艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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292話 石頭の教育者(3)

「実はパースが…」

 

「スパイト様‼︎此方に居ましたか‼︎」

 

このシェフィールド、何処でも現われる

 

「あら、シェフィールド。今日はどうされたの」

 

母さんの顔から笑顔が消え、物凄く真面目な顔になる

 

「パースのお目付役で此方に参りました‼︎」

 

「そう。それで⁇」

 

「はっ…」

 

母さんは物凄く冷たい目をしている

 

「マーカス⁇すぐに終わるからね⁇」

 

気迫に負け、無言で頷く

 

「私は頼んでないわ。今すぐ止めなさい」

 

「ですが…」

 

「ですがもヘッタクレもありません。もしパースに手出しをしたら…」

 

母さんは真顔のまま、いつもの箱からT-爆弾を取り出した

 

「すすすすぐに女王陛下に報告をし、ててて撤回を‼︎」

 

「今すぐ‼︎ここで‼︎」

 

「は、はいっ‼︎直ちに‼︎」

 

シェフィールドはタブレットを取り出し、何処かへ連絡を繋げる…

 

 

 

数分後…

 

「あはははは…行き場所が無くなりました…」

 

シェフィールドはパースのお目付役を外された

 

しかも行き場所が無くなり、顔が一気に暗くなる

 

「石頭だからこうなるの。分かった⁇」

 

「シェフィールドはどうすれば…」

 

「パースを見習いなさい。あの子は自分でやって来たわ」

 

「ゔごごっ…」

 

シェフィールドは過度のストレスでその場に倒れた

 

「放っておきなさい。起きてもまた石頭よ」

 

「シェフィールドと何かあったのか⁇」

 

「パースは頑張った結果、あぁなってるの。シェフィールドは考えが固いの。人の意見は聞かないし…教育がいるのはどっちかしらね」

 

「まっ、助けてやろう」

 

「マーカスが言うなら手伝うわ‼︎」

 

母さんの顔がニコニコ顔に戻る

 

あんなに怖い母さん、初めて見た…

 

俺はシェフィールドを担ぎ、医務室に向かう…

 

 

 

 

「はっ…ここは…」

 

数十分後、シェフィールドは目を覚ました

 

「横須賀の医務室だ」

 

「マーカス様…スパイト様は⁇」

 

「昼食の時間だ」

 

シェフィールドの前に一枚の書類を出す

 

「これは…」

 

「悪いが、君の事を調べさせて貰った」

 

シェフィールドが気絶している間に、彼女の事を調べた

 

女王陛下直属部隊である事

 

教育係である事

 

母さんの所にいた事

 

全部嘘偽りなく本当だった

 

「ここの提督がな、石頭を治すならほぼ同じ条件で君を雇いたいらしい」

 

「宜しいのですか⁉︎」

 

「考えを治すなら、な⁇」

 

「分かりました‼︎このシェフィールド、必ずや考えを改めます‼︎」

 

「パースのピザ屋に母さんがいる。一緒に食べたいらしいぞ⁇」

 

「はっ‼︎すぐに参ります‼︎」

 

シェフィールドは医務室を出て行く

 

当の俺は笑いを堪えるのに必死

 

「アーク、もういいぞ‼︎」

 

「あっはっはっはっは‼︎」

 

カーテンの向こうで隠れていたアークが爆笑しながら出て来た

 

「まさかっ…姫の方が本命の命令だったとはなっ‼︎ははははは‼︎」

 

「母さんも役者だよ、全く…」

 

それは数十分前に遡る…

 

医務室に行く道で、シェフィールドを担いだ俺の服の裾を、母さんがクイクイ引っ張る

 

「マーカス…私、そんなにシェフィールドが嫌いじゃないの」

 

「頭が固いだけか⁇」

 

そう返すと、母さんは箱を開け、中から丸めて筒状にした書類を取り出した

 

そして、片手で車椅子を動かしながら内容を読み始めた

 

「任務‼︎ウォースパイト様‼︎シェフィールドを其方に派遣致します‼︎性格矯正及び思考の柔軟性を高める事を貴女にお願いしたく存じ上げます‼︎この任務は女王陛下直々の“嘆願”であり、拒否する事も可能です‼︎大変勝手ですが、ご了承頂けたら幸いです‼︎尚この任務を遂行して頂ける場合は、シェフィールド本人には秘匿でお願いして頂けるっ幸いです‼︎ですって‼︎」

 

「母さんが本命か⁉︎」

 

「そう‼︎ほら見て‼︎女王陛下のサインがあるの‼︎」

 

母さんが俺に掲げて見せてくれたのは、女王陛下直筆のサイン付きの書類

 

「ははははは‼︎そうかそうか‼︎」

 

「シェフィも良い子よ⁇ただ、ここに書いてあるのもホントなの」

 

「分かったっ‼︎目が覚めたら言う‼︎」

 

「アークをここに呼ぶわ‼︎そうだわ‼︎目が覚めたら、パースのピザ屋に来てって言って欲しいわ‼︎」

 

「オーケー‼︎」

 

 

 

そして今に至る

 

「よしっ、母さんの所に行こう‼︎」

 

「今頃シェフィールドはオッタマゲッタだぞ‼︎」

 

アークと一緒にパースピザに来た

 

「シェフィ⁇まずは甘える事を覚えましょうか‼︎」

 

「はいっ‼︎スパイト様‼︎」

 

「丁度良い所にぼっちゃんが来たパース‼︎」

 

三人の仲は良く見える

 

パッと見ただけでもシェフィールドには、あぁしていて欲しい

 

「まずはマーカスに甘えてご覧なさい⁇きっと答えてくれるわ⁇」

 

「では…」

 

「よしっ、来いっ…」

 

シェフィールドはコホン…と咳払いしながら、此方に向きを変えた

 

パースとアークが生唾を飲む…

 

母さんだけはにこやかに紅茶を飲みながら、俺達を見ている

 

数秒の沈黙の後、シェフィールドは口を開く

 

「兄様っ‼︎抱っこ‼︎」

 

「ブッ‼︎」

 

「よ、よっしゃ‼︎」

 

突拍子も無く投げ付けられた言葉に、アークは目が点に、パースは持っていたお盆を落とし、母さんは紅茶を噴き出した

 

そんな三人を知ってか知らずか、シェフィールドは手を広げている

 

「ハァァァアン⁉︎ふざけるんじゃない‼︎ハルナを呼べハルナを‼︎この石頭め‼︎脳髄ごと粉砕してやるぁ‼︎」

 

アークはブチギレて巻き舌気味になっている

 

「パースはぼっちゃんを抱っこするパース‼︎」

 

俺はシェフィールドをハグし、俺の背中にはパースがくっ付く

 

「アーク、いいわ」

 

「姫‼︎アークにも姫にも入る隙がありません‼︎」

 

「いいの。タカコにテンプラにして貰うわ⁇ふふっ‼︎」

 

「あっ…死んだわコイツ…」

 

母さんが微笑みながら紅茶を飲む横で、アークは戦慄する

 

母さんは静かにキレていた

 

しかも、先程の様な役のキレではなく、本当のブチギレ

 

シェフィールドが本当にテンプラになる日も、そう遠くない気がする…

 

 

 

軽巡洋艦“シェフィールド”が仲間になりました‼︎




シェフィールド…パースのお目付役ちゃん

イギリスから遠路遥々カヌーで横須賀に来航した、パースのお目付役

かなり頭が固いが、愛国心も強い

パースのお目付役と言うのは、スパイトに石頭を矯正して貰う為の虚偽の指令であり、スパイトが受諾した指令が本物

最近パースのお店でジュースを作る仕事をしては小銭を稼いでいる

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