何時他人の人生と交わるかわからない。
袖振り合うも他生の縁。
「さて、そろそろお開きにしましょうか?」
まどかがDVDを片しながら天峰達に呼びかける。
天峰が時計を見ると時刻はすでに9時近くをまわっていた。
「作戦会議とDVD見ただけの積りだったのに、ずいぶん時間がたったな」
天峰はその場で立ち上がり体を動かす。
天峰本人の意志とは裏腹に、ずいぶんと体が固まっている様だった。
「不思議な感覚ですわ……時間がこんなにも早く過ぎるなんて……」
まどか自身もあまり身に覚えのない体験の様だ。
「えー!!まどか知らないの?楽しいときは時間って早く過ぎるんだよ?イジワルだよね~」
その隣でも木枯が同じく伸びをする。
(おお……背伸びって胸が強調される上にへそがギリギリ見える!!チラリズ「キチ……」
「ヒッ!!」
カッターの音が聞こえた気がして天峰が怯える!!
「……どうしたの?……天峰?」
夕日が心配そうに聴く。
(幻聴か……生霊でも憑いてるのかな……)
だんだん夕日がトラウマに成りつつある天峰!!
(天峰私に怯えてるの?少しかわいそう……)
その事は夕日も気が付いている!!
しかし彼女は動じない!!
(今、天峰の心は私が居るんだ……)
人知れずニヤリとする夕日!!
他の子がいると病みやすい!!
「さて、明日もまたワタシの家に集合で構いませんか?」
まどかが明日の予定を決めはじめる。
「明日って言うか明後日が大会だろ?大丈夫かな?」
そう!!大会の日はすでに明後日まで迫っている!!
残り少ない時間で用意をするしかないのだ!!
「……練習……する?」
夕日が天峰に意見を伺う。
「うーん……練習って言っても種目直前まで何が来るかわからないし……幸い既存のゲームに近い物が多いみたいだし、後はどうメンバーを振るかなんだよね」
そう、今更感が多いのだが無理をしないことが一番なのだと夕日を諭す。
まどかと木枯は気が進まない様子だが何とか天峰の意見に賛成した。
「佐々木!この二人を車で送りなさい」
厨房に向かって声を掛けるまどか。
「了解しました。まどか様」
佐々木が扉から音もなく現れる!
「あれ!?佐々木さんさっき厨房にいませんでした?」
天峰が佐々木の登場に驚く。
「ええ、いましたよ?」
何時の間にか手に持っていた紅茶を机の上に置く。
「ワープですか?」
「天峰様。あまり老人をからかう物ではありませんよ?トリックです」
そう言ってにっこり笑う。
まどかのリムジン内
「……天峰……結局最後の……一人は?」
何かの拍子に思い出したのか、夕日が天峰に最後のメンバーの事を聴く。
「最後の一人?ああ!藍雨ちゃんの事だよ、以外かもしれないけれど藍雨ちゃんって意外とスポーツとかできるんだよ、一回関節技された事が有るんだよね」
「……関節技?」
思いで深そうに語る天峰と明らかに不振がる夕日!!
どんなシチュエーションで関節技を掛けられたかは読者の想像にお任せします!!
「天峰様、坂宮様。まどか様のワガママに付き合って頂きありがとうございます」
運転席から佐々木が二人に声を掛ける。
「いいえ~構いませんよ。自分がしたかったんですから」
「私が後もう半世紀ほど若ければ年齢を偽ってでも参加したんですが……まどか様をお願いします」
穏やかな口調でそう話す佐々木、彼流の冗談なのだろう。
「天峰様、坂宮様。まどか様は孤独な方なのです……若いその身にトレーディアグループの重圧がかかっています。イギリスでは友人と呼べる方もおらず誰にも心を開きませんでした……ついには山重様との決別。あの方が活力を取り出したのはお二方のお陰です!!本当にありがとうございます……どうか、どうかこれからもまどか様のおそばにいてやってください」
何時ものヒョウヒョウとした感じではなく、言葉の端に嗚咽の様な物が混ざっていたのを天峰は感じた。
(佐々木さんはまどかちゃんの一番近くに居たんだ……ずっと無力を噛みしめていたんだろうな……)
佐々木の声からついそんな想像をしていまう、天峰が何年もまどかに仕えた佐々木の心情を真の意味で理解する事は出来ないだろう……
しかしその言葉に有る重みは理解することが出来た。
「佐々木さん……俺」
「そろそろ自宅ですぞ?」
天峰の言葉を遮るようにそう言って、天峰の家の前に車を止める。
そして恭しく天峰の座っているドアを開ける。
その眼には涙などなかった。
唯、託すという固い意思が有った。
「夕日ちゃん行こうか」
「……うん」
これ以上の言葉は不要。
後は態度で示すべきと思い敢えて天峰はもう言葉を掛けなかった。
「佐々木さんありがとうございます」
「こちらこそ……」
二人はそう言葉を交わし別れた。
「お!兄貴帰ってきたのか……どうした?二人してそんな真剣な顔して?」
天音が帰ってきた天峰を見て不思議そうな顔をする。
「負けられない物が出来たんだよ」
「……そう」
天峰の言葉に夕日が頷く。
「ふーん。兄貴にしては珍しくいい顔してんジャン?オレそういう奴嫌いじゃねーよ。ところで車で帰ってきたみたいだけど……チャリ(自転車)は?」
何気ない天音の言葉に固まる天峰!!
1秒、2秒、3秒、固まる!!そして絶叫!!
「し、しまった~!!!」
今更学校に自転車を置いてきたことを思い出しがっくりとうなだれる!!
うなだれる天峰の頭に夕日がポンと手を乗せる。
「夕日ちゃ~ん……」
「……明日は……一緒に……バスで行こ?」
最期まで閉まらない主人公!!それが天峰!!
翌日
「おっすヤケ!おはよー」
教室にすでに来ていた八家に挨拶する天峰。
「おお、今日ははえーな」
自分の席に座って小説を読んでいた八家が本から目をそらし挨拶する。
「今日はバスで来たんだ、だからかな?」
自分の席に荷物を置き八家の所に来る。
「何読んでんだ?」
「『未亡人の午後』若くして夫を亡くした人妻が、偶然郵便配達員に襲われて自分の『女』を取り戻していく感動ストーリー。人妻の背徳感の心理描写が濃くて良い」
なぜか官能小説を純文学の様に説明する八家!!
しかも朝っぱらから堂々と!!
「ロリものは無いのかよ?」
お前もかよ!!主人公!!
「もちろんある。ほら、『俺ツインテ幼女に成ります!!』神のミスで死んだ主人公がツインテ限定で小学生に乗り移れるようになる話、攻めと受けが目まぐるしく変わるからちょっと読みにくいかな……貸そうか?」
机からもう一冊本を取り出す八家。
「おお!借りる借りる!!あ!後この前モーソンで見た……えっと?なんて言ったっけ?」
夕日と一緒に行ったコンビニの本も借りようとする!!
大丈夫か!?主人公!!
「検索を始めよう」
スッと八家が立ち上がり脳内に大量の本棚が浮かぶ。
「キーワードは?」
「幼女、2次元、大人の階段」
天峰が言葉を発する度八家の脳内で本が絞られてい行く!!
「最後にモーソンの店長の仕入れ傾向を加えて……解ったぞ!『千尋と一緒!!大人の階段のぼちゃお!!』だ!」
喉のつっかえが取れたように本のタイトルを口にする!!
ポチポチとスマートフォンを触って本の表紙を表示する。
朝の教室で!!堂々と!!
「それだ!!それだよヤケ!!持ってるか?」
八家が見事に天峰の探していた本を見つける。
「もちろんさ!家に有るから今度貸してあげるよ!!」
「センキューヤケ!!」
男二人の猥談!!此処に極まり!!
『先輩だいすき!!先輩だいすき!!先輩だいすき!!』
その時タイミング良く天峰の携帯に着信が来た。
「俺に気にせず出なよ?」
八家がそう言いながら椅子に座ってさっきの本を読み始める。
「おう、解った悪いな」
ピッ!
「はい、もしもし幻原です」
相手も見ずに電話に出る。
「庶民!!大変ですわ!!出涸らしが風邪をひきましたの!!」
電話の相手はまどか。
どうやら木枯が風邪をひいたらしい。
「そんな……大会は明日なのに……」
おろおろする天峰。
その横で、八家が本を閉じた。
「どうやら、俺の出番の様だな?」
そう言ってニヒルに笑って立ち上がった。
野原 八家参戦!!
今回まさかのキャラの参戦!!
作者としては皆様にサプライズ(予想出来ない)作品を目指しています。
まだまだ勉強中ですが……