リミットラバーズ   作:ホワイト・ラム

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歪んだ心もいつかは壊れる。
そのいつかが怖くて、気付かないふりで走り続ける。
歪んでいても傷ついても、自分に、他人に、世界のすべてにに自分の言葉を響かせろ!
自分はここにいると!
さあ!叫べ!力の限り!



無力な俺を許してくれ

「ヤケぇ!」

天峰が状況を理解すると同時に叫ぶ。

それぞれの立ち位置を説明すると、天峰の降りてきた階段の先に卯月がおり、さらにその先に夕日が立っている。

天峰の叫びの声で、卯月と夕日が同時に天峰の存在に気が付く。

夕日が包丁を投げ捨て、カッターを構えながら卯月の方に走る。

その姿を見た天峰は一気に走り出す、卯月とすれ違いその先でカッターを構える、夕日の方に向かう。

「(あー痛いんだろうな)けどやるしかないよな!」

天峰は自分自身に気合いを入れると……

「があぁ!」

自分の右手で夕日のカッターナイフを掴んだ!お互い走っていた事で勢いが強く、天峰の掌から赤い液体がポタポタと垂れる。

「何で……邪魔するの!」

怒りの形相で尚も手にしたカッターに力を入れる。

「こんな事、しちゃダメだろ!!」

自身の痛みに耐えながら、天峰は夕日をまっすぐ見据える。

「そんなに?そんなにこの女が大切なの!?」

夕日がさらにカッターに力を入れる。

「ああ!確かに卯月は大切な友達だよ!けど俺がこうしてるのは卯月が大切なだけだからじゃない!」

さらに強くカッターを握る。

「天峰止めなよ!!この子に何言っても無駄だって!それより逃げて!八家君みたいに……八家君みたいに殺されちゃうよ!」

最早悲鳴に近い声で卯月が叫ぶ、廊下に倒れている八家は苦痛の表情を浮かべたまま、ピクリとも動かない。

「そう!私はもう戻れない!だからあとはやりたい様にやるの!」

自暴自棄になった夕日の言葉を聞き天峰は……

「ダメだ!俺は夕日ちゃんから逃げない!夕日ちゃんを一人ぼっちにできない!夕日ちゃん!こんな事されたら辛いだろ!!痛いだろ!!夕日ちゃんはその事を誰より知っているじゃないか!!」

天峰は決死の覚悟で夕日を見据える。

「どいて!その人は邪魔なの!私たちの邪魔をする、あの人がいたら私……天峰に捨てられちゃう、また一人になる、誰からも……好かれなくなる!!だから……どいて……どいてよぅ」

夕日の声がだんだんと涙声になっていく。

夕日自身自分の行動と目的が矛盾しており、こんなことをしても天峰の心を繋ぎ止めることは出来ないのは理解している、しかし自分の中にある不安がどうしても拭い去ることが出来ないのだ。

しかし……

「そんな事は無い!俺は夕日ちゃんを絶対に裏切らない!たとえどんなことが有っても!」

いつかの様に天峰がまっすぐな気持ちを伝える。

「本当に?」

長い髪で右側は隠れているが、天峰は確かに夕日が涙を流すのを見た。

「ああ、やっと名前呼んでくれたね。もちろん本当さ嘘ついたらハーゲンボーデン一年分買ってあげるよ」

何処か冗談を言いながら力強く夕日の言葉にうなずく。

「本当に?本当に嘘じゃない?私こんな事したのに……」

「嘘なもんか!俺は正直がモットーなんだ」

あえて優しく天峰が微笑む。

「う、うう、ごめんなさい……けど……ありがと……」

夕日の手からカッターナイフが滑り落ちる。

血の付いたカッターに透明な液体がポタリと落ち一部の血を落とす。

「良いんだ……何が有っても俺は夕日ちゃんの味方だからね」

天峰が優しく話す。

「あーらら、やっぱり筋金入りのロリコンは違いますな~」

いつもののんきな感じで八家が立ち上がった。

「ヤケ!無事だったのか!」

天峰が歓喜の声を上げる。

「いや、正直言って全然無事じゃない……」

そう言って自分のシャツに手を突っ込む。

中から出てきたのは……

「見てくれよこれ!俺の買ったばっかのエロ本がズタズタだ!Over the RubiconやTied Day!後病院ものだから買ったMind Medical`sも!全部まだ読んでもいないのに~ううぅ!無力な俺を許してくれ~えええぇ!」

大量のエロ本!実写から2次元さらには同人誌まで、どれだけ隠してあったのか大量のエロ本が出てくる!

エロによって自分を救った男!野原 八家!

「なんだか一気に冷めたわ……」

どっと疲れたように卯月が言う。

「夕日!お前!何した!」

どこかで聞きつけたのか、天峰のベルトを解いてくれた医者が現れる。

「お前!いったい自分が何をしたか……」

医者が夕日に詰め寄ろうとする。

「夕日ちゃんは何もしてないよ?そうだよなヤケ?」

天峰が八家に声をかける、その瞬間泣いていた八家がぴたりと泣き止む。

「ああ、そうだね。何もしてなかったよ」

天峰に話を合わせる。

「なに言ってんだ?その手の傷!それから血の付いた夕日のカッター!それが証拠だろ!?」

医者は天峰のなおも血の出る右手を掴む。

「あー勘違いですよ、ほらあそこにエロ本あるでしょ?アレの袋とじ開けようとしたんです、夕日ちゃんにカッター借りて……若いから溜まってるんですよ、思わず興奮しちゃって怪我しただけです、ははは」

天峰がポタポタと血の滴る右手を振る。

「明らかにおかしいだろ?」

尚も医者は食い下がる。

「おおぅ、俺のエロ本たちが……」

「ほら、男の別れです、見送ってあげましょう?傷の手当お願いできます?」

天峰達はエロ本の前で涙する、一人の勇者を残し帰って行った。

 

 

2日後

「おーう、邪魔するぜ?」

あの時の医者が夕日を連れ、天峰の病室に入ってきた。

「夕日ちゃん!久しぶり!」

あの事件以来夕日と天峰は会っていなかった。

夕日は腰まであった髪をバッサリ切り、何時ものパジャマでなくタートルネックの服を着ていた。

「あれ?夕日ちゃんお出かけ?」

天峰が聴く。

「違う、退院だコイツの親代わりがやっと見つかったんだ」

男がぶっきらぼうに言う。

「ほら、言うんだろ?」

男が夕日の肩に手を置いてせかす。

「うん……天峰さんこの前はごめんなさい……私一人になるのが怖かったの……だけどたくさんの人を傷付けちゃった……ごめんなさい……」

夕日は目に見えて落ち込んでいる。

「夕日ちゃん……落ち込む事は無いよ実際怪我したのは俺だけだし、俺は幼女のすることは何でもウエルカムさ!」

にこやかに話す。

「まじか、それはそれで引くな」

医者が言った。

「夕日ちゃん、つらいならいいけどお父さんとお母さんの事聞いていい?」

天峰はずっと疑問だったことを聞いてみた。

「うん、天峰さんには知ってもらいたい……私はお父さんとはうまくいってなかった……あの日もそう、何時もみたいにお父さんに殴られて蹴られて……その日お父さん……お、お酒……」

夕日がだんだんと震えてくる。

「夕日ちゃんつらいなら…」

天峰がフォローに周るが……

「ううん……大丈夫聞いてほしい……こっち来いって呼ばれて言ったらタバコに火を付けて……私の目に押し当てた……」

「え!?でも夕日ちゃんその眼……」

衝撃の告白に天峰が驚く。

「この右目は霧崎先生が作ってくれた……女の子なのに顔に傷が有るのはよくないだろうって」

夕日は自分の右顔に手を当てる。

「へー、その霧崎って先生いい人なんだな~」

天峰が率直な感想を漏らす。

「まあな、この義眼かなり精巧にできてるから結構高いんだ、薄給の俺にはつらかったぜ」

隣の先生がつぶやく。

「へ?霧崎ってアンタの名前?」

「あ?知らなかったのか?」

「知らなかった、興味自体なかったし」

あっさりと天峰が言う。

「コノヤロー、霧崎、霧崎 登一(きりさき といち)だ!良く覚えとけ!」

「そんな事より夕日ちゃん話の続き」

天峰興味なし!

「それで、私が悲鳴あげたらお母さん飛んできて、もうアナタといられないって……包丁でお父さん刺したの……そしたらお父さんカッター出してきて……私怖くて震えてた……気が付いたら二人とも血だらけで……足元にカッターが落ちてた」

トラウマがえぐられたのか夕日は涙声だ。

「そこに俺が駆けつけて、救急車呼んだんだ」

霧崎が話す。

「ん?なんで先生が出てくんの?」

「こまけーことは気にすんな!」

わらいながら霧崎が誤魔化す。

「やっぱり夕日ちゃんが2人を殺したのって嘘だったんですね?」

天峰が霧崎を見る。

「当たり前だ、お前を夕日から引き離す口実さ、コイツは優しい自分よりも母親を優先していたんだからな……」

霧崎が夕日の頭に手を置く。

「それで……天峰……お願いが有る」

夕日が真剣な顔をする。

「私と別れて……きっと新しい家でも天峰に……甘えちゃう……だからその未練を断ちたい」

何処までも真剣なまなざしで話す。

「解った、別れよう夕日ちゃん、俺とはたった今から他人だ」

天峰が言う。

しかし……

「違う、元彼と元カノ……」

恥ずかしそうに話す。

「そうだね」

その言葉に天峰はゆっくりと頷く。

「これ、あげる……」

夕日は自分の顔に手を当て……

「はい……」

天峰の前に自分の義眼を差し出した。

夕日の手の上の目と天峰の目が合う。

当たり前だが瞬きなしで天峰を見つめている。

「ずうっっっっっっっっっっっとあなたの事見てる……」

夕日が今までにない笑顔で話す。

(冗談だよな?やっぱ夕日ちゃんって基本的に病んでるな……)

「ありがとう、大切にするよ……」

天峰はぎこちなく夕日の義眼を受け取った。

「じゃあ……そろそろ行く……さよなら……」

ポケットから取り出した眼帯を付けながら夕日が去っていく。

その背に天峰が声をかける。

「夕日ちゃん!今度会った時、コレ!夕日ちゃんに挿入てあげるよ!」

天峰が夕日の義眼を持って言った、夕日はコクリと恥ずかしそうにうなずいた。

 

 

廊下で霧崎と夕日が話す。

「ったく……なんで俺はこんなに不器用なのかね?アイツが家出した後足取り探すのも大変だったんだよな~」

霧崎がぼやく。

「たぶん兄妹だから似たんだと思う」

夕日が答える。

「でもよーはぁ……自分の姪の面倒ひとつ見れない自分を呪うぜ、責任転嫁みたいで悪いが新しい家でも頑張んな?おれの大学時代の先輩なんだが、いいヤツなんだ」

何処かさびしそうに霧崎が話す。

「うん……」

夕日が迎えのタクシーに乗る。

「いつでも帰ってこいよ!あの部屋は開けといてやる!」

霧崎が小さくなるタクシーを見送る。

 

天峰は自分の病室で小さくなっていくタクシーを見ていた。

 

さよなら……夕日ちゃん……またいつか……

 

霧崎の話によれば今県外にいる、自分の新しい家族に会いに行くらしい、おそらくだが2度と会う事は無いだろう、彼女との出会いは偶然が呼び寄せてくれた小さな奇跡なのだろう。

夕日もそのことがわかっていたに違いない、だから自身の身体の一部を託したのだろう。

夕日と最後にした約束がいつか果たせる事を祈りながら、天峰はゆっくりと眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日談短いのでここに

 

 

 

 

 

「ちょっと!ナニコレ!宿題全然やってないじゃない!」

卯月が天峰の宿題を覗き込む。

「いや~右手がこんなんだからさ~字が全然かけないのよ」

包帯でぐるぐる巻きになった、右手を挙げる。

「とにかくゴールデンウィークは明日までなんだから!急いで!」

卯月ががせかす。

 

卯月は心の広い女だった、卯月と夕日はあの後俺の知らないところで和解したらしい、自分の事を殺そうとした奴と和解できるなんて、ひょっとしたら卯月は俺が知っているより大物なのかもしれない。

 

「まあ、落ち着けって、そうだ!いいもん見せてやるよ、ほら!」

天峰は指輪などをしまうケースを取り出した。

「きゃあああ!ちょっと!天峰!何それ!どうしたの!?」

卯月が悲鳴を上げる。

「昨日夕日ちゃんに貰ったんだ~最初は怖かったけど見てたらかわいくなってきてさ~」

天峰は笑いながら義眼を見ている。

(天峰……なんだか病んでる……あの子の影響かしら?)

結局その日の夜遅くに、答えを見ることで天峰の宿題は終わった。

 

「はあ~久しぶりの我が家だ!」

天峰はついに自分の家に帰ってきた。

家にはもうすでに温泉旅行から帰ってきた家族が一足先に戻ってきている。

「兄貴~なんか久しぶりだな~元気してたか?」

玄関で天峰の妹が出迎える。

「いや、入院してたから……」

「お~天峰!生きてたか!」

さらに奥から母親が顔をだす。

「ただいま母さん」

「おう、天峰!お前が病院で寝ている間に家族が増えたぞ、やったね!」

母親が煙草を吸いながら話す。

「はあ?どういうことだよ(まさか旅先で妹か弟を制作したのか?)」

天峰が呆れ半分に聞く。

「ああ、私の大学時代の後輩の、妹の子だってさ。旅先に電話かかってきてな、

頼りになりそうなやつ片っ端から連絡したらしい、でウチ部屋余ってるしイイよーって言っちゃった訳、ほら、あれだ!え~と義妹?天峰好きだろ?義妹もの机とかベットに隠してあんじゃん?」

母親がわらいながら言う。

「ちょっと!?かあさん!」

天峰があわてる。

「兄貴そうなのか?身の危険を感じるぜ……」

妹が体を震わせる。

(違う!違うんだ!俺は妹より年下の部分に惹かれたんだ!)

「あ、そうだ、あのこ家庭が複雑なんだ、そこん所考えてやってくれ、苗字は前のしばらく使うってよ!お~い!お前の兄貴が帰ってきたぞ!挨拶しろ!」

母親が二階に向けて声を上げる。

暫くして足音が聞こえてくる。

「は、はい!坂宮 夕日で……す?」

そこには天峰のよく知っている子がいた。

 

これはいろんな意味でギリギリな二人の物語。




はー!何とか書き終わりました!
あー!疲れた!ついに!ついに!書き終わりました!
応援してくれた皆さんには感謝しきれません!
けど夕日ちゃんと天峰君の話はまだまだ終わりませんよ!
詳しくは活動報告にて!

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