なぜだ?
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(ああもう!!イライラする!!)
卯月茉莉は非常に不愉快な気分で、廊下を歩いていた。
不機嫌な理由は簡単だ、ついさっきの天峰の態度だ。
(あのバカは一体何を考えてるの!?私をフルのはまだいいわ!!……悲しいけど『人の思いをずっと』なんてのは都合が良すぎるのは分かってるわ……けど!!相手も居ないのに成長したからサヨナラって何よ!!幼女が好きって何よ!!ロリコンって恥ずかしくないの!?……絶対また私に振り向かせてあげるんだから!!)
そう決心を新たにする。
勘違いされがちだが、卯月自身自分の容姿が特段優れているとは考えていない。
寧ろまだまだ努力すべき点があると思っている。
彼女は美容と健康には他人より特別、気を使っているつもりだ。
あらゆる面での非凡な努力、それこそが彼女を校内の人気者至らしめている秘密だ。
もちろんその努力は全て自分の思い人を振り向かせるために……
「ったく……どうして
いつの間にか考えている事を口に出して、ため息を思わず漏らす。
その心中は酷く複雑だ。
天峰に対する好意というのは、確実に現在でも自分の中に有る。
あえない時はいつも彼の事を考えいたし、好かれるための努力も決しておろそかにはしていないハズだ。
そんなに気持ちが向いているというのに、彼は他の誰かを見てばかりいる。
これが荒れずにいられるだろうか?
「あれぇ?茉莉お姉ちゃんどうしたの?ため息なんてついて?」
後ろからの声に卯月が振り返る。
誰かは知らないが何処かで聞いたことのある声だ。
「……あら、夜宵ちゃんじゃない?どうしてこんな所にいるの?」
そこに居たのは、卯月の従妹に当たる少女。
読河 夜宵(よみかわ やよい)だった。
夜宵は片手に紙の束を持っており、もう片方の手で自身のスカートの端をつまんだ。
「お姉ちゃん忘れたの?私今年から中学生よ?……ああ、この束は地理の先生が高等部の準備室から借りてきてって頼んだ世界地図ね」
そう言うと同時に紙の束も見せる。
天峰と卯月の通う志余束は、小学校から高校までのエレベーター方式の学校で有り。
小学校とは校舎は別だが、中高は校舎も同じで日常的に中高生たちの接触が有る。
そのため、中学生が高校のクラス前に居る事も珍しくない。
しかし問題は他の所に有った。
「あ、ああ……そうなの……知らなかったわ……そっかぁ、もう中学生かー」
それは卯月が個人的に夜宵を苦手としている事だった。
何故なら……
「そうそう、お姉ちゃん何か悩んでるの?」
「え!?な、何も悩んでないわよ?」
夜宵が鋭い質問をするが、卯月は必死で誤魔化そうとする。
「うっそだー!!だってぇ何かイライラしてるみたいだし、けどただイライラしてるだけじゃないよね?う~ん……女の勘的に恋の悩みね!!」
ビシッと卯月の考えていた事を、自信ありげに言いあてる。
「ち、ちがうわよぉ?夜宵ちゃんもおませさんね……(相変わらずの凄い勘!?)」
そう、卯月が夜宵を苦手とする理由はここに有った。
夜宵は「女の勘」と言う物が非常に鋭い。
更に話術まで優れており、さらにいろいろとおかしな人脈がある油断ならない人物なのである。
もしも、もしもだ。
彼女に、自分の思い人が久しぶりに会ったらロリコンに成っていた。
なんて言ったらどうなるか解らない!!
「じゃ、じゃあ私次の授業が有るから……」
そう言って手短に別れを告げ、夜宵から距離を取ろうとする。
「うん!!じゃあね!!例の彼氏さんによろしくね~」
それだけ言うと、後ろを向き歩き出そうとする。
「え?夜宵ちゃん天峰の事しってるの!?」
「……うん、もちろんだよ?ロリコンの人でしょ?」
ニヤリと笑う夜宵。
その言葉に卯月が慌てだす。
「ちょ、ちょっと!?誰から聞いたのよ!?」
卯月は夜宵の言葉に焦りだす。
自分では隠していたつもりの事がこんなにもあっさりと、バレていたとなればそれもしょうがないだろう。
「……ひひ、そんなの簡単だよ、卯月お姉ちゃんなんだか、悩んでるみたいに見えたから『恋の悩み?』ってカマ掛けたのそしたらドンピシャ!!あんなに慌てだしたら誰でもわかるよねー?
で、ポイントはここから、お姉ちゃん自分で『タカミネ』って名前出したじゃない?私自身噂好きだから、校舎内の噂をたくさん集めてるんだよねー。
もちろん天峰さんの事も聞いてる、結構かっこいいけど何故か小学校の校舎ばっかり見てる人でしょ?ソコから連想すれば、大体は解るでしょ?
ちょっと突けばボロが出る。後はちょっとの想像力と度胸と運!!」
そう言って自慢げに笑う。
卯月は完全に嵌められた形となった訳である。
「すごいわね……夜宵ちゃんの言うとおりよ……あなたのそう言う賢い所って私は嫌いじゃないわ。けど、そんな事ばかりしてると何時かみんなに嫌われるわよ?」
絞り出すような声で、夜宵を見据える。
そこにはもう既に、年上としての威厳などなかった。
「大丈夫、大丈夫。卯月お姉ちゃん知ってる?どんなに話したって所詮は『噂』でしかないの、煙みたいに形が無くて簡単に操れる、けれども確かに信じている人もいる。
人はみんな自分が面白い様に動くの、私はその中心に居る。
噂の霧の中で誰にも私に気が付かないわ。
ねぇ、お姉ちゃん?私個人的にお姉ちゃんが好きよ?少しだけ協力してあげようか?」
ニヤリと、まるでそこのしれない顔で嗤った。
『噂の霧』彼女はそう言ったが、まさにその通りだった。
正確な心の内は解らず、けれども確実に心の中に入り込んでくる。
そんな気配を彼女は持っていた。
「協力?夜宵ちゃんが?」
その時チャイムが鳴り始める。
彼女が目の前に居るせいか、いつもよりもずっとゆっくりに聞こえた。
「そうだよ?お姉ちゃんが望むなら、師匠譲りの情報網で天峰さんの事調べてあげるよ?恋は情報戦だよ?」
「うれしいわね……けれどどうしてそこまでしてくれるの?あなたには何のメリットもないハズよ?」
「あははははは……メリット?メリットなら有るわ?簡単、だって面白くなりそうだから、私は自分が楽しむためならどんな努力も惜しまないわ!私はね?自分の為ならどこまでも他人の力になれるの」
ニヤリと年不相応の顔をして、卯月の表情を見る。
自分の為、何処までも利己主義的な考えだが、それゆえに信用できるともいえるだろう。
「……そんな事より、夜宵ちゃん。チャイム鳴ったわよ?プリント、届けなくていいの?」
卯月は夜宵がさっき言っていた、件を指摘した。
「あ!?いっけない!!すっかり忘れてたよ!!あ~ん!!途中まではミステリアスな感じで恰好良かったのにぃ!!じゃあね、お姉ちゃん!!私プリント出してくるから!!」
それだけ、言い放つと廊下を、スカートがめくれるのも気にせず全力で走り出した。
(はぁあ。軍師気取りって感じね)
何処か呆れながらも、心強い味方が出来た事を卯月は少しだけ喜んだ。
一方その頃天峰は……
「おっと……チャイムか。結構ロリコニウムは補充出来たな……これであとしばらくは禁断症状に悩まされなくて済むな……あ、禁断症状なんて出たことなかったわ!!」
凄まじくどうでもいいことばかり考えていた!!
夜宵ちゃんは実は過去に名前だけ、登場しています。
自称ミステリアスなへっぽこ軍師