リミットラバーズ   作:ホワイト・ラム

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さて、今回は少しタイミングを外した帰省回。
謎の一族、幻原一家のルーツが明らかになるのか?


見たかよ、私のドライブテク!!

ピリリリリッ……!

天峰の携帯電話に誰かからの着信が来る。

少し苦労しながらも、天峰はその電話を受ける。

 

「もしもし?」

 

『はぁい、天峰。突然だけど、明後日辺りどっか遊びに行かない?』

電話の相手は夘月だった。

肝試しをして以来、結構な頻度で遊びの誘いが来るようになっていたのだ。

今回もそのパターンの一つだろう。

しかし、天峰の答えは良くないモノだった。

 

「あー、ごめん。その日、ジィちゃんの家に居るから無理だわ」

 

『今更帰省中?まぁ、それなら仕方――』

 

「……天峰……揺らしちゃ……ダメ……」

天峰のすぐ近く、それこそ電話口で聞こえる距離で夕日の声が聞こえた。

ピシッと凍り付く様な卯月の気配に天峰の気がつく。

 

「えっと……卯月?」

 

『ねぇ、すぐ近くで夕日ちゃんの声がするんだけど……どういう体制で居るのかしら?

私が満足する説明、してくれるんでしょうね?』

電話越しだというのにプレッシャーが伝わってくる!!

コレが恋する乙女の実力か!?

 

「……私は……天峰の……膝の上……」

 

「あ、ちょ!?夕日ちゃん、本当の事言っちゃダメ!!

せっかく言い訳考えてたのに!!

えっと、ごめん。帰ったらちゃんと説明するから!!」

 

『あ、待ちなさい――』ブチッ!!

卯月の電話をきって、天峰が再びポケットに携帯をしまった。

 

「……天峰……嘘は……ダメ」

的外れというか、タイミングがおかしいというか……

そんな注意をしている間に、クラクションを鳴らしながら白い車が乱暴な運転で二人の横を追い抜いていく。

 

「あ”?あの車、私を煽りやがったな?チッ……

オィ、ガキども!!シートベルトしろ!!

ゼッテーぶち抜てやる!!」

夕日の言葉にかぶせる様に、幻原家の母親 天唯がアクセルを吹かす!!

家族5人の乗った車が加速し始める!!

 

「うをおお!?マジか!!」

天峰が体に掛かるGと夕日の体重を感じながら、こうなった経緯を思い出す。

 

 

 

事の始まりは約1日前に遡る。

 

「田舎に帰る?」

 

「そ。帰省ラッシュも過ぎた頃だし、このタイミングを見計らって毎年ウチは田舎まで帰ってるんだよ。

母さんの実家で山奥に有る上に遠いから、行くだけで一日以上かかるんだよ。

だから父さんは有休をもらって一日かけて帰省するんだよ」

夕飯の終わり、幻原両親の「明日から帰省するぞ」の一言で決まった要件。

と言っても天峰も天音も毎年の事なので大体理解していた。

 

「……私も……行くの?」

天峰の母親の実家、正直な事を言えば夕日は全く関係のない家となる。

幻原家に世話に成っているが、そこまでしていいのかという後ろめたさがあった。

 

「何言ってるんだい?夕日ちゃんも家族じゃないか。

それに、夕日ちゃん一人じゃ家事出来ないんじゃない?」

 

「む!……馬鹿にしないで……!!」

天峰の言葉に、夕日がむくれる。

その様子を天峰が笑ってみていた。

 

「あはは、ごめんごめん。

けど、今回は夕日ちゃんを紹介するっていう意味のあるハズだからね。

ある意味夕日ちゃんが主役だよ。

さ、大き目のカバン貸してあげるから、田舎に持っていくもの用意しようか」

 

「……カッターと……服と……」

 

「最初に来るのやっぱりソレ!?」

指折り数え始めた夕日を見て、半場予測していた天峰が驚く。

 

 

 

 

 

翌日

 

「みんな用意は良いかな?」

幻原家の父親 幻原 蒼空が最終確認とばかりに子供たちに声を掛ける。

 

「親父ぃ!!俺のアミ何処だ?」

 

「後ろに積んだよ。虫かごも一緒にね」

 

「じゃ、行くか?3人で大人しく座ってろよ?」

天唯が、後ろの席に座る天峰達に声を掛ける。

 

「俺、真ん中に座りてぇんだよ!!」

 

「……天峰と……話したい……ハイネは……隅に座って……」

早速天音と夕日の言い争いが始まっている。

後ろの3人席、真ん中に座りたい天音と天峰と並んで座りたい二人の意見が衝突し合う!!

 

「ああ”?何くだらない事で喧嘩してんだ。

オイ天峰、お前端座れ。

んで、夕日、お前は天峰の膝の上だ。

それでいいだろ?」

 

「……私は……構わない……」

 

「マジか!?」

半場冗談だった天唯のセリフに夕日が素早く反応して、天峰の膝の上に座る。

 

「ゆ、夕日ちゃん!?良いの!?」

天峰が自身の膝の上に座る夕日にあたふたと話しかける。

夕日自身はかなり小柄で、小学生と変わらない見た目をしているため大した重さではない。

というよりも、否応なしの夕日との接触&幸せな重みに天峰の顔はにやけ始めている。

 

「……重い……?」

 

「余裕、余裕」

にこやかに笑って余裕アピールをする。

その様子を隣で、天音が「マジかよ……」と小さくつぶやきながら見てた。

 

「うんうん、仲の良い事は素晴らしいね。

あの二人を見ると、昔を思い出すよ……

天唯ちゃんが運転してる間、膝に頭置いていい?」

 

「蒼空バッカ!!そういう事は、ガキどもが見てない所でやれよな……」

天唯が運転している最中だというのに、両親二人がイチャイチャとし始める。

両親が結婚してもはや20年近く、新婚当時の仲の良さは全く衰えていなかった。

たぶん結ばれるして結ばれた夫婦とは、こういう二人を言うのかもしれない。

とは言え、年頃の子供たちは流石に引き気味ではあるが……

 

「うえぇ……」

天峰と夕日、更には自身の両親と無駄に仲の良いメンバーに天音が辟易として携帯をいじり始めた。

 

「おい、高速入るから、そろそろ頭あげろ」

 

「はぁ~い」

高速道路に差しか掛かり、天唯の言葉にずっと天唯の膝に頭をのせていた蒼空が頭を上げる。

 

「わぁ……早い……」

夕日が、すごい速度で走っていく他の車に眼を輝かせる。

そんな感動を遮る様に、天峰のポケットから電話がかかってくる。

 

「む……電話……」

 

「ごめん、今出るから」

そう言って天峰は電話を取った。

 

 

 

 

 

「しゃぁ!!ざまー見ろ!!見たかよ、私のドライブテク!!」

 

「流石天唯ちゃん!ホレなおしたよ!!」

走り屋染みた車を追い抜かし、目的のサービスエリアで食事をとりながら嬉しそうにビールを手にする。

時刻はすっかり夜に成っていた。

朝の早い時間から、ずっと運転していた母親はお疲れの様だ。

今夜は、このサービスエリアに宿泊する予定だ。

このサービスエリア、数年前に再開発されレストランや売店は勿論、スキー場が近いと理由もアリちょっとした銭湯まで完備している幻原一家以外にも車内泊する一家も居る様だ。

 

「夕日ちゃん大丈夫?疲れてたり気持ち悪かったりしない?」

親子丼を食べながら、天峰が夕日を気にする。

 

「……大丈夫……問題……ない……」

クルクルとパスタをフォークで巻きながらつぶやく。

 

「けど、少し調子悪そうだよ?」

 

「兄貴、夕日はいつも顔色悪いだろ?もやしカラーで、げっそりしてるじゃんかよ」

天音がそう言うが、それでも天峰には夕日が少し疲れている様に見えた。

 

「仕方ないね。車は閉鎖空間だし、休憩を何度かしたけどそれでも成れないからストレスが有るのかもしれないね」

天峰の父親も心配そうに気にしてくれる。

 

「本当に……大丈夫……今日はゆっくり休む……」

周りに心配をかけまいと、話すが正直言うと心配な事が有った。

 

 

 

「んじゃ、俺たちは行ってくるから!」

天音がレンタルのタオルを手に、赤い暖簾をくぐる。

その暖簾には大きな字で『女』と書かれている。

 

「じゃ、サービスエリアの真ん中のカフェに出たら集合だね」

父親が、天音の頭に手を置いて手を振る。

此方は此方で、天峰を連れ添って『男』と書かれた暖簾をくぐる。

 

このサービスエリアの名物の露天風呂だ。

数年前からあって、天峰にとっては密かな楽しみだったりもする。

 

「うーん、気持ちい……」

手早く体を洗った天峰は、岩に囲まれた露天の湯に身を浸す。

父の言う通り車で一日中座っていた為、本人が気が付かない内に筋や筋肉が固まっていたらしい。

お湯の中で手足を伸ばす。

 

「年寄臭いな、天峰」

 

「父さん」

同じく露天に入って来た、父親に気が付きそちらの方を向く。

親子そろって、大きな風呂に体を伸ばす。

 

「夕日ちゃん、村に来たらどんな顔するかな?」

 

「さぁな。俺よりお前の方が、夕日ちゃんには詳しいんじゃないか?」

天峰の質問をさらりと返す。

のんびりしている様で、しっかりと自分の子供の事は見ている様だ。

 

「そっか、きっと驚くだろうなぁ……

驚くと言えば、どうして夕日ちゃんを家に引き取ったの?」

それは今更な質問だった、ゴールデンウィークが終り病院から帰ったら夕日は既に家族の一員として迎え入れられていた。

 

「母さんのアイディアさ。

学生時代、いや……知り合った当時からむちゃくちゃするけど、結局は一番大切な事はちゃんと見えてるんだよ。いや、本当は見えてないのかな?けどいいと思った事が何だかんだ悩んで決めた事よりも、打算抜きでやってる分、心がしたい事に正直なんだよ。

けど、周りには理解されにくいんだ……

母さんが何かを感じ取ったんだろうね、だからさ」

父の言葉に眼を丸くする天峰。

簡単に言えば、母が根拠なくなんとなくで引き取る事を決めた事を、こちらも何も考えず引き取る事を了承したという。

だが、そんな両親のやり取りがなぜか非常に「らしい」と天峰は思った。

 

「さて、明日は俺が運転だ。天峰、先に出て車で寝てるから、後は自由にな」

風呂から上がり、天峰を後にして出て行った。

天峰はもう少し浸かってから出る事にした。

 

 

 

「ふぃ、さっぱり……」

髪を乾かしながら天峰が、歩いていく。

高速道路内なので、空気はお世辞にもキレイとは言えないがさっぱりした気分で入浴の余韻に浸る事が出来た。

 

「あ、夕日ちゃん。もう出たの?」

 

「……天峰……」

土産物を見ている夕日に天峰が声を掛けた。

どことなく、気まずそうに見えたのは気のせいだろうか?

 

「あれ、夕日ちゃん。お風呂は?」

 

「………………」

天峰の質問に今度こそ、夕日は黙りこくってしまった。

俯いたまま、何も話してくれない。

 

「……他の……人……居るから……」

 

「え?――――あ、」

チラリと見える夕日の袖の腕を見て、天峰が気が付いた。

夕日は夏だというのに、長袖の服を着ている。

生地は薄手だがそれでも、夏場に着る服ではない事はわかっている。

 

「……傷……見せたくない……」

ぎゅっと自分の腕を押さえる夕日。

俯いて顔は見えないが、当然楽しそうな声音ではない事はわかる。

 

夕日の服の下、体には未だに多くの傷跡が残っている。

物によっては目立たなくなるだろうが、それでも一生消えない傷もかなり多い。

彼女の右目もその一つだ。

 

「夕日ちゃん……」

天峰は優しく夕日を抱きしめる。

小さな体が、震えてるのが分かった。

 

天峰の中ではもう終わった事でも、夕日の中では未だに――否、それどころか永遠に続いていく呪縛なのかもしれない。

正直いって、夕日をわかった様な気がしていた自分を殴りたくなった。

まだ、この子はこんな小さな体でまだ苦しんでいるのだ。

 

「夕日ちゃん……こっちにおいで」

 

「?」

天峰は夕日を連れ、レンタル出来るタオルを持ってサービスエリアのはじっこまで向かっていく。

黙って夕日は天峰に手をひかれている。

 

「はい、付いたよ夕日ちゃん」

 

「此処は?」

天峰が連れて来たのは、小さな小屋ともいえる粗末な建物だった。

場所も端、それも隠す様にひっそりと建っていた小さなボロイ小屋だった。

 

「数年前、此処が新築される前に有ったシャワー室。

殆どが壊されたんだけど、増築された此処だけは残ったんだよ。

未だ使えるハズだよ、殆どの客が大浴場に行くからボロっちぃけどね……

誰か来ないか、見張ってるからささっと入って来てよ」

 

「……わかった……」

天峰を残し、夕日がシャワー室へと入って行く。

残された天峰は自身の右手を開いた。

掌を真っ二つにするかのようにつけられた、傷跡。

コレは夕日のカッターを握りしめて止めた時の物だった。

 

父の言葉がよみがえる。

『いいと思った事が何だかんだ悩んで決めた事よりも、打算抜きでやってる分、心がしたい事に正直なんだよ』

 

「俺は、後悔はないぞ。夕日ちゃんに逢えてよかったと思う。

今までが辛いなら、これからは俺が沢山の幸せを上げたい……

コレが俺の心だ」

そんな事を言っていたら、横の扉が開き夕日が顔を覗かせた。

 

「……なんで……シャワー室を……熱心に……見てるの?」

責め立てる様な視線が天峰に突き刺さる!!

非常にいたたまれない気分で、天峰が言い訳する。

 

「べ、別に夕日ちゃんの事なんか、待ってないんだからね!」

 

「……ツンデレ風にしても……ダメ……」

ごまかすことは出来なかった!!

 

 

 

 

 

翌日、昼頃――

山の中、獣道に近い様なでこぼこした道を進んでいた車が一軒の屋敷の前で止まる。

 

「付いた様だな、ここの空気は澄んでる」

母親が笑い、村の空気を吸う。

数回の深呼吸後に、背伸びをする。

 

「あ!!天唯ちゃん、おかえり~」

屋敷の中から、黒いサマーセーターを着た髪の長いおしとやかな女性が姿を表す。

ゆったりしたロングのスカートが風に揺れる。

 

「……きれいな……人……」

 

「あーん、天峰君も、天音ちゃんも大きくなったわねー。

あ!この子が夕日ちゃん?かわいー!お人形さんみたい!!」

女性が今度は夕日を抱きしめて、ほおずりをする。

 

「おいおい、夕日が引いてるだろ?()()()

 

「え!?」

母親の言葉に、夕日がぴしりと固まる。

今、この人の事を何と呼んだ?

脳の処理が追い付かない、けど確かに――

 

「あ、ごめん。ビックリしちゃった?

私の名前は 幻原 天独(はじめ)

あなたの義理のお母さん、幻原 天唯のお兄さんだよ?」

 

「お、おねーさん、じゃないの?」

 

「はい胸、ぺったんこ」

夕日の手を取って自身の胸に付ける、確かに女性らしい膨らみは全くなかった。

 

「え、ええ?」

 

「うふ、夕日ちゃん。奥淵村へようこそ」

楽しそうに、その男は笑った。




気が付くとこの作品も90話近く。
そして読み直してみると、驚きの事実が。

作品のスタートはゴールデンウィークが始め、今は夏休みの後半、要するに8月。
3ヶ月しか経ってない!?

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