艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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294話 叔父と父親のララバイ(2)

繁華街に着き、隊長はまず遠方からリベッチオ・パスタの様子を双眼鏡で偵察する

 

「今日の厨房は…おっ‼︎ザラだ‼︎」

 

余程リットリオが怖いらしい

 

「こいつは安心だ‼︎昼飯後なのが残念だな‼︎」

 

「珍しいな⁇向こうから呼ぶなんて」

 

「新しい子がいるらしい。どれどれ…」

 

隊長は再び双眼鏡でリベッチオ・パスタの中を見る

 

俺も新しい子を探す為、双眼鏡を手にする…

 

「…隊長‼︎隊長‼︎」

 

「ん〜⁇いたか〜⁇」

 

「2時方向にリットリオが…」

 

「さっき見たぞ⁇いる訳…」

 

俺と隊長が双眼鏡で見た先には、右手の指の隙間にフォークを持ったリットリオが笑顔で此方を見ている姿

 

「いるぅぅぅう‼︎」

 

バリィィイン‼︎

 

隊長が叫び、双眼鏡を降ろした瞬間、隊長の双眼鏡の右側にフォークが刺さった‼︎

 

隊長は開いた口が塞がらない

 

「…我々は紳士だ。いいな、レイ」

 

「勿論です、ウィリアム」

 

一気に紳士モードに変わり、いざリベッチオ・パスタに入店

 

「いらっしゃいませ‼︎」

 

店に入ると、案内してくれたのは先程双眼鏡で見たザラ

 

「二人だ」

 

「窓際の席へどうぞ‼︎」

 

ザラに言われ、窓際の席に座る

 

「兄さん、マーカスさん、いらっしゃいませ〜」

 

リットリオがメニューを持って来てくれた

 

「ナポ」

 

「ぶっ飛ばすぞ…」

 

隊長が冗談でたった二文字放っただけでリットリオは即座に反応

 

目付きもいつもの優しい顔から悪魔に変わる

 

「ジェラートを2つ。このチョコレートのを」

 

「はいっ、兄さんっ‼︎」

 

リットリオは笑顔で厨房に戻って行った

 

「ナポって言っただけであれだ…」

 

「親父もやられたらしいな…貴子さんに聞いたよ…」

 

「リットリオには逆らえ…」

 

ガシャン‼︎

 

急に机にジェラートが置かれ、俺も隊長も肩を上げる

 

「チョコレートのジェラートお待たせしました〜」

 

「「あ、はい…」」

 

一言もリットリオの事を口にしてはいけないみたいだ…

 

「しかし、味は美味いな⁇」

 

「パスタもジェラートも本場仕込みなんだろうな⁇それに安いし‼︎」

 

ジェラートは前に少し食べたが、良い方向に味が変わっている

 

味が少し濃くなったと言うか、とにかく更に美味しくなっている

 

リベッチオ・パスタは安くて美味しい

 

だからこそ人気があり、開放日でも繁盛している

 

「それで、新しい子は⁇」

 

「丁度良い。マエストラーレ‼︎」

 

「あ、はーい‼︎」

 

マエストラーレが近くに居たので、隊長が呼んだ

 

「あ、叔父様‼︎いらっしゃいませ‼︎」

 

「新しい子が来たみたいだな⁇」

 

「はいっ‼︎“グレカーレ”です‼︎彼方に‼︎」

 

厨房を見ると、女の子が一人

 

台座に乗ってジェラートを作っている

 

「私の妹なんです‼︎ちょっと呼んで来ますね‼︎」

 

マエストラーレはグレカーレを呼びに厨房に入って行った

 

「もう一人姪っ子が増えたって訳か⁇」

 

「どうもそうらしいな⁇リットリオに似てなきゃいいが…」

 

「兄さん⁇」

 

たまたま横を通りすがったリットリオがガン見している

 

「リットリオに似て優しい子だと良いな‼︎」

 

「そうだな‼︎間違いないさ‼︎」

 

隊長は年下の女性の気迫に弱い

 

今、そう再認識した

 

「この人が叔父さん⁇」

 

「そう‼︎ウィリアム叔父様と、マーカスさん‼︎」

 

「グレカーレか‼︎」

 

イタズラ好きそうな少女が来た

 

肌は貴子さんに似た褐色で、髪の毛は金髪

 

「叔父さん、話は聞いてるよ。凄いパイロットなんでしょ⁇」

 

「どうかな⁇私本人では分からん」

 

「ウィリアムは凄いパイロットだ。世界を駆け巡って、勝利を導いて来たお方だ」

 

「マック‼︎」

 

リベッチオ・パスタの一角で、親戚一同が軽く集まる

 

「にひひ‼︎叔父さんの膝座〜わろ‼︎」

 

「ふふ。いいぞ‼︎」

 

グレカーレが膝に座って来ても、隊長はほとんど応じずにいる

 

それより、ここまで来ると俺は邪魔そうだ…

 

「隊長、ちょっと出掛けて来るよ。晩飯までには帰る」

 

「レイ、今日もすまないな…ジェラートしか奢ってやれなかった」

 

「気にしないでくれ‼︎グレカーレ、またジェラート食べに来るからな⁇」

 

「美味しいの作って待ってる‼︎」

 

イタズラ好きそうに見えたが、礼儀はなっているグレカーレ

 

リベッチオ・パスタを出て気付く

 

今日は非番だ

 

 

少し、逢いたくなった子が出来た

 

そう思った時には、高雄の部屋に足を運んでいた

 

「いらっしゃいませ大尉」

 

「子供が好きそうな物を見繕って欲しい」

 

「そうですね…」

 

高雄に見繕って貰い、それを抱えてジープの発着場に来た

 

「大尉、お出掛けですか⁇」

 

「非番だからな。たまには一人でドライブよ‼︎」

 

「何番にします⁇」

 

「2番を寄越してくれ‼︎」

 

「行きますよ‼︎」

 

「サンキュー‼︎」

 

受け付けからキーを投げて貰い、2番のジープに乗り、エンジンを点ける

 

「一応業務なんで聞いときますけど‼︎何処に行かれます⁉︎」

 

エンジンの音で受け付けの男性二人の声が聞こえづらい

 

「東京方面だ‼︎」

 

「分かりました‼︎」

 

「そういやぁ、ジョンストンとはどうだ‼︎上手くやってるか‼︎」

 

「時々ヴィンセントさんに許可を入れて基地内で遊びます‼︎もっぱらスイーツ巡りですが‼︎」

 

「なら良かった‼︎バイビー‼︎」

 

「行ってらっしゃい‼︎」

 

「お気をつけて‼︎」

 

いつかのお祭りの日、ジョンストンに絡んでいた二人は基地の外で自動車整備士をしていた

 

横須賀はあれから二人に対してナンパの罪はジープのオイル点検だけで済まし、尚且つ日払いの賃金を与えた

 

そしてその腕を買われ、ついでの様に二人共横須賀に雇われた

 

二人共融通も冗談も中々効く良い奴だ

 

それに、仕事に誇りを持っているらしい

 

俺はジープで横須賀を出た…


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