リミットラバーズ   作:ホワイト・ラム

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八家編 2話目。
次で終わらせたい、終わるかね?


コレは私がもらう権利があります!!

「馬鹿じゃないの?」

静かな山の中、青い着物を着た女が冷めた目で自身をナンパしてきた男に吐き捨てる様に言い放つ。

なるべく冷徹に、なるべく侮蔑を込めて――目の前を男を威圧する様に――

 

寂れたとはいえ、ここは神聖なる神社の目前。

つまり神前だ。神前で愛を語っていいのは、永遠の添い遂げるという誓いを報告する時のみ。

決して、気に成った女の子に声を掛けるべき場所ではない。

 

「山とは元来神聖な場所よ?しかも、此処は神社の前。

神域中の神域なんだから!!アナタの様な、鼻たれ小僧が来ていい場所じゃないの!!」

 

見た所相手は10代中盤、此方の方が年上だという考えから思わず語気が強くなっていくのを感じる。

 

目の前の小僧は、下をみて俯いている。

その様子に、少し強く言い過ぎたかな?と女は思った。

 

「ねぇ、あんた――」

 

「おかわりだ」

 

「は?なに?おかわり?」

意図せぬ言葉が返ってきた事に女が僅かに困惑の感情を見せる。

次の瞬間!!

 

少年がバッと顔を上げる!!

眼に宿るのは、強い意志!!

 

「そうだよ!!その、罵りボイスが欲しいんです!!」

そして、女の足元に四つん這いで這いつくばる!!

 

「さぁ!!俺に、そのおみ足を!!さぁ!!卑しきこの豚めに!!」

 

「なに!?なに!?一体なんなの!?物の怪!?新手の物の怪の一種なの!?」

女が慌てて、あたふたと慌てる、その動揺に合わせて髪に結わえれれた鈴がちりんと軽やかに鳴り響く。

 

「なるほど――一見Sな罵りおねぇ様タイプだが、責められると逆に動揺して年上ドジッ娘タイプへと変化するのか!!

二つの態度のギャップ……大いに『アリ』!!」

グッと親指たて、ハンドサインを送る。

 

「!?!?!???!?」

女の中では、目の前の少年の事は完全に理解不能な存在へと変化していた。

そして、理解できないという事はやがて恐怖へと繋がっていく。

 

「あ、あなた何なのよ!!いったい何処の物の怪よ!!」

理解不能な生き物に対して、女が指を指し少年を牽制する。

 

「おっと、さっき名乗った積りだったけど、聞きそこなったかな?

なら、もう一度。

僕の名前は野原 八家。気軽のヤケって呼んでください。

訳あって、お爺ちゃんの田舎のこの町に帰省してきてます。

 

因みに惚れました、付き合ってください。

年の差とか気にしないタイプなんで大丈夫です、あ、けどさっきからとと年上が好きになってます!!」

 

「……は?」

言われたことが理解できずポカーンと女が口を開ける。

当然だが事態についていけていない、というよりもこんな事態についていける訳がなかった。

 

「あれぇ~?せっかく決め顔してまで自己紹介したのに……なら、もう一か――」

 

「わかった、わかったから!!もうやめなさいよ」

あたふたと、女が八家の言葉を押しとどめようとする。

何もしないとループするだけという事を理解したのだろう。

 

「ご理解いただけましたか?」

無駄に畏まった態度で、女に話しかける。

気分は、紳士のお兄さんだ(変態の方でない)。

 

「ええ、野原の八家ね?

それとあんたが常人には理解できない思考をしている事を理解したわ。

まったく、この季節はおかしな奴が多くて嫌になるわ」

腕組をして、顎に指で触れる。

厄介なのに絡まれた、と一人小さくつぶやいた。

 

「という事で、お姉さん。デートしに行きましょう!!お手を!」

今度は目の前に跪いて、手を差し伸ばす八家。

女は困惑気味にその手を見たが――

 

パシン!

 

「嫌よ。あんたみたいな得体のしれない物の怪お断りだわ」

差し出された手を払って、意図して再び冷たい視線を送る。

 

「まぁまぁ、お姉さん。そう、言わずに――」

 

「あのね!!ここは神聖な山の神社よ!!

神の御前でヘラヘラと不埒に、女性に声を掛けるなんて恥ずかしくないの!!

まずはお参りをするのが普通でしょ!!!

それに、私はあなたの様な常識の無い、ケダモノはお断りよ!」

女の怒りの反応するかの様に、頭に付けた鈴が小さく鳴った。

 

「え、ここ神社?――あ、本当だ。鳥居あるわ。

しっかしボロイなー、半分自然と同化してるじゃん」

 

「う、うるさいうるさいうるさい!!私だって、こんな神社嫌よ!!

けど仕方ないじゃない!!誰も、お参り来ないんだもん!!」

今度は女が子供の様に駄々をこね始めた。

ナチュラルに神社だと気が付かなかった八家をみて相当ショックだったようだ。

 

「ほ、ほら!!せっかく来たんだし、参っていきなさいよ!!お賽銭とお供えが有ればなお、良しよ!!屠られた家畜の肉とか、野菜とかがおすすめよ」

 

「なら、ほい。定食屋のおばちゃんがおまけしてくれた、唐揚げとフライドポテト。

お賽銭箱の上に置いておけばいい?」

手早く、カバンから包んでもらったおまけを取り出す。

 

「ちょ……唐揚げって……フライドポテトって……」

 

「美味しいのに……あむ……」

女の見る前で、パックから唐揚げを取り出し一個くちに含んだ。

冷め始めているが未だにジューシーで口に旨みが広がっていくのがわかる。

 

「な、何食べてるのよ!!お供えしたものでしょ!?罰当たり!!あなた相当の罰当たりよ!!死んだあと絶対地獄に落ちるわよ!!」

すっかりと余裕を失い、八家を指さして何度も怒鳴りつける。

しかし八家は涼しい顔で一切答える気は無い様だ。

 

「いや、だって悪く成ると、おばちゃんに悪いし……要らない?」

そう言って女の前に、唐揚げを差しだす。

 

ごくりと女の白い喉が、唾をのみこんだのが分かった。

 

「わ、私は……この神社の関係者だから、も、もらってもいいわよね?

神様にあげた物はこの神社の物、この神社の物は、巡り巡って私の物よね?」

誰に聞かせるでもなく、ジャイアニズム染みた倫理武装をして八家の唐揚げに手を伸ばす。

 

「い、いただきまー」

 

女が手を出すより一瞬はやく、八家の手が伸びる。

 

ヒョイ、パク。

 

「あ……」

 

「あー、うまかった。満足満足」

八家がお腹いっぱいという様に、小さくげっぷをする。

 

「わ、私の……からあげ……」

女の目に、わずかに涙がたまっていく。

だが、その悲しみはすぐに八家への怒りへと変換された!!

 

「ちょっと!!なんで私の分を残しておかないのよ!!神前よ!!神前!!!

罰当たり!!罰当たりィぃぃぃぃ!!

あなた、死んだら間違いなく地獄送りよ!!」

けたたましく、女が騒ぎ立てる。

しかし八家は涼しい顔をしたままだ。

 

「いや、食べないからいらないかと思った。

食べ物残すのは、あんまり良くないし……

ポテトは全部食べていいよ?」

すっと残ったフライドポテトを差し出す。

 

「あ、当たり前です!!コレは私がもらう権利があります!!むぐ……むぐ!!」

八家からポテトをひったくると、次々口に投げ入れ始める。

 

「むぐ……む……ぐぶ!?げほ!!ゲッホ!!」

 

「あーあ、ノド詰まらせた、ほい、俺の飲みかけだけど、お茶」

 

「あ、ありがとう……ございます……はぁ……はぁ……」

飲み干したペットボトルを返しながら、女が礼を言った。

 

(この人、黙ってれば出来る系の人なのに……残念な美人って人か……)

小さく八家が女に対する感想を漏らした。

 

「なにか言いました?」

 

「いや?別に?えーと……名前は……」

そう言えば、此処まで来て一向に相手の名前すら聞いていなかった事を思い出す。

というか、よく平然とよく知らない奴と此処まで話せたものだと半場関心し始める八家。

 

「私の名前?ああ、羽袋布(はたぶ) 百世(ももせ)……へ、変な苗字とか言ったら神罰落とすわよ!!」

自身の名前にコンプレックスが有るのか、後半は怒鳴りながら話して来る。

だが、そんな事程度では八家は気にしはしなかった。

 

「へぇ、確かに珍しい苗字だけど、此処まで気にはしないな?

下の名は、百世?へぇ俺の名前も数字が入ってるんだよね~」

話題をさらす為か、八家がケラケラと笑って見せる。

あくまで、気にしないと

言う体制のアピールだ。

 

「さて、百世ちゃん。デートにでも行かない?

唐揚げ買ってあげるよ?」

 

「はぁ……あんたね、さっき私の言った事忘れた?

ここで、そんな不埒な事するんじゃないわよ。

まぁ?私に惚れたってなら、仕方ないから少しくらい付き合ってあげてもいいけど?」

再度口を開いた八家に、今度はまんざらでもないと言った感じで百世が答えた。

 

「よっし、和服美人ゲット!!テンション上がる!!」

その場でピョンピョン八家が飛び跳ねた。

 

「この服の良さが分かるなんて、タダのケダモノではない様ね?

これは、京都の有名な呉服屋から――」

 

「着物って……服の中でトップクラスに脱がしやすい服なんだな!!」

 

「は?」

八家のセリフに百世が止まった。

ぴしりと空気の凍る音が聞こえた気がする。

 

「帯を解けばすぐに、御開帳できるし、さらに下着を付けないのがマナーって……

いやー、やっぱり日本人はエリートだなぁ!!

さ!俺と下町デートに行こうね」

 

「ちょ、ちょ、ちょ!?あ、あなたなんてこと考えてるのよ!?

あ、頭おかしいんじゃない!?し、神聖な聖地でそんな不埒なことをー!!」

顔を真っ赤にして、百世が慌て始める。

純情な彼女には、八家の煩悩は大きすぎた様だった!!

 

「大丈夫、大丈夫。みんな、今はこんな感じだから――」

 

「こ、この――馬鹿者ー!!

し、神罰です!!心を入れ替えなさい!!」

八家に向かって指を突きつけた瞬間、八家の足元から小さく音がする!!

 

「え――ひゃぁ!?」

いつの間にか、己の足元でとぐろを巻いていた黒い蛇をみて八家が飛び上がる!!

 

「シャー……」

蛇は尚も威嚇する様に、八家に向かって舌を出す。

 

シャー……シャー……

 

「へ!?わわわわ!?」

更にその横から数匹の蛇が出て来て、八家を威嚇し始める!!

次々出てくる蛇をみて、八家が遂に逃げ出した!!

 

 

 

 

 

「見事なお手並みですな、羽袋布様?」

 

「あ――翁」

何時からいたのか八家老人が、杖を突いて現れ笑った。

その姿を認め、百世が少し気まずそうな顔をする。

 

「あら、今年も来たのね永二?」

次に、その横に居た永二に声を掛ける百世。

永二は無言で頭を下げて居た。

 

「教えてもいないのにこの場所に来るとは……あやつも、野祓いの血か」

穏やかな笑みを浮かべて、野原老人が笑った。

 

「はぁ!?ま、まさかアイツも、アンタの血族なの!?」

驚いた様に、百世が驚いた。

驚愕と同時に頭の、髪飾りの鈴が再び大きく鳴った。

 

「8番目の八家です」

今まで黙っていた、永二が頭を上げる。

その口調には恭しさが満ちていた。

 

「8番までいるの!?アンタの一族は相変わらずね……」

 

「羽袋布様にまで言われるとは……

そうそう、3日後の祭り、今年もよろしくお願いいたしますぞ?」

八家老人が、露骨に話題を変えに掛かった。

 

「ええ、解ってるわ。この季節だもの、ね……」

 

「さ、永二。羽袋布神社の掃除を始めるぞ?」

 

「はい、二つの鳥居が祭りには不可欠ですからね」

野原老人の掛け声に、反応して永二が神社の掃除を始める。

だんだんときれいになっていく神社を、百世はつまらなそうに見ていた。




今季のヒロインの名が決定。

たぶん使い捨てに成るんだろうなー

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