魔法少女リリカルなのはvivid-Blizzard Princess of Absolute Zero-   作:炎狼

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Kristall;20

 予選一回戦を明日に控えた午後、クロエはシグナムとの鍛錬を早めに切り上げた。理由は明日の試合のためだ。根を詰め過ぎて明日に響いたら台無しだ。

 

 本来ならば明日の試合に対してのやる気に満ち溢れそうなものであるが、高町邸に到着したクロエからは小さな溜息が洩れた。

 

「はぁ……。やっぱり師匠来れないかぁ。けどお仕事だし、仕方ないよねぇ」

 

「仕方ないって?」

 

「うわっ!? って、フェイトさん……驚かさないでください」

 

「ごめんごめん、驚かす気はなかったんだよ。ただ、『ただいま』も言わずに帰って来たから何かあったのかなーって思って」

 

 苦笑するフェイトに対し、クロエは小首をかしげる。

 

 どうやら自分でも完全に無意識のうち、完全な上の空の状態で帰ってきてしまったらしい。いつもならば『ただいま』と言うところを言わなかったことがそれを物語っている。

 

「それで、なにが仕方ないの?」

 

「えっと、なんと言いますか……」

 

 クロエは一瞬迷ったがあえて言ってみることにした。

 

 

 話をしながらリビングに移動したクロエとフェイトはソファに座った。二人の前には氷が入ったドリンクがある。なのはが作り置きしているものだ。

 

 そのなのははと言うと、今は食料品や日用品の買い物に行っているらしい。

 

 が、今はそれは置いておく。クロエがフェイトに話したのは聖のことだった。オフトレツアーが終わってすぐ、聖は時空管理局本局が指揮する任務に一時出張という形で行ってしまった。

 

 トレーニング自体はシグナムとリインが見てくれるということもあり、なんら問題はないのだが、既に任務が終了するはずの二ヶ月が過ぎてしまっている。定期的に連絡は取っているので、怪我をしたわけではなさそうなのだが、如何せん心配なのだ。

 

 それに、自分が成長した姿を直に見せられないというのは、歯がゆいものもある。等のことをフェイトに話すと、彼女は微笑を浮かべながら相槌をうっていた。

 

「フェイトさん、私って気にしすぎですかね?」

 

「んー、まぁそうだねぇ。別に気にしすぎでトレーニングに身が入らないってわけでもなさそうだし、しすぎってことはないと思うよ。ただ、もう少し肩の力を抜いて良いかもね。クロエにとって聖は師匠で頼れる存在、ヴィヴィオとノーヴェみたいな関係だね。だからクロエの気持ちも分かるよ。頼りにしてる先生をずっと見ないっていうのは不安だもん」

 

「はい。決してシグナムさんとリインさんとのトレーニングに不満があるわけではないです。けど、やっぱり師匠がいないとモヤモヤするというか……」

 

「ふふ、クロエはずっと聖に鍛えられてきたからね。試合にも来てもらえないのは寂しさもあるのかな?」

 

 フェイトが問うてきたので、クロエは少しだけ恥ずかしがりながらも頷いた。

 

 不安は勿論ある。けれど、それと同時にずっと傍でアドバイスをしてくれた聖がいないのが少しだけ寂しいのだ。

 

「で、でも師匠だってわるいですよねー!」

 

 恥ずかし紛れにクロエは少しだけ声を大きくした。頬はやや赤い。

 

「二ヶ月で帰ってこれるかもって言ってたのに結構過ぎてますし! 連絡とっても、『おう、頑張れよ』とか、『気ィ抜くなよ』的なことしか言ってくれませんし!!」

 

「アハハ、けどクロエのいうことは一理あるかも。教え子を不安にさせちゃ先生失格だよねぇ」

 

「ですよねー!!」

 

 クロエは聖に対する鬱憤を晴らすかのようにフェイトに色々と暴露していくのであった。

 

 

 

 

 

『……って感じでクロエは、師匠が帰ってこないんですーって言ってたよ』

 

「おっふ……」

 

 聖は駐屯地に設けられた自室でフェイトと連絡を取っていた。ちなみに、今聖がいる世界はミッドチルダと昼夜が逆転しており、こちらは朝で、ミッドは夜中だ。

 

 起きた直後にフェイトから連絡を貰い、話を聞いてみるとクロエが自分に対して鬱憤を溜めているとのことだった。

 

 だが、それも当然といえば当然だ。大事な時期に指導者が不在と言うのは、思うところがある。シグナムやリインがいたとしても、やはり本来の師にいてもらいたいものなのだろうか。

 

「……さすがにそうなるわなぁ」

 

 フェイトに聞こえないように口元を隠し、聖が呟く。彼もできるだけ早く帰りたいのは山々なのだ。なのだが……。

 

『それでそっちはまだかかりそうなの?』

 

「実を言うと、本来なら任務自体は昨日で終わりのはずだったんだ」

 

『じゃあどうして帰って来れないの? なにか急な任務が入ったとか?』

 

「まぁ、平たく言えばそんなもんなんだが……。今回の任務は次元世界を転々してる大型犯罪組織の一括検挙ってことは知ってるよな。んで、昨日それは決行されたわけなんだが、組織の一人、俺たちの包囲からまんまと逃げやがったんだよ」

 

『かなり重要人物?』

 

「だな。組織の幹部クラスで、時期ボス候補の一人だ。ここでヤツを逃すといつまた犯罪組織を結成して悪事を働くかわからねぇってんで、提督はヤツを引き続き追うことに決めたんだ。で、俺はそれにくっ付いていくことになったわけだ」

 

 管理局の部隊を使って突入したというのに、取り逃がしたのはかなり恥ずかしいことではあるが、この際はずかしいだなんだとは言っていられない。

 

『んー、なるほど。そういうことなら仕方ないかもね。うん、クロエには私から言っておくよ』

 

「わりぃな。なるべく早めに帰るようにはする。お前も風邪とかひかねぇように気をつけろよ」

 

『わかってる。それじゃあね、聖。任務頑張って』

 

「おう。おやすみ」

 

 フェイトとの通信を切って自室の天井を見上げる。自然と溜息が出た。師匠として、弟子を不安にさせるようなことだけはすまいと思っていたが、こんな形で破ってしまうことになるとは。

 

「なぁにが師匠だ。ったく……」

 

 できることなら今日にでも帰ってクロエの現状を実際に見て確認したい気分ではあるが、ここで任務を放り出して帰ったら、逆に彼女に失望されてしまいそうだ。

 

 ……将来、後輩になるかもしれない奴にかっこ悪い姿は見せらねぇわな。

 

「よっし! じゃあ、今日もお仕事頑張りますかね」

 

 ナイーブになりかけていた自分に喝を入れるように軽く両頬を叩き、聖は椅子から立ち上がった。

 

 その時、ちょうど部屋の扉にコール音が響き、ブリーフィングの時間が知らされた。

 

 そのまま彼はブリーフィングのため部屋を出ようとしたが、途中でその足を止めると、小さな笑みを浮かべてシュトラルスにとある命令を下した。

 

 

 

 

 

 ミッドチルダの朝、クロエは目覚ましのアラームで目を覚ました。寝ぼけ眼を擦りつつ、朝のストレッチを行う。

 

 いよいよ今日はインターミドルの予選開始だ。クロエの試合は予選3組、4組の一つ前に行われる試合だ。相手は双銃を扱うという、中遠距離型の選手。舐めてかかれば痛い目を見ることは間違いない。

 

「緊張は……してないかな」

 

 ストレッチの合間、彼女は自分の胸に手を置いてみた。鼓動は非常に穏やかで緊張している感じは一切ない。

 

 ふと彼女は一年前の自分を思い出した。あの時は初めての公式試合だったこともあり、試合前日から心臓がバクバクしていたのを覚えている。

 

 それが今では実に落ち着き払っている。これも、この一年間の鍛錬の成果だと思うと感慨深いものがある。

 

〈なにやら物思いにふけっているところ失礼します。クロエ様〉

 

「うぉう!? お、おはよう、フリーレン」

 

〈はい。おはようございます。それはそうと、貴女様宛てにビデオメッセージが届いております。再生いたしますか?〉

 

「ビデオメッセ? うん、再生して」

 

 フリーレンに命じると、クロエの前にモニターが投影され、ロード画面が開かれる。やがてロードが終了すると、パッとモニタの中にとある人物が映し出された。

 

「師匠?」

 

〈はい。映像は聖様からのものです〉

 

 そうフリーレンが答えた直後、モニタの中の聖が軽く咳払いをした。

 

『送ろうとは思ったが、なんて始めりゃいいんだこれ……。まぁいいや。よう、クロエ、元気にしてるか? つっても、連絡自体は取ってるから体調とかは大丈夫だろうが』

 

 普段の彼とは違い、妙にぎこちない様子だ。恐らくビデオメッセージ自体になれていないのだろう。

 

『これを見るのは、多分予選の前だとは思う。後だったら、それはそれでいい。とりあえず、予選に関して俺が言えることはそんなにない。ただ全力でぶつかって、自分の力を見せ付けて来い。自分が鍛えあげ、高めていった己の拳を信じろ。そうすれば、絶対に勝てる。変に気負う必要はないからな。

 あー、まぁちょっと語ってはみたが、結局何が言いたいかっつーと。がんばってこいよって話だ。あと、帰ってやれなくてわるい。もう少ししたら帰れるから、積もる話はその時な。そんじゃ、予選頑張ってこいよ!』

 

 最後は少しだけ気恥ずかしげに謝った聖からのビデオメッセージはそこで終わっていた。

 

 その様子にクロエは小さくふきだし、微笑を浮かべた。

 

「なんか師匠ってこういうところが妙に面白いよね。普段はキリッとしてたり、男らしいのに、こういう応援に徹する時はホントに恥ずかしそう」

 

〈男性とはそういうものなのでしょう。ヨハン様も貴方のことを応援していることをお父様にしゃべらないようにと言っていたようですし〉

 

「そうなの? まったく、生意気な弟なんだから……。でも、師匠からのエール、しっかり受け取ったよ。今日の試合は強気で、絶対に負けないように戦うよ」

 

 クロエは立ち上がり、拳を握った。僅かに漏れ出した冷気が彼女の感情の昂ぶりを現しているようであった。

 

 

 

 

 午前十時十五分。

 

 インターミドル地区予選、第一会場のエリートクラス控え室Aサイドにクロエの姿はあった。まだバリアジャケットは纏っておらず、ジャージ姿だ。

 

 彼女の周りでは他の選手達がコーチ達に指導を受けている。統制されているモニターからは、先に行われている試合の様子が流れている。

 

 同時に、会場の観客席から沸き起こる歓声も聞こえてきている。だが、今のクロエにそれらの音はまるで入ってはいないようだった。

 

 そんな彼女の前で、シグナムは小さく笑みを零す。

 

 ……いい集中だ。

 

 彼女の見立てどおり、今クロエは自分の集中力を極限まで高めている。雑念や雑音を全て排除し、ただ試合のことだけのみを考えているのだ。

 

 しばらくその状態が続いていたが、やがて集中状態は終了し、クロエは小さく息をついた。

 

「よし、いける」

 

「いい集中の仕方だったな。ピリピリとした感覚がこちらにも伝わってきていたぞ」

 

「あはは、ありがとうございます。この方法、師匠から教わったんです。試合前は集中を高めるほどいいぞって言われてたんで」

 

「そうか。確かに聖のやり方とどこか似ていたな。さて、試合まで十分だが、大丈夫か?」

 

 シグナムの問いに、クロエは小さく笑みを浮かべて返す。

 

「いいだろう。では、最後にもう一度だけ私から伝えておく。クロエ、試合と言っても単純なものだ。相手が中遠距離型だろうと、近距離型であろうと、やることは一つ。『届く距離まで行って斬れ』だ」

 

「了解です。師匠と、シグナムさんとリインさんから教わったこと全部出して、勝ってきます」

 

「その意気だ。……そういえば、集中に入る前笑っていたようだがどうかしたか?」

 

「あぁ、あれはヴィヴィオ達からビデオメッセが送られてきたんですよ。一回戦頑張ってくださいーっていう。ヴィヴィオ達はスーパーノービス戦があるので、私の試合には間に合わないみたいです」

 

「なるほど。では、なおさら負けられんな」

 

 少しだけ意地悪なことを言ったシグナムであるが、クロエは気にした様子もなくグッと拳を握って口元に笑みを見せた。

 

 その姿は、どこか聖と重なるものがあった。やはり、弟子なのだと思っていると、行われている試合が終了したようで、モニターから終了のアラームが聞こえてきた。

 

 同時に、控え室にクロエにリングへ向かうように促すアナウンスが入った。

 

 シグナムとクロエはそれぞれ控え室を出ると、リングへ続く廊下を歩く。

 

「いよいよだ。選考会の時とは違い、今回は会場全体がお前を見る。のまれるなよ」

 

「はい。……フリーレン、セットアップ」

 

 彼女は歩きながらバリアジャケットを纏う。蒼銀色の魔力光が残滓として暗い廊下の中をキラキラと舞った。

 

「あの魔法は使うか?」

 

「……いえ、アレはまだ使いません。出来れば、師匠に見せたいので」

 

「わかった。だが、出し惜しみなどはするなよ。全力で行って来い!」

 

 シグナムはクロエの背中を軽く叩き、リングに向かって送り出す。クロエもそれに答え、頷いた後に一歩を踏み出し、リングへと向かった。

 

 

 

 

 

「いよいよクロエの試合だね」

 

「うん。でも、あの子なら大丈夫。この日のためにもう特訓してきたんだから」

 

 観客席にはなのはとフェイトの姿があった。ヴィヴィオ達はまだ到着していないようだ。恐らく、今頃はスーパーノービス戦の真っ最中だろう。

 

「ヴィヴィオ達もそうだけど、怪我だけはないように終えてもらいたいね」

 

「アハハ、本当にフェイトちゃんは心配性だなぁ。大丈夫だって」

 

 などと心配性気味のフェイトになのはが少々呆れていると、会場内にアナウンスが響いた。

 

『皆様お待たせいたしました。予選3組エリートクラス一回戦、選手入場です』

 

 アナウンスと同時に、レッドコーナーとブルーコーナーから選手が姿を見せた。

 

『レッドコーナーからは双銃による圧倒的早撃ちで、選手ばかりか観客すらも虜にしてしまう! フルネス双銃戦技、アルミラ・エルティーナッ!』

 

 実況の紹介に、レッドコーナーから現れたアルミラは、歓声に対し手を振ってこたえる。かなり余裕がありそうだ。

 

「たしかフルネス双銃戦技って……」

 

「うん。ミッドに昔からある双銃を使った戦闘方法。本局にも何人か習ってたって人がいるみたい」

 

 なのはの疑問にフェイトが答えると、いよいよクロエの紹介が実況される。

 

『続いてブルーコーナー。こちらはミッドチルダのみならず、多数の次元世界でその名を轟かせる大企業の御令嬢! ストライクアーツ白雲流、クロエ・コキルトスッ!』

 

 実況の紹介に会場全体が歓声交じりながらもざわついた。コキルトスの名は、ミッドチルダ全域にくまなく轟いている。そこの令嬢が参加するとなればざわめくのも頷ける。

 

 だが、クロエを見るとそんな観客の様子にはまったく動じていないようで、鋭い気迫をピリピリとさせながら入場してきた。

 

「クロエ、落ち着いてるね」

 

「だね。それにあの雰囲気、聖くんそっくり」

 

 六課時代から幾度も見ている聖が闘いに行く前に纏っていた雰囲気と、今のクロエはどこか通じるものがあったのだ。

 

「さて、クロエはこの試合でどれだけ見せ付けられるかな。自分の強さを」

 

 

 

 

 

 リングに立ち、審判から説明を聞いた後、クロエは試合開始位置まで下がった。実況はそろそろ佳境に入っているようだ。

 

『予選一回戦は4分4(ラウンド)で、LIFEはそれぞれ12000となります。さぁ中遠距離戦を得意とするアルミラ選手と、近接格闘のストライクアーツを扱うクロエ選手。果たしてどちらの選手に軍配があがるのでしょうか!?』

 

 実況がそういい終えたところで、リングから降りた審判が相手選手とこちらの様子を見やってきた。そろそろゴングが鳴ると判断していいだろう。

 

 ……アルミラ選手との戦闘で気をつけるべきは、双銃による手数の数。判断を間違うと中距離を保たれたまま完封される可能性もある。かと言って、むやみに接近するとそれはそれで罠をかけられる可能性もあるし、まずは様子見かな。

 

 ゴングがなるまでの数秒の間で逡巡すると、クロエは腰を落として右拳が前に出るように構えを取った。アルミラも同様に双銃をホルスターから抜いて構えた。

 

 それと同時にゴングがリング、そして会場内に高らかに響き渡った。

 

「先手必勝ッ!」

 

 声と共にアルミラが双銃から魔力光を纏った弾丸を連射してきた。また、銃口以外からも、彼女の周りにはシューターが一気に展開し、そこからも連続的に弾丸が飛んできている。

 

 どうやらあの周囲のシューターは固定砲台のような役割も果たしているようだ。

 

 などとクロエが考えている、最初に打ち出された弾丸が飛来。けれども、彼女はそれに焦らず対処し、避けられるものは避け、弾けるものは弾いていった。

 

 ……さすがに双銃を使うだけはある。特徴を最大限に生かしてる。

 

 LIFEをみると、シューターを直接弾いたためか多少ダメージが入っている。とは言っても、ほんの100程度だが。

 

『開始と同時にアルミラ選手が強烈な猛攻! それに対しクロエ選手は防戦に徹してるようですが、このまま押し負けてしまうのか!?』

 

「勝手に決めないで欲しいんだけど……」

 

 シューターを叩き落しながらクロエは実況に突っ込みを入れる。一見すると、確かにクロエが押されているようには見える。だが、今の彼女には余裕がある。シューターの軌道を読み、当たるかあたらないかの線引きがしっかり出来ているのだ。

 

 さらに、彼女はアルミラの攻撃を見て、彼女の隙を発見していた。

 

「ふむ、なんとなくわかった。今度はこっちから行くッ!」

 

 クロエはギンッ! と瞳に強い光を灯すと、同時に襲ってきたシューターを氷の壁を召喚することで防いだ。

 

「いっ!? そんなんあり!?」

 

『おーっと、ここでクロエ選手の正面に氷の壁が出現しました! さぁ、ここからどのように繋げていくのか!』

 

 ……繋げるも何も――。

 

「――ここから先は全部私のターンだよッ!」

 

 クロエは氷の壁を自らの手で破砕する。すでに彼女の右腕には魔力が充填されており、一撃必殺の技の準備が出来ているようだった。

 

 破壊した氷の壁を乗り越え、クロエはアルミラへと迫る。

 

 当然、アルミラもそれに瞬時に反応し、先ほどと同じように弾丸の雨を降らせてくる。しかも今回は上空に打ち上げた弾丸が上から襲ってくるというおまけつきだ。

 

「近接格闘が得意なら接近するしかない! だからここを狙ってたんだよ、お嬢様!」

 

 僅かに悪い笑みを見せながらいうアルミラ。どうやら彼女もクロエが接近してくるのを待っていたらしい。

 

 確かに、接近しているうちはかなり無防備になる。だが、そんなことを読めないクロエではない。

 

「……残念だけど、師匠やシグナムさんから教わった中にもこういうのは幾つかあった。だから対処はもうしてある」

 

 呟いたクロエが瞬きをすると、彼女の周囲に氷柱状のシューターが展開、更に、先ほど破砕した氷の壁の欠片までもが宙に浮いた。

 

凍牙(フリーズファング)一斉掃射(バレルフルオープン)ッ!!」

 

 声と共に作り出された氷柱や氷塊が一斉にアルミラの放ったシューターへと向かい、上空のものは次々に撃墜され、正面のものは凍りつき、破砕された。さらに氷柱はシューターを破壊してもその勢いを弱めず、真っ直ぐにアルミラへ直進し、彼女の肩、膝、腹部に直撃した。

 

「うぐっ!? つめた……!」

 

 苦悶に顔をゆがめるアルミラ。それも無理はない。DSAAのルールにはクラッシュエミュレートというシステムが存在する。

 

 クラッシュエミュレートとは、攻撃がヒットした時に「重度の負傷をした」と判断された場合、それが擬似的な痛みとなって再現される。アルミラの場合、クロエが放った氷柱によって、「氷柱が突き刺さった断裂による出血」と「氷による凍傷」が再現されたのだろう。

 

 氷柱自体はまともに喰らっていたようなので、かなりのダメージであるはずだ。

 

 そんなダメージを負った中でもアルミラは軽く仰け反りはしたものの、クロエに向けて銃口を突きつけて引き金を引く。

 

 だが、引き金を引いたことによって発生した音は、カチンッ! という空っぽの音だった。その音に、アルミラは顔面を蒼白に染める。

 

「確かに貴女の双銃は強い。でも、そんな中にも一つだけ欠点がある。それは、マガジンを取り替えるための時間。魔力弾を打ち出すためには、絶対的に魔力をこめたマガジンが必要になる」

 

「ッ!?」

 

 クロエの声に反応したアルミラが慌てた様子で蹴りを放ってきたが、反射的に上げられた蹴りほど避けやすいものはない。

 

 蹴りを避けたクロエはそのままアルミラの懐深くへ潜り込むと、彼女の胸辺りに向けて強烈な蹴りを見舞った。

 

「がはっ!」

 

 蹴り上げられた彼女の体は地上から大きく浮き上がる。だが、これで終わりではない、クロエは足に魔力を溜めてからアルミラを追う様に跳びあがると、空中で一回転の後、アルミラと向かい合う。

 

 そのままクロエは魔力を十分に溜めた右拳を硬く握り、アルミラの腹部に向けて拳を落下の勢いをそのままに叩き込んだ。

 

絶零之宝拳(アブソリュート・フラガラッハ)ッ!!」

 

 魔力を充填しきった彼女の拳は、恐ろしいほどの破壊力を持ち、彼女は回転しながらリング状へと落下。

 

 その衝撃により、彼女の落下点からリングに蜘蛛の巣のように亀裂が刻まれた。

 

 アルミラはというと、衝撃が強すぎたためか、リングの上で目を回して気絶している。

 

「……あーっと、ちょっとやりすぎちゃったかなぁ……」

 

 そんな彼女の様子を見ながらリングに降りたクロエは、審判の判断を待った。少しすると、審判がアルミラに駆け寄って彼女の様子を見た後首を横に振った。

 

 それと同時に会場内に試合終了を告げるアラームが鳴り響く。

 

『試合終了ーッ! 予選3組1回戦は1R(ラウンド)KOによって、勝者はクロエ・コキルトス選手!! 最初は押されていた様子を見せたクロエ選手ですが見事に挽回し、勝利をものにしました!』

 

 実況が叫ぶと、会場全体から割れんばかりの歓声が巻き起こった。クロエは張り詰めていた緊張の糸を緩めて小さく息をついた。

 

 その後気絶しているアルミラに対して頭を下げてからリングを降りると、シグナムが小さく笑みを浮かべていた。

 

「見事な勝利だ。だが、私から見るともう少し早く勝利できたようにも見えたが?」

 

「無茶言わないでくださいよー。観察しなくちゃ危なかったですし」

 

「まぁ、それも一理あるがな。とりあえずは、1回戦突破おめでとう。しかし、まだ油断はするなよ。今日はあともう一試合残っている」

 

「はい!」

 

 背筋を伸ばして返答すると、ふとクロエの名前を呼ぶ声が観客席から聞こえた。そちらをみると、スーパーノービスクラスでの試合を終えたらしいヴィヴィオ達がいた。

 

「クロエさーん! 1回戦突破おめでとうございますー!」

 

「ありがとー! ヴィヴィオ達はどうだったー!?」

 

 クロエが問うと、ヴィヴィオ達はそれぞれVサインを送ってきた。アインハルトだけはやや気恥ずかしそうにしていたが、全員問題なく通過できたようだ。

 

「あとでお昼一緒に食べましょー!」

 

「はいはーい」

 

 彼女等に笑顔で答えた後、クロエは控え室へと戻っていった。

 

 

 

 

 こうしてクロエのインターミドル予選会は幕を開けたわけだが、彼女の試合のすぐ後、予選4組の1回戦にてとんでもないことが起きた。

 

 都市本戦にも出場経験があり、去年クロエが敗北した。ミカヤが、ミウラに敗北したのだ。

 

 熟練者(ベテラン)であるミカヤが、新人(ルーキー)であるミウラに敗北したとあって、どよめきもあったが、それ以上に大金星を上げたことによる歓声も非常に大きかった。

 

 クロエも非常に驚いたは驚いたが、どこかゾクゾクとした高揚感のような興奮のようなものが自分の中から湧き上がってくるのを感じていた。

 

 その後行われた二回戦の戦績だが、ミウラの勝利によって興奮冷めやらぬクロエは、1回戦よりも洗練された動きを見せ、危なげなく二回戦を突破したのだった。

 

 そのほか、ヴィヴィオ達も皆勝利を納めて予選初日は終了。

 

 三回戦は来週であるため、それぞれが家路についた。だが、皆が勝利したことにより、来週行われる予選1組3回戦では、コロナとアインハルトという同門対決が行われることとなった。

 

 

 

「コロナとアインハルトの同門対決かー。どっちにも買って欲しいけど、そういうわけにも行かないよねぇ」

 

「はいー……」

 

 高町邸に帰宅したクロエとヴィヴィオは、一緒に入浴した後リビングのソファで話し込んでいた。

 

「しかもヴィヴィオはミウラと、リオにいたってはハリー選手とかの上位選手と当たる可能性大。皆苦労してるなぁ……」

 

「でも、クロエさんも3回戦は都市本戦経験者の人と当たるんですよね。名前は確かシグレ・ハナヅキさん。ミカヤさんとはまた別の刀を使う人ですよね」

 

「うん。だから安心とかは出来ないけど、どうにもね。でも、私も自分の試合に集中しなきゃね」

 

 ヴィヴィオと頷きあっていると、なのはに呼ばれたので二人は食卓へと向かう。テーブルには既になのはの手料理が並んでいる。

 

「さっきの話聞こえてたけど、アインハルトちゃんとコロナちゃん、同門対決もそうだけど、友達同士っていうのがネックだよねぇ。結構気が重かったりしそうだけど……」

 

「ですよねぇ。ノーヴェはその辺なにか言ってなかった?」

 

「特にはなにも。ただ、『二人ばっかりじゃなくて自分の試合に集中しろ』って」

 

「あらら」

 

「ノーヴェらしいねぇ。うん、でも気にしすぎてもしょうがないかな。今週はそれぞれしっかり特訓ってことで」

 

 コロナとアインハルトの対戦に若干の気がかりはあるものの、クロエとヴィヴィオはそれぞれ自分達の試合へ向けた調整を行っていくのであった。

 

 

 

 

 

 クロエ・コキルトス現在の戦績。

 

 予選第3組1回戦 1R KO勝利 45秒。

 

 FB 絶零之宝拳(アブソリュート・フラガラッハ)(至近距離砲撃)

 

 予選第3組2回線 1R KO勝利 25秒。

 

 FB 絶零之爪刃(アブソリュート・クリンゲル)(氷結効果付与斬撃)




お疲れ様です。

結構間を空けてしまって申し訳ない。いろいろと立て込んでおりまして(いいわけ)

今回はクロエの1回戦ですが、まぁ危なげなく勝利ということで。
……うーんでも、倒し方がけっこうアレというか、悪役チックというか……。

だって、蹴り上げて空中で一回転したあとに落下する速度そのまま乗せた拳を叩き込むとか……ねぇ。どっかで見たことがあるような技ですぜまったく。

あー、全く関係ないですけど一つも完結らしい完結してる二次創作がないのに、また新しいもんが浮かんできやがりましたよ。というか、もう一話書いちまってますよ……アカメのやつ……自分のこういうところが嫌い。
 

では、最後の方は愚痴のような告知のようになってしまいましたが、もしかしたら投稿するかもしれませんし、なにかを終わりにしてから投稿するかもしれません。まぁ、我慢できなくなったら投稿しちゃうんですが……。

次回は3回戦の様子を書けたらとおもいます。あとは、クロエに対する上位選手の反応とか書けたらいいですね。ハリーとか、ジークとか、ミカヤとも絡みがないので絡ませればと思います。

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