リミットラバーズ   作:ホワイト・ラム

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ハイ!今回は本編ではなくまさかの短編!!
内容はしっかりリンクしてます。
さて、今回の主役はだーれかな?


特別短編No4

熱い……痛い……じくじくと痛みが体に回ってゆく。

刺すような、炎の様な痛みはやがて深い、深い鈍痛に……

私は目の前で広がる男女の殺し合いを、まるで遠い世界の事の様に感じていた。

 

 

 

「意識が戻ったみたいだな」

次に私が目覚めたのは白い部屋のベットの上、見た事のある男がこちらを見下ろしていた。

「……おじさん」

私はゆっくり口を開く。

「霧崎だ、霧崎 登一(きりさき といち)今更ながら自己紹介だな」

その男、霧崎は白衣と首にかかっているネームプレートを指でつまんだ。

「……医者?」

私は疑問を述べた。

「そうだ、ここは俺が働く病院。お前たちをここに連れて来たのは俺だ」

(私”達”?)

その言葉で一気に私の頭がクリアになった。

「お母さんは?どこにいるの!?」

自分でも驚くような声が出た。

「落ち着け、今は合わせられない……」

霧崎が目を伏せる。

その態度に私は嫌な予感がした。

「……何か有ったの?」

相変わらず霧崎は目を合わせない。

「まだ、意識が戻らない……少し前まで集中治療室にいたんだが……」

その言葉で私は目の前が真っ暗になった。

「お……お母さ……」

体温が一気に下がった気がする、歯がガチガチ言ってまともに口を閉じていられない。

「落ち着け、しばらくの間はお前たちの面倒は俺が見る。今度こそ絶対に守ってやる!!心配すんな!!」

先生が私を抱きしめた。

その感覚があの男が近づいてくる感覚に似ていて……

「いや!!離して!!来ないで!!」

先生を全力で突き飛ばしてしまった。

一瞬霧崎は呆然としていたが……

「大丈夫だ、大丈夫なんだ」

私に諭すように話した。

しかし幾ら先生がそう言っても私には変わらなかった。

その日は見た事のない天井を見上げ、何度も見る事になる悪夢にうなされた。

 

 

 

翌日

「よう、よく眠れたか?」

朝一で霧崎が病室を訪ねてきた。

「………………」

私は何も答えれなかった。

「ほら、朝飯だ」

そう言ってトレイに乗せられた食事を渡された。

「食うモン食わなきゃ元気に成れねーよ」

そういて霧崎は出て行った。

そう言えば昨日から何も食べていない、しかしお腹が全く減らないのだ。

せめて牛乳だけでもとパックに手を伸ばすが……

ガチャン!!ポタポタ……足に生暖かい液体が零れる。

慌ててパジャマのズボンを見るとお茶が零れていた。

「……なんで?」

その時私は自分の視界に違和感を覚えた。

おそるおそる左目を手で覆う。

「あ……そんな……う、ううっ!」

目が見えない、正確には右目が全く見えない!

「ううぅ、あああ、ひっ、ひっ!」

恐ろしくなった私は食事も、着替えもしないでベットに潜った。

この現実が悪夢であることを願って……

 

 

 

しかしそんな願いは叶わなかった。

現実はとことん私を見放すらしい……

「……先生……私の……目が……」

「右目が見えないんだろ?解ってる、煙草のせいだな……」

酷く憐れんだ目で先生がこちらを見てくる。

「周りの視線が気になるなら、しばらくこれで隠しな」

そう言って医療用の眼帯をくれた。

「学校もしばらく休め、ここにいろ」

先生はそう言って部屋から出て行った。

学校、そう言えばずいぶん言ってない気がする……

「私は……もう普通に……生きられ……無いの?」

無人の病室に私の言葉に応えてくれる人はいない……

その日から私は……死体の様になった。

 

 

 

「ほら、ここを用意してやった。好きに使え。」

その日霧崎先生に連れていかれたのは、旧館の病室。

本来の病室以外に使える部屋が出来た。

「あの家から色々持ってきてやった。好きにコーディネートしな」

目の前にはダンボールが三つと、空っぽの小さな本棚。

「今のお前には心が安らぐ空間が必要だ、だけど病室はプライバシーなんて半分無いからな……医院長に掛け合って特別に使えるようにしてもらった」

にんまりと笑う霧崎。

気持ち悪い、ここを秘密基地だとでも思ってるのだろうか?

そんなお気楽な考えが気に入らない。

今度は何も言わずに部屋を出て行った。

自分でやれ、という事らしい。

ベットに腰かける。

その日は何もする気がせず。

何もせずにただ無為に時間だけが過ぎた。

「……まぶしい」

どれくらい時間が経っただろう?

真っ白だった部屋は夕焼けによって赤く染まっていた。

その光景が血が飛んだアノ部屋に少しだけ似ている気がした。

 

 

 

今日も旧館のアノ部屋に向かう。

静寂が支配する私の空間、時間が止まった私の部屋。

「……何か……だそう」

3つのダンボールに近づく。

「ひっ!!」

私は思わず声を上げていた。

箱の上にはカッターナイフ、アノ男がお母さんを傷つけるときに持っていたカッター。

その瞬間トラウマがフラッシュバックする。

「いやだ……いやだ……いやだ!!いやだ!!」

喉に何かがこみあげてくる。

私は必死に近くのトイレに走りこんだ。

「うえぇ……げぼぅ!!」

ぼとぼとと胃液と昼食が逆流する。

「はぁ、はぁ。はぁ……」

アノ男の影が頭をチラつく、アノ男の気持ち悪い顔が頭をよぎる。

今の私をあざ笑っている気がする。

「……ふざけないで……!!」

トイレの壁を思い切り殴る。

派手な音がするが此処はもう使われていない場所、かまう物か。

「あなた……なんかに……私の……邪魔はさせない」

ゆらゆらとまるで幽鬼の様に部屋に帰った。

 

 

 

「これからは……私が使う!!」

アノ男のカッターを手にし刃を必要以上にだす。

ブスリ!!

一つ目の箱にカッターを刺す。

一瞬の抵抗感の後にあっけなくダンボールは破れ、カッターの刃が埋没する。

「アハッ……」

無意識に小さく声が漏れていた。

「うふふ……!あはは!!」

二回目、三度目。同じく埋没するカッターの刃。

なぜか楽しくなってきた私は気が付くと、ダンボール箱を滅多刺しにしていた。

これが暴力、これが奪うという事。

なんて気分が良いんだろ?なんて体が高揚するんだろう?

気に食わないモノを攻撃し、自分の思うがままにする。

コレはダダの紙の箱だ、だけどこれを他人に強要出来たら?

思いったように他人を動かす力、それが暴力!!

アノ男とお母さんはこんな楽しい事をしていたのか!

こんなのやめられる訳がない!!

弱かった自分が悪いのだ、力を持たなかった自分が。

だが今は違う、このカッターを持ってそれが理解できた。

熱を持ち震える自分の身体を抱きしめる。

「あはッ!……ははッ……」

いまだに口は小刻みに興奮の声を漏らしている。

すでに自らの仕事を放棄したダンボールを見下ろす。

これが勝者の景色なのだろう。

 

 

 

その時不意に、壁にかかる鏡に自分の姿が写った。

「あ……」

その姿に絶句する。

パジャマの前のボタンが外れている。

興奮しすぎて気が付かなかった。

直そうとして手が止まる。

体に刻まれた傷痕が目に付いた。

「……ッ」

意を決しパジャマを脱いでいく。

「…………」

無数の傷が刻まれた体、火傷、引っ掻き傷、打撲による内出血。

そして二度と光を見れない右目。

傷の一つ一つに辛い記憶が有る。

ボロボロの体、壊れた体、次は心か?

カッターナイフを床に落とす。

「ああ……」

拾おうとして体をかがめると、同じくボロボロのダンボール。

「ひっ!!」

これをやったのは……私、自分の体の様にボロボロにしてしまった。

その事実を理解した私は怖くなった。

体の熱はすっかり引いている。

カッターを戸棚の奥にしまいこみ、二度と出さないと誓った。

 

 

 

数か月後……

「おっ!!だいぶ調子良くなったじゃねーの?」

霧崎が私の部屋を見に来た。

「……うん、気分いい」

私は他のダンボールの中に入っていた絵本を呼んでいた。

「そっか、なら良いんだ。入学式行かなくてよかったのか?」

私は数か月間の間に中学生になっていた、しかしまだ一度も学校へ行っていない。

当たり前だ、体はボロボロ、両親ももういない、病院に詭弁上入院という扱いで住んでいる。

わざわざ馬鹿にされに行くような物だった。

もう私は集団の中では生きていけない。

「……いいの」

この旧館の病室が私の世界、気に食わないモノは全部壊して、好きな物だけを並べる私の箱庭。

「そうだ、ちょっと遅れたが入学祝いだ」

そう言って、大きなクマのぬいぐるみと小さなケースを取り出す霧崎。

「ほら、女の子がいつまでも顔に傷が有ったらいけないだろ?」

ケースの中身は精巧に作られた義眼。

「スペアも一応作ったんだが……やっぱたけーな」

はははと笑い、私に義眼を着けてくれた。

「よしよし、なかなか美人だぜ」

霧崎が笑う。

「……先生ありがとう」

「おう、またな!!」

私はさっそく鏡で自分の姿を見る。

前よりだいぶマシになった気がする。

誰かに感想を聞きたい!

そうだ、霧崎先生がくれたクマのぬいぐるみが有る!

私は戸棚から有るモノを取り出しクマちゃんに聴く。

「ねぇ……今の……私どう?」

クマは返事をしない、当たり前だ。ただのぬいぐるみだ。

そう、それが常識、何も不思議な事は無い。

しかし。

私のいう事を聞かない……このクマは気に入らない。

気に入らないモノは壊せばいい!!

懐からカッターを抜く!

容赦なくクマを滅多刺しにする!!

「あはっ!!」

暴力の快感と高揚が私を高める、何時ももうやらないと思ってもすぐにまたやってしまう。

「くまちゃん今日の気分はどう?」

ボロボロのぬいぐるみを抱く。

当たり前だが返事は無い。

「……お返事しない……悪い子ね!!」

クマの腹の穴に指を突っ込み思い切り引っ張る。

ビリィとクマが音を立て破れる。

「あーあ……また壊れちゃった……新しいのさーがそ……」

笑ながらクマからカッターを引き抜く。

「……新しいおもちゃはないかなー」

病室を出ていく。

 

 

 

この少女はまだ知らない、今日自分の運命を変える男と出会う事を……

そしてその悲しみに終止符を打ってくれることを!!




はい、答え合わせです。
答えは夕日ちゃんでした。
実は本作、急きょ書く事になった話なんです。
実は……
久しぶりに読み返すか!→おおぅ……相変わらず駄文制作マシーンぶり……→夕日ちゃんの病みシーン淡泊じゃね?→なんだコレは!!ヤンデレとはただ包丁持たせて主人公殺せばいいんじゃねーよ!!理由が薄いいんだよ!!こんなモンただのキチ〇イじゃねーか!!→
修正が必要になった……
ガチャン!!すっ……タイムベント!!

という事で過去編になりました。

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