リミットラバーズ   作:ホワイト・ラム

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すいません遅刻しました!!
他のリクエストは、これからどんどん書いていく予定です。


クリスマス短編1 夕日編

『メリークリスマス!!』『ジングルベ~ル♪』『チキン完売でーす!!』『ケーキ残りわずか!!』『ねぇ、今日どうする?』『レストランを予約してあるんだ』

街中が騒がしくも幸せな喧騒に包まれる。

サンタをイメージした赤と白、ツリーの緑そして色とりどりのイルミネーション。

 

 

時は12月24日~25日。

世間で言うクリスマス。

人形の様な、と良く表現される少女。

坂宮 夕日は駅前を一人歩いていた。

 

夕日はクリスマスが嫌いだった。

いや、『だった』という表現は正しくない。

夕日は現在進行形でクリスマスが大嫌いだった。

 

「チッ……みんな……死ねばいい……」

 

彼女らしくない悪態をついて、自宅へと歩いて行く。

今日は金曜日、明日は学校も無く一日中家に居れるのだが、今日のうちにと夕日は必要な物を買いに駅前まで来ていた。

 

家に居てもテレビからやってくる情報はクリスマス一色に染まっている、かと言って家の外に出るのも得策とは言えなかった。

街中は先ほど言ったように、クリスマスに染まっているし、店の中に居てもクリスマスコーナー、店内に掛かる音楽もクリスマスソングと何処に居ても、何をしていてもクリスマスはやってくるのだ。

明日は土曜、これが休みを挟むのだ。

考えただけで頭が痛くなる。

 

着てきたコートの中から両手を出して、息を吹きかける。

 

ハー、ハー。

 

自身の体温が移ったのか、一瞬だけ両手が温かくなる。

 

「ねー、早く家に帰って食べようよ!!」

「こらこら、そんなに走るんじゃない……」

「もう、あの子ったら」

 

夕日の目の前を10歳くらいの男の子が走っていく。

そしてそれをゆっくり追いかける、両親。

 

突如甲高い声がしたと思ったら、両親が走り出す。

何事かと思い、視線の先を確認するとさっきの子供が転んでベソをかいていた。

しかし

そこに父親が駆け寄ると、すぐに子供は笑顔を取り戻した。

三人は仲良く喧騒の中へと姿を消した。

 

「チッ……みんな……死ねばいい……」

本日二度目の悪態を付き、自宅の傍に停車するバス停へ向かう。

「キャ!?」

何かに足を取られ転んでしまう、さらにタイミングが悪い事に財布の中身をぶちまけてしまった!!

「……待って……」

転がってゆく硬貨を立ち上がり追う、そしてすべての硬貨を集める頃には……

「あ……バス出ちゃった……」

乗ろうと思っていたバスが出発してしまった。

 

行き場のない怒りがあふれてくる!!

 

「……クリスマス……嫌い……」

怒り心頭でバス停に座るが……

「……冷た!!」

自分のおしりに伝わる冷たさで立ち上がる!!

何かのいたずらか、偶然か。

バス停の待合場所の椅子が濡れていた。

「……むぅ……」

このままバスに乗る訳にはいかないと判断し、冷たいズボンを抱えながら自分の家に向かって歩き出す。

 

 

 

やはりここでもクリスマスは続いていた。

イルミネーション、色合い、クリスマスソングetc……

それらすべてが夕日を馬鹿にしている様な気がした。

 

「ただいま……」

現在自分が世話になっているウチ、幻原家へ戻ってくる。

鍵も閉まっていた為、誰も居ないのが容易に想像できた。

「……着替えなきゃ……」

そうして自分の部屋で濡れたズボンとパンツを着替える。

一息ついた所で炬燵に入り電源を入れる。

「……あったかい……」

台所でココアを作り自分の部屋で飲む。

何時の間にか夕日はすっかり沈み、ただ真っ暗な寒空が広がっていた。

 

今日は幻原家もずいぶん静かだ。

両親はホテルに二人で食事に行っており、ハイネは友達と遅くまで騒ぐそうだ。

天峰は八家、卯月と集まって食事をするらしい。

数日前から卯月が張り切っていたのを覚えている。

家族全員に何らかの予定が有る様だ。

 

しかし、予定のない夕日は炬燵の暖かに、ゆっくりと船をこぎ始める……

その静寂を破る様に玄関から声が響く!!

 

「ただいまー!!&メリークリスマス!!」

何時もは嫌いではない天峰の声がこの時ばかりは鬱陶しくてたまらなかった!!

「……お帰り……」

若干不機嫌な感じで夕日が迎える。

「ただいまー!!夕日ちゃん!!ヘーイ!!メリクリ!!」

何時にもまして高いテンションで天峰が右手を上げる。

「……うるさい……」

露骨な態度で『クリスマスお断り』をアピールする。

「えっと……どうしたの夕日ちゃん?何かご機嫌ナナメ?せっかくのクリスマスだよ?」

天峰がしょっぱなから不機嫌顔の夕日に困惑する。

 

「……私……クリスマス……嫌い……」

「なんで?、俺夕日ちゃん位の時、メッチャ楽しみだったけど?」

「……幸せそう……なのが嫌……」

「え!?そうなの?」

夕日も天峰と同じく反リア充派の人間だと思ったのだが、その後に続いた言葉でそのイメージは変わった。

 

「自分と……違う……と思わせるから……」

天峰はその言葉ですべてをなんとなく理解した。

「みんなが……楽しそうに……してるのに!!私だけ一人で家に――」

「えいや!!」

そう言って天峰は夕日の頬を両手で挟み込んだ!!

強制的にひょっとこの様な不細工な顔になる。

 

「……何するの……?」

若干不機嫌な感情をこめて夕日が天峰を睨む。

「あのさ、そういうのもういいから。それは過去の話でしょ?」

「過去だからって……!!」

夕日の纏う気配に明らかな怒りが混ざる。

 

「夕日ちゃんはもう窓から幸せを見る側じゃないんだよ?幸せを受ける側なんだよ。辛かった事は知ってるつもりだよ、けどさいつまでも昔の事を引きずっても何の意味もないんだよ。

100年後の自分って考えた事有る?」

受け売りなんだけど、と頬をかく。

「……100年後?普通は……」

「そ、みんな死んでるよね。俺達の時間はあと100年もないんだよ。

ならさ、楽しまなきゃ損じゃない?羨ましがっても、勇気出しても今日は過ぎていくんだよ?じゃあさ、遠慮なんかしないで今日はたくさん思い出作ろうよ!!」

そう言うと天峰は立ち上がり、コートを隣の部屋から持って来た。

 

「よぅし!!二人だけみたいだし、豪華にチキンとか食べようか!!」

そう言いだすと、天峰は手早く携帯を持ち出し

何処かに電話をかけ始める。

「あ、ヤケー?俺、俺。悪いけどさ、今日の予定キャンセルしていい?いや、急にやる事が出来てさー、うん、うん。卯月にはよろしく言っといてー」

さらに財布をコートのポケットに入れたかと思えば。

自転車に乗って夜の街に出かけて行った。

決定してからわずか10分足らずの出来事。

あっという間の行動だった。

 

夕日は思う。

何故、幻原家の人間は何かを決めたら即座に行動できるのだろう?と。

ハイネも義母も義父もそうだ。

常に弾丸の様な天音、迷うという事を知らぬ義母、その義母を的確にカバーする義父。

それらすべてが夕日には明るく思えた。

そんな事を思っていると玄関を開く音がした。

 

「ただいまー!!夕日ちゃんおまたせ!!」

玄関に向かうと重装備の天峰が立っていた。

その手には様々な物を持っていた。

「ホイ、ローストチキンとコーンスープとケーキ、あ!!シャンメリーも有るよ?」

 

台所でチキンを温め、鍋でコーンスープを温める、余ってた食パンを焼けば簡単なディナーの完成だ。

 

「ほら、どうしたの夕日ちゃん?早く食べようよ?」

テーブルに天峰が夕日を誘う。

それは夕日が思い浮かべた、家族その物で……

「わかった、今いく!!」

笑顔を浮かべて席に着いた。

天峰の用意した簡単な夕食は、何故か今まで食べた何よりもおいしく感じた。

笑顔の絶えぬ食卓、これこそが最も素晴らしい幸福の形かもしれない……

 

 

 

暫くして夕食を食べ終り、ケーキを食べるまでの腹ごなしに一旦席を立ち部屋へ向かおうとする天峰だが、シャツの裾を夕日につかまれる。

「どうしたの夕日ちゃん?」

「……誰も……居ないから……一緒に居て?」

うつむいたままで表情は解らなかったが、耳が真っ赤になっているのに天峰は気が付いた。

「わかったよ、俺の部屋来る?」

その問いに夕日は黙ってうなずいた。

 

 

 

「待ってて、今暖房入れるから」

そう言って天峰は自分の部屋のヒーターを付ける。

「……天峰!!……雪!!」

「本当だ」

夕日がベランダを指さす。

その指に導かれ外に視線を向けると、確かにちらほらと白い物が音も無く振っていた。

「……きれい……」

夕日がそうつぶやくと同時に、ヒーターからけたたましい警告音が響いた。

 

「あちゃー……灯油切れか……入れなおして来ないとな、夕日ちゃん、一旦リビングに――」

「これが有る」

そう言って天峰のベットを指さした。

「へ?」

天峰は間抜けな声を漏らした。

 

 

 

「えっと……ホントにいいの?」

「……早くして……」

躊躇する天峰に対し夕日が急かすように言う。

それなら、と天峰が毛布を手にベランダの前に座る。

丁度胡坐をかくような姿勢になり、その上に夕日が座る。

そしてそのまま天峰が毛布を羽織り、夕日がその毛布の端を持つ。

イメージとしては2人羽織に近い。

そのまま、ベランダから降り積もる雪を眺める。

「……手をまわして……?」

 

その言葉に天峰が一瞬停止する。

唯でさえ密着状態で、自分の腰の上に夕日が座っているし、お互いの体温でしっとりと汗さえかき始めているのに、さらに夕日の腹に手を回せと言われたのだ。

その、なんだ、いろいろとヤバいのだ、理性的な意味でも身体的な意味でも……

「えっと……そろそろ暑くなってきたから――」

「私は寒い!!早く回して!!」

 

遠慮気味に話す天峰をバッサリと夕日が切り捨てる!!

「は、はい……」

 

そう言って遠慮気味に夕日の身体に毛布の中で手を回す。

当たり前だが服の上からでも、夕日の少し汗に濡れた肌の感触を感じる。

「あ、あの夕日ちゃん?少しばかり積極的すぎない?」

 

「……100年後……は居ないから……遠慮はしない……」

先ほど天峰が使った言葉で返事をする。

そう言われると天峰も黙るしかない。

そうして天峰に寄りかかり体を預ける。

「え、えっと夕日ちゃん?」

「……ねぇ?……私は……遠慮しない……よ?……天峰は……しちゃうの?」

そう言って猫なで声で、天峰の方に身体を向きなおさせる。

流石にそれはまずいと立ち上がろうとする天峰だが、今更ながら気が付く。

足の上に夕日が乗っているから、逃げる事が出来ない!!

「……逃がさないから……私を……幸せにして……ね?……お兄ちゃん」

そうして夕日の顔がゆっくりと近づいてくる!!

 

 

ガチャ!!

その時玄関が開く音がする。

「ただいまー!!兄貴ー、おっ!!夕日も帰ってるのか!!ケーキ一緒に食おうぜ!!」

玄関から天峰の実妹、天音の声がする。

どたどたと足音がするため、天峰達のいる2階にもすぐ来るだろう。

 

「……あーあ……残念……」

そう言って天峰から夕日が立ち上がる。

そして「今いくー」

と夕日が声をかけた。

その言葉に天峰は安心し、ため息を漏らす。

「……ハイネが……寝たら……また来るから……」

耳元でそうつぶやき夕日が一階に下りて行った。

 

今日は24日のクリスマス・イブ。

明日はクリスマスで土曜日……

2人のクリスマスはまだ終わらない。

 




今回の話は正史かどうかは、あえて未定とさせていただきます。
もともとキャラクター別のエンディングの予定なので、夕日ちゃんが好きな人はこれが正史だと思ってください。
あなたの中の真実が、この作品の正史になります。

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