公式不遇なあの人の活躍はいかに!!
「肝試し~?」
「そうよ!!今日あるらしいのよ!!行きましょうよ!!」
携帯電話から聞こえる卯月の声に天峰がめんどくさそうに答えた。
突然電話が来て最初の一言が「肝試しに行きましょう」ではだれでもこうなってしまうだろう。
「嫌だよ、めんどくさ――」
「肝試し?行きたい!!行きたい!!」
「……悪くは……ない」
断って電話をきろうとした時、後ろで勉強(遊びに)来ていた夕日、玖杜の両名がリアクションを示した。
「二人とも行きたいの?」
「行きたい!!」
「……うん」
電話に手を当てて、幼女二人の意見を聞く。
天峰の考えとは裏腹に、二人とも行くき満々らしい。
「うーん……」
……
………………
………………………………
……………………………………………………
天峰の脳内で高速シュミレーションが始まる!!
暗い墓場、怯える幼女二人!!
「……天峰……怖い……手を……繋いで……ほしい……」
怯えた夕日が、おずおずと手をさし伸ばす。
何時もより姿が小さく見えるのは、なぜだろうか?
「おにーさん!!怖いよ!!手を繋いでね!!放さないでね!!」
同じくクノキまでもが震えて、天峰に抱き着かんばかりにくっついて来る。
痛いくらいに握られる手、二人の幼女に挟まれる天峰……
「よぅし!二人とも俺の胸に飛び込んでおいで~うふふふふふ……」
「「うわぁ~い!!」」
その様子はまさに天国!!ユートピア!!
天峰の望むモノがそこにある!!
……………………………………………………
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………………
……
「うっふふふ……」
「うわぁ……おにーさんがすさまじい笑顔を誇っているよ……なにコレ?
ヤバいおクスリでもキメてるの?」
「……問題……ない……偶に……ある事態……」
天峰の笑顔に軽く引く玖杜、それを成れた様子で静かに見守る夕日。
一方卯月は全く返信が来ない電話に向かって何度も声を掛けていた。
「解った、卯月。今日一緒に肝試しに行こう!」
「本当!?確かに聞いたわよ、夜の8時に3丁目の墓地に集合だからね!!」
非常に楽しそうな、口調で卯月が電話をきった。
「やったわ!!天峰を、肝試しに誘えたわ!!
これで、二人の仲も急接近よね!!
浴衣……浴衣着て行かなくっちゃ」
そそくさと前もって準備していた浴衣を見る。
こっそり紅でも差そうかと、化粧棚を見る。
卯月の脳内では、天峰にくっついたり、二人で暗い中密着する事しか考えていない!!
「よし、夕日ちゃん&クノキちゃんと一緒に肝試しだ!!!
うふふ……怖がらなくていいよ、俺が付いてるからね~」
天峰が密かにほくそ笑む、その脳内では幼女二人と一緒にくっついたり、トラブルが起ったりすることしか考えていない!!
「おにーさん達と、肝試しか~
いいねぇ……」
玖杜が楽しみにする、その心中では夏休みのイベントを自身の友人たちと過ごせるリア充っぽいイベントに胸をときめかせる。
画面の向こう、ゲームやアニメ、漫画のキャラクター達がやってるのを見ているしかなかったイベントが自分に来るのだ。
コレは期待しない訳がなかった。
ワクワクと勉強をしながら、夜を待つ。
「……………………肝試し……」
ゾンビ、流血、瀕死、悲鳴。
密かにホラー映画やスプラッタが好きな夕日は、一体どれだけ工夫を凝らしてこちらを怯えさそうとするのか、運営側の努力に期待していた。
見事にすれ違う4者の思惑!!
様々な計画を持って、運命の時間は進んでいく。
約束の時間。
4人は肝試しの会場にやってきていた。
墓場を利用した場所で、お寺が主催している様だった。
バチ当たりな気がするが、お寺がやっていいと言うのだ、良いんだろう。
結構な数のカップルや、おかしな奴ら、あと怖い物見たさで集まったメンバーたちが居た。
「た~か~み~ね~?な~んで、夕日ちゃん達が居るのかしら~」
額に青筋を立てた、卯月が笑顔で天峰を睨む。
何というかオーラ的な物が上がっていて、中途半端な幽霊より怖い気がしてならない!!何気に卯月と初対面の玖杜に至っては、伊達眼鏡をかけて自分の世界へと逃げ帰ってしまっている。
便利なメガネだと思う天峰、そんな様子を相変わらず冷めた目で見る夕日。
そして……
「なんで、お前らここに居んの?」
そんなメンバーを見つけて、驚く八家。
「そっちこそ、なんで8兄が居るの?ボッチなの?さみしい人なの?友達いないの?去年のクリスマスは男子シングルだったもんね」
玖杜が、可哀想な人を見る目で自身の兄に対して哀れみをかけた。
半分くらい悪口な気がするが、軽口を言い合える程度に兄妹中は良くなった様だ。
「ひ、一人じゃねーよ……ほ、ほら、上ヶ鳥もいるし……」
八家が胸ポケットを指で軽く突くと、首に鈴つきリボンを巻いた嘴まで真っ青なひよこが顔を出した。
「ぴぃ!」
「よう!」
「……こんばんは……」
まるで挨拶をするかの様に、メンバーに向かって鳴いて見せるひよこ。
反射的に天峰と夕日が挨拶を返す。
「なんで俺より、コイツにする挨拶が丁寧なんだよ!!」
八家が二人にツッコミを入れる。
自身の立場がカラーひよこより下だとは思いたくなかった!!
「ぴィぴィ……」
まるで慰める様に、ポケットから飛び出た上ヶ鳥が八家を羽で撫でる。
それを見た八家が優しく上ヶ鳥を撫で返す。
「俺の事をわかってくれるのは、上ヶ鳥だけだよ~」
「ピィピィ……」
ひとしきり撫でられ終わった後、上ヶ鳥は自分で胸ポケットへと帰っていった。
なかなか賢い生き物らしい。本当にひよこなのだろうか?
「まもなく、肝試し大会始まりま~す」
坊主が現れ、説明を始めた。
ざわざわと参加者たちが集まっていく。
「墓場内は順路が矢印で決められています。
チェックポイントは5つ、それぞれの場所に合言葉が書かれています。
今からお配りする紙に五つの合言葉をすべて順番通りに書いてもらいます。
正解者には抽選で豪華特典、線香と提灯一年分。外れても参加賞として饅頭がもらえます、では皆さん参加用紙に名前を書いて投稿ポストへ投入してください。
基本2人一組です、一名の方は相方待ちになりますので一名様ポストに投稿してください」
天峰達に参加用紙が配られる。
当然ここで問題になるのは、チーム分けだ。
「さて、俺、夕日ちゃん、クノキちゃん、八家、卯月のメンバーなんだが……一人余るぞ?」
天峰が他のメンバーをみて一言上げた。
「あ、阿弥陀よ!!阿弥陀くじで決めましょう!」
卯月が誰かが何かを提案する前に卯月が手早く、自身の参加用紙の裏に阿弥陀を掻き始めた。
それを見た他のメンバー達も、ぞくぞくと自身の名前と阿弥陀くじに棒線を引いていく。
「さぁ!始めるわ!!」
勢い急いで、始める卯月!!
その結果……!!
天峰&玖杜「妄想系暴走コンビ」誕生!!
「クノキちゃんよろしくね?」
「おにーさん、暗闇は人を獣にするっていうけど……おにーさんは、成らないよね?」
八家&夕日「エロス&タナトスコンビ」
「夕日ちゃ~ん、怖かったら手を握ってあげるからな!!」
「……お……こ……と……わ……り……」
余り
卯月 シングル
「何よ……私が何したってのよ……」
一人さみしく余った卯月が、ぶつぶつと一人用ポストに自身の紙を入れに行った。
「あ~イライラするわ……」
くじの結果一人あぶれた卯月、同じく一人あふれた見ず知らずの人と共に二人で墓場を歩いていく。
「えっと、卯月ちゃんだっけ?オレ、幽霊とかマジで得意だからアテにしてくれよな?」
見た目はチャラい大学生の男、上機嫌で卯月にアピールを仕掛けてくる。
そんな、半分空回りした情熱を卯月は冷めた目で見ていた。
「オレ、空手とかチョー得意で?一発バシッとやってやっから!!よろしく的な?
シュ!!はッ!!」
良い所を見せたいのか、暗がりに向かって拳や足を振り回す。
その時!!
ガチャ!!
「あ、ヤベー、ふふッ」
墓に供えられていた、カップ酒を蹴り壊してしまった。
本来墓に供える物ではないだろうが、生前余程酒好きだったのか中身のある状態で2本供えられていた物を蹴り壊してしまった様だ。
本人は悪いと思っていない様で、小さく笑いすら零れている。
「一応寺の人に謝った方が……」
あんまりの態度に卯月がやんわりと注意を促す。
しかし大学生は気にしていない様だった。
「だーいじょうぶだって!!気にしすぎ、気にしすぎ!!
何時か捨てるもんだし気にするべきじゃないっての!
に、してもオレの蹴りやばくない?ガラス瓶粉砕よ?粉砕!!
トウ!!タァ!!ハァ!!」
何に機嫌を良くしたのか、また腕や足を適当に振り回しまくる!!
そしてついに事件が起こった!!
「あ、そっちは――!!」
「え?なに?」
男が卯月の言葉に気を取られた瞬間、あらかじ寺が用意しておいた
当然提灯の中には、灯りをともす為に
アルコールは燃える、それが付着した足で蹴った男の足も当然――
燃 え る !!
「アチャチャチャチャ!?」
酒に引火して男の足が燃える!!
パニックに陥った男は火を消そうと何度も火のついた方の足を振り回す!!
「あぁあああ!!消えろ!!消えろっての!!」
そうなると当然再びバランスを崩す事になる!!
「うわぁ!?」
あえなく男は地面に転倒!!
尚も火を消そうと、地面を這いずり回る!!
男の努力の甲斐あってか、だんだんと火が小さく成っていく。
濡れた地面を見つけ、足を押し付けようとする。
「あー、あー……やばかった……あー、死ぬかと思っ――――」
「止まって!!!」
「え?」
卯月が男を止めようとしたが、男は自身の足を地面に付けてしまった。
そこは、さっき男が酒を割った墓の前。
そう、地面に溜まってるのは水ではなく酒!!
ボブゥ……!!
小さな火種に再び引火する!!
「おいおいおいおい!!」
男のジャケットや、シャツにまで地面の酒は染みていた。
今度は全身が火で包まれる!!
「服を!!脱いで!!」
慌てて卯月が駆け寄って、男の服を脱がしにかかる。
ジャケット、シャツ、ズボンと慌てて脱がし捨てる。
「はぁー、はぁー……助かった……」
幸い軽いやけど程度で済んだようだが、服は黒焦げに成ってしまった。
そんな男に卯月は優しく語り掛ける。
「大きなやけど、とかは有りませんか?
念のため救急車を呼んだ方が――」
「あ、あなたは女神だ。本当にありがとう……
どう?今度食事でも……」
半分泣きながらナンパする男。
本能に忠実なのか、それともテンパってるのか……
そこにバタバタと、寺の関係者が走ってきた。
男の悲鳴を聞きつけたのだろう。
「一体なにが?」
「事情は説明します、いったんこの人を救急車へ」
てきぱきと卯月が説明をしていく。
結局、男の自業自得なのだが、問題ありとしてこの肝試しは中断となった。
残念そうな顔をしたメンバー達が、続々と帰っていく。
そんな中で卯月は、天峰達一行を探していたが……
「いないわね……帰ったのかしら?」
卯月は気が付いていなかった。
この大学生の男が暴れまわった時、ひそかに順路を示す矢印を一枚壊していた事を、そしてさらにその次のとさらに次のメンバーがそれぞれ、天峰、八家のチームだった事を。
「お、おにーさん!?大丈夫かな?あんまり人いないよ!?暗いし提灯とかないけど……道あってる!?」
玖杜が震えて天峰の抱き着く。
天峰自身も現在かなり不安な気分でいる。
「だ、大丈夫だ……よ?うん、心配ない……ええと……矢印通りなら……
次はこの、廃屋?」
「いま、一瞬誰か窓の所いなかった!?ねぇ!!ねぇ!!」
「大丈夫、だって……スタッフの人だよ……たぶん」
この後夕日ちゃん達と合流して帰って行きました。
ミニキャラ紹介。
『幸せを呼ぶ?青い鳥』
上ヶ鳥 アゲドリ
八家が飼っている青いカラーひよこ、首には赤いリボンと小さな鈴かついている。
目以外の全身が青く、嘴からつま先まで薄青色している。
通常カラーひよこはすぐに色が落ちるのだが、何時まで経っても落ちない。
不思議である。
いつの間にか八家の肩や、胸ポケットに入っている。
カバンにも入っている、冷蔵庫にも入っている、トイレにも入っている。
なぜか八家の行く先々に現れる。
どんなトリックなんだろうか?
本編では基本的に『ぴィ』や『ピイピイ』としか鳴かないが、実は江戸っ子口調で話している。
らしい。
実はある「やんごとなき」方から、八家の監視を頼まれている。
夜になると報告している。
らしい。
基本無力だが、本気を出せば野良猫程度なら引き分けに持ち込める実力がある。
鈴の音がダブって聞こえたら要注意。