リミットラバーズ   作:ホワイト・ラム

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さて、夏場のバイトも今回で終了です。
次は、天峰達の帰省かな?


ムービー撮っていい?

「わぁはぁ……文明の利器ですねぇ!!」

まどかの家のキッチンにて、藍雨が食器洗い機を見て目を輝かせる。

実家が道場である藍雨の家は確かに、こんなものがあるイメージはない。

ボタンを見ながら、きらきらして目で食器洗い機を見ている。

 

「一片に済むのは助かるよね。

といっても、まどかちゃんの分だけ洗うのはもったいない気がするけど……」

そう言いながら、天峰がまどかの使った食器をタオルで拭いて食器棚に戻しておく。

冷蔵庫を見たがかなりの食材があり、明日までどうにでもなりそうだった。

 

「ね、ねぇ?晴塚……さん?」

 

「藍雨で良いですよ、まどか先輩」

ひょこっと出て来たまどかに呼ばれて、藍雨が部屋を出ていく。

何かな?と思いながらも天峰は、洗い終わった食器を拭いて棚に戻していく。

 

「先輩!!先輩!!見てください!!これ、借りちゃいました!!」

数分後戻ってきた藍雨の姿をみて、天峰が食器を落としそうになる。

 

「あ、藍雨ちゃん!?その恰好――」

 

「メイドさんですよ!!」

黒いドレスに、白いエプロン、頭にはカチューシャが乗っている。

クルリと回ると、長いスカートが翻った。

藍雨の姿はメイド服!!メイド、ナース、巫女服はもはや記号化された『萌』の象徴だが、やはり実物を見るのとは違う!!

まだ幼い容姿の藍雨が、メイド服!!

小さな子が背伸びしている様で、しかし藍雨の家事能力を知っている事で妙にしっくりくる所もある!!

極端な話すごくイイ!!

 

「かわいいよ!!藍雨ちゃん!!すっごく似合ってる!!写真撮っていい?」

カシャカシャカシャ!!

 

「先輩、もうすでに撮ってますよ?」

藍雨に指摘されて自身の右手を見ると、確かに携帯のカメラで藍雨のメイド姿を撮っていた!!一体何時から?なぜ取っていたのか分からない!!

催眠術や超スピードなんかではない!!もっと本能に忠実なロリコンのサガの片鱗を天峰は見た気がした!!

 

「あ、ごめん。無意識に……やってた」

 

「仕方ない先輩ですね、少しだけですよ?」

 

「うん!!」

カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ!!

 

「と、撮り過ぎでは……?」

 

「まだだよ!!藍雨ちゃん!!藍雨ちゃんは今、一瞬ごとに進化してるんだ!!

その過程を、全部、全部撮らなきゃ気が済まない!!

さて、藍雨ちゃん、スカート少し持ちあげてくれない?ふくらはぎが見える位――」

 

「快晴気流!!濁流河川衝!!」

天峰が欲望を見せた瞬間!!天地がひっくり返る!!

気が付くと、自身を見下ろす藍雨がいた。

 

「ダメですよ天峰先輩?今はお仕事中ですよ?」

困った様に笑う藍雨、忘れていたが藍雨は物理がなかなか強い。

というか、本気を出せば天峰位簡単に気絶させれるらしい……

 

「さ、さて!!お仕事に戻ろうか!!」

冷や汗をかきながら藍雨に提案する天峰、肝が冷えたのは冷房のせいだけではないハズだ。

 

 

 

 

 

「まどかちゃん、お昼は何が良い?」

 

「私達、作りますよ」

 

「す、少し待ちなさい……」

天峰と藍雨がまどかの部屋へ行くと、いそいそと一枚のチラシを持って来た。

カラフルな見た目の食べ物が沢山乗っている。

特段珍しい物ではない、天峰も何度も食べている物だ。

しかし、まどかは珍しく動揺しながらそのチラシに載っている物を指さす。

 

「この、ピザという物が食べたいですわ……」

 

「食べた事、無いの?」

まるで今まで食べた事に無いかの様に話すまどかに対して、思わず疑問が口から漏れた。

 

「そ、そうですわ……ホテルでのランチなどは何度も有りますが……

前々から、食べてみたかったのですが……

その、佐々木が頼ませてくれませんの……」

気まずいのか、しかしそれでも興味があるのか。

不安半分期待半分という顔で、尚もチラシを見ている。

 

「ふぅん。宅配ピザを食べた事ないなんて、意外だな~

藍雨ちゃんも、そう思うでしょ?」

 

「え!?えっと、実は私も頼んだ事は無くて……

お母さんが、作ってくれた事は有りますよ?」

 

「藍雨ちゃんも無いの?」

しょっちゅう利用している訳ではないが、何度かはある天峰。

最近のこはあまり頼まないのか?と疑問を感じながらまどかからチラシを受け取る。

 

「分かった、お昼はこれにしようか。

佐々木さんには秘密だよ?」

天峰は自身の携帯に、チラシの番号を打ち込んでいく。

一瞬だけかけてすぐに切る。これで携帯の履歴から簡単にかけれる。

 

「さて、何にする?」

チラシにはデカデカと、様々な商品が載っている。

どうやらキャンペーン中で一枚頼むと、もう一枚サービスしてくれるらしい。コレは利用しない手はないだろう。

 

「な、何が良いですの?沢山あって、困りますわ……」

 

「和風って、どんな風に和風なんですかね?」

 

「苦手な物ってある?個人的に、このシーフードミックスがおいしそうだけど?」

三人そろってキャッキャ言いながら、あれやこれやと指をさしながら決める。

にぎやかさを楽しみながら、天峰は携帯で注文を済ませた。

 

 

 

「ほほぉ!!コレがピザですねの!!」

 

「すごいです!!出前みたいに持ってきてくれるんですね!!」

始めての宅配ピザにまどか、藍雨両人が目を輝かせる。

結局、決めたい物が決まらずSサイズのピザを3枚も頼んでしまった。

しかし二人はそんな事気にしていないらしい。

 

「はい、二人ともコレ。

しょっぱいから、飲むといいよ」

ピザが来るまでと、出掛けていた天峰がビニールからコーラを取り出す。

 

「まぁ、食事にコーラですの?」

 

「不思議な感じです……」

アメリカンな食事風景に、二人が慣れないながらも食事を楽しんでいるのが分かる。

気が付くと3枚あったピザは全てなくなっていた。

 

「はぁ、満足ですわ……シェフに伝えてください」

 

「う、うん」

ズレたまどかの言葉を聞きながら天峰は小さく頷いた。

まだまだ、仕事は有る。

天峰はそれを片付けに行った。

 

 

 

「こんなもんか……」

全体の掃除は出来ないが、まどかの服を洗濯して庭に干す。

暑い夏の日差しの中、天峰が干した洗濯物が風に揺れる。

確かな満足感を感じて、その場を後にする。

 

「次は、こっちだ」

浴場の扉を開けると、藍雨がブラシで床をこすっている最中だった。

どうやら自発的にやってくれた様だった。

 

「あ、先輩。私にもお仕事手伝わせてくださいよ」

藍雨のメイド服のスカートが捲られ、健康的な足が見えている。

 

「ごめんごめん。今度はちゃんと頼むからさ。

所でムービー撮っていい?一時間分くらいで良いから」

 

「絶対ににダメです!!」

いけないと解りながら視線が藍雨の足元に向かってしまう。

さらに運よく転ばないかな~などとも考えてしまう。

 

「じゃあ、夕飯の買い出し、お願いしても良いかな?」

 

「はい!何を作るんですか?」

 

「牛丼さ」

天峰が藍雨に向かって笑った。

 

 

 

 

 

「すごいですわ……お肉をこんなに薄くスライスできるなんて……!!

まさに職人技ですわ……!!」

 

「いや、普通にスーパーで売ってるんだけど……」

牛丼を突きながら感動するまどかを見て、小さく天峰がツッコミを入れた。

 

「まどか先輩って少しズレてますね……」

藍雨までもが、彼女の微妙に世間知らずな所を天峰に耳打ちする。

彼女は彼女で、ズレた所は大きく有るのだが……

 

「まぁまぁ、テレビでも見ながら食べようよ」

3人で食卓に座り、部屋の端にある大画面テレビを天峰が付ける。

人並な幸せだが、テレビを見ながら食事が出来るのはなかなか贅沢な事の気がすると天峰は思っている。

 

「食事中にテレビ?行儀が悪くありません?」

 

「お家じゃ、叱られちゃいますよぉ」

まどか、藍雨の両人が天峰を諫める。

どうやらここでも微妙に生活の違いが出ている様だった。

 

「あ~、なんかごめん……」

謝りながら天峰が、テレビを消す。

3人の声が聞こえる中再度食事が始まる。

 

 

 

「じゃ、俺はコレ洗ってくるから」

 

「私も手伝いますよ」

天峰が3人分の食器を持って立ち上がると、藍雨が付いてくる。

しかし天峰はそれを断った。

 

「大丈夫だよ、3人分だし食器洗い機に入れるだけだから。

まどかちゃんの相手をよろしく」

そう言うと天峰が部屋を出て行った。

 

「ふん、ふふ~ん♪」

軽く鼻歌を歌いながら、皿を軽く水で流して食器洗い機に入れる。

只のバイトモドキだと思った仕事だったが、思った以上に楽しくてしょうがない。

 

「意外と俺って、世話を焼くのとか好きなのかも……」

思わずにやけながら全ての食器を仕舞い手を拭いて、まどか達の部屋へと戻っていく。

天峰の中では、この後起きる幼女たちとのお泊り会に心を躍らせる。

 

 

 

 

 

「藍雨ちゃ~ん、まどかちゃ―――」

 

「ヒィ!?」

 

「あわわ!!」

テレビを見ていた二人が同時に飛び上がる!!

二人して走って来て天峰に飛びついた!!

 

「ふ、二人ともどうしたの!?」

 

「べ、別になんでも、あ、あああ、りません、わ!!」

 

「は。はひ……て、テレビが……」

藍雨の言葉に習い、テレビに視線を向けると……

 

『恐ろしい事に、女の顔が映りこんでいる……

まるでこの世に深い未練が――』

夏の季節に良くやっている、ホラー特集だ。

そう言えば、天音が見たがっていたなと、天峰が思い出す。

 

「怖いなら、チャンネル変えようか?」

 

「わ、私が怖いハズありませんわ!!

この、私に恐れるモノなど何もありませんもの!!」

震えながらも、天峰に抱きつくまどか。

 

「わ、私は怖いです!!け、けど、見ちゃうんですよね」

同じく藍雨もくっ付いてくるが視線はテレビにくぎ付けだった。

まさかの幼女二人からの抱擁に天峰が思わずにやけた。

気丈なまどかが怯えている姿は、新鮮で意外な気がする。

 

「さ、最後まで見てやりますわ!!これ位で、怯えるなんてありえませんわ!!」

 

「先輩、急に動かないでくださいね?」

怯える二人を両脇に抱え、柔らかいソファーでホラー番組を見る天峰。

 

「うわぁ!!!」

 

「ひ、ひいい!!」

ナニカ有るたび、小さな事で二人はオーバー気味にリアクションを上げる。

その度に天峰は小さく苦笑する。

 

「二人とも怯えすぎ、怖くないって」

 

「こ、怖がってませんわ!!」

天峰がからかう度に、まどかが怒りで自身の恐怖をごまかす。

しかしそれももう限界が近い事は誰の目にも明らかだった。

 

『いかがだっただろうか?恐怖の世界はきっと貴方のすぐ近くに……』

おどろおどろしいナレーションが流れ、番組は終了した。

時刻も寝るには丁度良い時間だ。

 

「さて、そろそろ寝ようか?」

天峰が二人の間から立ち上がる。

休憩室としてあてがわれた部屋へと向かうのだ。

 

「ま、待ちなさい!!しょ、庶民が怖がるといけないので今日は特別に一緒に寝てあげますわよ!?」

 

「天峰先輩、待ってください!!」

二人が天峰を呼び止める。

その様子はすっかり怯えてしまっている事が容易にわかる。

 

「えっと……流石に、3人では寝れないよ?」

 

「私のベットはキングサイズですわ!!藍雨さんも私も小柄なので大丈夫ですわ!!」

 

「わ、私を一人にしないでください……」

まどか藍雨両名に袖を引っ張られた天峰は――

 

「しかたないな~」

すさまじく幸せだった!!

 

 

 

 

 

翌日――

 

「……おかえり……楽しかった……?」

家で夕日が天峰を迎える、どうやら待っていてくれた様だった。

 

「うん、バイト代までもらっちゃったよ。

また、呼ばれないかな~」

ほくほく顔で、夕日の横を通り過ぎようとする天峰。

 

「……変な事……してない……?」

 

「す、する訳ないじゃん!!まどかちゃんは普通の友達だよ!!」

夏だというのに、うすら寒い感覚が背中を撫でる。

 

「……天峰」

夕日が天峰に優しく抱き着いて来た。

急な出来事で、天峰が慌てる。

 

「ど、どうしたの?いきなり……」

 

「……藍雨ちゃん……まどかちゃん……の匂いがする!!」

 

「うぇ!?なんで、なんでわかるの!?」

見事に言い当てた、夕日に天峰が驚く!!

 

「天峰の事なら、みんな知ってるよ?

ぜ~んぶ知ってるよ?」

ニヤッと嫌な笑顔を張り付け、小さく天峰の耳元でささやく。

 

「ハイネに言ったら……どうなるかなぁ?」

 

「な、何が目的だ!?」

いきなりの夕日の脅迫に天峰が慄く!!

 

「私……アイスが食べたいな~

高いヤツ……ねぇ、お兄ちゃん……

私とお出かけしようか?あはッ!!」

 

「ま、まさかの強制デート!?」

 

「……デートじゃ……ない……」

 

結局天峰はストッパーである天峰が居なくなった天音に、さんざん振り回された夕日のうっぷん晴らしに付き合わされたのだ。




ピザって意外と高い……
今日昼に買って食べたんですよ、意外と美味しいからびっくり。
前は、もっとまずかったと思ったのに。

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