リミットラバーズ   作:ホワイト・ラム

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はい、今回で第0部は終了です。
気が付いたらこの文字数。
良い所で切れなかったとも言いますね。

私の実力不足ですね……
最後までお楽しみいただけたら幸いです。


帰ろう?お母さんが心配してるからさ

Time limit 00:45:56

 

 

 

 

 

「クソッ!!ハァ、ハァ……何処だ?この辺で見たのが最後なら、絶対近くに居るハズだ。見つけるぞ……ハァハァ……絶対に見つけて見せる……」

天峰が自転車を止めて辺りを見回す。

もう既に学校を飛び出して、3時間近くに成る。

天峰は殆ど当てのないままずっと自転車でさ迷い続けている。

体力は奪われ、時間だけがいたずらに過ぎていく。

天峰の中に焦りが募る。

 

「ん?」

その時鼻先に冷たい感触がする。

気が付くと同時にゆっくりとコンクリートが濡れていく。

雨が降り始めた様だった。

 

「…………大丈夫だ、俺は大丈夫、藍雨ちゃんの為ならこの位……」

自身にいい聞かせる様にワザと口に出した。

何故ならそうしないときっと自身の中の弱い心に押しつぶされてしまう気がしたから。

 

「会って3日も経って無いってのに……我ながら良くやるよな」

ダメ押しとばかりに自嘲気味に笑い再びペダルに足を掛ける。

 

(そうだよ、やってやるよ。此処まで来たんなら何が何でも最後まで――)

 

オニイチャンワタシヲカワイガッテニャー オニイチャンワタシヲカワイガッテニャー

 

そんな事を考えた時空気を読まないメールの着信音が響く!!

 

「メールか」

何気なくポケットから携帯電話を取り出し内容を確認する。

そこに書かれていた内容に天峰は目を見開く。

それは天峰の求めている複数の情報。

昨日の深夜のハイエースの目撃証言、その車の停めている駐車場の写真、持ち主の住所さらにはその持ち主の情報まで、事細かな情報が羅列されていた。

 

天峰の口角があがりニヤリと笑った。

折れかけていた心が、再び動きを取り戻していく。

 

「サンキュー、卯月。やっぱお前最高だ!!」

携帯を閉じその住所まで向かう!!

自転車のペダルに力が入る!!

 

「待ってろ藍雨ちゃん!!天下御免のロリコン野郎が今いくぜ!!」

自身を鼓舞するようにがむしゃらに走りだす。

この時ばかりは雨が心地良かった。

 

因みに不審者情報が流れ、周囲の小学校に緊張が走ったのを天峰は知らない。

 

 

 

 

 

「……あれ……?私、寝ちゃったんです……ね」

ゴミ屋敷一歩手前の部屋で藍雨が目を覚ます。

気が付かない内に3時間近く眠っていたらしい。

 

「ふぇ?」

こんこんと足音の様な物が聞こえる。

ドンドンこっちに近付いてくる。

まるでコチラに自身の接近を知らせる様な感じだ。

 

ガチャ……ギィイイィィイイイィ……

 

錆びたドアの音がして、誰かが家の中に入ってくる事がわかった。

思わず体を強張らせる。

 

一本、藍雨の目の前のドアの隙間から指が一本見えている。

二本、ゆっくりとドアを押し、濁った瞳が藍雨を捕える。

三本、しっかりとドアを掴み横にスライドさせる。

 

「ハァイ、ローリちゃん!!イイコにしていたかなぁ?ぐふふふ!!」

男が帰って来た、相変わらずの気持ち悪い視線を無遠慮に藍雨に投げる。

見られるだけでまるで体を舐められるような不快感が藍雨を襲う。

 

「さぁてぇとぉ!!私が居なくて寂しかったかぁい?心細かったロウ?私もね!!君が一人でさみしがっていると思って~~~、お仕事、速引きしちゃった!!…………オイ、『お帰りなさいませ。ご主人様』はどうしたぁ!!」

突然キレた男が、近くに有ったゴミを藍雨に向かって投げつける!!

油が浮いたカップ麺の汁や、カビの生えたコンビニ弁当の残りが体にかかる!!

 

「さっさと言え」

 

男が縛られた藍雨の顔面を踏みつけながら話す。

ぐりぐりと黒ずんだ畳に顔を擦りつけられる。

 

「いや、です……もう止めてください……()()……」

 

「うるせぇ!!ここじゃご主人様だろ!!」

男が逆上し、藍雨を蹴る!!

肺から空気が抜け、激しく藍雨が咳き込む!!

 

「謝れよ……お前はもう俺の所有物だ……お前は俺のご機嫌だけを伺っていればいいんだよ…………聞き分けのない奴には『制裁』だな……」

2本の腕が伸び10本の指が藍雨の首に巻きつく!!

 

「カハァ……!?」

 

「今から少しずつ力を入れていく……それまでに俺がお前を許せる様に謝罪しろ、機嫌が直ったらやめてやる……しゃべれなくなる前にちゃーんと謝るんだぞ?……じゃあ始めるか……いーち……」

 

藍雨の首に掛けられた指の力が強くなっていく。

まだ藍雨は謝らない。

 

「にーい……」

 

更に強く力が入り、呼吸が難しくなっていく。

 

「さーん……」

 

遂に10本すべての指に力が入り藍雨の呼吸を奪いはじめる。

 

「よーん……」

 

一瞬だが強く力を込められた、藍雨に明確な『死』をイメージさせる。

 

「謝れよ……そろそろ呼吸が完璧に出来なくなるぞ?謝れよ……ごーお……」

 

ギリギリギリ……更に強い力で首を絞める!!

意識が白んできた……

 

(私……死んじゃうんでしょうか?……苦しいな……いやだな……死にたくないな……)

 

もうカウントダウンは聞こえなかった……

ゆっくりと優しい眠りが藍雨を包んでいく。

シトシトと地面を濡らす雨の様に……

藍雨の意識が白い世界に消えていく……

 

「寝てんじゃねーぞ!!おらぁ!!」

バシンバシン!!

と両頬に痛みが走る!!

藍雨は優しい世界から無理やりたたき起こされた!!

 

「せっかくのオモチャだ……簡単には壊しはしないぞ?さぁ!!ゲームの続きだ!!」

 

再び10本の死神()が藍雨に絡み付く。

 

「……!……、……。……せ……。……!!」

パクパクと藍雨の口が動く。

その様子を見て男の顔が醜悪に歪む。

 

「何?今、なんて言った?」

首を絞める指が弱くなる。

 

「アナタには……絶対負けません!!アナタは弱い人です!!」

こんな逆境でも強い意志を持ち、尚且つどこまでもまっすぐな瞳で男を睨む!!

 

「……ふざけんなよ……粋がるな……ガキが俺に意見してるんじゃねーぞ!!オラァ!!」

この男にとって、子供とは大人のいう事をきくものそれこそが正しいと信じている。

最近の子供はやれ法律だ、やれ自由だの考えですっかり腑抜けてしまっている。

この女は自分(大人)に逆らった、大人に逆らう悪い子は……教育しなくてはならない!!

 

藍雨が縛られた体で必死に抗う!!

足で男を蹴り、首に伸びてきた手に噛みつこうとする!!

 

「捕まえたぞ!!悪い子め!!制裁、制裁してやる!!」

立ち上がり、藍雨の首を持って立ち上がる!!

 

「負けない!!アナタには……心の弱いアナタには絶対に負けません!!」

 

「死ね……死ねクソ餓鬼!!」

 

ガゴンッ!!

 

「なんだ?」

 

「か、は……」

突然響く音に男が困惑する。

このボロアパートは住人が殆ど居ない。

いまどき珍しい風呂トイレ共用の貧乏アパートだ。

そもそも居ない住人とのトラブルなんてありえない。

だが……

 

ガゴン!!

扉を蹴る様な2度目の衝撃、そして更に……

 

バギンッ!!

 

ぼろいチェーンロックが外れる音がする!!

 

「なんだ……一体何が?」

 

困惑する男を余所に、ドンドンと足音がこっちの部屋に向かってくる!!

最後に扉の前で足音が止まる!!

 

「……一体……誰だ!!勝手に入って来るなんて何を考えている!!」

 

男が声を荒げると同時に最後のドアが蹴破られる!!

相手を見て藍雨が笑みをこぼす。

 

「幻原 天峰!!通りすがりのガチ小児性愛者だ!!よーく覚えて置け!!」

天峰が男の部屋へと侵入した。

 

 

 

 

 

Time limit 00:18:06

 

 

 

 

 

「よう、先生……学校早退して特別授業ですか?」

天峰がそう言って、目の前の誘拐犯『城山 最』を睨みつける。

 

「なぜここが?」

 

「ああ、言われてみれば簡単な事ですよ……小学生とはいえ人を攫うのは大変、車に乗せても暴れられる可能性も高い……車はなるべく大きく、そして攫った子を縛れる道具も必要……日常的にこんなの持ってる人なんて、かなり限られてる。

俺も最初は塗装屋のバンとかを探してました……けどこの辺にそんな車を持った企業は無かった。

けど、後一人だけいたんですよ!!

オーラ部の道具を運ぶ為の大型の車!!道具を片す為のビニールテープとガムテープ!!そしてその道具をしまっておく倉庫代わりの部屋!!

城山先生!!アンタがその条件にあてはまる唯一の人物だ!!」

そう言って天峰は、城山に指を向ける!!

 

「……良くわかったな……そうだ……ここは本来、道具を置いておく倉庫代わりに私が借りた部屋だ……妻も娘を私を見ようとはしない……いや!!それどころか!!教師である私を敬おうともしない!!!なぜだ!?子供は大人のいう事を聞いていればいいんだ……私にいう事に全て『ハイ』で応えればいい!!この子(藍雨)を見つけたのは偶然だよ、たまたま盗みに入った家にこの子が居た……物静かで大人しい……まさに私の理想!!

コレは運命だと思った、だから私の家に招いて私に服従する喜びを教えてやろうとしたのに!!裏切りやがって……私の愛を踏みにじりやがって!!貴様ともども許しはしない!!」

 

その言葉と共に藍雨を、ゴミ山に投げ捨てる!!

藍雨を心配して天峰の気が逸れる!!

その事を見越した城山が、拳を天峰の鳩尾に向かって振るう!!

天峰は城山の腕をさけ、手首を二の腕と脇で固める!!

更にそこに腕を城山の肘関節の逆側に添える。

最後にピィンと伸びた城山の腕を捻りながら足を払う!!

 

「見よう見まね式、快晴気流……!!なんかの投げ技!!」

 

「うをっ!?」

バランスを崩した、城山に天峰が体を預ける。

 

「出来るさ、俺はあの時藍雨ちゃんに掛けられた技をずっと反芻していた、猿まねだけどアンタには十分だろ!!」

天峰と城山、二人分の体重が腕を取られ受け身の出来ない城山の全身に掛かる!!

畳に城山が叩きつけられる!!

 

「ど~よ、藍雨ちゃん?この掛け方で合ってる?」

 

「すごいです先輩!!びっくりです!!」

天峰の技に藍雨が目を丸くする。

当たり所が悪かったのか、城山は動かない。

死ぬことは無いだろうが床に落ちていた、物を腹で踏んだんだろう意識を失うレベルの痛みを感じた様だ。

 

「さ、帰ろう?お母さんが心配してるからさ」

 

そう言って藍雨の後ろ手のガムテープを剥す。

その下にはビニールテープ、あまりの周到さに天峰が舌打ちする。

 

「鋏は……この部屋じゃ、見つけるの大変そうだな……藍雨ちゃんごめん」

 

「え?先輩……きゃ!?」

藍雨の手に何か濡れた感触がする。

その後、ブチブチと引っ張られるような感覚。

藍雨の位置から見えはしないが、天峰が自身の歯で噛みきっている様だった。

 

「ペッ!!……手は取れたよ、次は足だ」

 

口からテープを吐き出し、次は藍雨の足のガムテープを剥す。

同じく、巻かれていたビニールテープに再び天峰が噛みつく。

藍雨は自身の足元に顔をうずめる天峰を見ていた。

 

「先輩……なんで先輩はそんなに優しいんですか?私と有ってそんなに経ってませんよね?……一回ごはん食べただけで……なのにどうしてこんなにやさしいんですか?」

 

ピクリと天峰が反応するが、しゃべりはしない。

ブチブチとテープを破く音だけが聞こえる。

やがてそれも止む。

 

「それはね、俺が――ギャァ!?」

 

「先輩!?」

突如天峰が力を失い倒れる!!

天峰の背中の向こうに城山が立っているのを藍雨は見つけた。

 

「ああ!!ダメだ!!このクソが!!イラつく!!」

胸を押さえながらも、もう片方の手にはスパークするスタンガンを持っている。

 

「殺す……殺す!!俺に逆らったお前らは許さない……幻原は両目の水分をこのスタンガンで蒸発させてから全身の骨をボッキボキに折って、声帯をダメにしてから生きたまま山奥に捨ててやる!!晴塚!!お前はどうしてほしい?ダルマにされるのが好みか?剥製にされるのが良いか?解体して大型冷蔵庫で半永久的に保存してやるのもいいなぁ。

ぐひ!!ぐっひひっひひひひひいいっひひひっひ!!!!」

 

目の前で狂気的な笑い声を上げる城山。

城山の手に、天峰が手を伸ばす!!

 

「……藍雨ちゃん逃げて……外に俺の自転車が有る……俺はいいから……一人でも……逃げて……」

 

「なんだ?まだ、意識が有るのか?……まぁいい、その様子では動けはしないな、ヒーロー気取りめ、目の前で晴塚が壊されるのを見るがいい!!」

 

狂気の笑みを浮かべ2人を嘲笑する城山と、半場意識を手放しながらも必死で喰らいつく天峰。

そんな二人を見ていて藍雨の心にとある感情が湧き出てくる。

その感情を胸に、藍雨がゆっくり口を開く。

 

「天峰先輩、ありがとうございます。私の為にとってもうれしいです……

私、ずっといろんな事隠してました。好きな物、家の道場の事、お母さんとの関係、目立たない様にってずっと思ってました……

だって、漬物好きで道場が家に有ってお母さんが頼りないなんて言えないでしょ?

けど……もう大丈夫です、先輩が褒めてくれたから……私を助けるためにここまで来てくれたから……私は……本当の私に成る!!」

 

「何を言って?」

藍雨が地面を蹴る!!

今の彼女を縛るモノは何もない!!

 

「はぁ?」

 

武器をもって油断した、城山の懐に入る身長差が有る。

だが藍雨には問題は無かった!!

 

(もっと速く!!もっと強く!!)

全身の力を籠めて、足首を狙う!!

くるぶしではない、踵側の弱い部分だ。

人間は2本足の生き物、意識しなければ1本足で立てはしない!!

 

「おと……と?」

城山の体制が崩れる、たったそれだけ。

たったそれだけで藍雨にはもう十分だった。

 

「快晴気流式!!」

 

天峰がしたように、腕を掴み自身の全体重を掛ける。

小柄な藍雨のやる技だ、大した事は無い……様に思える。

だが違う、快晴気流は相手の力を利用する流派!!

相手の関節部分を相手の体重と自身の体重を以て地球と言う凶器にぶつける!!

 

「歯を食いしばってください、舌を噛みますよ?」

 

自体が解らないのか、倒れながらも城山は呆けていた。

突然の事に理解がまわっていないのだ。

 

「枯れ木砕き!!」

その言葉と同時に城山は地面に再び激しく叩きつけられた!!

 

「まだだ……まだ私には、これが……」

ゴミの山に身体を預け、少し手前に落ちたスタンガンを拾おうとする。

 

「させるか!!」「ダメです!!」

 

跳びかかろうとする、天峰を藍雨が静止する。

ニタリと笑い城山がスパークするスタンガンに手を伸ばすが……

 

パシャ……

 

何かが零れる音がする。

城山が確認すると、それは藍雨が投げたカップ麺の残りだった。

スープの残りで地面が零れ、床を伝いスタンガンを濡らす。

その液体が勢いを持ったまま()()()()()()()()!!

 

「ひぃや……いやだ……助け――」

 

「「掃除はこまめにしましょうね、先生」」

天峰と藍雨二人がにっこりと笑いかける!!

その間も帯電した汚水がドンドン城山の方に向かう!!

 

「あああ!?ああああ!!」

ピタリと城山の数センチ前で汚水が止まる。

 

「あはは、やった……やったぞ……」

幸運に感謝した城山が息を突く、その時城山の緊張が限界を超え……

 

じわあああああ……

 

アンモニア臭が僅かにし、内側からの水でズボンを濡らす。

水が増えた事で汚水どうしが絡み合う!!

 

「ぎゃあああああああ!?!?!???!!!!」

バチバチッ!!

弾ける様な音がして城山が今度こそ気を失う!!

 

 

 

 

 

数分後

天峰の呼んだ警察のより城山は逮捕された。

汚水と尿に塗れてパトカーで連れて行かれると言う前代未聞の顛末となった。

事件性有りとの事なので、後日藍雨に話を聞く事に成りそうだ。

 

「天峰先輩ありがとうございます……本当に命の恩人です、あれ?足が震えてる……」

その言葉通り藍雨の膝が笑って上手く立てない様だった。

天峰が手を貸し、藍雨を自身にもたれ掛からせる。

 

「無理もないよ、あんな目に遭ったんだから」

もう安心だ、と言うメッセージを込め藍雨の頭を優しくなでる。

 

「先輩……あ!そうです、携帯!!あの人の携帯から先輩にメール送ったんです!!履歴消さなきゃ!!」

誤魔化すように藍雨が落ちていた城山の携帯を手にする。

カチカチと何度かイジル。

 

「う~ん、うまくできません……」

 

「ちょっと貸して……えい!」

天峰が城山の携帯を逆側に、へし折る!!

 

「はい、消せたよ」

 

オニイチャンワタシヲカワイガッテニャー オニイチャンワタシヲカワイガッテニャー

 

そう言った時天峰の携帯に着信が来た。

「卯月からか……今回で借り作っちまったな……ってかどうやって此処の場所調べたんだろ?」

疑問に思いながら天峰が返信を書く。

送信し終わって藍雨の方を見るとジト目で天峰を見てくる。

 

「えっと、どうしたの?藍雨ちゃん?」

 

「……先輩、着信音の趣味悪くないですか?」

 

「え!?そう?初めて言われたんだけど……」

尚も藍雨の追及は続く。

 

「今の声って先輩の声ですよね?」

 

「うん、自身の裏声でロリボイスを再現して録音したんだけど……ダメだった?」

 

「ダメです!!そんな変なの使わないでください!!」

藍雨の迫力に天峰がたじろいだ!!

 

「な、なら。藍雨ちゃん何か言ってよ!!俺それを着信音にするから!!」

そう言って携帯をいじり、録音モードにする。

藍雨の目の前に、携帯が突きだされる!!

 

「え、えー!?そんなの恥ずかしいです!!いやです!!」

 

「じゃー俺これからもこの着信音つーかお!!」

そう言って天峰が自身のロリボイスを流し始める。

辺りに天峰の裏声がリフレインする。

 

「ッ~~~!!解りました!!私が入れます!!貸してください!!」

天峰の手から携帯を奪い取ると、部屋から出る。

数分後、録音をし終わった藍雨が顔を真っ赤にしながら戻ってくる。

 

「……一人だけの時に聴いてくださいね」

 

「わかったよ、帰ろうか。今日はもう疲れた……」

2人で部屋を出てる。

外は雨も止み、雲間から見える夕焼け空で紅く染まっている。

 

2人はアパートの階段を下りていく。

 

(そう言えば……藍雨ちゃんなんて録音したんだろ?)

好奇心が首をもたげる。

『……一人だけの時に聴いてくださいね』

藍雨はそう言っていたが……

 

「まぁ、いいや。えい」

再生ボタンを押す、すぐに再生が始まる。

 

『天峰先輩だ~い好きです!!』

 

「うほぉ!?」

藍雨の無駄に甘い声が再生される!!

頬がにやけるが、現在天峰の後ろには藍雨が居る!!

 

「先輩聴きましたね……一人の時にって言ったのに……聴きましたね……」

夕日に負けない暗い藍雨が顔を真っ赤にする!!

 

「……好奇心に負けました……ごめんなさい!!」

 

「許しませんから!!枯れ木砕き100回の刑です!!」

藍雨が両手を振りあげる!!

それに対して天峰が、おどける様に走り出す!!

 

(ああ、いいよな。コレだよ!!コこそが俺の求めた世界だよ!!)

嬉しさのあまり天峰の顔がゆるむ!!

 

 

 

 

 

Time limit 00:00:00 START!!

 

 

 

 

 

事故っていうのは突然やってくる、気分の良い時ほどそんな気がする。

それは俺、幻原 天峰とて例外じゃないらしい。

 

「うおぅ!」

オンボロアパートの二階と一階をつなぐ階段で、一人の少年が足を滑らせた。

重力に従い体が落下を始める。

 

「キャー!先輩大丈夫ですか!」

藍雨が悲鳴を上げる。

 

「うう、リアルに痛い…」

痛みを堪え自分の状態を確認する。

 オカシイナ?僕の腕が肘以外の場所で曲がってるぞ?ふしぎふしぎー

 

「いってー!なにこれ!なにこれ!まじめに痛い!ヘルプ!ヘェルプミー!」

 

「わわわわ!先輩落ち着いてください!」

 

駆けつけた藍雨が天峰を落ち着かせようとする。

「うう、藍雨ちゃん、俺の腕なんかおかしくない?スゲー痛いんだけど」

 

「うわぁ、ぽっきりいってますね……足の方もいたそうですけど……」

 

「え……足?」

天峰が恐る恐る確認すると、右足首が80度位捻じれてた。

 

「え?捻挫?足首がウケ狙ってんの?」

 

「あ、今救急車呼びましたから」

気の毒そうな顔で藍雨がいう。

 

(携帯……藍雨ちゃんのラブボイスの入った俺の携帯は何処だ?)

自身の手に携帯電話が無い事に天峰は気が付いた。

キョロキョロと辺りを見回す。

 

「あった、有ったぞ」

運悪く、車道の方まで転がって行った仕舞った様だ。

体を引きずりながら携帯に方に向かうが……

 

ビビー!!グシャ!!

 

「あ……」

天峰は自身に起きた現実が理解出来なかった。

天峰の携帯電話は……その場を通りかかった車に轢かれ……

 

「なんでだ……なんでだよオオオオオオ!!!!!」

 

暫く天峰の悲鳴が市街地に聞こえたという。

 

 

 

 

 

天峰の乗った救急車がとある病院へ搬送される。

今は使われていないハズの病棟で一人の少女がその救急車を見ていた。

 

「……なんだか……騒がしくなるきが……する……私には……関係ないけど……」

 

その少女は腕に持っていたクマのぬいぐるみの腕を放り投げた。

ベットには最早原型をとどめていないクマのぬいぐるみ。

腹に深々とカッターナイフが刺さっている。

 

「……何か……面白い事はないかな?」

腹からカッターを引き抜き少女は誰も居ない、病棟を一人さ迷いはじめた。

窓の外ではもう既に雨があがり夕日が街を照らしていた。




予測していた人もいましたが、一話の寸前の話だったんですね。
ここから夕日ちゃんと天峰の話がスタートします。



ここからは余談というか裏話を。
実はこの第0部最初は『リミットラバーズ』の第一部として投稿予定でした。
コンセプトは『ロリコンを主人公にした作品を作りたい!!』でした。
そこで最初のヒロインは『性格の良い子』をヒロインにしよう!!
と成りまして藍雨ちゃんが生まれました。

当然2部も書くつもりだったので、あらすじを作ります。
今度は逆に、『良い性格してる子』を書こうと成りまして夕日ちゃんが生まれました。
その結果……
物の見事に夕日ちゃんが、メインヒロインを食っちゃいまして……

「コレはイカン!!」という事で藍雨ちゃんがまさかの格下げ!!
夕日ちゃんはまんまとメインヒロインの座を奪って行きました。
いやー、夕日ちゃんつえーわ……

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