皆さん、夏のイベントって何がありましたっけ?
割とガチで募集するので、気軽にメッセージください。
手口が……鮮やかすぎる……
ペラ……パラ……
夕食も終わり、風呂も入り終えた夏の日の夜。
夕日は一人自室で、友人の久杜から借りた漫画を読んでいた。
トントン。
「夕日ちゃん?俺だけど、今入って良いかな?」
ノックの音と同時に、部屋の外から夕日の義理兄である天峰の声が聞こえた。
「……問題ない」
「ん、お邪魔します」
夕日の返答を聞いてから、天峰が扉を開け入って来る。
部屋の真ん中、テーブルに向かい合う様に天峰が座った。
「……どうしたの?……こんな……時間に?」
時刻は既に11時を過ぎている。
こんな時間に天峰が来るのは珍しい事だった。
「あー、うん……実は明日から、夏休みでしょ?だからさ、俺の部屋に来ない?」
「?」
天峰の言葉で夕日の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
明日から夏休みなのは知っている、実際久杜も「夏休みの補習が~」などと嘆いていた。
だが、夏休みなのと、天峰の部屋の自分が誘われる事の関連性が解らない。
一瞬の後夕日の中に、とある記事がフラッシュバックする。
「……ひと夏の……
以前みた雑誌で、そんな事が書いてあったのを思い出し夕日が指摘する。
立ち上がりながら、自身のパジャマのボタンに指を掛ける。
「ゆ、夕日ちゃん!?違うよ!!確かに、夕日ちゃんとなら……って違う違う!!
夕日ちゃんの部屋って、天音の部屋の隣だろ?だから今夜は俺の部屋に避難しに来ないかって事。
あー、夕日ちゃんって何処かネジ抜けてるよね?」
「……む……無礼な……」
不機嫌な夕日を見て慌てふためいて天峰が否定し、その後説明をぽつぽつと始めた。
因みに、微妙に見える夕日の鎖骨の視線が集中している。
曰く、天音は夏休みが大好きらしい。
曰く、夏休みスタート直前。つまり今は非常にテンションが高い。
曰く、両親はこの日ばかりは耳栓をして眠るし、お隣どころか3件隣の家までもが耳栓をして眠るらしい。例外は耳の遠い向かいのおじいちゃん。
「………………何それ?」
天峰の説明を聞きながら、夕日がジト目でつぶやいた。
当然だが、信じられない事だらけだだった。
「夕日ちゃんは、解んないだろうけどウチでは毎年そうなんだよ。
俺の部屋、いつでも避難してきていいから……
あ。コレ、夕日ちゃんの分の耳栓」
天峰が夕日の二つの耳栓を渡す。
天峰の冗談だと思っていたが、突然出てきた小道具の真実味が増していく。
その後天峰が部屋を出ていく。
残されたのは、夕日と天峰の渡してきた耳栓のみ。
「……訳が……わからない……」
夕日は、冗談か本当かさえわからない出来事に目を丸くする。
夕日にとっては、幻原家特有のテンションは少しずつ慣れてきたがまだ、完全には飲み込めていなかった。
「そろそろ……眠い……」
漫画をキリの良い所まで読み終わり、ふと時計を見るとすでに12時(夏休み)まで10分を切っている。
当然だが、隣のハイネの部屋からは物音すらしない。
「……からかわれた……?」
勝手に天峰の言葉を解釈して、漫画を片すと自身のベットに入る。
終業式などがあり疲れていたのか、ゆっくりと夕日の意識が夜闇の溶けていく。
……明日から……夏休み……天峰と……遊びた――――
「夏休みぃいいいいいい!!!スタートぉおおおお!!!!サマーシーズン到来!!ワッショイ!!ワーショイ!!ヒャァハハハハハハ!!」
「!!??!?!?」
突如壁の向こうから響く爆音と振動!!
始めは地震が起きたのだと思った。しかし!!
時計を見ると0時きっかり!!
「夏休みスタートじゃぁあああああああああ!!!!!!!」
ボゴン!!ボゴゴゴン!!
隣の部屋から、何をしているか分からない怪しげな音さえ聞こえてくる!!
響く大音量の声と激しい振動にすっかり夕日は目が覚めてしまった。
「……うそ……でしょ……?」
まるでわんぱく小僧をレベル99にしたような衝撃が伝わってくる。
仕方なく、天峰のおいていった耳栓を装備する夕日。
一応は何とかなるが……
「……まだ……うるさい……」
隣の部屋の抗議に行ってもいいが、正直いって今の天音のテンションに付いていける気はしない。
――俺の部屋、いつでも避難してきていいから――
脳裏に天峰の声がよぎった。
「……行くのも……悪くない……」
そう思い、適当に自分の枕と愛用のカッターナイフを持ち出し自身の部屋から出ていく。
「なっつやすみ~ヘイ!!なっつ休み!!」
「……………」
未だに、うるさく騒ぐ天音。
扉一枚隔てているのにすさまじい音が響く。
ガゴン!!
「………………痛……」
ついイライラしてしまい、天音の部屋の扉を蹴とばすが自身の足の指をぶつけるだけだった。
そそくさと、天峰の部屋に向かう。
「天峰……天峰……」
ドンドンと扉を叩くが、全く反応がない。
天音の騒ぎで聞こえていないのだろうか?
「仕方ない……開ける……」
天峰なら怒りはしないだろうと決めつけ勝手に扉を開ける。
「あー、うるさ――夕日ちゃーん!!来てくれたんだ?」
枕をかぶっていた天峰が、此方を見つけると同時に手を振ってくる。
「……天峰……ハイネが……うるさい……此処に……居させて……」
「うん!!イイよイイよ!!好きなだけ居てよ」
そう言って、ベットの端に体を移動させ夕日の入れるポジションを作ってくれる。
「……お邪魔しま……はッ!?」
天峰のベットに横になりながら、夕日が何かに気が付いたように驚いた顔をした。
「ん?どうしたの?夕日ちゃん」
「……私……ナチュラルに……天峰の隣に……呼ばれた……」
改めて確認すると、天峰と夕日は二人で一つのベットを使っている。
さらに、すぐ目の前の天峰と体をくっつけている!!
「いや、ベットせまいし……こうしないと寝れないでしょ?」
更に掛布団を夕日にかける。
仕方なし、と言いたいのだろうか?
「……天峰……偶にだけど……手口が……鮮やかすぎる……」
布団にもぐりながら、夕日がぼそりと話す。
布団という布の壁におおわれているせいか、大分天音の声が静かになる。
「そうかな?別に普通に接しているだけの積りだよ?」
同じく天峰も布団の中に入って来る。
夕日に顔を近づける為か、天峰がしゃがむ様な姿勢を布団の中でする。
すると当然だが、天峰と夕日の顔がお互いの息がかかるまでの距離に近づく。
「……流石……ロリコン……」
「ゆ、夕日ちゃん!!そんな事言わないの」
自身の唇の指を当て、ジェスチャーを繰り出す。
「……秘密……?」
「そ、言っちゃダメ」
天峰の必死な顔をみて、夕日がこっそりと笑った。
焦った様な、慌てた様な、それでいてこちらを諭す様な天峰の表情。
夕日はこの表情が大好きだった。
「……わかった……秘密に……する」
そう言って再びおかしそうに笑った。
「夕日ちゃんってさ、最近笑う様に成ったよね」
天峰の指摘に夕日がふと思い出す。
そうだ、病室の頃から比べると自分は――
「俺さ、正直言うと夕日ちゃんのイメージって、初めて会った時の不機嫌な顔のイメージなんだよね。
ほら、つまらなそうで、ムスッとしててさ」
「……うん」
天峰に言われるまでも無い。
その事自体、夕日はしっかり自覚していた積りだ。
小さな部屋で、自分だけの世界で――
「私の……中……勝手に……入って来た……から……」
「うん、知ってる。けど、夕日ちゃんじゃなくちゃ、こんな風に成ってなかったと思う……」
ゆっくりと天峰が語り始める。
「夕日ちゃんを見た時思ったんだ、『この子の笑顔が見たい』って。
だって、夕日ちゃん位の子はもっと、明るくて笑ってるべきだよ。
……天音はやりすぎだけどさ……」
そう言って、夕日の頭に手を伸ばす。
「いろいろあったけど……見れて良かったよ」
笑いながら、天峰が夕日の頭を撫でていく。
「…………天峰………」
夕日の瞳をみて、今更だが天峰は自分が夕日の頭を無断で撫でている事に気が付いた。
バッと慌てて自身の手を離す。
しかし、夕日はその手を掴み再び自分の頭の上に置いた。
「夕日ちゃん?」
「もっと……撫でて……撫でられるなんて……無かった……から……」
「解った……」
夕日の懇願を聞いて、再び夕日の頭を撫で始める。
サラサラと、夕日の髪を天峰の指が触れていく。
「天峰……私……この家に……来れてよかった……
こんなにも……幸せ……」
「そっか、明日から、またたくさん遊ぼうね?
家族は、夏休みにどっか遊びに行くものだよ」
「うん……お兄ちゃん……」
天峰に撫でられながら、夕日がゆっくりと寝息を立てていく。
体感的にだが、おそらく1時過ぎだろう。
中学生の夕日が眠ってしまうのも無理はない。
すー、すー……
天峰の目の前で、夕日が眠っている。
天峰の前で、無防備に寝ている。
そして、周囲には誰もいない。
「…………信用されてるのか……男として見られていないのか……」
嬉しさと釈然としない感情がないまぜになって、天峰の心の中で渦巻く。
「ショージキ言って……かなりタイプなんだよな~」
ムスッとして、滅多に感情を出さないが偶に笑う笑顔が天峰はたまらなく好きだだった。
「…………」
眠る夕日の唇の天峰の視線が集まる。
そして、体を近づけ……
「……だめだ。コレはだめ。ちゃんと心を通じ合わせるべきだ」
そう言って、天峰が夕日の反対方向を見て眠る。
「………いくじ……なし……」
誰にも聞こえない声で、夕日がひっそりと呟いた。
こっそりと自身の胸に手を這わせる。
うるさいくらい心臓が鳴り響いている、よく天峰に気が付かれなかったものだ。
「……本当は……私にだけ……笑ってほしい……私にだけ……好きって言ってほしい……」
懐から、カッターを取り出し天峰の首筋に当てる。
普段からよく手入れしている道具だ。
人の皮膚を破く位何でもない。
「ここで殺せば天峰の心に最後に残るのは……私」
二ィっと夕日の頬が吊り上がる。
想像する、首筋から
赤と赤が混ざって黒く濁って――
「とってもきれい?」
そう言って腕に力を加えるが、すぐに手を離す。
「だめ……きっとまだ……天峰が……必要な子がいる……」
先日の玖杜の様にきっと、そんな人がまだいるハズだ。
「けど……今は……私の《お兄ちゃん》だよね?」
そう言ってカッターをしまうと、天峰の胸に飛び込んで眠り始めた。
30分後……
「アニキー!!腹減ったー!!ラーメン奢ってくれよ!!」
天音が扉を叩き壊す寸前の力で開いて、天峰の自室に侵入する!!
「うーん……なんだよ……俺はもう眠いんだ……ラーメンなら明日の昼に――」
「ハイネ……うるさい……」
二人がベットから這い出ると同時に、ピタリと騒音が止まる。
「「?」」
「お、お、お……」
「どうした?」
「あ、アニキと夕日がベットインしてるー!!前々から怪しいと思ってたんだ!!」
二人の様子をみた、天音が今まで以上に大きな声で騒ぎ立てる!!
翌日近所に弁明する事になったのは別の話。