リミットラバーズ   作:ホワイト・ラム

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さて、夏休み編もだいぶ佳境です。
新学期編の足音ももうすぐです。

個別ルートを書くかな……


現実じゃ絶対やっちゃダメなんだぜ!!

有る夏の日の朝。

遅くまで宿題をこなした為、少し寝坊した天峰に夕日が朝食をふるまっていた。

 

「うん、美味しい」

出汁巻卵の味を噛みしめながら、天峰が白米を掻き込む。

もやしと揚げの味噌汁も、焼き鮭も夕日が作ったものだった。

 

「夕日ちゃん、料理上手に成ったね。ハジメさんに教わったんだっけ?」

味噌汁を飲みながら、天峰がほほ笑みながら話しかける。

 

「……うん……けど……此処まで……詳しくは……教えてもらってない……

作り方……調べて……作っただけ……だから……」

すこしだけ、しかし確実に夕日は誇らしげに、小松菜のお浸しも出してくれた。

 

ハジメの教えを受けて、夕日は確実に調理が上達していった。

(私の料理……嬉しそうに、食べてくれるのは、嬉しい……)

 

天峰が美味しいと言って食べてくれるのを見て、夕日は幸せな気分に成った。

きっと天峰が自身の為に何かをしてくれるのは、同じ理屈なのだと思った。

 

「夕日ちゃんも少しづつ成長してるんだね。

ふぅ、美味しかった。そうだ、もう少ししたら出かけて来るから、何かいるものあれば帰りに買ってくるけど?」

 

「特に……ない……」

 

「そっか」

 

(あれ……?)

いつもの会話、なんの意味もない何時もの日常会話。

しかし、その中に夕日は小さく違和感を感じた。

だが、その違和感の正体が分からない。

 

小さな小さな違和感。

だがそれは、確実に有った。

 

「?」

それを夕日は気のせいだと思う事にした。

 

 

 

 

 

病院にて――

「あ!道案内さーん!来てくれたんだぁ!!」

 

白く、清潔感漂う病室。

病に倒れた人間が集う病棟。

そんな中で、太陽の様に元気な声が天峰に対して響いた。

 

「おはよう、木枯ちゃん。

まどかちゃんに聞いたんだけど、足大丈夫?」

ベットに横たわる小さな影、アニメキャラの書かれたピンクのパジャマの胸はその子供っぽいデザインを不釣り合いなほどの膨らませる豊満な胸を持つ幼女。

森林 木枯があどけない顔でニコニコと手を振ってくれた。

 

「むむぅ……!!木枯様のご友人かのぉ?」

 

「おお……ありがたや、ありがたや……」

 

「儂に!儂に手を振ってくれとるぞ!!ウヒヒ!天国のバァさんや、もう少しそっちに行くのは先に成りそうじゃな!!」

 

「おじいさん?私はまだピンピンしてますよ?」

木枯が手を振ると、病室に居る数人の老人がどよめいた。

皆幸せそうな顔をして、人によっては両手を合わせ拝み始める人までいる。

 

「……ナニコレ?」

まるで何処かの宗教みたいな事に成っている様子に、天峰が小さく汗を流す。

天峰に気が付いた、フルフルと震える痩せこけた老人が杖を突きながら天峰に話す。

 

「なんじゃぁ!若いの、お主びぎなーか?

此処は儂ら、後期高齢者のあいどる、木枯様の病室じゃぞ………!

若い子にあまりない元気さと、人懐っこさ、そして誰にでも分け隔てなく振りまいてくれる笑顔……天使じゃぁ……この病院に舞い降りた、まいえんじぇるじゃぁ!!

天国のばぁさん!!儂、齢83にして新しい恋を見つけたぞぉ……この子の笑顔を見れば味気ない病室も、極楽じゃぁ……」

 

「おじいさん?私はまだ、生きてますよ?

いつまでも若いままなんだから……けど、浮気は許さないからね?」

 

「ばぁさん!?生きとったんか!?止めろ!放せぇ!!」

 

「ハイハイ、私が極楽に連れて行ってあげますねぇ……」

 

「い、嫌じゃ!!死にとーない!!木枯ちゃんのプルプルをみるまではぁあああ!!!」

おじいさんは、笑った笑顔の怖いおばあさんに病室の外に連れていかれた。

 

「むむぅ?そろそろ往診の時間じゃ……皆の衆、戻るぞ!!」

 

「おー」

 

「ぼー」

リーダー格っぽい老人に連れられ、他の老人たちが履けていく。

病室は再び静かさを取り戻した。

 

「えっと、木枯ちゃん?いろいろと大丈夫?」

 

「うん!もう大じょーぶ!ふふふ~、健康優良児の私にはこんなダメージなんともないのだ~!!」

まるでその事を証明するかの様にベットから起き上がり、目の前でスキップをして見せる。

老人たちの事は本人は全く気にしていない様だ。

だが、そんな事より天峰には気になる事が有った!!

 

「おおぅ……」

天峰の前で飛び跳ねる、木枯。

そのスキップの上下で同じく激しく上下するバスト!!

 

(すこし、わがままに動きすぎなのでは――)

そこまで考えて別の答えが天峰の中で生まれる!!

 

「まさか……ね?」

 

「ふぅ、あっつーい。疲れたー」

スキップを終えた、木枯がパジャマの胸元のボタンを開ける。

1つ、2つ、3つ……開かれていく部分に対してその下に有るべく衣類が見られない。

 

「付けて……ないのか……」

遂に思い至ってしまった天峰!

自身の中で、こんな事ってあるんだと思わぬ幸運に感謝する。

 

だが、すぐに考え直す。

 

(ダメだ、俺は幼女が好きなんだ!!

巨乳に、心を奪われるな!!別の事を考えよう、そう……なるべく関係ないことを!!

そうだ、ヤケだ。ヤケについて考えよう。

最近出番が無いヤケ、最近ナンパをしに行く度に上ヶ鳥に邪魔される八家、そんで失敗した日はなぜかポストに、田舎でナンパした子からの手紙が入ってるヤケ……)

 

必死になって自身の邪心を打ち消そうと、親友の事を思い浮かべる八家。

その妄想八家が天峰に熱く語り始めた!

 

『なぁ、天峰知ってるか?良くあるエロ漫画の展開で、思春期の女の子が「胸が小さいのがコンプレックスで……揉んで大きくしてほしいニャン!」って言うのは現実じゃ絶対やっちゃダメなんだぜ!!

なぜって、成長期の胸ってのはすっごくデリケートなんだよ。

それを鷲掴みにて揉むなんてもってのほかなんだよ!!

大きくしたいなら、睡眠でしっかり成長ホルモンを出して、規則正しくて栄養バランスの良い食事、更に胸筋を鍛えることなんだ、土地が悪いと大きなビルは建ちにくいだろ?だからちゃんと下着はつけないとダメなんだぜ!!

ハリのあるおっぱいはそんな努力によって成り立っているんだぜ?』

妄想内のヤケが嫌にいい笑顔でサムズアップしてくる。

 

「ちげーよ!!合ってるかもしれないけど、このタイミングではNGだよ!!」

 

「わわわ!!な、何道案内さん!!敵襲!?忍者?曲者?」

突然叫びだした天峰の言葉に、慌てて木枯が謎の拳法家っぽい恰好を取る。

 

「あ、いや。大丈夫だよ、ちょっと妄想の中の友人が、ね」

 

「?」

愛想笑いをしてごまかす天峰。

その様子を見て、木枯が良く分からないという顔をする。

 

「そ、それにしてもすごいお見舞いだね……」

話をはぐらかす様に、木枯の横に山積に成ったお見舞いの品を見る。

ソコには、花束だとか、フルーツのバスケットだとか、箱に入った高給っぽいメロンだとか、大きなぬいぐるみだとか様々な物が置かれている。

 

「まどかがくれたー。

昨日も遅くまで来てくれたんだよー。

あ!けど、看護婦さんに怒られてたよ。

えーと、スペース?を取り過ぎだって」

その言葉に、天峰が納得する。

確かにこの量だ、看護師から小言をもらってしまっても仕方がない。

 

「だから、個室を借り切ってお見舞いの品を置く為の倉庫にしようとしたんだって!」

 

「ええ……まどかちゃん……あの子賢いんだけど、変な所でバカになるな……」

天峰の脳裏に、夏休みの初期にやった流れるプールを貸し切っての流し素麺を思い出す。

今でもたまに、無数の素麺の流れるプールで溺れる悪夢を見る天峰。

 

「ぶー!まどかはばかじゃないモン!!私の方がばかだモン!!」

 

「いや、まどかちゃんを馬鹿にした訳じゃ……

ってか木枯ちゃんも自分を卑下しちゃダメ!!」

 

「ぶー!私は良いんだモーン、まどかを馬鹿にするのはゆるさ意無いんだモーン!!」

天峰の言葉に不服そうに、木枯が唇を尖らせる。

木枯はまどかに対して、依存にも近い感情を持っている。

厚い友情と言えばいいが、何処かそこには危うさも持っている。

そこを含めて、友情なのかもしれないが……

 

「うーい、林古ちゃん診断の時間だよー」

その時、病室の扉が開いてくたびれた容姿のやせた医者が入って来た。

その男に天峰は何処か見覚えがある気がした。

 

「ん?お前、ゴールデンウィークの時の……」

天峰の姿を見て、男が反応する。

どうやら見覚えが有るのは天峰だけではなかったらしい。

 

「えっと、誰でしたっけ?」

しかし天峰は全くと言っていいほど覚えていなかった!!

どっかで見た事ある、程度の認識。

 

「あー……俺の事忘れてんのかよ……」

露骨に嫌な顔をして、その医者は天峰の隣を通り過ぎ、木枯のすぐ前の椅子に座った。

 

「はい、林古ちゃんおはよう。調子はどうだい?」

 

「センセー、おはよー!!けど、私の名前はリンコじゃないよ?」

木枯がころころと笑いながら、先生に訂正する。

 

「あー、はいはい。木枯ちゃんね。

林古が本名なのに、なんでニックネームを使うんだ?

……まぁいいか。

さて、木枯ちゃん、体の調子はどうだい?痛かったり違和感が有ったりしないかい?」

くたびれた様子だが、ちゃんと医者としての矜持は有る様で、だるそうにだがちゃんと仕事を果たしていく。

 

「だいじょーぶ!!もう元気ー!!お外で遊んでイイ?」

 

「まぁ、念の為今日を最後に様子を見ようか。

んで、何にもなかったら晴れて退院だね。

良かったね。夏休み、少しだけだけど遊べるよ」

 

「本当!?やったー!!まどかにも教えてあげなきゃ!!」

先生の言葉を聞いた木枯が勢いよく立ち上がり、くるくるとその場で回る。

 

「はいはい、病室では大人しくね。

おい、坊主。この後時間あるか?有るなら付き合え。

食堂で待ってるからな」

疲れた様子の医者は天峰に耳打ちして、病室を出て行った。

 

「道案内さん行くのー?」

 

「うーん、俺としてはもう少しま木枯ちゃんと一緒に居たいんだけどな~」

 

「えー、けどちゃんと先生のいう事聞かないと怒られちゃうよ?

行ってきなよ、私はここに居るからさ!!けど、今度また外に行ける様に成ったら遊んでね!!」

 

「分かった、帰りにまた寄るよ」

手を振り天峰が背を向けると木枯は、笑顔を向けて天峰を送り出す。

なるほど、これなら老人たちのアイドルなのも納得できる。と思って天峰はさっきの先生を追った。

 

 

 

 

 

 

「よう、よく来たな。坊主、久しぶりだな」

お茶を飲みながら、くたびれた医者が話す。

 

「えっと、誰でしたっけ?」

 

「マジか?本当に覚えてないのか?

数か月前の事だぞ?」

全く覚えたいない天峰に対して、男が驚愕に眼を開く。

 

「どっかで見た……的な、のは有るんですけど……」

申し訳なさそうに天峰が告げる。

 

「マジかよ……この病院の旧館は覚えてるよな?」

 

「旧館?夕日ちゃんのいた――――あ!あの時の!!」

此処でやっと天峰は、この男が夕日の騒ぎの時の医者だと思い出した。

名前は――

 

「霧崎先生でしたよね」

 

「やっと思いだしたか、夕日からいろいろ聞いてるぞ」

満足したように、霧崎は話し出した。

 

「いや、マジで驚いたぜ。

お前、幻原先輩の息子だったんだってな?」

 

「かぁさんの事ですよね?」

先輩の部分に注意を向けながら天峰が聞き返す。

 

「そうだ、俺が大学時代の先輩、それが幻原先輩だった。

思い切りが良くて、ガサツに見えたなんでもソツなくこなす女。

正直言ってかなり好みだった、結婚して無かったらな~って何度も考えたよ」

冗談めかして、霧崎が話す。

 

「さて、偶然病院で夕日と知り合ったお前が、偶然俺が夕日の世話を頼んだ幻原先輩の息子だった訳だが――お前にはいろいろ感謝してるよ。

先輩だけじゃねぇ、お前にもな?」

言葉を促す様に、お茶に口を付ける霧崎。

 

「たまにだがな?夕日、この病院にまだ意識の戻らない母親を見に来るんだよ。

2日前にも来た、んで、眠ってる母親に何度も話かけるんだ。

『おかあさん、昨日ね。お兄ちゃんの田舎に行ったよ、すごく大きな牛が居たよ』ってな?目覚めない母親に対して何度もだ。

普通はもっと悲壮感が有るもんだ、可哀想ってみんな思うだろう。

けど、すこしだけアイツは違うんだ。アレでやっと母娘として話せるんだよ、言葉のキャッチボールなんかじゃない、ドッチボールだ。

一方的な言葉のやり取りだ、だけどそれでもアイツは幸せそうなんだよ。

お前なんだろ?お前が、支えてやってるんだろ?

アイツを見るとなんとなくわかるんだ。

なぁ、アイツの家族に成ってくれてありがとうな。

ひょっとしたら、近いうちに母親も目が覚めるかもしれない、その時はよろしく頼むぜ」

霧崎はそれだけ言うと、時計をみて「往診の時間だ」といって姿を消した。

天峰は、一人残された食堂で飲んだお茶を片付けた。

 

「家族か……」

無意識に天峰は、家に帰ろうとした足を止めた。

木枯に逢いに行く約束があったハズだ。

 

「体は一つか、みんなと仲良くしたいけど……

皆が恋人、なんて無理だよな。

皆きっと、誰かの『特別な一人』に成りたいはずだ。

ヤケの好きな漫画のハーレムエンドなんて出来ないんだよな……」

そう言って、天峰は木枯の病室へ向かった。

そろそろ、夏休みも終わる。




あ、そう言えばリバース系を書いてなかった。
たぶん次回はリバース世界での夏休みです。

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