それならパーツを変えるか、新しく買えばいい。
けど歪んだ心は壊れても、止まることも新しく買うことも出来ない。
歪んだパーツを持った心はどう動くのだろう?
とある病院の一室で天峰が目を覚ます。
「ん……アレ?ここ何処だ……俺……確か……」
寝ぼけ眼で、夕焼けで紅く染まりつつある見慣れない天井をぼんやりと眺める。
「あ!そうだ!夕日ちゃん!!痛ッ!」
頭部の痛みと、夕日の事を思い出し、一気に意識が覚醒する。
起き上がろうとするが……
「あ、アレ?なんだこれ!?」
ベットには黒い革ベルトが有り、天峰をガッチリと拘束している。
「ああ…目が覚めたの……」
ベットの隣にいた夕日が、天峰が意識を取り戻した事に気が付く。
「夕日ちゃん!ここは何処なんだ?なんで俺縛られてるの?」
(まさか……ついにロリコンだとばれたのか!?『汚物は消毒じゃー!!』とばかりに俺を消毒する気か!?)
事の重大さにいまいち気付いていない天峰!
的外れな事ばかり考えている天峰に、夕日が優しい声で語りかける。
「……ここは旧館の……部屋の一つ……アナタを連れて来るのは……なかなか大変だった……けど……うふふ……」
夕日がクスクスと嗤う。
天峰はその顔が初めて見る夕日の笑いだが、不機嫌顔よりもずっと恐ろしい顔に見えた。
「此処じゃないと……拘束具付のベットってないから……」
その言葉に夕日が明らかにおかしい事に気が付く。
(おいおい……マジかよ……なんで夕日ちゃんこんな事してんだ!?)
天峰は何とか抜け出そうと腕や足を動かそうとするが、ガチャガチャと拘束具の金具がむなしく鳴るだけだった。
「夕日ちゃん!なんでこんな事を!!」
天峰が夕日に問いかける。
「ああ……それはアナタを逃がさない為……こんな事すれば……嫌われる事は知ってる……けど私は……アナタの気持ちなんてどうでもいいの……」
再び夕日が嗤う。
その顔で天峰は気絶する前に見たズタズタになったクマのぬいぐるみを思い出した。
(あのぬいぐるみと同じか……もの言わなくても傍に置いときたいって事か…)
「……私が誰からも好かれないのは……知ってる……『アノ時』は……しっかり見えなかっただろうから……しっかり見せてあげる」
夕日は自分のパジャマのズボンをストンと下ろし、自分のシャツのボタンに手を掛ける、少しずつ夕日の肌が露わになっていく。
「ちょっと!?夕日ちゃん!?なにしてるの!?」
思いがけない夕日の行動に天峰は声を上げる。
(え?ナニコレ!?なんで夕日ちゃん脱いでるの!?『逃がさない為』ってこういう事!?責任とって結婚!?コレなんてエロ同人!?)
そうしているうちにも夕日は、すべてのボタンを外し終わり天峰のベットに乗る。
「あ……」
近くで夕日の体を見て絶句した。
「ほら……見える?……私の身体……」
夕日の身体には打撲、切傷、火傷、多種多用のあらゆる傷痕が有った。
「夕日ちゃん……それ……」
あまりに痛々しい姿に、天峰はショックを受け絶句した。
「……これは私の何人目かの……お父さんと……お母さんが付けた傷なの……少し私の……事を話すね……」
夕日はゆっくりと自身の過去を語りだす。
「……私のお母さんは……いわゆるシングルマザーだったの……17歳の時私を妊娠して家、出同然で家を出たの……一人目のお父さんを頼って、けどそのお父さんは……私を産めるだけのお金をくれてアパートを借りてくれた……それが手切れ金なんだって、それからお母さんはいろんな人を連れてきた……いろんな人がお父さんになったわ、いろんな性格のお父さんが出来たわ、優しい、面白い、楽しい、不機嫌、無関心、怖い、酷い、恐ろしい…けどお母さんだけは優しいままだった……だけど最後のお父さんの時は別、お母さんもそのお父さんと一緒に、私をぶったり蹴ったりした……その傷がコレ、いつも優しかったお母さんが、なんでこんな事するかわからなかったけど……ある日気付いたの、お母さんは私よりお父さんが好きになったんだって……だからお父さんと一緒に私をぶつんだって、その時気が付いたの……私は誰からも好かれなんだって……」
夕日が一気に言葉のトーンを上げた。
「けど私にはあなたがいてくれたみたい……だからね?私はアナタにほかの人を見てほしくないの、私を邪魔するあの女には諦めてもらう事にしたの……そろそろ良い頃かしら?」
夕日がベットから降りて、そのまま病室から出てゆく。
(夕日ちゃん……そんな事が有ったんだ……けど夕日ちゃんは今、間違った事をしてる!俺が止めないと!)
夕日を追うべく立ち上がろうとするが。
ガチャン!
「って!俺縛られたままじゃん!夕日ちゃん!夕日ちゃん!コレ解いて!」
今しがた向かおうとした、夕日に向けて声を出す。
「ったく!うるせーぞ!誰だ!!」
開けたままの病室のドアから、痩せた目つきの悪い白衣の男が入ってきた。
「ん~なんだお前?一人SMか?」
男は困惑したように天峰を見る。
「違う!頭殴られて、気が付いたらこの状態だったんだ!」
「ああ?なんだそりゃ?はあ~最近の若い奴はバカしかいないのか?」
そう言って呆れながらも革ベルトを外してくれた。
「助かりました、はあ夕日ちゃん何がしたいんだ?諦めさせるって」
天峰がつぶやいたとき男が反応した。
「おい!お前今夕日といったか?お前夕日の知り合いか?」
詰め寄るように男が天峰の肩を掴む。
「はい、知り合いですけど?」
「あーチクショウ!大体読めてきたぞ、最悪かもな、おい!お前夕日を今すぐ探し出すぞ!」
男が一気にあわてる。
「いったいどうしたんですか?」
あまりの男の慌てぶりに天峰が疑問を持つ。
「あんま詳しく話せねーがアイツの親の話は知っているか?」
「はい両親に虐待されて、体の傷痕はそのせいだって……」
天峰は傷を思い出し気の毒に思う。
「それだけか?その後の二人がどうなったか知ってるか?」
天峰はその後から、今に続くピースが抜け落ちている事に気が付いた。
「いいえ、知りませんどうなったんですか?」
この時点で天峰は嫌な予感がしていた。
「父親……正確には夫婦ですらないんだがソイツは死亡、母親は意識不明の重体だ」
男の口からあまり聞きたくない言葉が出た。
「死亡に意識不明!?何が有ったんですか!?」
天峰が驚き、語気を荒げる。
「夕日がカッターナイフで二人を滅多刺しにしたんだ、虐待を理由に逮捕はされていないがな、あいつは今この病院の精神科に入院中だ、一回タガが外れたアイツは自分にとっての邪魔ものは徹底的に排除するぞ!」
「そんな……」
天峰はこの日、知ってはいけない事を知ってしまった。
一方卯月はメールで天峰に呼び出された、旧館に向かっていた。
そして病院のどこかにいる夕日の手には天峰のケータイが握られていた。
今回はコレなんてエロ同人!?というシーンが有ります。
ギリギリだ……大丈夫かな?
ま!そこを責めてこそリミットラバーズだよね!