最近、少し筆のノリが悪い作者です。
うーん……偶にはギャグ回とか挟んだ方が良いのかな?
その作品9割がギャグナンデスケド……
今回は文字数が多くなりました。
「先輩、また来てくださいね」
「うん、もちろんさ」
自転車に跨る天峰を、見ながら藍雨がうれしそうに話す。
同じく簡単なあいさつを交わし天峰は夜の街に自転車を漕ぎだした。
藍雨は天峰の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
カシャ……カチャ……
藍雨は台所に戻り食器を洗いはじめる。
『先輩、
先ほどの言葉が脳内にリフレインする。
(なんで私はあの時
二人分の食器を方付け、藍雨が自身の気持ちを断定する。
(さて、次はお風呂の準備ですね。お母さんが帰って来たとき入りたいでしょうから)
自分の部屋に戻り着替えを用意し、風呂場に向かう。
脱衣所で、さっきまで天峰が来ていた胴着が目に入った。
コレは藍雨の兄の胴着だった。
中学卒業と同時に修行の旅に出た兄と父、当時はカッコイイと思っていた時期もあったが今はそれが時代錯誤であることを藍雨は理解している。
兄の胴着を着た天峰は何処か兄の様で、兄が自分の元に帰ってきてくれたようにも感じた。
そのせいで、そのせいでつい本気になって天峰に技を掛けてしまった。
天峰は簡単に倒されてしまった、自身の兄と同じレベルの人間はそうはいないだろう、ある意味当然の結果だった。
(悪い事しちゃいましたね……)
お風呂につかりながら藍雨はそんな事を一人思う。
何処か寂しいのはきっと、今夜自身が一人で寝るからだと藍雨は思う事にした。
着替えを済ませ宿題を終えたら就寝の時間だ。
布団に入り天井の木目を数える。
心がもやもやした時の藍雨の眠り方だった。
そして藍雨一人の夜はゆっくりと更けていく……
「……?……お母さんです……か?」
どれくらい寝ただろうか?
藍雨は物音で目を覚ました。
(お母さんでしょうか?……けど、予定よりかなり時間が早いです……)
時計を確認し、まだまだ母親の帰宅時間より早い事に疑問を持つ。
意を決して音のする方に向かう事にする。
布団を抜け出し、足音を殺し、ゆっくりと相手に気づかれない様に進んで行く。
ごそごそ……
がさがさ……
聞き間違いではない!!確実に誰かがこの家の中に居る!!
居間の方から音が聞こえる!!
相手に気づかれない様に、そっと顔を覗かせる。
居た……
自分と家族の憩いの空間に、異物となる男が無遠慮に部屋を荒らしていた。
一瞬だけ男がこちらを振り向いた!!
「ヒッ!?」
藍雨は無意識のうちに小さく悲鳴を漏らしてしまった!!
その一言は、侵入者に藍雨の存在を知らしめるのに十分だった!!
ピタリとその男が部屋を荒らすのを止める。
そしてゆっくりと男が藍雨の方に振り返る。
その瞬間やっと藍雨の脳裏に「逃げ」の文字が浮かぶ!!
パッとその場から身を翻し、自室の方に走り出す!!
後ろから気配がする!!確実に相手は自分に気が付いている!!
平穏な日常はたった一人の侵入者によっていとも簡単に崩壊した!!
逃げる藍雨の後ろから足音が聞こえる!!追ってきている!!何かの目的を持って確実に自分を追ってきている!!
廊下の角を曲がろうとして足が滑った!!
自分の身体が床に叩きつけられた!!
その間も容赦なく侵入者の足音は近付いて来ている!!
振り返れば……
すぐそばに、その男がいた……
怖い怖い怖いお母さん怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い助けて怖い怖い嫌だ怖い怖い怖い助けて怖いお兄さ怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖来ないでい怖い怖い怖い怖い怖い助けて怖い怖い殺される怖い怖い怖い助けて怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い帰って怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い嫌だ怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い嫌だ怖い怖い怖い怖怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いなんで私が怖い怖い怖い怖い怖い怖いお父さん怖い怖い怖い怖い怖い助けて怖い怖い誰か怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
寒くないのにガチガチと歯が震える。
立ち上がりたいのに手足が自身のいう事を聞かない。
すぐそばの暗がりに居る男が笑ったのを藍雨は見た。
そしてポケットから四角いナニカを取り出し、目の前でそれをスパークさせた。
何時か聞いた事が有る。
防犯グッズの一つで名前は確か……
ソレが押し付けられ、藍雨は激しい痛みと共に意識を失った。
瞼の裏にまぶしさを感じる。
(早く学校行かなきゃ……今日は私の班が給食当番です……)
そんな事を考えながら藍雨は体を起こそうとする。
今日も一日が始まったのだ、早く学校に行かなくては……
しかしそんな当たり前の日常はもう藍雨には無かった。
先ず最初に感じたのは違和感の塊だった。
自身の部屋ではない、それどころか知りもしない場所だった。
見た事のない汚い部屋、部屋の隅に埃が山の様に溜まっているし、畳の床には何かを零した様なシミ、コンビニ弁当とカップ麺の山にはカビが浮いている。
自身の両手にはビニール紐とガムテープの二重拘束、足も同じだった。
正に手も足も出ない状況。
まるで、遊び終わったおもちゃの様に藍雨は無造作に部屋に転がされていた。
昨日の記憶がよみがえってくる。
そうだ、昨日泥棒が家に入ったのだ。
それだけならまだいい、しかし泥棒は何の目的か自分を攫う事にしたらしい。
逃げる手段を考える藍雨、そんな藍雨の思考を邪魔するように横から声が掛かった。
「おはよー、よ~く眠れたかな?」
男の声がして、不自由な体をそちらの方に振り向かせようとした時、後頭部を押さえつけれる。
「おっとっと、まだ顔を見せる訳にはいかないからね~。
少し顔を隠させてもらうよ?え~と、コレとコレと……」
近くに会った白いコンビニの袋を、藍雨の顔に被せられる。
せめてもの情けか、呼吸が出来るようにと口には掛からない様に被せ頭をガムテープでぐるぐる巻きに固定される!!
「うんうん、いいね~。拘束された幼女……はぁ、テンション上がるね~。写真撮っておこう」
パシャパシャとヤケにあっさりとしたシャッター音が鳴る。
「ううぅん!!エクセレント!!ふふふふふふふ……いいね!!いいね!!縛られてるロリってサイッッッッコウ!!!ゾクゾクするねぇ!!」
姿は見えないがすぐ近くで声がする!!
こちらの様子を覗き込んでいる様だった。
「さぁて……幼女ちゃん?すこ~しご飯を買いにコンビニまで行ってくるけど何か食べたいモノは有るかなぁ?」
ゴロンと今度は仰向けにされる。
何も出来ずこの男の思うままにされる、藍雨はまるで自身がこの男の人形に成ったような気さえした。
「……おい、なんかしゃべれよ!!」
藍雨の腹に激しい痛みが走る!!
暫くして男に蹴られたのだと理解した。
「お前さ、この状況分かってる?お前は何も出来ない、生き残りたかったら
そう言いながら男が藍雨の首に手を掛ける。
顔のすぐ前でバチバチの電気がスパークする音がして背筋に冷たい物が走る!!
武器、体格差、自身の体の状態を鑑みても殺されるだけ、生死与奪権があちら側に握られているのは確定だった。
必死の思いで藍雨は首を縦に振る。
「……よぉ~し!!いい子だねぇ~。逆らわない良い子に成れば可愛がってあげるからね?早く『良い子』に成るんだよ?」
藍雨の様子を見て満足した男はコロっと態度を変え上機嫌になった。
それだけ言うと男は藍雨の頭の袋を取って出かけて行った。
まともに辺りを見る事が出来るようになった藍雨は周囲の状況を疑う。
部屋の隅に自信が昨日着ていた洗濯していない服や、下着が置かれている。
「気持ち悪い」ただ一言藍雨はそう感じた。
父親は兄は決して自分に向けてこなかったドロドロした男の醜い欲望。
それを目の当たりにし、藍雨は喉元に酸っぱい味が逆流するのを感じた。
「あ……」
無意識の内に藍雨は言葉を漏らした。
乱雑に物が置かれて机の上に、黒い機械。
「携帯……電話!!」
あれで助けを呼べば……!!
藍雨は縛られた体を動かしテーブルに体当たりする!!
本来なら立てば簡単に手に出来るハズだが、現在藍雨は拘束されている。
2度、3度とテーブルに身体を当てる。
まだ汁の入ったカップ麺の容器が転がり藍雨の服を汚す!!
それでも気にせず、電話を落とそうとする!!
そして遂に……!!
カコン……
「やった!!」
二つ折りの携帯を開く、何時もなら2秒もかからないその動作を口を使って20倍以上の時間をかけて成功させる。
近くに有ったボールペンを口に含み、ボタンを押す。
1、1、0……
(助けて、助けて……助けて!!)
必死の願いを含めコール音を聞く。
『はい、
数秒後電話の向こうから警官の声がした。
やった!!助かる!!
藍雨の心に安心が広がった。
「た、助けてください!!私攫われたんです」
持てるだけの言葉を使い、警官に助けを求める!!
しかし……
「はぁ?お嬢ちゃん何言ってるの?こんな朝早くからイタズラ電話なんてダメでしょ!?学校は行きたくなくてもサボらず行きなさい!!それじゃあね!!」
ガチャンと電話が一方的に切られる!!
何度言葉を発そうともう無駄だった。
藍雨の希望はたった今!!消えたのだ。
その事実がじくじくと痛みを伴い心に沁み込んでいく。
(もうずっとこのままなんだ……誰も来てくれない……私は一生あの人のオモチャにされるんだ……絶望って……こんなに近くに有ったんだ……)
誰も気にしない、誰も来はしない、誰も彼女を助けはしないのだ。
この男を除いては!!
「たっだいま~ロリちゃん良い子にしてたぁ?」
男がコンビニの袋を持って帰って来た。
「んん!?」
目ざとく自分の携帯電話が床に落ちているのに気が付く!!
すぐさま取り上げ発信履歴を見る。
「……やってくれたな……クソガキィ!!」
鼻がつーんとする、その後すごく熱くなる!
自身の顔が蹴られたと理解するのはその後だった。
「優しくすると付け上がりやがって!!コレだからガキはよぅ!!おとなしく大人のいう事、聞いてりゃいいのによぉ!!クズめ!!俺の優しさを裏切りやがって!!体に教えるしかないか……」
バチバチと音を立て、藍雨の目の前でスタンガンをスパークさせる!!
「……殺したいなら殺しなよ!!どうせ誰も来ない……なら、もう止めてよ……もういっそ終わらせて!!」
藍雨の怒気を含んだ声もドンドン弱っていく。
最後には涙声に変わってしまった。
「…………ふひッ!……コレは良いね……幼女の泣き顔ってなんでこんなにソソルんだろ?ああ、素晴らしいね、クセに成りそうだ!!おっといけない、保存保存!!」
ピッ!っと音がして携帯のカメラが起動する。
ムービーを取っている様だった。
「ほぉら、ロリちゃん?僕の事お兄ちゃんって言ってみようか?ふひひ!!」
何時もの調子に戻り藍雨の撮影を始める!!
「……お兄ちゃん……」
「いいねぇ!!素晴らしいよ!!そうだな……次はご主人様だ!!あ!正確には『ご主人様、私にお仕置きしてください』ね!!」
「ご主……人様……私にお仕置き……してくださ……い……」
カメラに向かって藍雨に屈辱的な言葉を次々と言わせる。
そのたびに男は、ニタニタと気持ちの悪い笑顔を藍雨に向ける!!
藍雨は心を殺した様に、ただただ言われた事だけを口にする。
「そうだよ?こうしてれば君は痛い思いもしなくて良いんだよ?幸せだよね?」
「幸せで……す……」
「じゃあ次は……っと!もう仕事の時間だ!!悪いね、戻ってきたらまた遊んであげるからさ」
それだけ話すと、弁当を机に置き出かけて行った。
再び自分だけに成った部屋。
藍雨は自身の昨日着ていた服を枕にして寝転がった。
死体の様に藍雨は呆然としていた。
時計の針だけが嫌に速く流れて行く。
死体。
今の藍雨を端的に言えば心の死んだ死体だろう。
寧ろ藍雨は自身の心を殺し死体に成ろうとしたのかもしれない。
頬を何かが零れる。
涙だった。
心を麻痺させた積りなのに……
あの男にさえ逆らわなければ幸せなハズなのに……
全てを諦めてしまえば楽なハズなのに……
何故か涙が次々あふれてくる。
(そうだ……せめて楽しかった事を考えよう……私は自慢の漬物を食べてもらって……お母さんに料理を教えてもらって……お兄ちゃんとお父さんに食べてもらって……二人に褒められて……そうだ、思い切ってクラスの子たちにもたべてもらおう……きっとみんな褒めてくれる……そうだ、先輩、天峰先輩にも食べてもらって、一緒に道場で組手して……弱いくせに先輩は私をみて笑うんだ……また、料理たべてもらって……)
昨日の事なのに、もうずいぶん遠い昔な気がする。
もう決して戻らぬ過去の幸せ。
色あせた幸福と絶望に染まる未来……
「やさしい人だったな……わざわざ自分のアドレスを――アドレス!!」
その時藍雨は昨日の事を思い出す!!
(アドレス!!先輩が紙に書いてた!!それを貰った!!)
藍雨は自分が枕にしていた昨日の服を、口でまさぐる!!
有った、くしゃくしゃに成った紙が自身の服から出てきた!!
テーブルの上に携帯はまだある!!
再び携帯を落とした藍雨は、割り箸を咥え携帯にメールアドレスを打ちこむ!!
「たすけて」
変換すらしていないたった四文字の言葉。
何度も唱えそのたびに裏切られた言葉。
その言葉を携帯に打ちこむ。
そして送信のボタンを押し、今度は履歴を消す。
何時もの何倍も疲れた気がする。
『オニイチャンワタシヲカワイガッテニャー オニイチャンワタシヲカワイガッテニャー』」
「あ、ごめん。メール来た……構わず続けてくれ」
「いや、良いわよ。先にメール見なさいよ……ってか、マナーモードにしておきなさいよね!!」
「いや、このカワイイ着信音が聴けないのって嫌だし……」
そう言いながらメールを開く。
「ッ……マジかよ!!」
着信履歴には見た事のないアドレスからだった。
正直イタズラだと思い、僅かに怒りが湧いた。
(差出人は不明……イタズラメールか?開けてみるだけ開けるか……)
内容はたった一言「たすけて」のみ。
たったそれだけ、何時もならイタズラと決めつけすぐに忘れるハズのメール。
しかしなぜかこの時は違った。
天峰本人も何故だかわからない、ただこの言葉は決して踏みにじってはいけないと本能的に理解した!!
「悪い、卯月!!この話はまた今度だ!!」
天峰は自分でも解らないまま走り出していた!!
着信したのはたったの四文字しかし天峰は、この時確かに藍雨の心を受信したのだ!!
良し!!久しぶりにリバース版書こうか!!
けどリバース夕日は使い方が難しいキャラなんです……
何というかクセが強くて、私にR18の呪いをかけてきます。
書いてるうちに「あ、ヤベ……コレR18行じゃん……」とか有りましたからね。
セーブしなくては……