艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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293話 セイイエス、セイグッバイ(3)

俺は俺で別件がある

 

吹雪の両親の治療を終えなくてはならない

 

カプセルが移送された先である、第二医務室に来た

 

そこそこ広い部屋の中には、数個のカプセルが並んでいる

 

その内の2つに、吹雪の両親が入っている

 

「後三時間…」

 

早める事が出来ない為、手出しが出来ない

 

医務室から出ようとすると、ドアが開いた

 

「大淀さんが知らせてあげよう」

 

入って来たのは大淀博士

 

「助かる。少し時間を潰して来る」

 

「ゲームセンターとかどうだい⁇たまにはレイ君も一人で楽しめるよ⁇」

 

「そうするかな」

 

医務室を出て、向かう先はゲームセンター

 

どうせ今日は大した作戦もない

 

たまにはサボってやってもいいだろう

 

テーブル台に座り、スタートボタンを押す

 

《ハチジョーハチジョー‼︎》

 

《グワー‼︎》

 

《ハチジョーマスィンガーン‼︎》

 

《グワー‼︎》

 

この“メタルカイボー”…

 

最初はクソゲーと思ったが、何故かたまにやりたくなる位面白い

 

時代に逆行した、この美麗ドットが良い

 

それに、簡単かつ中々派手なアクションが見れる

 

小一時間楽しんだ後、カードを取り、保育部に向かう

 

 

 

 

「吹雪。榛名はなんてお名前ダズル⁇」

 

「しろ」

 

「リシュリューはなんてお名前だリュ⁇」

 

「りしゅ」

 

単冠湾のいつもの光景が保育部にある

 

「ニムはなんてお名前ニム⁇」

 

「にゅむ」

 

「偉い偉いニム‼︎」

 

吹雪はニムだけほぼしっかり名前を覚えている

 

そんな所にアトランタが来た

 

アトランタは自分を指差す

 

私の名前はなんだ‼︎と言っている

 

「あとあ」

 

アトランタはいつものお腹の前で手を合わせる拍手をし、見た事の無い子の所に行く…

 

アトランタは手にしたボールを後ろを向いている彼女に当てると、アトランタが接近していると分かって振り返り、その子が前に座る

 

「分かる分かる〜‼︎」

 

どうもアトランタはボールで遊びたい様子

 

その子の前にボールを転がし、投げろ‼︎と促す

 

「ボールね‼︎分かる〜‼︎」

 

その子がボールをアトランタに投げると、どうやらアトランタのお望みは違う様子

 

ボールを弾き返し、その子の手にもう2つ乗せる

 

「分かる分かる〜‼︎」

 

すると、その子は手元でジャグリングをし始める

 

アトランタはそれを見て拍手を送る

 

アトランタの足元に転がっているボールが気になる…

 

「ジャグリング分かる⁇」

 

その子はアトランタにジャグリングを教えようとしているが、アトランタは足元のボールを手に取る

 

「わ‼︎わ‼︎わ‼︎」

 

アトランタはその子の手元にボールを投げ、ジャグリングの球を追加させる

 

それでもその子は計8個のボールを見事にさばく

 

それでもアトランタの手元にはボール

 

これ以上は難しそうだ…

 

「アトランタ、その辺にしてあげようか⁇」

 

俺の言葉に気付いてボールを床に置き、アトランタはその子を指差す

 

華麗にボールをさばく彼女を見て、アトランタはご満悦

 

「行くよ〜‼︎」

 

声と共にアトランタの前にゆっくりしたスピードでボールが来る

 

アトランタはちゃんとキャッチし、一つ一つ足元に置いて行く

 

「おっしま〜い‼︎」

 

余程彼女のジャグリングが好きなのか、アトランタはまたしても拍手を送る

 

「マーカス大尉ですね‼︎分かる〜‼︎横須賀さんから聞いています‼︎」

 

「君は⁇」

 

「私は“デ・ロイテル”‼︎少し前からここで保母さんしてま〜す‼︎」

 

赤髪で明るい性格の彼女、ロイテル

 

少し前からここで保母さんをしているらしいが、どうも入れ違いで会えなかったらしい

 

「よろしくな」

 

「大尉は見回りですか⁇」

 

「そっ。すぐに出るけどな⁇」

 

最後に吹雪を見つめる

 

三人の母親と共に時間を過ごしている

 

あぁ、邪魔しちゃならんな…

 

後は大淀博士の横にでも居よう

 

俺はそっと保育部のドアを閉めた…

 

 

 

「おかえりレイ君‼︎コーヒーでも淹れよっか‼︎」

 

「ありがとう」

 

第二医務室の椅子に座り、入れ違いで大淀がコーヒーを作りに少しの間出て行った

 

カプセルに入った二人を見る…

 

喜ばしい事なんだが…あの三人を見ていると何かが引っかかる

 

俺達と同じで、あの三人にとって吹雪は心の拠り所なのではないか⁇

 

どうしようもない問題だな…

 

「レイ君は赤ちゃん好きかい⁇」

 

音も無く後ろに立っていた大淀

 

手にはマグカップが二つあり、一つ受け取る

 

「ありがとう」

 

「大淀さん特製だから美味しいよ」

 

大淀の淹れるコーヒーは甘い

 

ほんのりと香るキャラメルか何かの甘い香りと、ミルク多めのコーヒーだ

 

「難しい問題だ。三人が燃え尽き症候群にならないと良いが…」

 

「なるほどね…大淀さんは機械なら幾らでも造ってあげられるんだけど…」

 

「何かあれば、俺達がフォローしてやればいいか…」

 

「ん…レイ君がそう言うなら、それが一番だよ‼︎」

 

大淀の笑顔で、少しだけ救われる

 

「時間だね」

 

「…よしっ」

 

治療完了を知らせるアラームが鳴る…

 

 

 

「おはよう」

 

「おはようございます…ここは…」

 

「ここは横須賀だ」

 

先に男性の治療が終わり、俺はそっちの最終処置に入る

 

「目覚めはどうかな⁇」

 

「ありがとうございます…あの…私、赤ちゃんを…」

 

「大丈夫だよ。ここの人が面倒を見てくれてるよ」

 

大淀博士は女性の方

 

女性は自分達の子である吹雪の心配をしている

 

「いきなり現実を突き付けて悪いが、あれから三年経ってる」

 

「三年⁉︎私には任務が…」

 

「ここに持ち物がある。間違いないか⁇」

 

あの日民間船から回収して来た荷物の一つを男性に渡す

 

「あぁ…これです。何から何まで申し訳ありません…」

 

「どんな任務なんだ⁇」

 

「サンフランシスコから依頼された設計図をジェミニ元帥に渡す任務なのですが…」

 

「サンフランシスコの人間だったのか…」

 

「自分はリチャード中将の三番機でして…子供が出来て、育児休暇を取っていまして…それが終わって横須賀に向かう最中でした」

 

男性は急に真剣な表情になり、俺を見つめる

 

「リチャード中将をご存知ですか⁇」

 

「寿司屋にいると思う。どうする⁇先に娘と会うか、任務を終わらせるか」

 

「貴方、先に任務を」

 

女性に言われ、男性は頷く

 

「先に中将にお会い願えますか⁇」

 

「分かった。大淀博士、彼女を頼んだ」

 

「オッケーレイ君‼︎さ、ゆっくりとね…」

 

女性の足はまだおぼつかない

 

男性の方はもう歩けるくらいにはなっている為、ずいずいずっころばしに連れて行く事にした

 

 

 

 

「中将は相変わらずですか⁇」

 

「相変わらずだ。皆言ってる。空のままで地上に降りて欲しいって」

 

「中将はあれで良いんです。申し遅れました、私、三浦と申します」

 

「スティングレイだ。さ、ここだ」

 

ずいずいずっころばしの暖簾を分ける

 

「イクラの軍艦を二つだ‼︎」

 

「オッケー‼︎あ、大尉‼︎いらっしゃいませ‼︎」

 

「あそこに」

 

「中将‼︎ご無沙汰しています‼︎」

 

三浦を案内すると、親父は口に米粒を付けて振り向いた

 

「ミウラ‼︎どうしたどうした‼︎まぁ座れ‼︎マーカスも座れ‼︎」

 

親父に手招きされ、テーブル席に座る

 

「とにかく、長旅お疲れ様だ‼︎」

 

「長い間お待たせしました。此方のスティングレイさんに救って頂いて、此処に」

 

「そうかぁ〜。助かったぞ‼︎」

 

「貸しにしとくよっ。瑞鶴、マグロをくれるか⁇」

 

「オッケー大尉‼︎」

 

瑞鶴がお寿司を握り、三浦が話を切り出す

 

「中将…息子さんは…」

 

「おぉ‼︎見つかったぞ‼︎」

 

「やはり横須賀に⁇」

 

「イクラ二つとマグロお待たせ‼︎」

 

「「ありがとう」」

 

「んっ‼︎横須賀にいた‼︎医者をしていてな‼︎後パイロットもだな⁇」

 

親父はイクラの軍艦を口にしながら俺の方を見る

 

「エンジニアもっ、追加して欲しい‼︎」

 

「んっ‼︎エンジニアもだ‼︎はっはっは‼︎」

 

俺達二人の対応を見て、三浦が冷や汗を垂らす

 

「もしかして…」

 

「なに⁉︎隣にいるマーカスが息子だと説明してないだと‼︎」

 

「とんだご無礼を‼︎息子さんとは知らず‼︎」

 

「言わなかった俺が悪いんだ」

 

「家族を助けて頂いた挙句、知らなかったとは言え案内までさせて…」

 

「気にしないでくれ。俺は少し離れる」

 

「マーカス、ありがとうな」

 

「いつでもっ」

 

二人にした方が良いと思い、マグロだけ食べてずいずいずっころばしを出た

 

「良い息子さんです…」

 

「俺に似てか⁇」

 

「そうですっ」

 

「よ〜し良い子だ‼︎食え食え‼︎」

 

 

 

本日再三目の保育部のドアの前に立つ

 

「レイ⁇大丈夫⁇」

 

保育部の入り口には横須賀が立っていた

 

「大丈夫さ」

 

中を見ると既に吹雪しかおらず、三人が周りにいる

 

「一緒にいてあげる」

 

「すまん…」

 

横須賀と共に保育部に入る…

 

「おっ。時間ダズル」

 

「さっ、お家帰リュー」

 

「いっぱい遊んだニムね‼︎」

 

俺と横須賀を見て、三人はすぐに勘付く

 

リシュリューが吹雪を抱き上げ、三人が此方に来た

 

「案内頼むダズル」

 

俺も横須賀も言葉を返さず、笑顔で頷く

 

皆でずいずいずっころばしの方に向かう道中、吹雪は何度も三人の顔を見る

 

その度に三人は吹雪に笑顔を送り、頬や頭を撫でる

 

その度に吹雪は嬉しそうにしている

 

ずいずいずっころばしの前まで来て、リシュリューが足を止める

 

「…やっぱり嫌だわ」


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