リミットラバーズ   作:ホワイト・ラム

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ふぅ、八家編が遂に終わりました。
結構疲れた……けど楽しく書けた気がします。


私が何か食べる所をみて興奮してるの?

潮風の乗って海の匂いを含んだ涼風が部屋に入りこんで来る。

その風が部屋の風鈴を小さく鳴らす。

 

鈴のような涼し気な音色。その音色は八家にとある人物を思い浮かべさせた。

 

「ふぅわぁ~あ……」

潮風の匂いを嗅ぎながら八家が大きくアクビをした。

なんだかんだあって山から逃げ出した八家。

あの日から2日経っており明日の夕方から、祭りが始まる。

今日もナンパに出かけようと思ったが、永二に止められ祭りの準備を手伝わさせられた。

 

「派手だねぇ……」

そう言って今日自身でライトアップした、島の鳥居を見る。

島の鳥居は下側からサーチライトの様な物でライトアップされ、おそらくだが本土の方からもしっかり見えているハズだ。

チラリと本土の方に眼をやるがぽつぽつと民家の灯りがあるだけであの山の鳥居は見えはしなった。

 

「八家、もっとシャンとしろ!」

部屋に入って来た永二が、だらりとする八家を叱りつけた。

さっきまで別の仕事をしていた永二は風呂上りなのか、ホカホカと湯気を体から立てている。

 

「いや、仕事で疲れてるんだよ……はぁ、祭りの手伝いとか嫌だなー

だからこっちに来たくなかったんだよ……」

小さな声で愚痴を言う八家、その声を聴いた瞬間永二の眉がつりがる。

 

「おい、八家!!いいか?この仕事は家が代々やってる事なんだ、とても名誉なことだ。お前のミスで代々受け継いだものを汚していいと思うのか?

自覚をしろ、自覚を!!お前は野祓い一族の一人なんだぞ!!」

 

「野祓いなんて知らねぇーよ!!俺は俺なんだよ!!!

頼まれた仕事はしっかりやってる、それでいいだろ?」

睨み返す八家をみて小さく、舌打ちをした永二が部屋を出ていく。

今思うと永二は役目という物に強い執着があるのではと八家は思った。

 

「俺と、兄さんたちは違うよな……」

そして小さくつぶやく。

その通りだ、八家は名前の通り8番目の兄弟。

男の兄弟という意味では末っ子に値する。

長男次男三男といった上位の兄弟たちは、いわゆる『受け継ぐ』側の兄弟だ。

だが4男5男となってくれば話は別だ、受け継ぐのではなく自身で手に入れなくてはいけない。

他者を馬鹿にする言葉に「たわけ」という物がある、諸説あるがその語源の一つに息子たち全員に親の田んぼを分けて渡した結果、小さな田んぼに分かれてしまい、うまく農作物がとれなくなった。

それが転じて「田んぼを分けるのはおろか」から「たわけ」になったという訳だ。

仮に財産を分けるなら与えるべきは長男だろう、だが何ももらえないその下の兄弟は?

同じ血を分けた兄弟の中にある明白な格差、八家はそれを今、ありありと感じていた。

 

「そうか、玖杜もこんな気持ちだったのか……」

今更になってほんの少しだけ、自身の妹の気持ちが分かった気のする八家。

と言っても、彼女はもう救われた気がする。

出掛ける前に珍しく外出すると言っていた玖杜、聞けば天峰の家に遊びに行くらしい。

クラスメイトの夕日ではなく、年上の天峰という所が彼女の心を誰が変えたかという事を物語っている。

 

「アイツは、不思議な奴だ……俺にはない力を持っている……」

自身の友人のことを思い浮かべる八家。

幻原 天峰。その男を八家はこれから一生忘れないだろう。

困った意味で子供好きな彼は、今まで何度も小さな幼女の心を救っている。

ある時は攫われた子を探し出し、またある時は心を病ませ人形のようになってしまった子を自身の怪我を気にせず助け、引き裂かれる友情を守ったりもした。

天峰には間違いなく、幼女と引かれあう才能とそれを救うための意思を持っていた。

 

「俺は……何が出来るんだ?」

自問自答をする八家だが、風鈴がなるだけで誰もその答えをくれはしなかった。

何もないままただ時間だけが過ぎていく。

 

 

 

 

翌日。

夕方の5時に、八家の居る野祓い島から花火が上がった。祭りの開始の合図だ。

八家は本土の方におり、島から上がる花火を見ていた。

 

「うっし!じゃ、こっちもはじめっか。な?8番目」

日に焼けた野原老人が二カッと白い歯を見せた。

名前を呼ばれない事に少しイラつきながら八家が仕事を始める。

 

「灯篭、販売開始しますー」

八家が大きく声を張りあげると共に、客人が押しかけて来る。

厚紙に金属製の固定針と蝋燭、その周りを囲むありがたい言葉のかかれた障子紙。

この祭りで販売される簡易灯篭だ。

 

「二つ頂戴?」

 

「はい、二つで600円です」

 

「家族セット一つ」

 

「5つセットで1300ですね」

八家が灯篭を売るたびに海に買った灯篭を客人が流していく。

ぽつぽつと、灯篭の灯りが暗くなっていく海を照らしていく。

 

「もう、そろそろだ」

野原老人が小さく口に出す。

2時間ほど仕事を続けると、海はまるで星を写したかのようにまばらに光る灯りでおおわれていく、ゆらゆらと波の揺れる灯りが動きを止めていく。

 

「あ……」

 

「干潮だ。この時期だけなぜか、潮がひいて島と本土がつながるんだ……

そしてその場所が、祭りの会場になるんだ。

あの灯篭はその会場を照らす灯りでもあるんだ」

説明する野原老人の横を永二率いる、やぐら部隊が進んでいく。

灯篭を壊さぬ様に手早く、バラバラだったやぐらを島と本土の中心に組み立てる。

何処かにスピーカーがあるのか、組み立てられたやぐらから祭囃子が流れてくる。

 

「ほい、行ってこい。8番目、ナンパでも買い食いでも好きにしろ。

儂は、やぐらの方み向かう」

そう言って野原老人が、5千円札を八家に渡した。

 

「……うん、ちょっと行きたい所があるから」

金を受け取った八家が、山の方へと走っていくのをみて野原老人が楽しそうに笑った。

 

「ええのぅ、ええのぅ。青春じゃ、青春じゃ。

さて、不機嫌な神様を呼び出すのも、野祓いの仕事じゃぞ?

お前に出来るか?8番目よう?かっかっか!!」

 

 

 

 

 

3日前、蛇に追われて逃げ出した神域を進んでいく。

しかし一向に返事がない、ライトアップしてないだけでまるで山が別の場所になってしまった様だった。

なるほど、確かに山は異界なのかもしれない。

 

「おーい!!おーい!!羽袋布さーん!!羽袋布さーん!!

……おーい!!ダメおねーさん!!ギャップ系ダメおねーさ――」

 

「その不愉快な呼び方を止めなさいよ!!」

八家が呼びかけを変えた瞬間、木の間から鈴の音と共に百世が現れた。

早速だが不愉快そうに、八家を睨んでいる。

 

「はぁ、はぁ、探したよ。いきなりだけど、今日祭りあるんだ。

一緒に遊びに行こうぜ!唐揚げ買ってあげるからさ!」

 

「唐揚げって……私そんな、安い女に見えるの!?」

 

「安いって言うより、ポンコツとか、チョロイって言うか――」

 

「なんで下になってるのよ!?私神職よ!!神職!!

神社だってあるのよ!?昔の呼び名は神童よ!!」

 

「振動?バイブ?なに?唐突な下ネタ?」

とぼけた顔で、八家が言い返した。

 

「いい度胸ね……野祓いの8番目!!

貴方の血族はみんなもっとまともだったわよ!!」

一部の単語を聞いて八家が固まった。

 

「知ってるのよ、翁から聞いたわ。あなた野祓いの――」

百世が八家の顔を見て言葉を飲み込む。

それだけ八家の顔はさっきと打って変わったものとなっていた。

 

「俺を8番目と呼ぶな」

さっきまで全く見せなかった厳しい顔で百世を睨んだ。

ヘラヘラとした鳴りは潜めていた。

 

「な、なによ……別にいいじゃない。本当の事なんだし名誉ある一族でしょ?」

 

「そんなものは記号でしかない!!しかも、8番目?1、2番目ならまだしも、8番目ね?ほぼ意味は無いよ」

さっきまでの剣呑な雰囲気をごまかすかのように、八家は自嘲気味に笑った。

 

「無意味だって言うの?光が当たらなければ、無いのと一緒だって言うの!?忘れられたら無いのと同じだというの!?」

今度は百世が激情を露わにした。

羽袋布神社は寂れた神社、今夜の祭りだって主役は本来二つの鳥居のハズなのに、こっちは光すら当たりはしない!!

忌々し気に、にぎやかにライトアップして居る野祓い島の鳥居を睨んだ。

 

「無意味とは言わない、けど所詮君は君だろ?なぜ、そんなに神社にこだわるんだ?」

 

「うるさい!!この神社が私の存在意義――」

 

がさッ!!

葉っぱを踏むような音がして、八家と百世が同時にそっちの方を見た。

 

「あ、あう……」

小さな子供が、震えてそこに立っていた。

眼に涙を溜め今にも泣きだしそうだった。

 

「ん?どうしたのかな?こんな所で?」

 

「う、うぇ……うぇええええ!!!」

しゃがんで八家が話しかけたが、ついにはその子が泣き出してしまった。

その様子に八家はオロオロするばかりだった。

 

「おーおー、どうしたんだ……」

 

「親とはぐれたのかしらね?」

横で来ていた、百世が同じくしゃがんで頭を撫でる。

 

「う、う、うぅぅ……ヒック……」

百世に撫でられ安心したのか、静かに子供は泣き止んだ。

泣き止んだ子供をみて百世が小さくほほ笑んだ。

 

「たぶん、祭りに呼ばれて来たのね」

 

「ふーん、さがしてやるか。親を」

八家がその場から立ち上がった。

チラリと視線を百世に送った。

手伝えという無言の圧力だ。

 

「はぁ、ついて行けばいいんでしょ?

見捨てるなんて、神前でそんな不道徳な事出来ないわよね。

ほら、おいで。手を繋いであげる」

 

「マジか?じゃ、遠慮なく――」

 

「馬鹿!!この子に言ったのよ!!」

手を握ろうとする八家の手をはたいて、子供の手を握る。

その様子を八家が不満げに見ていた。

 

 

 

 

 

「ふぅ、いないわね……ご両親見つけたら行くのよ?」

百世の言葉に、子供が何度も首を縦に振る。

 

「そうだ、ぞ?ハフ、ハフ……しばらくしたら、ハフハフ……人の数も掃けるハズだし……」

 

「8番目!!あんた何食べてるのよ!!」

たこ焼きを頬ばる八家をみて百世が、怒声を上げる。

 

「ん?たこ焼き」

 

「知ってるわよ!!なんで今このタイミングで食べてるかって事!!!」

すっかりマイペースを取り戻した八家を見て、小さく百世がため息を漏らす。

 

「焼きたてだったからさ。ほら、食べるだろ?」

そう言って、別のつまようじをさして、子供と百世に渡す。

 

「……おいしい……」

 

「なんで、私がこんな所で――あら、おいしいじゃない」

子供は素直に、百世はぶつくさ言いながら口にたこ焼きを含んだ。

その様子をみて八家が笑う。

 

「な、なによ?私が何か食べる所をみて興奮してるの?」

 

「いんや?楽しいなって思ってさ」

 

「たのしい?この子が大変なこんな時に?」

八家の言葉に、再び百世の反論が飛んでいく。

しかしそれでも八家は表情を変えない。

 

「楽しくないか?身分もレッテルも、何も関係なく交流するのはさ」

 

「ふん、当たり前よ!ここは、二つの入り口が混ざり合う会場よ?

生者も死者も、物の怪だって神様にだってここでは平等に楽しむ権利があるんだから!!そして、私はその片方を担う羽袋布よ?いわばこの半分は私のお陰――」

 

「じゃ、もう半分は野祓いの俺のお陰だな?」

八家が言い放つが、どうもそれは納得いかない百世。

しかし、此処で八家の事を否定したら遠まわしに自分の事まで否定することに成ると思ったからだ。

忌々しいが、影響力では野祓いの方が羽袋布よりずっと上なのだ。

 

「さて、とっとと探して――」

 

「あ!いた!!」

捜索を再開しようとした時、子供が小さく走り始めた。

人込みの中に居た、二人組に抱き着いた。

その二人を見た時、子供の顔に笑顔が戻った。

 

「うふ、良かった。これ以上は野暮ね。

さ、帰りましょうか?」

 

「待った待った!せっかく降りて来たんだ、終わりまで時間はもうないけど、せっかくだし楽しんでおこうぜ?という事で、お祭りデート行こうぜ!!」

踵を返す百世を八家が止める。

そして、自身の右手を差し出した。

百世はその手を片目をつぶって見ていた。

 

「へぇ?私を誘う積り?まぁ、此処は聖域って訳じゃないし、野祓いの――いえ、せっかく八家君が誘ってくれたんだものね?

少しだけ、付き合ってあるげるわ」

そう言って、今度こそ八家の手を取った。

 

 

 

 

 

「ん?アレは、羽袋布様と、8番目か……ふぅん?

なるほど、今代は8番目が選ばれたか……2番目には黙っとくか、羽袋布様に気が有った様じゃしの……」

祭りのなかで、手を繋ぎ久方ぶりの百世の笑みをみた八家老人が笑った。

 

 

 

「はぁ、楽しかった」

 

「マジか……爺ちゃんの分の5000円含んで7000以上あったのに……なんで600円しか残らんの?」

楽しそうに笑う、百世と財布を見て愕然とする八家が、神社の前に戻ってきていた。

しかし――

 

「ふっふっふ、お前には私自ら名を与えてあげるわ。そうね――――上ヶ鳥(アゲドリ)、そうよ、あなたは今日から上ヶ鳥よ!!」

 

「ぴィ!?」

楽しそうにカラーひよこに名前を付ける、百世を見るとこんな事はどうでもよくなるから不思議である。

後ろで不意に灯りが消えた。

 

「あ、もう――」

 

「祭りも終わりか」

何処かさみしそうに、八家が島の方を見る。

祭りの終わりはやはりどこか悲しくなるのを感じる八家だった。

灯篭は燃え尽き、やぐらは分解されていく。

 

「そう、あの世とこの世の境界が今もとに戻っていく。

野祓いと羽袋布の二つで歪んだ境界が――

ねぇ、八家君。特別に良い物見せてあげる、ついてきて」

 

「ん?なになに?」

百世は笑うと、八家の手を引いて神社の入り口を開ける。

その瞬間一瞬にして景色が変わる。

 

「は?」

八家は確かに、神社の本尊のある扉を百世に引っ張られてきたはずだ。

だが、目の前はそんな物は何処にもない。

有るのは、太陽の無い青空と足元の花畑、遠くに大きな木が見える。

 

のどかな平和な光景のハズなのに、八家の背中に嫌な汗があふれ出て来る!!

本能が、此処に居てはいけないと強く訴える。ここは異界だ。

 

「ここは――」

 

「鳥居の向こう側だよ?この時期は鳥居が開いて外に出れるの。

みんな戻ってきたみたいだね」

ブワッと大量の蝶が八家の上を飛んでいく、まるで天の川の様に色ととりどりの蝶が並んで飛んでいく。

 

「ねぇ、八家君。君もこっちに来ない?」

百世が八家の手を強く握った。

その瞬間八家の中にあった、気が付かないフリをしていた物が全て動き出した!

目の前の女は何故、着物で山の中に居たのだろう?草履で登れる場所ではないのはわかる。

なぜ野祓いは、二つの神社を残したのだろう?残したのではなく、消せなかったとしたら?

目の前の女は何故、そんな恰好で祭りの会場に行ったのだろう?潮が引いてもまだ水たまりは残る。

視線を足に向けたが、当然の様に足袋はおろか下駄すら濡れていない。

なぜ、野祓いの家には男児は時期変えてあの祭りに参加する必要があるのだろう?

様々な疑問に、良くない答えが勝手に湧いてくる。

 

「ねぇ、八家君?私が君の事気に入ったって言ったんだよ?コレは光栄な事なんだよ?だからさ、私と来てくれるよね?」

無邪気な笑みで、百世が笑う。

掴む八家の手の力を緩めることはない。

 

「いいよ、さみしいのは嫌だもんな。

今度は、今度こそは、間違わない。

一人で、震えている奴をほおっておかない!!」

そう言って八家が反対側の手で、強く百世を抱きしめた。

 

「へぇ、嫌がるなら無理やりでも連れてくつもりだったけど……

受け入れてくれるんだぁ?うれしいなぁ」

 

リン――小さく百世の鈴がなる。

彼女がつま先立ちになって、八家の顔と百世の顔が重なる。

 

「ん!?」

未知の感覚に、何をされたのか八家が混乱する。

一瞬後目の前に、百世の顔が有った。

 

「これで、私のとの間に『縁』ができた。

またいつか――いえ、ずっとそばに居るから」

そう言って笑うと、百世の姿が薄れていく。

 

 

 

 

 

ちゅん!!ちゅん!!

自身の頬を何かが突く様な、感触に八家が目を覚ます。

気が付くと、神社の階段に寝かされていた。

頬をつついていた物を正体をみると、百世が買った青いカラーひよこだった。

いつの間にかついたのか、首に百世と同じ鈴が結ばれている。

百世はいない。

 

「夢か……帰るか……」

 

「ぴィ!!」

流石に神社の中を見る勇気はなかった八家。

百世が残した上ヶ鳥と胸ポケットにしまって、家に帰っていった。

彼女が何だったのか、それはもうわからない。

ひょっとしたら、最後のは夢を見ただけかもしれない。

全て忘れてしまおう、そんなことを八家が思って山を下り始めた。

 

リン――

 

直ぐ後ろから鈴の音が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

「よう、8番目。帰って来たか」

出迎えた野原老人が笑った。

 

「八家、そろそろ家に帰るぞ?荷物はまとめといてやったからな?」

永二が八家の荷物を詰めたカバンを差し出す。

 

「あ、ありがと……」

 

「ん?カラーひよこ?珍しいな、買ったのか?」

 

「あ、ああ……」

永二に連れられ、野祓いの家の廊下を歩いて居く。

夏休みはまだ終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日……

「よう天峰!デートか?」

街中で偶然八家が天峰、夕日の二人組にであう。

 

「そうそう、夕日ちゃんと買い物デート――」

 

「……違う」

ふざける天峰に対して、夕日が釘ならぬカッターを刺そうとして止める。

 

「ん?ヤケそれ、ひよこか?」

 

「かわいいだろ?上ヶ鳥って言うんだ」

胸ポケットに入っていた青いカラーひよこをみて、天峰が指を差し出す。

 

「唐揚げかよ……もっと、かわいい名前を――いでぇ!?」

指を突き刺した上ヶ鳥に天峰が手をとっさに引っ込める。

 

「はっはっは!!じゃーな、俺、ビデオ借りに行くから」

笑いながら、八家が歩いていく。

その八家の背中を夕日がぼおっと見ていた。

 

「どうしたの夕日ちゃん?ヤケの背中、なにか付いてる?」

 

「……うん……すごいのが……憑いてる……」

 

リン――

 

夕日は小さく鈴がなる音を聞いた気がした。




少し不思議なエンド。
百世の正体は皆さまの想像に任せます。

普通の人か、それとも……

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