ニコニコした顔で武蔵の足元に積み木を並べて行くたいほう

 

「なんだこれは。お城か⁇」

 

「そう‼︎むさしはつよいおうさま。たいほうはおひめさま‼︎」

 

こうして側から二人を見ていると、本当の母と娘に見えてくる

 

そんな二人を見ながら、私はしばらくコーヒーを啜っていた




航空母艦⁇”グラーフ・ツェッペリン”が、艦隊の指揮下に入ります‼︎

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