艦隊これくしょん~“楽園”と呼ばれた基地~   作:苺乙女

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一昔前の横須賀に保護された涼平

この先、何が待ち受けるのか

この先、何が始まるのか

彼の新しい人生が始まります


特別編6話 街を眺めるあの日の二人

涼平の身柄は横須賀に保護された

 

「貴重なサンプルだ‼︎必ず君を救うからね‼︎」

 

黒髪でメガネを掛けた女性にカプセルに放り込まれる

 

「深海化の影響が深刻だ…抑え込めるといいけど…」

 

その女性は口元に手を当て、ジッと考える

 

「こんな時にレイ君がいたら一発なんだけど…」

 

《レ…イ…》

 

一命を取り留めた涼平が、カプセルの中で目を覚ます

 

「あぁ‼︎おはよう‼︎だけど、今はゆっくりお休み⁇」

 

《レ…イ…》

 

「レイ君はこの“大淀”の助手さ‼︎とっても良い子なんだけど…ちょっと出払っててさ‼︎あはは…」

 

《…》

 

涼平はすぐにまた目を閉じた

 

「…君の身に何があったんだい」

 

貴重なサンプルとは言ったものの、大淀博士は涼平を丁重に扱う

 

その姿は一人の研究者ではなく、涼平がいつか未来で出会う事になる一人の医者の姿に似ていた

 

大淀博士は何日も涼平の治療に向かい合う

 

試行錯誤を繰り返し、ようやく涼平の深海化が落ち着きを見せた

 

「よしっ…これでゆっくりとだけど、君の深海側の血を抑えられる」

 

涼平は眠ったまま目を覚まさない

 

「大淀博士」

 

「なんだい⁇」

 

一人の研究員が大淀博士の所に来た

 

「自衛隊が“セイレーン・システム”を開発しました」

 

当時、セイレーン・システムは唯一深海に対抗出来る手段と考えられていた

 

深海は今まで経験した事のない強力な攻撃、そして強固な装甲を誇る

 

セイレーン・システム自体に攻撃力は無い

 

が、深海の明確な弱点を探し出すのに非常に有効な手段と考えられた

 

問題は、艦艇に搭載したカプセルに入る人命が必要な事だ

 

それも、適合した者しかカプセルに入れない

 

「そっか…名前はなんだい」

 

「“セイレーン”そして…“シレーヌ”です」

 

研究員から写真を見せられる

 

まだまだ小さい女の子が二人

 

まるで赤ん坊の様だ

 

「横須賀はこれを許可したのかい⁇」

 

「きくづきが自衛隊所属艦艇でありまして、それに搭載予定との事です」

 

「行くも地獄…か…」

 

大淀博士は深い溜息を吐く

 

「しかしまぁ…これだけのスピードで自衛隊も造れたものだね⁇」

 

「それが…先の件で鹵獲した深海二名から採取した卵子を使い…」

 

《ウ…グァ…》

 

涼平が目覚めかける

 

恐らく今の事を聞かれたのだろう

 

「あちゃちゃちゃ‼︎この話は終わりっ‼︎大淀さん、用事が出来ちゃった‼︎」

 

「失礼します」

 

研究員が部屋から出て、大淀博士は涼平のいるカプセルに近寄る

 

「大丈夫…君は助けるよ…」

 

 

 

一ヶ月後、皆の脳裏に焼き付く反攻作戦が開始される

 

その前日…

 

「君はここにいるんだ」

 

《博士…》

 

「ん⁇なんだい⁇」

 

涼平のカプセルは横須賀の地下にある部屋に移送された

 

涼平はカプセルの中にいなければ、未だ体が深海の血に負けてしまう

 

それを抑えられる様になるにはもう少し時間が掛かるが、会話位なら出来る様になっていた

 

《自分は…》

 

「君には戦う力、護る力、奪われない力…それを与えた。それをどう使うかは自由だ」

 

《なら、自分も行きます》

 

大淀博士は薄っすらと反攻作戦の事を涼平に話していたので、本人も理解している

 

涼平の思いに、大淀博士は首を横に振る

 

「…君は今、きっと葛藤しているだろ⁇君が戦うべき相手は深海⁇それとも人間⁇」

 

《それは…》

 

「君の強さは、その優しさにある。葛藤する男の子は、みんな優しくて強いんだ‼︎大淀さんは知ってるよ‼︎」

 

《自分は何をすれば…》

 

その言葉に、大淀博士の目が優しく、悲しい目に変わる

 

「…いつか、レイ君が君を救いに来る。レイ君じゃないかも知れない。だけど、何となく大淀さんは分かるんだ…その先にレイ君がいるって」

 

《恋人、ですか⁇》

 

「本人はもっと胸がある子が好みなんだ。酷い話だ、難しいね」

 

大淀博士は少しふっくらとした胸元に手を当て、涼平の方を向く

 

「もし、だ。君がレイ君と出逢ったなら…その時は、レイ君に着いて行くといい。あの子は答えを知ってる。君の手を引いてくれる」

 

《レイ…》

 

「絶対分かるよ…それじゃあ…またね⁇」

 

《…》

 

涼平は目を閉じ、次に目が覚めるときを待つ…

 

「…君は良い子だ…いつかもう一度、大淀さんが手を貸してあげよう…」

 

 

 

 

「あった。これだわ‼︎」

 

数年後、涼平はカプセルから出る事が出来た

 

反攻作戦で埋まってしまった地下施設が発見され、そこでカプセルに入っていた為に生命維持が出来ていた涼平が保護される

 

「おはよう」

 

一人の女性の声で目覚める

 

「目覚めの気分はどう⁇」

 

「ここは…」

 

白い軍服を着た、小柄な割に主張が強い胸を持つ女性がそこに居た

 

「ここは横須賀よ⁇貴方、名前は⁇」

 

「綾辻、涼平です…」

 

「そっ。他は何も聞かないであげるわ。行く宛がないならウチで働きなさい」

 

「あ、はい…」

 

「歩けそうなら、ちょっと案内するわ⁇」

 

涼平は何年か振りに外に出た

 

久々に浴びた太陽

 

懐かしい海風

 

騒がしい人々

 

久々に感じたはずなのに、涼平はあまり感動しなかった

 

何かが引っ掛かっている様な…

 

何かを忘れている様な…

 

そんな複雑な気持ちを涼平は抱いていた

 

「あっ…」

 

「おっ⁉︎お目覚めか⁇」

 

革ジャンを着た若い男性が来た

 

会った事も、見た事も無いはずなのに、涼平は彼が誰かすぐに分かった

 

「彼が貴方を助けてくれたのよ⁇」

 

「レイさん、ですか⁇」

 

「俺の名前も有名になったもんだ‼︎」

 

この人が後に涼平の手を引いてくれる男

 

大淀博士の言っていた、レイさんだ

 

「レイはこんな性格だけど、良いパイロットなのよ⁇」

 

「こんな性格とはなんだ‼︎お前だってサボリ魔だろうが‼︎」

 

「サボリ魔とは何よ‼︎あれは神聖なる休憩よ‼︎」

 

「いいか涼平。執務室で職務中にリクライニングを倒してロールケーキ食ってるのを神聖なる休憩とは言わん‼︎」

 

「いいえ‼︎神聖なる休憩よ‼︎」

 

「ほ〜⁇なら今から行こうと思っていた間宮は何になるのかなぁ〜⁇」

 

「それは上官命令よ」

 

「ぐっ…」

 

「さっ、涼平⁇食べれそうな物食べましょうか‼︎」

 

「は、はい…」

 

後に涼平は語る

 

この二人の間にいると、まるで二人の子供になった様な気分になる…と

 

 

 

現在に戻り、涼平とシュリ

 

「あ‼︎いたいた‼︎」

 

「大淀博士‼︎」

 

二人の背後から、ビニール袋を持った大淀博士が来た

 

「お腹空いちゃってさ‼︎食べようよ‼︎レイ君も呼んだんだ‼︎」

 

「今、大淀博士の事を話してたんです」

 

「大淀さんは美人で気立ても良いって⁉︎」

 

「ンフフ‼︎ホボイッショ‼︎」

 

「そうかい‼︎幾ら出そうか‼︎」

 

大淀博士はポケットから財布を取り出すフリをする

 

「あーらよっとぉ‼︎」

 

「イテッ‼︎」

 

大淀博士の頭にホットコーヒーが置かれる

 

「あっ‼︎レイ君‼︎ありがとう‼︎」

 

「涼平はサイダー‼︎」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

「シュリさんはピーチティー‼︎」

 

「アリガトウ、オイシャサン‼︎」

 

マットを敷き、四人で昼食を頬張る

 

涼平とシュリ

 

マーカスと大淀博士

 

これも、大淀博士の言う、もう一つの“家族のカケラ”…

 

「ここの再建も近いな⁇」

 

「ミンナデスムノ。ヨーショクジョーツクッテ、アマサンモスル‼︎」

 

「自分は色んな方を手助けしたいと思います‼︎」

 

「んっ‼︎良い夢だっ‼︎」

 

大淀博士は何も言わず、珍しくマーカスではなく涼平を見て優しい顔をする

 

涼平はずっとずっと先で、シュリさんを見付け出してくれたのは、大淀博士だと知る…




乗艦式…神聖な儀式

艦娘や深海が男性と互いに信頼関係に置かれた時に可能になる儀式

特に空母艦娘に多く、たいほうとマーカス、リチャードと瑞鶴が可能

手を頭にかざされた男性は、矢になる若しくは妖精になり、艦娘や深海に収納される

その際、原理は不明だが男性側の体の傷が癒える

シュリさんはこの原理を使い、涼平を救おうとしていた





涼平の住んでいた島⁇

何処かな⁇

題名にヒントがあるかもね

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