リミットラバーズ   作:ホワイト・ラム

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さて、今回はあの子が復活。
どのように関係していくのか……!!


うぁ……これは、ひどい

家族の団らんの時間夕食時。

季節は夏、この時期では素麺や冷やし中華などの冷たいさっぱりした物が夕食に並ぶことが多いだろう。

だが幻原一家は少し違う、食卓を囲みキムチ鍋を楽しそうに突就いている。

 

「あーうめぇ!!やっぱ、夏はあえてのキムチ鍋だよなー」

シャツを羽織った天音が、麦茶を飲み干して笑った。

母親も父親もその様子を見てにっこり笑う。

 

「あまり夏にこういう物を食べる事は無かったかな?」

父親が夕日に尋ねた。

家によっては有るらしい、夏場のキムチ鍋。

夕日が少し困惑気味の表情をしているのに気が付いた父が尋ねた。

 

「……辛い……熱い……けど……好き……」

 

「うっし!!〆はうどんだぞ!!」

夕日の言葉を聞いて、母親も楽しそうに話す。

最早すっかり夕日の日常となった家族の団らん、そんな中天峰が口を開いた。

 

「あ、そうだ。明日、明後日ちょっと家を出るから。

朝ご飯食べた後、次の日の夜まで帰らないから」

 

「明後日夕飯は居るか?」

 

「いらない」

急な泊りがけの天峰の用事、母親は気にした様子もなく父親は口出しする事もない。

いい意味でも悪い意味でも幻原家の両親は、自由放任主義の様だ。

 

「おっ?アニキお泊りデートか?ヤルな!!」

 

「別にコトに及んでいても構わないが、相手を悲しませるなよ?」

天音、母親が天峰をからかった。

というか母親はこれでいいのだろうか……

 

「まぁ、ちょっと家事の手伝いを頼まれてさ~」

 

「…………」

夕日は困った様に笑う天峰をじっと見ていた。

 

 

 

 

 

事の始まりは一本の電話だった。

 

「あの……此方、幻原 天峰様のお宅でしょうか?」

凛とした、佇まいで意志の強さが現れている様な声がする。

気の強そうな声が電話越しに響いてくる。

 

「まどかちゃん。どうしたの?」

相手に心当たりがあった天峰が軽く答える。

 

「あら、庶民自ら私の電話を取るとは感心な心掛けね。

実は今日は貴方に頼みが有って、わざわざ電話をかけていますの」

相手が天峰だと解ったからか、急に電話口でのまどかの態度が高圧的になる。

すさまじい態度の変化、天峰が感心しながら聞く。

 

「で?なんの用事?」

 

「……実は、来週の木金と佐々木が居ませんの……

特別に私の世話をさせてあげますわ!!」

頼むというのに、相変わらず高圧的な態度を崩さずに言い放つ。

頭を下げるのが好きではないのだろうが、あまり褒められた態度ではない。

しかし天峰は、まどかの不器用さと素直にされない性格を知っている。

 

「要するに、佐々木さんが用事で居なくて。

心配する佐々木さんに対して――――

『大丈夫ですわ!!あなたが居なくても、この私が困る訳ありませんわ!!すきに自分の用事を済ませてきなさい!!』

とでも言っちゃって、その後不安になったから俺を呼んだってところかな?」

 

「見てましたの!?何処かでカメラとか仕掛けてました!?」

よっぽど天峰の予想が正確だったのか、目に見えてまどかが慌ては始める。

余裕の失った態度を天峰は面白そうに聞いていた。

 

「わかったよ。その日は一緒に居てあげるよ」

 

「~~~~ッ!!か、感謝しなさい!!タクシーを手配しますから都合のいい場所を――」

 

「あ、ちょっと待って!もう一人呼びたい子が居るんだけど、その子にちょっと連絡すするから待って!!」

狂わされた態度を取り戻そうとするまどかに、天峰は声を掛けて制止する。

 

「?」

電話越しにまどかが不思議そうな声を上げた。

 

 

 

 

 

翌日

「わぁ!!タクシーなんて、リッチですね先輩!!」

 

「確かにそうだね、あんまり乗らないしね」

まどかの手配したタクシーに揺られる大小二つの影。

一つは天峰、もう一つは天峰の呼んだ藍雨だった。

 

「付きましたよ、お客さん」

運転手が、大きな屋敷の前に二人を下ろす。

すでにお金を受け取っている様で、すぐに二人を置いて出て行ってしまった。

 

「さてと、急に呼んでごめんね?少し家事に自身が無くて……」

 

「大丈夫ですよ先輩!!私にお任せです!!」

家事が好きのか、きらきらした瞳で藍雨がほほ笑んだ。

そう!!天峰が呼んだ新たな人員とは藍雨の事。

 

正直な話、天峰はある程度料理は出来るが特に得意という訳ではない。

その為、天峰達の中で最もお嫁さん能力が高い藍雨を呼ぶことにしたのだ。

藍雨本人はそれを快諾し、その母親も「天峰君が付いているなら」と了解してくれた。

 

「ご機嫌よう、お二人とも」

扉が開き、まどかが顔を覗かせた。

何処かその表情はお疲れ気味だった。

 

「まどかちゃん、おはよう」

 

「まどか先輩、おはようございます」

心底ほっとしたのか、まどかは力なく笑った。

 

 

 

 

 

「うぁ……これは、ひどい」

 

「食材さん達が可哀想です!!」

ぐちゃぐちゃになった台所を見て、天峰の藍雨が口を開く。

謎の粉が飛び散り、カップは割れ、棚は大きく開け放たれている。

 

「こ、紅茶を淹れようとしましたの……」

恥ずかしそうに、まどかが口を開いた。

二人の視線の先には、蓋の間からあふれんばかりの茶葉を覗かせるティーポッドが。

そこ言葉通り、努力の後は確かに見て取れた。

そう、努力はしたのだ、努力は……

 

「まどかちゃん……最近の小学生の子でも紅茶は淹れられるよ?」

 

「そ、そんな訳ありませんわ!!私以上に優れた小学生が居る訳は――」

 

「あ、紅茶がはいりましたよ」

避難するかのような目で見る天峰に、言い訳するまどか。

そこに、台所ててきぱきと片付けて、さらに残った茶葉で紅茶を淹れた藍雨がカップを差し出して来る。

 

「あ、ありがと……あ、味は合格ですわ……一応ですけど……」

一瞬呆然となりながらも、まどかが震える手で紅茶を手にする。

天峰、まどかが言い合っている間に藍雨は茶葉を鍋に移し、多めのお湯で丁度いい濃度にした様だった。

 

「本当ですか!?嬉しいです!!」

↑小学5年生。

 

「まだ、おかわりありますからね。

麦茶みたいに大き目の器を用意して、冷蔵庫で冷やしておきますね。

あと、ガムシロップも作りましょうか」

余った紅茶を入れかけて、常温で少し冷ます。

その間に、砂糖を使ってガムシロップを作り始める。

 

「ゆ、有能ですわね……貴女……」

 

「そんな事ありませんよ?お母さんのお手伝いで覚えただけですよ?」

褒めるまどかに対して少し謙遜しながら藍雨が笑う。

褒められてうれしいのか、その顔には隠し切れない喜びを感じた。

 

「おお!!この紅茶美味しい!!こんなの初めてだよ!!

藍雨ちゃんはすごいな~、いつでもお嫁さんに行けるよ」

同じく紅茶を飲んだ天峰が、藍雨を撫でて抱きしめる。

 

「お、お嫁さん……ですか……」

天峰の言葉に、耳まで赤くしてイヤイヤと首を振る藍雨。

その様子をニヤニヤと天峰が眺めていた。

 

 

 

藍雨の淹れた紅茶とクッキーをもって、中庭にあるお茶会用のテーブルにやってきた3人。

そこで改めて、まどかが口を開いた。

 

「さて、先ずは今回貴方を呼んだ理由ですが――」

 

「佐々木さんが居ないからでしょ?一人では不安なのも知ってるよ。

けど、佐々木さんどうしたの?」

まどかの言葉を先回りして、天峰が話す。

この部分はもうすでに藍雨に話している、しかしここから先は知らされていない。

 

「佐々木は……葬式に行きましたわ」

 

「えっ!?――――それは、ごめん……悪い事聞いたね……」

察した天峰が、まどかに謝った。

しかしまどかはそれを瞬時に否定した。

 

「違いますわよ?別に佐々木は死んでませんわよ?

死んだのは、佐々木の曾祖父ですわ。

田舎に戻ってるだけですわよ?」

誤解を解こうと、まどかが説明をしてくれる。

 

「なーんだ、良かった。安心したよ、佐々木さんの曾祖父が――ん?」

ここで天峰がおかしな事に気が付く。

曾祖父という事は、分かりやすく言うと『ひいお爺ちゃん』お爺ちゃんのお父さん、という事になる。

そして佐々木さんは白髪のナイスミドル……

仮に、佐々木さんの年齢を60として、20で早めに子供を産んだとして……

 

佐々木60➟佐々木父80➟佐々木祖父100➟佐々木曾祖父120?

 

トンでもなく長寿の人となるのでは!?

 

「あれ???まどかちゃん、佐々木さんの年齢って幾つだっけ?」

 

「還暦と言っていたので、60かしら?」

 

「?????」

何度計算しても、今回の葬式された人の年齢がおかしい!!

少しだけ、天峰が不安になった。

 

「ま、まぁ、それくらい長生きの人もいるよね……」

これ以上考えな様に決めた天峰、露骨に話題を変えに掛かる。

 

「そ、そう言えば、木枯ちゃんは?いつも一緒にいるイメージだったけど?」

そう言えば、何時も一緒に居た能天気なあの子がいない事に天峰が気が付く。

その話題を振られた瞬間、まどかの顔が露骨に曇った。

 

「出涸らしは、なんて言いますの?夏休みのテンションのせいでしょうか?

『今なら飛べるー』とか言って、庭に飛び降りて骨折して家に居ますの……」

 

「ええ……木枯ちゃん……何やってるの……」

頭のネジ的な物が外れている様な彼女だが、まさかここまでとは……

天峰があまりの馬鹿さ加減にあんぐりと口を開く。

 

「たぶん、2、3日で戻ってくると思いますが――

はぁ、なんであの子はあんなにおバカなんでしょう?」

やれやれと言ったように、頭に手をやる。

 

「なんだかんだ言って心配してるんだ。優しいね」

微笑ましい事態に、天峰がまどかの笑いかける。

 

「そ、そんな事ありませんわ!!出涸らしがおバカだと、一緒にいる私の気品がそ行われるからですわ!!」

天峰のにやにや笑いを受けながら、まどかが激しく否定した。

そこを認める事は出来ないらしい。

 

「さ、さて!!話はこれで終わり!!終わりですわ!!

今日、明日とアナタ達二人には佐々木の代わりに私のお世話をお願いします。

勿論バイト代も出しますわ!!」

 

「素直に助けてって言えばいいのに……

藍雨ちゃん、コレがツンデレって奴だよ」

 

「へぇ~、コレが有名な」

 

「違いますわ!!」

まどかが勢いよく否定した。

その様子を二人でにやにやしながら見ていた。




藍雨ちゃん、まどかちゃん復活。
藍雨ちゃんは書いていてニヤニヤしてしまうキャラです。
流石ヒロイン0号(夕日ちゃんが居なければメインを飾ったハズの子)

まどかちゃんは、からかって遊べる子です。
強気な子が、責められるのって良くない?
次回に続きます。

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