リミットラバーズ   作:ホワイト・ラム

78 / 102
久しぶりの投稿、本編を書くのが約一か月振りという暴挙。
皆さん、お待たせして本当にすいませんでした!!


見てコレ!!全自動卵砕き機よ!!

「あと、15分か……」

まるで死刑執行までの時間を見る受刑者の様な面持ちで、天峰がリビングに飾られた時計の針を見る。

現在の時刻は午前9時15分。

曜日は土曜で休日、テストから解放された学生たちは自由を謳歌している。

…………ハズだった。

 

「あ、ふっあ……」

苦し気な、ため息を付きコップに注いだ牛乳を何かを押し流す様に、口に押し込む。

 

「……天峰……」

その様子を夕日が、可哀想な物を見る目でじっと睨んでいる。

そして再び口を開く。

 

「……そんなに……デートが……いや?」

その言葉を聞いた瞬間、天峰の体に緊張が走る!!

 

「ほぅあ!?で、デートじゃ、無いよ!?俺は、卯月とデートに行く訳ではないんだよ!!これは、タダの買い物デートじゃないよ、お買い物さ!!別に夕日ちゃんが嫌いになったとかじゃないからね!!デートじゃないしね!?」

まくしたてる様に、天峰が何度も『デートじゃない』を繰り返す。

実の事を話すと、実は天峰コレが初デート!!誰しも緊張してしまう、無論相手が美少女なら尚の事である。

というのは、普通の人の感性。

天峰は、それとは違う考えを持っていた!!

 

「あー、どうしよ……これを機に卯月が必要に俺と距離を縮めてきたら……

いやだぁぁあああ!!俺は、俺は幼女と一緒に過ごしたいんだ!!

彼女持ちより、物理的に幼女を抱っこしていたい!!

同年代と手を繋ぐより、年下を肩車したい!!」

頭を押さえ、床に寝そべりイヤイヤと体を転がす。

 

「……天峰……」

夕日がジッと、自身の兄を『何でこんな生命態がいるんだろう?』と疑問を持った目で見る。

 

「ねー、ゆーかちゃーん……突然、駄々っ子みたいに『ふえぇぇ!!私も連れていってくれなきゃ、やだやだー』とか言って、一緒に付いてきてくれない?」

 

「……私の……キャラじゃない……」

何時もの様に感情のこもっていない顔と声音で、床に転がる天峰を見下ろす。

 

「じゃ、行く前まで近くにいてよ……ロリコニウムが、足りないんだ。

ギブみ~、ロリータ!!」

 

「……わかった」

そう言って、床に寝転がる天峰の背中に座った。

天峰が座布団の様な形になる。

 

「ふぅ……染み込むなぁ~」

目を細め、天峰が口角をほころばせる。

 

「…………………………いいの?……………」

対する夕日は正直言って困惑気味だった。

夕日の予定では、天峰なりに何かリアクションが有ると思ったが大して何もなかった。

半場冗談で天峰の上に座ったのだが、本人は上機嫌の様だ。

 

「この、圧迫感?全身で夕日ちゃんを感じれるのが……すごく良い!!」

 

「……変態」

スパーン!!と天峰の頭を夕日が叩く。

それと同時に玄関のチャイムが鳴る。

 

「……天峰」

 

「ん。わかってる、卯月が来たみたいだね。

ちょっと行ってくるよ」

夕日に笑顔を向け、天峰が立ち上がる。

 

 

 

 

 

『次は籠鳥~籠鳥駅です~神独町および、大稲場行きのお客様は乗り換えとなりまーす』

電車内に響く、コールを聞き天峰と卯月が立ち上がる。

慣れない電車内部、独特の窮屈な閉塞感ともこれでしばらくおさらばだ、両人が意気揚々と籠鳥駅の中を見て回る。

 

「うーん、流石都会ねぇ。不思議な物がいっぱい有るわ」

 

「卯月、なんか田舎臭い事言うなよ?ただの隣町だろ?」

テンション一杯の卯月に天峰が困惑気味に話した。

その言葉を聞いてか聞かずか、相変わらず卯月のテンションは非常に高い。

 

「で?何を買いたいんだっけ?」

 

「ん、もう!買い物より先に、何か遊びましょうよ!!

ゲームセンターでも、カラオケでもいいから」

そう言って、天峰の腕を卯月が引っ張っていく。

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

 

 

服屋

「天峰!!このマフラー、どっちが良いかしら?」

卯月が、まだ夏前だというのにもうマフラーを出している店で商品を物色する。

サマーマフラーといい、寒さ対策ではなくあくまでファッションとしての生地の薄いマフラーらしい。

 

「んー……白はどうだ?シンプルイズベストだ」

 

「却下、汚れが目立つもの」

 

「じゃ、最初から候補に入れるなよ……」

 

 

 

雑貨屋

「天峰!!見てコレ!!全自動卵砕き機よ!!あの有名なヤツ!!」

興奮気味に、卯月が胸に機械の箱を抱きかかえる。

踊り文句がでかでかと乗っており、ゆで卵をペースト状にしたり生卵を割ってかき混ぜる機能までついてるらしい。

 

「まじか!?いくらだコレ!?……3890円……タッケェ!?」

値札を見て、天峰が驚愕する。

 

 

 

 

 

町の定食屋

「ココの、冷やし中華人気なのよ!!今ならまだ頼めるハズよ!!」

 

「いいねぇ!!俺、冷やし中華ってスゲー好きなんだよ!!」

二人して店に入り、手早く注文を済ませて座敷席で談笑する。

 

「どう?久しぶりの自由は?」

卯月が天峰に笑顔で聞いてくる。

その瞳は楽し気だ。

 

「ハハッ!!堪能してますよー!!それじゃ、ま」

そう言って天峰が麦茶の入ったグラスを掲げる。

 

「テスト、お疲れ――」

 

「自由にカンパ――」

カチャン!!

 

「「バラバラ言ってる!!」」

アハハと両人で笑い始める。

この時すでに、天峰は卯月との休日を楽しみ始めていた。

 

 

 

楽しい時間は過ぎあっという間に夜近くに成る。

テストの振り替え休日の為、明日は休みだがそれでも帰らずにはいられない。

二人して、駅のホームに向かった。

 

「まだ、時間有るわね」

電車の切符を買いながら、卯月が自身の時計を見る。

混雑する駅中で、二人は目当ての電車の乗り場を探す。

籠鳥駅が巨大な駅だ、何本もの電車と接続するので非常に迷いやすく成っている。

電車に不慣れな二人なら尚更だった。

 

「天峰……うあっ!?」

 

「卯月!!」

改札を通り、大量のサラリーマン風の男たちがなだれ込んでくる、まさに『人の波』だ。

その波にあおられ、二人は目的の場所から遠ざかって行ってしまう。

 

「卯月!!手!!手!!」

 

「う、うん」

天峰の伸ばす手を取り、二人が波に逆らう様にゆっくり歩き出す。

人の多い所から、少し離れてやっと二人は手を離す。

しかし、天峰の手にはいまだに卯月の手の感覚が残っていた。

 

(咄嗟にだけど……卯月の手、にぎちゃったな。

あのころより、少し小さくなったな……)

 

「天峰の手って、大きく成ったね」

 

「そ、そうか!?男だしな、女子とは成長速度が違うんだろ?」

自身の思っていた事を見透かされた、様で天峰が慌てる。

 

「うん……私、あの頃より、成長したよ。

手だけじゃないよ?身長も伸びたし、髪もそう、あと胸も大きく成ったよ?」

照れるように、笑う卯月。

天峰は、彼女が『卯月』であることを否応にも意識した。

 

「私はもう、あの頃とは違うよ……けど、天峰もそうでしょ?

砂場で遊んでた私達、今では一緒に買い物するまでになったんだよ?」

 

「ああ、そうだな……」

お互いの意識が、相手に集まっていく。

駅の喧騒が少しずつ、消えていく気がする。

 

「ねぇ、天峰。私達もう一度……」

 

「ん?」

何処かで、誰かが呼んだような気がして天峰が意識を卯月から外す。

その時!!

 

「キャッ!!」

ドン!!

 

天峰位の年齢の男に、卯月が突き飛ばされる!!

卯月を天峰が抱き寄せる様に、支える。

 

「あ、すいません!!急いでたもんで!!」

その男はその場で、振り返り両手を合わせ卯月の拝む様な体制を取る。

 

「ちょっと!!宗託(そうた)!!アンタ何やってるのよ!!早く行くわよ」

拝む少年の少し前を走っていた、竹刀を入れる袋を背負った気の強そうな少女が口を開いた。

 

「まぁ落ち着けよ。(アサ)、ぶつかったら謝るのが礼儀だろ?」

焦る少女に対して、この男はずいぶんのんびり屋の様だった。

 

「あの、コレ。落としましたよ」

天峰がその男の落とした定期を拾い渡す。

定期には、霧夢 宗託とあった。

苗字は読めないが、ソウタの部分は読めたので渡した。

 

「ああ、ありがとう。危うく電車に乗れなくなる所だったよ」

定期を受け取ると、男はゆっくりと走り出した。

 

 

 

「なんだ、アレ?」

 

「籠鳥学院の制服ね……あの二人どこ行くのかしら?」

天峰と卯月が話しあう、さっきの勢いで抱き着いたままだったがもう気にはしなかった。

 

「それより、卯月。お前さっきなんて言おうとした?」

 

「もう、良いわ。なんだか、私疲れちゃった、もう帰りましょ?」

天峰の手を引いて、二人は仲良く電車に乗り込んだ。

 

 

 

そして、この日。

天峰は致命的に間違ってしまった。

二人を見つめる、一人の影が有った。

 

「お、にーさん…………」

それは偶然、伊達眼鏡の代わりを買いに来ていた、玖杜だった。

玖杜の脳内にさっき見た二人の仲のよさそうな、表情を思い出す。

 

(…………や………だ……)

 

美しい容姿の相手の女。

 

(い……やだ……)

 

手を繋ぐ二人。

 

「いや……て……」

 

突き飛ばされ抱き合う二人。

 

「見て!私を!!私をみて!!」

玖杜の様子に、周囲の視線が少しずつ玖杜に集まる。

けれど、そこにもう天峰は居ない。

 

「誰でもいいから!!私を――」

 

「うるさいぞ」

腕を突如誰かに捕まれる!!

その相手をみて、玖杜の声までもが凍り付く!!

 

「こんな所で何してるんだ?前にも言ったよな?俺に迷惑かけるなって」

なぜかそこにいた、八家!!

反論をゆるない視線を送り玖杜を黙らせる。

 

「お、おにい……」

 

「お前はあの部屋に居ろよ。ずぅぅぅぅぅっと一人で、さみしく、死ぬまでな」

もう玖杜を助ける者はいない。

天峰も、夕日も、兄弟も。そして自身を必死に守って来た『クノキ』さえも。

あと、すこし、あと少し勇気をもって天峰に声を掛けていたら――

そんな、事を夢想しながら玖杜は八家に手を引かれ電車に乗った。

 

 

 

手をひいて欲しい男の手は、きっともっと温かいのだろな、と玖杜は思った。




人にはそれぞれ、ストーリーが有る。
天峰にも、夕日にも。卯月にも……さっきであった男にも……
それが目撃できるかは別として……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。