リミットラバーズ   作:ホワイト・ラム

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すごい久しぶりの投稿デス。
気が付いたらまた。UAが上がっていた。
コレはもう、またアレするしかないな!!
という事で、再び活動報告へGO!!


なに……今の……寒気……

キィ……カタン……

古ぼけてところどころ錆びたパイプ椅子が安っぽい音を立てる。

食堂とプレートが書かれた待合室は、重苦しい空気を含んでいた。

それもそのハズ、此処のいるメンバーは皆受験生だ。

自身の将来を決める、入試の前で騒いだりする人間はまずいない。

1点でも点数を上げる為、開始直前まで参考書を見ている。

 

「ここ、いいですか?」

一人の少年の前に、もう一人の男が尋ねる。

少年が無言で頷くと、その男はそこに座りポケットから携帯電話を取り出した。

ポチポチと、ボタンをプッシュする。

 

「よし、入った」

 

「?」

携帯を構えた少年が、わくわくした顔で画面をのぞき込む。

 

『~♪~~♪~~~~♪』

携帯から流れる音楽に、周囲の受験生たちが僅かに動揺を見せる。

 

「あ~、何とか間に合ったな…………ポリキュアの放送に」

少年が携帯で見ていたのは、日曜の朝の番組『ハードキャッチポリキュア』だった!!

日時的に朝8時30分から放送している女児向けアニメ!!

妖精の力をもらった女の子たちが伝説の警察官『ポリキュア』に変身して悪人どもを逮捕する作品だ。

 

「今日は、4人目の戦士が出るんだよな~」

ニヤニヤと楽しそうに、男が尚も携帯を見る。

 

「お、おい……」

 

「ん?なに、君もみたいのかい?」

そう言って男が携帯を横に移動させる。

コレが天峰と八家の初めての出会いだった。

 

 

 

 

 

それから3年、中学から高校にあがっても二人の関係は変わらなかった。

「では、時間なので各自、はじめ!!」

 

チャイムと共に、一斉にテストの裏返る音とペンを走らせる音が聞こえる。

天峰も八家も、此処には居ないが他のクラスでは卯月がそれぞれテストにいそしんでいるのだろう。

テスト期間が始まって目の回る様な、日々が始まっている。

勉強勉強勉強……

学生の本文なのだろうが、どうしても遊びたい気持ちはある。

だが、それももう今日で最後!!

テストが終わり、補習さえなければ待ちに待った夏休み!!

勉強でたまったうっぷんを晴らそうと、まるでクリスマス前の様にみんなそわそわしている!!

 

(これが終わったら……思いっきり遊びにに行くぞ!!)

天峰が自身の中にある欲望をたぎらせ、目の前の英訳問題を解いていく。

それぞれのテスト期間が過ぎていく……

 

 

 

「よう、天峰結果どうだった?」

何処となく疲れた顔をしながら、八家が天峰に尋ねる。

 

「うーん……50点から60点位かな?半分は絶対に出来た自信ある!!

けど……英単語のイントネーションっての?それが毎回どうしても解らないんだよなぁ……」

 

「ああ、それか……最近は無駄に英単語を日本語みたいに使ってるからな、日本語英語とでも言うのか?そのせいで解りにくく成ってるんだよな」

二人して軽口を言い合う。

余談だが、テスト前の「俺全然勉強してねーやべー」やテスト終了後の「やべー、全然わからんかったー」なんてのが有るが、最初に言い始めたのは何処の誰なのだろうか?

 

 

「さて、我が同志、天峰よ。遂に開放の時が来た!!

……という訳で、帰りどっか遊びに行かない?

ボーリングとか、バッティングセンター的な所でさ」

八家が楽しそうに提案する、内容的に体を動かす系の遊びがしたい様だった。

 

「あー、ごめん。この後幼児……じゃなかった用事があるんだよ……」

申し訳なさそうに天峰が両手を拝むように合わせる。

 

「ん?卯月さんとのデートか!?前話していたデートに行くのか!?

あれだよな、隣町の籠鳥市だよな?あそこ、デートスポット多いらしいぞ!!

ロマンチックな焼け跡とか有るらしいぞ!!ああ良いなもう!!

俺も彼女……っていうかヒロイン的な子が欲しい!!!」

 

「いや、違う違う。夕日ちゃんとカラオケに行く約束なんだよ」

興奮する八家を押さえつつ、天峰がそう説明する。

暴走する八家は何をするかわからない恐怖が有る!!

さらに言うと天峰のとって美女より幼女の方が価値が有る!!

 

天峰の理想のデートは、小学生の子を手を繋ぎながらコンビニなどに寄って買い食いするものである。

*夕日と似たような事はしている。

たぶん職質食らう。

 

「じゃ。俺、夕日ちゃん待たせてるから!!」

そう言って楽し気に、天峰は教室を飛び出した。

 

 

 

(足が軽い!!疲れているのにどんどん力が湧いてくる!!

もう何も怖くな――ぐはぁ!?)

廊下を走る天峰が、カーブを曲がろうとして足をひねる!!

 

「おー、いてて……だが!!俺の夕日ちゃんに対する愛はこれ位じゃ、少しも変わらないぜ!!」

座ったままのポーズで驚くほどのジャンプをして飛び上がる!!

 

「うをおおおおおお!!夕日ちゃんまっててねぇえええええええ!!!」

少し前の八家の様なセリフを吐いて、再び走り出す!!

 

 

 

 

 

ゾワッ……

「!?……なに……今の……寒気……」

校門のところで、天峰の放った感情を僅かに受信した夕日は、夏近くだというのに寒気を感じていた。

 

「ゆーかちゃーん!!!ゆーか、ちゃーん!!あは、あはあはははは!!」

 

「天峰……」

校舎側から走ってくる。その犯罪者一歩手前のフェイスをみてさっきの寒気の理由を夕日が理解する。

 

「はぁはぁ……お待たせ!!」

息を切らせながら天峰が、顔を上げる。

その表情に夕日は、クノキの事を言う気に成れなくなってしまった。

 

「……大丈夫……そんなに……待ってない……」

二人を連れ添って、駅まえまで向かっていった。

 

 

 

 

 

野原家

「ただいまー」

八家が扉を開けて、台所まで歩いていく。

夏も近く、何か飲む積りなのだろう。

 

「あ……」

 

「チッ、お前かよ」

扉を開けると同時に先に来ていた、玖杜と出会う。

気まずそうに、玖杜が目をそらす。

手にジュースを持っている事から、八家と考える事は同じの様だった。

 

「…………あ…………の…………」

何か言いたげな玖杜を無視して、冷蔵庫からコーラを取り出し氷の入ったコップに注ぐ。

 

「今日……帰るの……早いね」

 

「あ?テスト期間中だから――っと、もうそれも今日で終わりだったな」

ぶっきらぼうにそう話し、一気飲みしたコーラの入っていたコップをテーブルに強く置く。

 

「ひッう!」

大きな音にびっくりした玖杜が、身を縮こませる。

 

「本当はようぅ?お前の無関係じゃ、無いんだぜ?

むしろ、その真っただ中に居るんだ……居るハズなんだよ」

ギロリと視線を無理やり、玖杜に向ける八家。

 

「っ……く……」

その視線に耐え兼ね、玖杜がその場から逃げようとする。

 

「待てよ、屑」

そんな玖杜の首筋を八家が後ろから掴む!!

 

「放して!!」

若干ヒステリックに玖杜が叫びその手を払いのけようとする。

 

「黙れ。逃げてんじゃねーよ!!自分だけ特別な積りか?

兄さん達はもう、全員会社勤めか、大学生だぞ?それも一流な……

お前はどうなんだ?一生自分の部屋に引きこもっている気か!?

どうする気なんだ?俺や兄さんに養ってもらうのか?

俺たち兄弟にお前という『ババ』を押し付け合わせる気か?

ん?何とか言ってみろよ!!」

八家が玖杜を押し付け、無理やりその顔を覗こうとする。

 

「あ……あは!!おにーちゃんったら、急にそんな事言わないでよね」

ポケットに入っていたのか、玖杜は伊達眼鏡を取り出してかけるとへらへらと笑い出した。

メガネのレンズを通して、現実の世界から離脱する。

メガネをかける。そうすれば……此処はもう画面(レンズ)の向こうの世界だ。

そう必死に、玖杜が自身を『クノキ』で、守ろうとする。

 

 

 

だが、そんなのは当然だが無意味な行動だった……

 

「お前……ふざけてるのか!!!」

八家が、玖杜の伊達眼鏡と奪い取る。

そして……

 

バキッ!!

 

小さな音を立て、メガネを握りつぶす!!

更に追い打ちと言いたげに、それを床にたたきつける!!

 

「あ……」

玖杜の目の前で、メガネが壊れた。

もう玖杜を守る、世界の壁は存在しない!!

 

「あ……い……いや……」

 

「は?何を言って――」

 

「うわぁ嗚呼ああああああああぁあああぁああっぁぁああっぁあ!!!!!!」

玖杜が八家を押しのけ、メガネの残骸を拾い集める!!

レンズに一部が、指に刺さるが気にしない!!

必死で砕けてしまった、破片を集める。

そうしないと、もう自分を守れない事を知っていたから。

 

「ああもう!!うっぜぇな!!」

八家が泣きながら、破片を集める玖杜を蹴とばした。

 

「こんなゴミに!!何の価値が有るんだよ!!」

玖杜の落としたメガネの破片を奪い取り、台所の隅に有った瓶を入れているゴミ袋に叩きこんだ!!

 

「あ、あひ、ッ!!めが、めがね!!」

すぐさま玖杜が、ゴミ袋に手を伸ばし中身をあさり始める。

 

「汚ねーな……オエッ!!掃除しておけよ」

そう話すと八家はその場から不機嫌そうな顔をして出て行った。

 

「ぐす……私の……メガネ……」

玖杜はずっと、ゴミ袋を漁っていた。

父の飲んだ酒瓶の破片、割れたコップ、飲んだ栄養ドリンク。

すさまじい、臭いとそこに溜まったそれらの残り汁。

そんな中から玖杜は小さな破片全てを取り出した。

 

「………………………」

破片を部屋に持っていくと再び涙があふれた。

自分を守っていた、大切な物が砕け汚物にまみれ悪臭を放っている。

 

玖杜は一人部屋で、涙を流す。

外は夕焼けが驚くほどキレイに、町を照らしていた。

 

テストから解放された学生たちが楽しそうに談笑している。

その笑い声が、自分を笑っている気がして――

けど、笑われる心当たりも有って――

それなのに、自分を守る術まもうなくて――

 

玖杜は一人静かに涙した――。




受験会場でテレビは実際に、見た事のある光景デス。
というか、友達がやってた……
プリキ○ア見たかったんかい!!

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