リミットラバーズ   作:ホワイト・ラム

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お待たせしました。さて、此処から物語が分岐していきます。
という事で、今回から夕日のルートです。


Permanence cocoon~ブレないキャラって魅力的~(夕日ルート)
そろそろ自重しろ。


ドンドン!ドンドン!!

 

「――ちゃん!夕日ちゃん!!起きて!!」

 

ドンドンドン!!ドンドンドン!!

 

「…………?……んんっ…………?」

眠い目を擦りながら、夕日が自室で目を覚ます。

自身の部屋のドアを叩くのは、自身の義兄の幻原 天峰だ。

 

「夕日ちゃん!!学校!!遅れるよ!!」

 

「……学校……??……あっ!!」

天峰の言葉で夕日の半覚醒状態だった頭が一気に目覚める!!

 

そうだ、今日からまた学校だ。

 

時計を見ると7時33分、いつもならとっくに起きている時間。

すっかり夏休みボケしてしまって、起きる事が出来なかった!!

 

「……いけない……!」

小さく呟いて自身の部屋のクローゼットへと手を掛ける。

学校の制服は確か選択したのを畳んでしまったハズだ。

上に切るセーラーも確か同じ場所に仕舞っているハズだ。

 

「……ん……んん……!」

バタバタと焦りながら制服を着ようとパジャマを脱ぐ。

姿見に小学生と変わらない、というか場合によっては向こうの方が大きい身長の自分が映る。

全然背が伸びないな。と関係ない事を考えて再び着替えに戻り引き出しに手を掛ける。

制服に手を伸ばすが、一瞬だけ下着も着替えるべきか迷い手が止まる。

 

ガチャ――

 

「何してるの!!夕日ちゃん!早く起きないと――――パンツ!!」

部屋のドアを開けた天峰が下着姿で立ち尽くす夕日を見て叫び声を出す。

叫ぶ言葉の内容から、微妙に本人の願望が見えているがまぁ、年頃だから仕方ないとしよう。

 

夕日は基本無口だ、その為起きていてもあまり声を出さない。

その為天峰は()()()()()()()()()と勘違いしてしまったのが、今回の事件の原因だろう。

 

「えっと、ごめん!!すぐドア閉めるから!!」

慌てて天峰はドアを閉めた。

自分を部屋の中に入れて……

 

「……なんで……入って……来る……の?」

ジト目で部屋に入って来た天峰に、夕日が冷ややかな視線を送る。

 

「あ、ご、ごめん!!無意識に入ってた!す、すぐに出るから!!」

慌てて後ろを向くと天峰は夕日の部屋からすごすごと退散した。

 

「……むぅ」

天峰は見た目が小さな女の子を前にすると、偶に馬鹿になる。

本人の本能が理性的な行動を出来なくするのでは?と夕日は考えているが詳しくはわかっていない。

また、天峰が入ってこない内に夕日は手早く制服に着替え、カバンを手にして部屋を出る。

 

「あ、夕日ちゃん……さっきはごめん……」

 

「……別に……気にして……無い……」

夕日はそう言うし、実際さほど夕日本人も気にしてはいないのだが、罪悪感を感じた天峰にとってはいつものそっけない言い方も、悪意が詰まっている気がしてしまう。

朝から早速気まずくなってしまったな。と天峰は一人思う。

 

「うーっす、二人して何してんだよ?

やーっと夕日は起きたのか?新学期そうそう遅刻する気か?」

食卓で夕日の義姉妹、天音が二ヒヒと笑う。

天音の目の前の皿には、マヨネーズを塗ってトーストした厚切りの食パンに、同じく厚切りの焼け目のついたベーコンの山盛りに乗せて齧っていた。

 

「お前、朝からなんちゅーモンを……」

 

「……ハイネは……おかしい……いろいろと……」

油でテッカテカな天音の朝食をみて、何も食べてないのに胸やけを起こしそうになる二人。

それぞれが、食パンとサラダを手にする。

 

「あーあー、夏休み終わっちまったなぁ……また、休み来ないかなぁ?

ん、まぁ、十分楽しんだけどよ」

そう言って、田舎から持て来たハナコの牛乳を美味しそうに飲む。

 

「……ムゥ……!!」

のんびりと牛乳を飲む天音を夕日が射殺す様な目で睨む!!

 

「あー、やっぱりハナコは最高だな!もう一杯っと」

しかし気が付いてないのか、それとも気にしてないのか天音は全く夕日に反応せずに牛乳をもう一杯コップに注ぐ。

 

「ん?どうした夕日?そんな顔して?」

 

「ハイネェ!!」

どうやら気が付いてなかった天音に遂に夕日がキレた!!

 

「昨日泣きついて来たのは、誰!?

宿題結局やらずに、徹夜したのは、誰!?

私と天峰に宿題手伝わせたのは、誰!?」

珍しく夕日が声を荒げる!!

予想通り、というかやはりというか、夏休みのラストワンは結局宿題をやっていなかった天音の宿題を天峰、夕日の両人が手伝う事となった。

余談だが天音は一芸入試で進学校に通っている為、天峰夕日の学校より宿題の量も質も高い物となっている。

 

「フッ、そんな過去の事もう忘れたぜ!」

 

「忘れんなよ……」

無駄にいい笑顔で答える天音に天峰があきれた様に答える。

そんなこんなで、3人は食事をとり学校へと向かった。

天音は自転車で自身の学校へ、天峰も同じく自転車に跨り志余束高校へ、夕日はバスを利用して天峰の学校と同じ敷地内にある志余束中学へ向かっていった。

 

「あ、夕日ちゃん。今日、久しぶりに一緒に帰らない?お肉屋さんで帰りにコロッケ買って食べようよ」

 

「……コロッケ……好き……うん……待ってる……」

そう言って二人は笑顔で別れ、同じ敷地に有る学校へとそれぞれ向かっていった。

 

何時もの日常。

夕日がずっと欲しがっていいた日常。

終らないでほしいと、彼女が願った日常。

 

そんな今日は、一人の女の目覚めで大きく軋み始めた。

 

 

 

 

 

学校にて――

給食も終わり、少しだけほんの僅かに気だるげな気分の中、午後の授業をこなす中学生たち。

そんな中、教室に闖入者が有った。

 

「授業中失礼、坂宮さん少しいいかな?」

中学の教頭である中年の先生がドアを開け手招きする。

 

「?」

 

「いいよ、行ってきなよ。ノートなら取っておくから」

隣の席、夏休み前までは空席だった席に座っている玖杜がそう言ってくれる。

クラスの中の空席、それは玖杜の席だったのだ。

そう言えば、まどかがボーノレの大会に出る時数合わせに使おうとした事がもうずいぶん過去の様だ。

 

「……行ってくる」

小さく会釈して夕日はそのまま教室を後にした。

そしてもう、その日は戻ってくる事は無かった。

 

 

 

 

 

高校にて――

放課後、授業の終わった天峰が背伸びをする。

そこに近づく影が一つ。

 

「あー、始業式終わってイキナリ授業ってどういう事なんだよぉ……なぁ?天峰」

 

「ヤケ……どうしても休み気分が抜けてくれないよな……」

天峰の友人、野原 八家が話しかけてくる。

夏休み中にもらったという、青いカラーひよこの上ヶ鳥が肩に止まって毛繕いしている。

 

「よぉし!まだ大学生のおねーさんは休みだよな!!

此処は二人で、夏で露出して開放感が上がったねぇ様方をナンパに行こうぜ!!」

 

「ぴィーーーー!!」

笑顔でナンパに誘うヤケの頬を、肩の上ヶ鳥がかん高い声と共に突きまくる!!

本当にひよこかと思えるような気迫だ!!

 

「いで!?いででで!!」

ヤケは上ヶ鳥を下ろそうとするが、回避しつつ尚もヤケの頬を突き続ける!!

 

「ヤケ、大丈夫か?」

 

「あー、せっかくのイケメンフェイスが……」

そう言って頬をさするヤケの頬にはくっきりと突き後が残っている。

落ち込むヤケに対してやり切ったという顔をする上ヶ鳥。

なんだか、変に人間味のあるリアクションに

 

「なんか、ヤケの監視係って感じだな」

冗談めかしながら、天峰が上ヶ鳥を指先で恐々撫でる。

 

「そうなんだよぉ……どこ行っても付いてくるし、ナンパしたりコンビニでエロ本を買おうとするとさっきみたいにスゲー突っついてくるんだよ……

しかも羽袋布さん――ああ、田舎でナンパしたおねーさんな?その人から、偶に手紙送られてくるんだけど『浮気してないわよね?』とか『私を悲しませないでね?』とか『場合によっては迎えに行くから』とか書いてあってスゲー怖いんだよ……

何!?『迎えに行く』って、俺をどうする気だよ!?」

戦々恐々とする八家の隣で、上ヶ鳥が頷く。

このひよこ何か知ってるのでは?と天峰が勘ぐるがただのひよこがそんな事する訳ないな。とすぐに考えを改める。

まぁ、たまたま仲良く成った子が少し病んでるのは珍しくないだろう。

少なくとも天峰には――

 

「さて、悪いけど夕日ちゃんと帰る約束してるから、じゃーね」

そう言うと天峰は手を振って八家に別れを言い、中学の校舎へと向かっていった。

背中越しに八家が叫ぶ!!

 

「下校デートとか全然うらやましくねーし!!

寧ろ、俺なんて下校ナンパして――いででで?!突くな!!」

 

「ぴィィィィいイイイ!!!」

 

 

 

 

 

中学校の敷地。

「あ、クノキちゃん。夕日ちゃん見てない?」

 

「おにーさん……夕日ちゃんなら、先に帰ったよ?

教科書とカバンが有るから持ち帰るの手伝ってよ」

天峰が偶然見つけた玖杜に話しかけると、短く説明された。

おかしいなと思って、携帯を確認すると家からメールが一件着信していた。

 

「ちょっと待ってね」

玖杜に一言言って、携帯のメールを確認する。

その文面を見て、天峰が目を見開いた。

 

「え……」

その内容は天峰には信じられないモノだった。

 

「おにーさん?どうしたの?」

不審に思った玖杜が天峰の手元の携帯を確認する。

その文面を見てハッとする。

 

「へぇ、()()()()()だね」

祝福する様に何気ない一言を告げる。

しかし天峰には聞こえていなかった。

 

「クノキちゃん、悪いけど夕日ちゃんの荷物持ってきてくれる?

直ぐに帰らなきゃ」

 

「うん、わかったよ」

何も知らないクノキが教室から夕日の道具を持ってきてくれた。

それを受け取ると天峰は急いで実家に向かった。

話をするにも、全ては家にいる家族の話を聞くしかなかった。

 

「ただいま!!夕日ちゃんは!?帰ってる!?」

勢いよく扉を開けるが誰もいない。

それもそうだ、さっき自分で鍵を開けてドアを開けたのだ。

誰か居るなら鍵などかかっているハズは無い。

 

「ああ、夕日ちゃん……俺も病院へ――けど……」

グルグルと部屋の中をまわる。

いろいろな考えが頭の中をグルグルと回る。

 

 

 

 

 

病院にて――

 

「夕日。あなたは変わらないわね……」

ベットから伸びる細いほぼ骨と皮の腕が夕日の頬を優しく撫でる。

失った時間を取り戻す様に、やさしさと愛おしさを込める様に。

優しく、優しく何度も何度も――

 

「……お母さん……」

 

「ん?なぁに?」

柔和な笑みを浮かべ、()()()()()が優しく答えた。

 

「おい、そろそろ自重しろ。ずっと眠ったばっかりだったんだぞ?

気持ちは分かるが、それでまた体を壊したら無意味だ」

厳しい口調で厳つい顔をした男――夕日のおじである医者、霧崎 登一が苦笑する。

 

今日の早朝。

ずっと意識不明のままだった、夕日の母親が何の理由か分からないが目覚めたのだ。

午前中はずっと検査をしていたが、容体の安定が確認され夕日に話しても問題ないと判断した病院が夕日の学校に連絡をしたのだ。

 

「ごめんなさいね、夕日。ずっと一人にして――けどもう大丈夫よ?

これからは()()()()()()()()()()()()?」

笑顔でそう話す母親、一瞬だけ夕日の時が止まる。

そして――

 

「……うん……そうだね……」

小さな声でそうつぶやいた。

 




初期からずっと居た、夕日の母親が遂に動き出しました。
さてさて、此処からどう、波乱を見せてくれるのか。

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