なぜか人気のあるリバース作品です、通常版の七夕はまた次回に。
大型ショッピングモールを不機嫌な顔で、天音が歩いていく。
本日は日曜なのだが、両親が出かけてしまったせいで夕食は天音が作る事に成っていた。
料理が出来ない訳ではないが、『めんどくさい』という気持ちが優先してしまう。
さらにそこに影が一つ。
「ねぇ、おねぇさん一人?俺とどっか遊びに――」
「あ”!?んだよ……うッせーぞ!!ナンパならどっか他所でヤレや!!」
「ひぃ!?」
がくがくと足までもが震えだし、まともに言葉を話す事すら困難になる!!
「はぁ……根性のカケラもねーな。まだ、
ま、今の男なんてこんなもんかもしれねーけどよ」
舌打ちをして、そのまま男に背を向けて歩いていく。
「お、おい……!!
お、お前、ちょっと美人だからって、ちょ、調子のってんじゃ……」
なけなしのプライドを振り絞ったのか、男が去りゆく天音の背中に声をぶつけた。
ピクリと一瞬、天音が反応しゆっくりと楽しそうに振り返る。
「へぇ?いいねぇ……少しは男、見せてくれるんだよな?」
好戦的な顔を見せ、男を挑発する。
周囲の人間は、騒ぎを嗅ぎ付けたのか小さな人込みが出来つつあった。
そんな中で、
手早く、そして静かに天音は周囲を確認する。
(警備員は周囲になし。警備員を呼んでくれるトクショウな奴は居ないっと……
相手はビビりが一人……か)
自身に助けが来ないと解ると、天音が交戦的な笑顔を張り付けたまま再び口を開いた。
「なぁ、お前のソレってピアスか?」
「だったらどうした?」
天音は男の耳にしてある飾りを見つけて質問した。
「いやぁ?ひょっとしたら『偶然』私がなんか掴んじまって、それを『間違えて』引っ張ったらスゲー痛そうだな~って思っただけ」
男の耳に向かって指を指す。男はもちろん、それ以外のピアスをしている周りの野次馬までもが、嫌そうな顔をする。
想像してしまったのだろう、自身の耳がちぎれる様を。
「い”……」
最もそのことをリアルに想像したのは目の前の男だった様だ。
自身の耳に手を当てる。
「さぁて……どうするよ?私的には見逃してくれると助かるんだけど?」
そう言って天音が腕をゆっくり振った。
『見逃してくれる』というという単語を使ったのはあえてだ。
周囲に野次馬が居ると、男も引くに引けない事を天音はわかっていた。
「し、しかたねーな……」
それだけ話すと、意外なほど男はあっさりと引いていった。
「おら、見世物じゃねーぞ!!散れ!!散れ!!」
シッシッ!!と腕で周囲の野次馬どもを追い払う。
邪魔が入ったが、買い物の続きをしなくてはいけない。
適当に夕食分の買い物を済ませショッピングモール内の笹の飾ってあるフードコートで、昼食をとる。
天音の弟の天峰は、朝から友達と遊んでいるらしく昼はいらないと言っていた。
今日の昼食はチャンポン麺にした。
からしをたっぷりかけ、一気に甘めの豚骨スープに溶かして食べる。
「あー!!ねーちゃーん!!」
「ごふっ!?げほっ!!」
突如聞いた事のある声に、天音が麺をのどに詰まらせる。
「ああ!!俺、今水持ってくるから!!」
そう言って、何処からかコップに入った水を持ってきてくれる。
慌てて、天音はその水を手に取る。
「げほ……ぐう……はぁ……はぁ……おい、天峰。なんでお前が此処に居るんだ?」
自身の嫌な予感を、拭い去ろうと半ば願う様な口調で尋ねる。
「ヤケと来たんだよ。ほら、ゲーセンのトライアングルの達人がやりたくて……
あと、今日はカードの新弾のパックが出るんだ!!」
楽しそうに、天峰が語る。
しかし、その言葉が本当なら八家が居るハズだ、一体何処に居るのだろうか?
「なぁ、天峰?八家のヤツは何処に行ったんだ?一緒に来たんだろ?」
「うん……けど、途中で帰っちゃったんだよ。お腹が痛くなる予定が有ったのを忘れてたんだって」
何の疑問も無く、天峰が話す。
考えなくても解る事だが……
「腹が痛くなる予定ってなんだ?明らかにおかしいだ――」
天音が有る人物を捉えて、残りの言葉を飲み込むと同時に、八家の帰った理由を理解する。
「天ちゃーん?勝手にどっか行っちゃだめでしょ?おねーちゃん心配したわ……よ?」
遅れて走って来た人物も、天音を視界にとらえると同時にパスタの載ったトレイを持ったまま、笑顔で固まる。
「よう……夕日……何してるんだ?こんな、所で?」
「は、はぁい……ハイネ……天ちゃんとデートしてただよ?」
「おかしいなぁ?ウチの弟からはそんな情報一切聞いてないんだが?」
怒りをにじませ、夕日に尋ねる天音。
「ば、ばかねぇ……これ位の年頃の子って、秘密の一つや二つある物よ?
姉離れよ、姉離れ!!弟の性徴――じゃなくて成長を応援してあげてね?」
「お前は人としての道から離れつつあるがな!!」
言い訳を続ける、夕日に向かって天音が箸を投げつける!!
箸はまるでダーツの矢のように、一直線に夕日に向かう!!
現在の夕日の両手にはパスタの皿。落とす訳にはいかずどう頑張っても片手では2本の箸は防げないのでは!?
「大丈夫、大丈夫。バレなきゃ犯罪じゃないのよ?」
笑顔を保ったまま、夕日はパスタの横に有ったフォークで箸を2本同時にガードしていた!!
天音の投げた箸をフォークの枝分かれした、金属部分に挟み空中でキャッチした。
「はい、お箸。返すわ」
ずいっと、フォークに挟まった箸をそのまま天音に返す。
「お前最近人間離れしてないか?」
箸を受け取りながら、天音が冷さ汗をかく。
さっき相手した、チャラい男よりずっと恐ろしい物が有った。
「そうかしら?あ!きっとあれよ!!
最近発見された、St波の影響よ」
「はぁ?St波?なんだソレ?」
聞きなれない単語に、天音が首をひねる。
「通称『ショタ波』ね。若い男の子から発される特殊な放出物で、一部の人間に影響を与え身体能力を向上させる――」
「そんな物質が有ってたまるか!!」
「えー?けど、化学雑誌ネイチョーに掲載されてるのよ?
発表者も、前に『ロリコニウムと平行世界の関連』で博士号を取った学者さんの――」
「ドイツもコイツも病気か!?一体どうしたんだ!?全体的におかしいだろ!?
なんだよ!!ロリコニウムって!!ショタ波ってなんだよ!!」
周囲にたくさんに人がいるのにも関わらず、天音が大声を出す。
それほどに夕日の言葉は理解できなかった。
「ねーちゃん……」
「気にしたいで、天ちゃん。おねーさんは少し疲れているだけなのよ。
少しの間、そうっとしておいてあげましょう?」
「うん……おねーちゃん早く元気に成ってね?」
悲しそうな顔をした天峰を、夕日が手を引き連れて行こうとする。
「お、おい!!まてまてまて!!」
去っていく、二人を天音が何とかして呼び止める。
流石にここで、天峰と夕日を二人にする訳にはいかなかった。
主に夕日が何をするか解らなかったからだ。
「ねーちゃん、大丈夫なの?」
「あ、ああ。俺は大丈夫だぜ?少しお前たちをからかっただけだ。
せっかくだから一緒に飯くおうぜ?座れよ、夕日」
無理して笑顔を作り、天峰を安心させる。
と同時に夕日を呼び止め、けん制も同時にする。
「えっと、私は遠慮――」
「夕日おねーちゃん、一緒に食べようよ!!」
脱出をしようとする夕日に、天峰の笑顔が投げかけられる。
この笑顔に逆らえる夕日ではなかった!!
「そうね!!一緒に食べましょ!」
途端にニコニコと笑顔になって、天音の横にトレイをおいて座る。
そして自身の横に天峰を座らせる。
「普通は正面なんじゃねーの?」
天音が夕日の性格から考えて、疑問を口に出す。
「そんなことないわ!!天ちゃんを私の膝の上に乗せてお互いに食べさせあって――」
「おい、天峰。こっちに来い、俺の隣な」
「うん!」
天音が天峰と夕日の間を区切る様に体を滑り込ませる。
油断も隙も有りはしない!!
「あ……まぁいいわ。天ちゃーん、おねーちゃんと一緒にご飯食べましょうねー」
ニヤニヤとしながら、夕日が天峰の正面に移動するなり早速パスタをフォークに巻いて差し出す。
「ありがと!!夕日おねーちゃん。あーん……うん!!おいしいよ」
パスタをもらった天峰が喜び、夕日に笑顔を見せる。
「いいわ……すごく、すごくいいわ」
まるで名画でも見た、画家の様な顔で夕日が感動を伝える。
五臓六腑に染み渡るという表情をしていた。
さらにトドメとばかりに、鼻から一筋の血が流れ始める。
「おい!!鼻血でてんぞ!!」
夕日の流血に、天音が慌てるが……
「おねーちゃん鼻血、鼻血!!これ使って!!」
天峰がポケットからハンカチを取り出し、夕日の鼻にやさしく当てる。
「あら、天ちゃんありがと、すーはー、すーはー、すはーすはーすはーすはーすはー」
受け取り鼻に付けるなり高速で夕日が深呼吸を始める。
「おまえな……もう少し理性を」
「私は理性的に、生きてるつもりよ?」
「尚更、質が悪いな!?……それにしても、どうしてお前らが二人で此処にいたんだ?」
そう言えばと、ずっと気に成っていた疑問を夕日と天峰も二人に投げかけた。
「お星さまー!!」
天峰が両手を広げ楽しそうに笑いかける。
それを補足する様に、夕日がカバンを漁りだす。
「もともと、プラネタリウムに行く予定だったのよ」
鼻血をぬぐいながら、夕日が一枚のパンフレットを取り出す。
それは、このショッピングモールの一角に設けられた物のチラシだった。
「へぇ、此処プラネタリウムなんて有ったのか。
けど、なんでいきなり?
あ!今日七夕か!!」
パンフレットを見ながら、その横の『七夕フェア』の文字に今日が7月の7日であることに気が付く天音。
その言葉に対して、夕日が恋する乙女の様に指折り話し始めた。
「
ロマンチックで良いでしょ?ごはん食べて――星をみて――その後遊んで、夜になって本物の天の川を見た後、大人なホテルで愛を語り合って――天ちゃんを私に依存させ――」
「待て待て待て当て!!お前途中から、いろいろやばい事言ってたぞ!!
あと、二人でその、あれだ、天峰は、小学生だし、大人なホテルとか行けないだろ?」
「大丈夫!!ちゃんと受付が無人の場所を探しておいたから!!」
天音の指摘に対して、親指を立てながら夕日が笑う!!
「ちげーよ!!そうじゃねーよ!!倫理だよ!!倫理!!それがお前に欠如してる大切な物なんだよ!!」
「愛する事が罪とでも?」
「お前の愛し方は少なくとも罪だよ!!小児性愛者!!」
しれっと受け流そうとする、夕日に天音が食って掛かる!!
「おねーちゃん!!そろそろ時間じゃない?」
天峰が壁に掛けてある、時計を見て二人の袖を引っ張る。
「あら、そうね。天ちゃん良く教えてくれたわね、じゃ行きましょうか?」
食べ終わった皿を片付け、その場から立ち上がる。
「おい、待て!!俺も行く!!」
買い物袋を持ちながら、天音も立ち上がった。
「ハイネが興味あるなんて、意外ね」
「ちげーよ。お前の毒牙からかわいい弟を守る為だよ。
お前と天峰を暗い中で一緒にしてられるか!!」
何をするかわからない、夕日に任せておけない!!
そんな気持ちが、天音のめんどくさがりな感情を吹き飛ばす!!
「えー……いいじゃない。義姉さん、若い二人にここは任せて――」
「年齢はそんなにかわらないだろ!?むしろお前の方が少し年上位だろ!?」
天音と夕日が言い争いを始める。
それをみて、天峰はフードコートの笹の有る場所まで走っていく。
「おねーさん、短冊ください!!!」
「はい、坊や。短冊、願いごと書けたらまたおねーさんに渡してね?」
笹の下にいた、職員から短冊を受け取るとペンでさらさらと願い事を書き始めた。
「なんて書いたのかな?」
「ずっとみんなと居られる様にって!!」
笑いながら短冊を職員に渡す。
「あ、あは……確かに、少しおねーちゃん達、仲悪そうだもんね……」
尚も言い争いをする、二人を視界に収め職員の人が苦笑いする。
「ちがうよ!!アレが、二人の普通なんだよ!!みんなとーっても仲良しなんだよ!!」
天峰が今日一番の笑顔を職員に見せた。