決してしてエタル気はございません!!
ゆっくりと待っていてください。
天峰達『天気屋』の少し重くなった空気を崩すように、その場で放送が鳴り響いた。
それは開会式が終わり、全体ではなくチーム毎での第1回戦が始まる事を意味している。
「おまたせしたゲド!!第一競技の参加チームが決まったゲド!!『H&S連合』VS『天気屋』ゲド!!」
チーム戦一回戦目の試合から天峰のチームが呼ばれる。
それぞれ言いたいことが有るのだろうが、今はそれどころではない。
『天気屋』メンバーは続々と立ち上がり控室を後にする。
天峰をはじめとしたメンバー達は不安からなのか、声すら上げずにグラウンドを目指す。
グラウンドの照明を浴びた瞬間、観客席から割れんばかりの歓声が響いた!!
「わーわー!!」「キャーキャー!!」「待ってたぜ!!」「試合期待してるぜ!!」
しかし……
「なんだよコレ……」
天峰が驚愕する、何と観客席には殆ど人がいない!!先ほどまでの歓声は実はすべてテープに寄る物だった!!
がっかりだよ!!
『ゲ~ドゲドゲド!!お前らに観客がいると思ったゲドかぁ?ザンネ~ンでした!いる訳ないゲド!!コレはフリーダムソングズの皆さんによって作っていただいたものです、急なお願いに対して快く手伝ってくださった皆さん本当にありがとうございますゲド!!』
『さぁ!注目の第一回の競技です!!どんな試合になるのか!!私楽しみで成りません!!』
会場に外道とタナトスの声が響く。
そしてその声が合図だったように会場に大きな透明の球体が持ち込まれる。
その球体は小さく穴が有り、中ではクジが風に舞っている。(遊園地などのクジのマシーンと全く同じ)
チーム戦毎の競技種目は、基本的にランダムある。
それぞれのチームのメンバーの代表がクジを引き、最終的に2種目の内どちらかが審判のその場のテンションによって決定される。
実際に見てもらった方が早いだろう。
「両チームの代表者前へ!」
「俺が行っても良いよな?」
タナトスの言葉に天峰が皆に確認を取る。
「かまいませんわ、大して競技に関係なさそうですし」
「……行ってらっしゃい……」
一方で……
「ねぇ、硝ちゃん。私行ってきて良いかな?誰でもいいからぶっ潰したいんだぁ!」
「任せる」
『H&S連合』の二人も手短な会話を終え、鈴菜がクジの舞う球体に向かう。
「それぞれ一枚づつクジを引いてください!」
「解りました」
「了解♪」
ズボ、ズボッと両人がマシンに手を入れクジを取り出す。
「フムフム……今回は、グレイ部マッシ部とガンバ零度マーチですか……外道さーん!!どっちが見たいですかー?」
クジの内容を確認次第タナトスが解説席の外道に声をその場でかける。
(ええー!?そんな雑なシステムなの?)
天峰があんぐりと口を開ける。
周りのメンバー達が全く動揺していない所を見るとそれが普通の様だ。
「ゲドッ!?このチームでグレイ部マッシ部ゲド!?それに決定ゲド!!」
勢いよく立ち上がり天峰の引いた競技を指名する。
それと同時にアナウンスが会場中に鳴り響く!!
『第一競技はグレイ部マッシ部に決定しました、繰り返します!!第一競技はグレイ部マッシ部に決定しました』
「あはッ!可哀想に~君たち運がないね~、寄りにも寄ってグレイ部マッシ部か~、コレはもうウチの勝ちだね。せっかくだから思いっきり恥ずかしく負けさせてあげるよ」
そう言って相手チームのメンバー八咲 鈴菜が笑う。
「それでは両チーム参加者を選んでください!!制限時間は10分です!!」
タナトスに言われ天峰が自分のチームに帰ろうとするが……
「ねぇ?キミたちのチームのもう一人の子来ない?私が本気で相手してあげるからさ?」
『天気屋』の他のメンバーに聞こえるように声をその場でかける。
その瞳はまるで獲物を見据え、今まさに
その瞳に天峰は僅かに血の気が引くのを感じた。
「やってくれましたわね……あのチーム相手にグレイ部マッシ部……」
まどかが重たい表情をする。
『グレイ部マッシ部』それは基本ルールは『叩いてかぶってじゃんけんポン』と同じだ。
この競技では盾がそれぞれ両人に用意され、テーブルの上にハリセンが置かれる。
じゃんけんをして勝った方が相手をハリセンで叩けるまでは全く同じなのだが、この競技は
ジャンケンの勝者には30秒の攻撃権が与えられ、この間相手をハリセンで攻撃しても良い。
逆に負けた側は盾を使って体を守って良いが、盾を3回使った時点で敗北となる。
端的にまとめると、相手にハリセンでダメージを与え盾を3回使わせるゲームという事になる。
因みに
木枯が持って来たビデオに、前々回の戦いで八咲 鈴菜が相手を叩きのめすシーンがばっちり収録されていた。
彼女はその見た目に反し、人間とは思えない威力をハリセンで叩きだすのだ!!
鈴菜とこの競技は相性が素晴らしく良いと言える。
「私がやりましょうか?」
藍雨がおずおずと手を上げる、藍雨の特技は身軽さとバランス感覚。
相手のハリセンを回避するなら最も向いているが……
「藍雨ちゃん……攻撃はハリセンでしか出来ないから藍雨ちゃんじゃちょっと力が足りないんじゃない?」
天峰が進言する。
そうこの競技は力がモノを言う競技、『選手宣誓』と同じく体格では劣る『天気屋』には不利な状況だと言えるだろう。
しかしそんな中、手を上げる人物が一人。
「ああ、俺が出るわ。アッチの子、俺を指名してきたんだろ?」
天峰以外の唯一の男、野原 八家だった。
「出るのか?お前を指名してきたってことは……」
「何か俺に対して思う事が有るんだろうな?けど構わない。だってよ天峰?ロリーズの内誰かを出そうとは思わないだろ?」
心配する天峰に対しそう答え、競技場に歩いて行く。
「ヤケー!!ファイトだ!!」
声をかける天峰を余所に振り返らず無言のサムズアップをする。
幾度も行われた二人のサイン。
今回も八家は同じポーズで応えた。
ステージ上にはすでに相手の選手 八咲 鈴菜がスタンバイしていた。
目の前のテーブルにはハリセンが用意されており、すでに腕に盾を持っている。
「アハッ♪来てくれたんだ!待ってたよ?『選手宣誓』ではふざけた事してくれたよね?……ここに来たことをたっぷり後悔させてあげるからさ~」
凄まじく好戦的な表情で八家を睨む。
「『選手宣誓』?なんの事だ?悪いけど覚えてないな?」
盾を腕に装備しながら全く記憶にないと言った様子の八家!!彼は自らの本能のままに動く人間!!
いちいち覚えていないのだ!!
だがここは相手に対する挑発も有ったようだ。
「……チッイ!!むッかつくな~、私の事ここまで馬鹿にしたヤツって初めてかも!!……久しぶりに?本気で?殺っちゃおうかなぁ?」
鈴菜が舌打ちをし、露骨に不機嫌な顔をする!!
その時再び外道が声を上げる!!
『それではグレイ部マッシ部!!スタートゲド!!』
「「じゃんけんポン!!」」
両人が手を出すとほぼ同時にスパーンと音がした!!
ドサッと音を立て八家が倒れる!!
「なにが起きたんだ!?」
混乱する天峰に対し静かにアナウンスが答えた。
『ただいまの結果、鈴菜選手にペナルティ発生!!野原選手に1ポイント贈呈されます!!』
電光掲示板に八家にポイントが入った事を知らせる文字が流れる。
自体としては喜ぶべきなのだろうが……
「あれがアイツの手段ですわね……」
まどかが悔しそうに歯噛みする。
鈴菜は相手を痛めつける事に対しては、天才的な才能を見せる!!
この一発で自分の力を、相手に知らせるのだ。
ポイントより相手にダメージを与える事を重視しているあたり、彼女の性格がうかがえる。
「ヤケぇ!!大丈夫か!?」
天峰が必死に呼びかける。
「これ位、無問題!!」
それに対し八家はゆっくりと立ち上がった。
「兎に角これで一点先取だな?」
「へぇ?まだそんな軽口言えるんだ……いい気にならないでよ?コレは私からのプレゼント、ホンの挨拶代り……まだまだまだまだまだまだ!!たっぷり遊んであげるから」
八家の挑発に対し鈴菜が交戦的に笑う。
「「じゃんけんポン!!」」
スパーン!!
「「じゃんけんポン!!」」
……
「「じゃんけんポン!!」」
スパーン!!
「「じゃんけんポン!!」」
スパーン!!
「「じゃんけんポン!!」」
……
その後しばらく二人の戦いが続くが、非常におかしな戦いとなっている。
鈴菜に攻撃権が有るときは八家は全く避けず攻撃を食らっている。
しかし
八家に攻撃権が有るときは八家からは全く攻撃しない!!
完璧に30秒間立ったままなのだ!!
「ねぇ?なんで攻撃しないの?馬鹿なの?な~んの意味もないと思うんだけどぉ?」
おかしそうに鈴菜が言う。そういうのも無理はない、八家の戦い方は完全にセオリーから外れた勝機の無い無謀な戦い。
「なんでって?避けるまでも無いからかな?大した威力じゃないし……」
そう強がっているが顔は腫れてすでに真赤だ。
「何より!!これ位ご褒美だぜ!!ボインちゃ~ん!!」
そう言って指を立て下品に笑う!!
スパーン!!
無意識に鈴菜は八家をハリセンで叩き飛ばしていた!!
その途端再びアナウンスが響く!!
『ピピー!!鈴菜選手、攻撃権時間外の攻撃により八家選手にポイントが追加されます!!』
「いいよ……2点目もあげる……けど正直言って今回のは失敗だな~。こんなにムカついたのはかなり久々!!けどまだ……」
言葉を続けようとしてハッとしたように鈴菜が表情を変える!!
「……これを狙ったんだ?」
「アンタ、なんだかんだ言って気性が荒いだろ?下手にヤルよりもこっちの方が良いみたいだしな?」
睨む鈴菜を横目にボロボロの八家が笑う。
「……コイツ……どうやって殺してやろうかなぁ……二度とボーノレをする気が起きないように……ああ、とりあえずあのふざけたチームは全員徹底的にヤルとして……コイツは見せしめ、見せしめにどうしてやろうか……私の名前を見ただけで震えるように……」
小声で鈴菜がブツブツと言いはじめる。
(よぉし……その調子だ、怒りで我を失え~)
その様子を見て八家がほくそ笑む。
これこそが八家の作戦!!身体能力では勝つことの出来ない相手に唯一勝機が見える戦い方!!
それはひたすら耐える事!!
鈴菜の相手を徹底的に攻撃する作戦に対し!!相手の反則負けを狙った守りの作戦!!
作戦は順調と言えた。
しかし!!
「鈴菜!!」
相手の応援席の笹暮 硝が声を上げる。
「硝ちゃん……」
その言葉を聞いた途端鈴菜の気性が少し収まる。
《落ち着け》無言のうちに硝がそう言った気がした。
「そうだよね、私達はチーム。個人の主義を優先させちゃダメだよね。遊ぶのは勝ちが確定してから……絶対の条件でいたぶる!!」
そう言って真剣な顔で八家に向き直る。
「悪いけどもう、挑発には乗らないよ。勝つために冷静にアナタを倒す」
「「じゃんけんポン!!」」
勝ったのは鈴菜!!テーブルに有るハリセンを手にし振りかぶる!!
しかしその時八家は体制を後ろに倒そうとしていた!!
(後ろの回避する気?なら追撃するだけ!!私相手じゃそんなの回避にすらならない!!)
一歩を大きく踏み出し全力で叩きこむ!!
ドカァ!!
(へ!?なんで?)
内心鈴菜は焦った!!相手を攻撃したのはいい、しかしそれは明らかにハリセンの感触ではなく……
『鈴菜選手!!ハリセン以外での攻撃の為ペナルティ発生!!野原選手に1ポイント贈呈!!それにより計3ポイント!!この競技チーム《天気屋》の勝利です!!』
絶望的なアナウンスが響く!!
何故?
その疑問にはすぐたどり着いた。
「ハリセンの持ち手が……」
ハリセンは紙で作られた簡単な物、そして持ち手にテープは張られているが今はそれがほどけていた。
早い話脆くなったハリセンが、鈴菜の腕力に耐え切れなかったのだ!!
「……俺の手番の時、少しずつテープを揺るめたんだ、アンタが振った時すっぽ抜けるように……怒りで我を忘れさせて1回、さっきのテープで2回。3回目はホントは取れずに負けると思った……けどアンタは俺を馬鹿にして遊んだ……アンタはボーノレを舐めたんだ!!ホントはずっと俺より強いのに、ずっと才能が有るのにそこがアンタの敗因だ……」
顔を腫れらしながらゆっくりと八家がステージから降りた。
チーム対抗第一競技 『グレイ部マッシ部』
勝者『天気屋』野原 八家!!
対戦をかいてたら思った以上の長さに……
うーん……人様からもらったキャラクターって思った以上に扱いが難しいですね。
まだまだ精進が必要です。