魔法少女リリカルなのはvivid-Blizzard Princess of Absolute Zero-   作:炎狼

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Kristall;19

 選考会第一会場は円形になっている。中には選手達が競い合うリングと、その様子をい観戦するための観客席がある。

 

 観客席の下には選手達の更衣室や控え室があり、そこを抜けると自販機やソファ、テーブルなどが並んだ、軽い休憩所のようなものが設けられている。

 

 普通ならそれなりにやんわりとした雰囲気が流れる場であろうが、今は違った。

 

 今、テーブルを挟むように並べられたソファに座っているのは、クロエとヴィクトーリアだ。クロエはというと、完全に萎縮しているようで、ガチガチに固まってしまっている。

 

 対するヴィクトーリアはというと、不機嫌そうな表情でムスッとしている。二人の近づきがたい雰囲気のせいで、周囲には人の姿はない。

 

 いるとしてもアリーナに続く通路にヴィヴィオ達の姿が見える程度だ。

 

 二人の間に言葉はなく、沈黙が流れている。しかし、ヴィクトーリアが溜息をついてから沈黙を破った。

 

「クロエ。いつまでそうやって固まっているつもりなの?」

 

「いや、だって……ヴィクターが話があるって引き摺ってきたわけだし、そっちが一方的に言ってくるものかと」

 

「あらあら、私はてっきり貴女が私の聞きたいことが全部理解できているものだと思っていたけれど……?」

 

 笑顔を向けてくるものの、完全に威圧感のある笑みだった。クロエはそれに対して苦い顔を浮かべると、観念したように頭をがっくりと落とした。

 

「……それで何から聞きたいんでしょうか。ヴィクトーリアお姉様……」

 

「お姉様とは、また随分と懐かしい呼び方をしてくれるのね、クロ。けれどまぁ、それは置いておくとして。まずは、どうして家出なんてしたのか聞きましょうか」

 

「自分の夢を叶えたかったからだよ。というかお父さんからは許可は得てるし、家出じゃないでしょ」

 

「けれど、お母様からの許可は得なかったと」

 

 ジト目で言われ、クロエは視線を泳がせる。

 

 実際のところヴィクトーリアの言うことは当たっている。父親であるエドワルドからはしっかり許可を得たが、ユスティナからは正式な許可は得ていない。

 

 が、言い訳を考えても仕方がないと思ったクロエは、大きく息をついてから言い切った。

 

「ヴィクターはそう言うけど、あの人……お母さんの所にいたら絶対後悔したと思うんだ。お母さんは私に会社を継がせることしか考えてないし、私の幸せのためって言いながらも結局は自己満足。そんな人のところにはいたくない。私が私じゃなくなるのだけは絶対に嫌だったから」

 

「なるほど……。だけど解せませんわね。それがどうしてストライクアーツ、ましてやインターミドルと関係してくるのかしら?」

 

「えっと、それは、お母さんとの契約で……。インターミドルチャンピオンシップの世界代表になれば、執務官を目指しても良いって言われたから二つ返事で返した感じ」

 

「ぶッ!?」

 

 お嬢様らしくない吹き出し音が聞こえた。

 

 見ると、クロエの前ではヴィクトーリアが大きく咳ごんでいた。何度か咳をした後、彼女は信じられないようなものを見るような目でクロエを見た。

 

「……貴女、それ本気で言っているの?」

 

「本気だよ」

 

「貴女って子は本当に……! わかっているの? 世界代表になるということは、この私は勿論のこと、先ほど観客席にいたエルス、ポンコツ不良娘、そしてジークを下すということよ? それだけじゃないわ、今日はいないミカヤさん、そのほかにも多くの実力者を倒して進む、それがどれだけ過酷なことなのか分かっている?」

 

 ヴィクトーリアの声には、確かな威圧感があった。同時に怒りとも取れるような感情も伝わってきた。

 

 クロエにはなんとなくヴィクトーリアの反応は理解できた。ヴィクトーリアや、ハリーと言った選手は、クロエがストライクアーツを始めるずっと前からこの競技を行っている。

 

 そして彼女達皆の目標は、インターミドルの完全優勝だ。即ち「次元世界最強の十代女子」という称号の獲得。それを手にするために、彼女等はずっと前から努力を重ねている。

 

 けれどクロエはどうだ。やっていた格闘技といえば、護身術から派生した程度のストライクアーツ。本格的に始めたのは一年前、そんな彼女がいきなり「インターミドルで優勝する」などとほざけば、こんな反応を取られるのは分かりきっている。

 

 ……ヴィクターにもプライドがある。私はそれを今から汚そうとしている。でも!

 

 クロエは強い眼光で見やってくるヴィクトーリアを見据えると、息を吸ってからはっきりと告げた。

 

「分かってるよ。私の言っていることがどれだけ無謀で、そしてヴィクターたちのプライドを傷つけようとしているのかくらい。でも、私にだって夢がある。その夢をかなえるために、たくさんの人が助けてくれた。だから、たとえ相手がヴィクターでも、ハリー選手でも、ミカヤさんでも、そしてエレミア選手でもこの手で倒す」

 

 言い切り、拳を握った彼女の手からは冷気が溢れ、指先は凍結を始めていた。感情の昂ぶりによって魔力が洩れ出たのだろう。

 

 すぐにクロエはそれを振り払う。すると、ヴィクトーリアが僅かに顔を俯かせる。前髪のせいで表情までは確認できないが、少なくとも口元は笑っていなかった。

 

 ヴィクトーリアはそのままゆっくりと手を上げる。クロエはビンタが来るかもしれないと、目を瞑り、歯を食い縛った。

 

 自分でも先ほどの物言いはなめていると分かっていた。だから、ビンタの一発でも喰らうと思ったのだ。

 

 だが、いつまで待てども衝撃はこない。恐る恐る片目を開くと、ふわりとした優しい感触が頭に乗ってきた。

 

 目を開いてみてみると、ヴィクトーリアは優しげな表情を浮かべていて、くしゃくしゃとクロエの頭を撫でてきた。

 

 いきなりの撫で撫でに困惑しながらもクロエは問う。

 

「ヴィクター……怒ってないの?」

 

「最初は怒っていたわ。いきなりインターミドルで優勝するだなんて馬鹿げたことをって思ったけれど、あんなに必死に言われたら、怒る気も失せたのよ」

 

 ヴィクトーリアは呆れ顔で溜息をつくと頭から手を離した。そして再び溜息をつくと、今度は手を差し出してきた。

 

「握手をしましょう。私と貴女はこれからただの幼馴染ではなく、対等なライバルよ」

 

「うん。ありがとう、ヴィクター。じゃあ、これからもよろしく」

 

 二人は握手を交わす。先ほどまでどんより、ピリピリとしていた空気も今は晴れていた。

 

 そしてクロエは握手を終えて「それじゃあ」とその場を去ろうとする。しかし、その首根っこを再びつかまれる。

 

「げはぁ!? な、なにすんのヴィクター!」

 

「まだ話は終わっていないわよ。貴女、まだ私に言っていないことがあるわよ。まず、今はどこに住んでいるのか、どうして私に相談がなかったのか、あとその目は何? 片方金色にして、カラーコンタクトでも入れているのかしら」

 

 まくし立てるように問い詰められ、クロエは再び萎縮し、ソファにストンと腰を下ろす。結局、ヴィクトーリアに細かく問い詰められ、解放されたのは一時間もあとだった。

 

 

 

 

 

「幼馴染だぁ!?」

 

 ノーヴェは心底驚いた様子で声を上げた。

 

 ヴィクトーリアから解放された後、ノーヴェ達の下へ戻ると説明を求められたので、説明をしたらこの有様である。

 

「うん。私がまだ小さかった頃、三歳とかその辺の時にどっかのパーティに出席した時に初めて会ったんだよ」

 

「パーティ……」

 

「クロエさん、お嬢様っぽーい!」

 

「リオお嬢様、クロエさんは普通に大企業のお嬢様です」

 

 リオの声にディードが静かに答えた。まぁ確かに世間的に見ればクロエはお嬢様という部類に入るのだろうが、実際そんなことは瑣末なことだと思う。

 

「まぁ、クロエがお嬢様ってことの再確認は置いとくとしてだ。まさかあのヴィクトーリア・ダールグリュンと幼馴染とはなぁ。いや、あっちもお嬢様だからありえなくはないのか」

 

「でも、急にヴィクトーリア選手がクロエさんの名前を呼んだときは本当に驚きました~」

 

「すごい剣幕でしたからね」

 

 ヴィヴィオとアインハルトの様子に、クロエは苦笑いを浮かべる。

 

「アハハ……。ヴィクターって、結構お姉さん気質なんだよね。だから、私がヴィクターになんの相談もなく家を出たことに怒ってたみたい。心配かけちゃったみたいだね」

 

「んで、お前は子供の頃からガッツリ、ダールグリュンに上下関係を仕込まれて逆らえなくなったと」

 

「言い方は悪いような気もするけど、そんな感じ。小さい頃はヴィクトーリアお姉様なんて呼んでたしねぇ。っと、そうだアリサを待たせてるんだった!」

 

 クロエは思い出したように通信を開く。何回かのコールの後、アリサが表示された。

 

『やっほー。終わった~? クロー』

 

「うん。ごめんねアリサ、ちょっと色々立て込んでて、もうすぐ帰るから正面入り口で待っててくれる?」

 

『はいは~い。了解了解ー』

 

 アリサはいたって軽い様子で答えると、あちらから通信を切った。

 

 クロエもモニタを閉じると、ヴィヴィオ達に向き直る。

 

「私のせいで待たせちゃってごめんね、みんな。あともうちょっとだけ付き合ってくれるかな、アリサをみんなに紹介したいから」

 

 その言葉に、ヴィヴィオ達は皆うれしげな表情を浮かべた。子供たちの様子に安堵し、クロエは着替えるために更衣室へと足を向けた。

 

 

 

 

 

 クロエ達が帰り支度を整えているちょうどその頃。

 

 選考会場の第二入り口では、ヴィクトーリアとエレミアが話しをしていた。

 

「帰るんなら送っていくけど?」

 

「いいんよ、走って帰れる距離やし」

 

「そう。ならいいけど、ちゃんとご飯は食べてるの?」

 

「食べとるよ。もう、ヴィクターは心配性なんやから」

 

 ヴィクトーリアの余りにも母親っぽい対応に、エレミアは苦笑するが、靴紐を結んでいるところを彼女に撫でられる。

 

「心配もするわよ。あと、たまには連絡しなさいね。うちに来た時はあなたの好きなおでんやおにぎり作ってあげるから」

 

「……うん。ありがと、ヴィクターはやっぱ優しいね」

 

「そんなことないわ。あなたの方がずっと優しいじゃない」

 

 ヴィクトーリアに言われ、エレミアは頬を赤く染める。そのまま足早に立ち去ろうとしたエレミアであるが、途中で足を止める。

 

「そうや。ヴィクターが連れてったあの子……」

 

「クロエのこと? あの子も貴女と似たり寄ったりの子よ。連絡も寄越さない家出娘」

 

「アハハ。いやいやいや、そういう話やのうて。ヴィクターあの子の試合見とった?」

 

「いいえ。なにか気になることでもあった?」

 

 小首をかしげるヴィクトーリアであるが、エレミアはそれに真剣な眼差しで向き合うと、一度頷いてから口を開く。

 

「あの子、クロエやったっけ。かなり強いと思う。選考試合の最後に放った覇気みたいなもんで久々にゾクッとしたんよ」

 

「クロエが……?」

 

「多分、予選会で真骨頂が見られると思うけど、対策は立てておいて損はないと思うよ。そんならヴィクター、今年はきっと都市本戦で戦おうね!」

 

「え、ええ! きっと!」

 

 ヴィクトーリアはエレミアを見送ったが、その表情にはどこか複雑な色があった。

 

「ジークがクロエに一目置いた……。しかもクロエはエリートクラスからのスタート。クロエが零王という名も知れぬ王の末裔だということにも驚かされたけれど、あの子も着実に力を上げている」

 

 

 

 

 

 クラナガンの繁華街の一角にある、スイーツショップのテラス席では、クロエとアリーシャが談笑していた。

 

 話題は、さきほど選考会の会場でそれぞれの自己紹介を終えたヴィヴィオ達の話だ。

 

「それにしても、あの子達ホント良い子達ねー。私の少等科時代とは大違い」

 

「だよねー。私はお母さんの教育で丁寧な言葉遣いを教え込まれたけど……」

 

「へぇ~。ちょっとやってみてよー」

 

「えー」

 

 アリーシャの頼みにクロエは「少しだけだよ」と言ってから軽く咳払いをする。そして何か聞いて来いと彼女に手で伝える。

 

「そういばクロはさぁ、どんな食べ物が好きなんだっけ?」

 

「わたくしですか? そうですね……わたくしは魚介類が好きなので、素材の味が楽しめるようなマリネや、カルパッチョなどが好みですわ。アリーシャ様はどのようなお料理がお好みなのですか?」

 

 いつもとは声のトーンも、発声の仕方もまるで違う、お嬢様ぜんとしたした態度で答える。

 

 だが、アリーシャを見ると口元をしっかりと押さえて肩をプルプルと震わせている。どう考えても笑っている。

 

 声を押し殺して笑うさまを見ながら、クロエは大きく溜息をついてからお嬢様モードをオフにする。

 

「だからやりたくなかったのにー」

 

「ご、ごめんごめん。予想してたよりもすごい破壊力で……! や、やっぱりアンタはその口調の方が合ってるよ」

 

「私だってこっちの方が良いよ。でも仕方ないでしょー、パーティとかだとこういう感じの口調で、なおかつ常に作り笑顔よ? 香水のキッツイおじさんとか、見るからに脂ぎってる人とか、どんな人が来ても常にこの対応を迫れるんだよ」

 

「うわー、それは辛いわねー。でも、さっきのお嬢様モード、今度はヴィヴィオちゃんたちの前でやってあげれば? きっとすごい反応するよ」

 

「絶対嫌」

 

 アリーシャの提案を軽く却下すると、クロエはアイスコーヒーをストローで啜った。実のところを言うと、聖に連れられて聖王教会に行った時、騎士カリムと話す機会があった。

 

 その時このお嬢様モードを使ってみたのだが、先ほどのアリーシャと同じように聖にも笑われてしまった。普段のクロエから比べると違いすぎるのだという。

 

 思い出しついでにクロエはフリーレンに問う。

 

「ねぇ、フリーレン。あの口調の時の私ってそんなに普段とギャップある?」

 

〈ありまくりですね〉

 

 改めて相棒に聞いてみたら即答されてしまった。

 

「でも実際、フリーレンの言うとおりだと思うよー。だってクロ、訓練生時代の時だって休みの日は基本的に超ラフな恰好してるじゃん。スポーツブラに短パンって、どう見てもお嬢様じゃないでしょ」

 

「だってそっちの方が動きやすいし」

 

「その考え方がお嬢様じゃないよねぇ」

 

 返答に大してアリーシャはクスクスと笑った。しかし、クロエはそれに対してドヤ顔染みた表情を浮かべる。

 

「なによ?」

 

 それを不信に思ったようで、アリーシャが怪訝な表情を浮かべる。

 

「いやいやぁ、お嬢様っぽくないって言われたからねぇ。一応言っておくけど、あのブラと短パンは一着、万越えしてるからね」

 

「ハァッ!? え、それマジで!」

 

「マジ。ブラとショーツで二万、短パンは二万五千。ようはあの状態で私は四万五千を身に着けていたということになるのだよ」

 

 フフン、と得意げにクロエは胸を張った。勿論これは嘘でもなければ冗談でもない、純然たる事実である。

 

「い、一応聞くけどさ。今着てる服とか、試合のときのウェアとかは?」

 

「今の服は十万越えてるかな。ウェアは五万の安物」

 

「安物!? アンタ、今、五万を安物って言った!?」

 

「うん。だって、お父さんとかお母さんが来てたやつは十数万だったし」

 

 あっけらかんと言って見せるクロエであるが、アリーシャは口をあんぐりとあけて驚いている。

 

 まぁ訓練校にいた時代は金持ちの遊びに思われたくなかったから言わなかっただけだ。アリーシャは全過程を修了しているし、もう話してもいいだろう。

 

「どう? これでお嬢様ってことが証明されたでしょ」

 

「う、うん。なんというかアンタって本当に掴めないというか。あ、じゃあもしかしたらホテルとかも顔パスできるの?」

 

 先ほどまで呆然としていたアリーシャだが、今度は目を輝かせて身を乗り出してきた。どうやらクロエのお嬢様話が楽しくなってきたようだ。

 

「ううん、ホテルなんて取らないよ?」

 

「え? じゃあ、遠出した時とかはどうするの?」

 

「うちはいろんな所に別荘があるから、そこに泊まるの。ホテルは本当に緊急時、ワンフロアを丸々貸しきる感じかな。まぁワンフロア貸し切る時は事前に連絡入れるけどね。でも、管理局の手の届いてる世界のホテルなら、大体顔パスできるかな」

 

「……なんか、本当にスケールがおかしいわね。別荘って、ワンフロア丸々って……。しかも泊まる部屋はロイヤルスイートなわけでしょ?」

 

「んー、ロイヤルスイートまでしかないところならそうだねぇ。それより上、例えばペントハウスみたいなのがあれば基本的にはそこに泊まるかなぁ」

 

「うわー、なんか段々殺意が湧いてきたぞー。このクソッタレお嬢様めー」

 

 笑顔ではあるが、凄まじく威圧感のある笑顔だった。けれども彼女はすぐに溜息をついてアイスティーをズルズルと音を立てて啜る。

 

「話を聞いて改めてクロがお嬢様だって再確認できたけど、羨ましい反面、羨ましくない反面もあるわねぇ。特にアンタのお母さん関連」

 

「でしょー。自分のやりたいことなんて全部却下。全てはお母さんの敷いたレールの上……って、口では簡単に言えるけどある意味拷問だからね。お金を持ってるからって幸せじゃないんだよ」

 

「お嬢様の知られざる苦悩ってヤツねぇ。ちなみにお小遣いは月いくら貰ってたの」

 

「百万」

 

「……なにも聞かなかった。私はなにも聞かなかった」

 

 アリーシャは虚空を見上げた。悲しいかな、その瞳はとても虚ろで、空を流れる雲がただ反射しているだけだった。

 

「というか、なんでこんな話になったんだっけ?」

 

「アリサが私のことをお嬢様っぽくないって言ったから、それを証明したの。ただ、私はあんまりベラベラしゃべる気はないけどね。嫌われるし」

 

「じゃあなんで私に話したのよー」

 

「アリサはこの話を聞いて私を嫌ったりはしないでしょ。だから話したの」

 

 微笑を浮かべている言うクロエであるが、問うのアリーシャはというと、予測していなかった言葉に気恥ずかしさを覚えたのか少しだけ頬を赤くしていた。

 

 

 

 その後、二人は夕暮れまで買い物だったりウインドウショッピングを楽しんだ。アリーシャも息抜きができたようだし、クロエ自身も予選前の緊張を解すことができたため、いい機会となった。

 

「それじゃあ、アリサ。今日は楽しかったよ」

 

「ええ。私も久々にアンタに会えてよかった。元気そうにやってるし、なにより訓練校にいたときよりもずっと楽しそうだしね。まぁアンタが零王なんていう王様の末裔って聞かされたときは驚いたけど」

 

「アハハ、その辺りはメールでもしておけばよかったね。……じゃあ、そろそろ」

 

「そうね、もういい時間だし。アンタも予選に向けて準備もあることだろうから、今日はこれで解散ね。じゃあクロエ、予選頑張りなさいよ。私も応援に行けるときは行くから!」

 

「うん! ありがと、アリサ」

 

 二人は互いに笑い合ってからそれぞれの家路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 選考会翌日。

 

 クロエは例の鍛錬場で、シグナムと向き合っていた。

 

「まずは選考会、お疲れ様だな。そして、エリートクラスからの出発、おめでとう」

 

「はい。ありがとうございます、シグナムさん! これも師匠やシグナムさん、リインさんの指導のおかげです」

 

「謙遜するな。これはお前が努力して掴み取った結果だ。誇っていい。あと、聖にはしっかりと伝えたか?」

 

「昨日の夜にメールで伝えました。すぐに返信が来て、おめでとうって言ってもらえました。あとは気ィ抜くんじゃねぇぞとも言われましたけど」

 

「そうだな。エリートクラスになったからと言っても、まだまだ安心はできない。来週には予選が始まるから、それまでにお前のコンディションを整えなくてはいけない」

 

 今シグナムが言ったこととメールで聖が言ったことは正しい。クロエは確かにエリートクラスからスタートを切る。しかし、それは別に特別なことではない。

 

 他にもエリートクラスからの選手はいる。その中にはヴィクトーリアやエレミアと言った本戦上位者達もいる。

 

 言ってしまえば、まだクロエはスタートラインに立ったに過ぎない。エリートクラスがどうこうの問題ではないのだ。

 

「今日から来週の試合までの鍛錬は、さらに激化する。怪我はしない程度に留めるが、辛くなることは間違いない。ついて来れるか?」

 

「はい!」

 

「いい返事だ。……そうだ、リイン私に見せた()()()()。これからは午前中には今までどおりに、午後からはあれを使え。使い方に慣れなくてはいけないからな」

 

「わかりました。では、今日もよろしくお願いします」

 

 クロエは告げた後にバリアジャケットを展開し、シグナムとの特訓を始めた。

 

 

 

 

 数時間後、クロエはシグナムとの特訓を終えて、予選表を確認していた。

 

「えーっと、エリートクラス一回戦目の相手は……アルミラ・エルティーナ。二丁銃型デバイスを使った射撃戦が得意な選手ですね」

 

「射撃戦か。となれば、インファイトに持ち込めば有利に運べるだろう。自信過剰に取られるかもしれないが、今のお前であればそんなに気負う相手でもないだろう。自信を持って戦え」

 

「はい。それじゃあ、シグナムさん。また明日もよろしくお願いします」

 

「ああ。今日もしっかり休めよ」

 

 クロエはシグナムに頭を下げてから自転車に跨って高町邸へと帰っていった。

 

 彼女の姿が見えなくなったところで、シグナムは午後の鍛錬の最後の勝負を思い出していた。

 

 最後の試合は、シグナムの飛竜一閃と絶零之宝拳との一騎打ちだった。出力的に行ってしまえば、飛竜一閃が上回っている。しかし、クロエは例の魔法を使っている状態で宝拳をつかった。

 

 その影響は色濃く繁栄されており、飛竜一閃と真っ向からぶつかっても競り負けていなかった。

 

「それだけでもなかなか実力を上げた。が、最後の一撃であんなことが出来るとは……」

 

 あの一瞬、氷の拳と炎の剣がぶつかった瞬間。

 

 炎が凍ったのだ。

 

 クロエの氷結の力が、シグナムの炎熱を凌駕した瞬間だったのだ。それは僅かなことではあったが、クロエは炎すらも氷結させる力すらも有しているということだった。

 

「炎を凍らせる……。完全に出来ないなどと思ってはいなかったが、まさかこうも早くその片鱗をみせるとは」

 

 シグナムはバリアジャケットを解いてから、鞘から引き抜いたレヴァンティンの刀身を見やった。

 

 レヴァンティンの刀身には、僅かにではあるが氷が付着していた。氷はすぐに砕け散り、キラキラと輝きながら空気中へ消え去った。

 

「あの一瞬、クロエと戦っているつもりが、その奥にもっと別のなにかを感じた。……もしかするとあれが聖の言っていた零王セラフィリアの加護のようなものなのかもしれないな」

 

 レヴァンティンを待機状態に戻すと、シグナムは今一度クロエの帰っていった方向を見やった。

 

「零王セラフィリア、調べてみるか。彼女がどんな王であったのか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 一週間後、インターミドル地区予選が開始された。




はい、お疲れ様でした。

今回はあれですね、短めですね。

まぁ安定でヴィクターに怒られるクロエ。
色々と連絡しなかったのがダメだったわけです。オカン気質でありお姉さん気質であるヴィクターなら仕方ない。

途中、やたらとセレブ感が出るクロエw
書いてる途中で偶に忘れてますけど、この子一応は超絶お嬢様なんですよね。そう見えないだけで。ちなみにクロエは子供の頃からがっつリ貯金してたので、お金自体にはあんまり困ってなかったりします。

で、最後の最後でクロエに何かを感じ取ってしまったシグナム姐さん。戦ってる中で別の何かの存在を感じるとか、相当です。やっぱり、王の力ってすごいんだろうね(震え)

次回はクロエの一回戦を書きますが……これどうしよう、最初にミカヤとミウラとの試合を大雑把に説明したあと、クロエの試合に突入する形にしますかね。
なんかヴィヴィオとかの一回戦はミウラとミカヤの後みたいですし。

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