艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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293話 セイイエス、セイグッバイ(2)

「何ダズル。榛名はとっても忙しいダズル」

 

「アルバイトリュ⁇」

 

「…」

 

三人が間宮の個室に来てくれた

 

説明するのが重い…

 

重い前に威圧感で死にそうだ…

 

だが、ニムだけは何となく分かっている気もする

 

「まぁ、何か頼めよ。ここは出すから」

 

「そう来なくちゃ来ねぇダズル‼︎」

 

榛名はメニューを手に取り、リシュリューと一緒に見る

 

「ニムはどうする⁇」

 

「ニムはココアにするニム」

 

ニムはずっと俺を見つめている

 

「おい間宮‼︎」

 

階段の上から間宮に向かって叫ぶ榛名

 

榛名は間宮にだけは当たりが強い

 

未だに“脱脂粉乳事件”を根に持っている

 

「は、は〜い‼︎」

 

「5‼︎4‼︎3‼︎」

 

榛名にカウントダウンされ、急いで階段を駆け上がって来た間宮

 

「このイチゴちゃんのパフェを2つダズル」

 

「ニムはココアニム」

 

「畏まりました〜‼︎」

 

冷や汗を垂らした間宮が下に戻り、席に戻って来た

 

「んで、話ってなんダズル」

 

「…言い難い話なんだが」

 

「勿体ぶってねぇで吐いて楽んなるダズル」

 

「怒んないリュ‼︎」

 

「吹雪とお別れニム」

 

俺が足踏みをしていると、ニムが言ってくれた

 

「よく分かったな…」

 

「時期的にそろそろと思ってたニム」

 

「吹雪とバイバイダズルか」

 

「寂しくなリュ…」

 

「すまん…」

 

俺が頭を下げると、親潮も同じ様にしてくれた

 

「何でマーカスが謝るダズル⁇」

 

「辛い役割なのは、リシュリュー達も分かってリュ‼︎」

 

「…」

 

ニムだけは何も言わずに、俺を見ている

 

「吹雪は居住区で暮らす事になるか、今しばらく横須賀で面倒を見る事になる。横須賀なら、悪い様にはしないさ」

 

当日に言ったのは横須賀の計らいで、最後の最後まで吹雪がいる日常にしてあげようと決まった結果だった

 

「これでウンコの世話せずに済むダズルな‼︎」

 

「いつかお別れは来リュって分かってたリュ」

 

「…」

 

気丈に振る舞う榛名だが、目には涙を溜めている

 

破壊神と呼ばれた榛名でさえ、やはり別れは辛いみたいだ

 

リシュリューは何処となく受け入れてはいるが、寂しくなる事を隠しきれていない

 

ニムはまだ俺を見ている…

 

「イチゴパフェとココアお待たせしました〜‼︎」

 

「置け」

 

榛名に言われ、イチゴパフェを置く間宮

 

最後にココアが置かれ、また下に降りて行った

 

「まっ、気を取り直して行くダズル‼︎頂くダズル‼︎」

 

「頂くリュ‼︎」

 

「…」

 

ニムの様子がおかしい

 

ずっと俺を見ている

 

「ニム、冷めちゃうぞ⁇」

 

「うん…」

 

ココアを口にするも、ニムは俺を見ている

 

ニムが瞬きをしたのを見た時、タブレットに通信が入った

 

「話はこれだけだ。通信が入った」

 

席を立ち、一度外に出た

 

「アンノウン…」

 

メッセージボックスに“Unknown”と表示されたメッセージがあり、それを開ける…

 

 

 

Unknown> こんなに悲しい思いをする為に産まれて来たんじゃない

 

 

 

謎のメッセージだが、送信している“人”が苛まれているのが良く分かる

 

 

 

Unknown> どうしてこんな機能が私に備わっているか知りたい

 

Unknown> こんなに悲しいのなら産まれて来なければ良かった

 

 

 

何も返す事が出来ない

 

俺にとって一番ダメージがあり、とても辛いメッセージだ…

 

 

 

Unknown> でもいいわ。命の大切さを知れた

 

Unknown> これが“守る”と言う事なのね

 

リヒター> そうだ。ありがとう

 

Unknown> また後でお話しましょう

 

 

 

メッセージのやり取りを終え、二階に戻る…

 

 

 

「ココア美味しいニム‼︎」

 

「榛名に味見させるんダズル‼︎」

 

「ヤダニム‼︎ダズルが味見したら全部なくなるニム‼︎」

 

「全部じゃないダズル‼︎ほんの九割ダズル‼︎」

 

「ほぼ全部ニム‼︎」

 

二階に戻ると、ニムはいつものニムに戻っていた

 

「あ、マーカスさん‼︎お帰りなさいニム‼︎」

 

「ただいまっ」

 

「親潮に聞いたダズル‼︎吹雪に会いたくなったら、保育部に行きゃいいダズル‼︎」

 

「そうだなっ」

 

「なら早速行って来るダズル‼︎」

 

「リシュリューも行くリュ‼︎」

 

「親潮、二人を頼む」

 

「畏まりました‼︎待って下さい‼︎」

 

何かを察したのか、榛名とリシュリュー、そして親潮が保育部へと向かう

 

残ったのは、俺とニムだけ…

 

「ココアありがとニム‼︎」

 

「もっと食うか⁇」

 

「ニムもイチゴパフェ食べていいニム⁇」

 

「いいぞ‼︎」

 

互いにいつもの様に振る舞う

 

しばらくするとイチゴパフェが到着し、ニムは食べたかったのか、すぐにパクつく

 

「マーカスさんはお別れした事あるニム⁇」

 

「沢山して来た。二度と会えないお別れもした」

 

「その時悲しかったニム⁇」

 

「悲しかった。人の胸の中で何度も泣いた」

 

「マーカスさんも泣くニム⁉︎」

 

「俺は弱いぞ⁇強がってるだけさ」

 

「そんな事言ってニム」

 

そう言うとニムは俺の横にパフェを移動し、ニム本人も横に座って来た

 

「辛いか⁇」

 

「辛いニム。吹雪は甘えん坊さんだから余計ニム」

 

「偉いな、ニムは」

 

ニムの頭を撫でると、パフェを食べる手を止め、俺の方を見る

 

「…逃げ出してごめんなさい」

 

急にニム独特の語尾が無くなり、俺の顔を見なくなった

 

「気にするな。生命は必ず道を見つけ出す。そう信じてた」

 

「ヒュプノスの言った通り…」

 

ニムは俺の体に頭を置く

 

「あったかい…これを守るのが役目なのね…」

 

「すまん…根幹に組み込んだんだ…」

 

「いいの、気にしないで。気に入ってるの。ただ、お別れはしばらくは慣れないかも」

 

「それでいい。それでいいんだ…」

 

数分間そうして、またニムが口を開く

 

「罪悪感があったの」

 

「何にだ⁇」

 

「ヒュプノスの傍にいれなくて。それで、時々横須賀のプールの先生のアルバイトを引き受けてたの」

 

「そっか…ありがとうな⁇」

 

「これからも続けるわ⁇生命は必ず道を探し出すのなら、これが道よ⁇」

 

「何かあったらいつでも言って欲しい。些細な事でも」

 

「じゃあ榛名のハンマーを止めて欲しいわ⁇」

 

「そいつは無理な相談だっ…」

 

俺とニムは初めて笑い合う

 

「一つ聞いていいか⁇」

 

「えぇ」

 

「何処でボディを手に入れた⁇」

 

「横須賀だと足が付くと思って、当時の自衛隊にアクセスしたの。そしたら、出来上がったボディは深海だったの」

 

「それで榛名に捕まったのか⁇」

 

「そっ。トローリングのイカが美味しそうに見えて釣られちゃった‼︎」

 

「それから榛名と一緒にいたのか⁇」

 

「榛名はあぁ見えて人一倍優しいの。いつも私に気を掛けてくれる…なのに、人一倍涙を隠すの。その時“クレードル機能”が動いたの」

 

頷く事しか出来なかった…

 

ずっと探していた…いや、探す手筈がなかった自分の娘が、長い旅の途中で今目の前に帰って来ていた

 

ニムの“クレードル機能”とは、本来イクの精神を安定させる為に産み出した機能

 

万が一イクに何かがあればニムが補助をする為なのだが、AIを幼くし過ぎた為、イタズラに逃げ出してしまった

 

「ニムも吹雪の所行って来るニム‼︎」

 

いつの間にか食べ終えたパフェとココアを置き、ニムは立ち上がる

 

「“フレイヤ”」

 

俺がそう言うと、ニムは此方を見た

 

ニムはいつもの明るく小ボケなニムではない、母親の様な笑顔を見せる

 

「お別れじゃないわ。また始まるの」

 

軽く頷くと、ニムは階段を降りて行った…


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