リミットラバーズ   作:ホワイト・ラム

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今回はスペシャル。
12000UA記念作品です。
リバース作品はなぜか人気の高い、バリエーションですね。


リミットリバース3

「ねーちゃん!!ねーちゃん!!今週の土曜って夜、暇?」

天峰が、天音の部屋にノックもせず入ってくる。

その瞳はきらきらと輝いているように見える。

 

「あ”?なんだよ……俺は忙しいんだが?」

露骨に不機嫌な態度で天峰を迎える天音。

先ほどの天峰とは対照的に目は充血しており、隈も出来ている。

極め付けに額に冷却シートが張り付ている。

彼女が向かう机の上には、ノートパソコンと数冊の本とプリント、そして最後に無数の栄養ドリンクの空き瓶。

 

幻原 天音。現在2徹中!!

なぜかレポートの提出期限が重なり、合計4つものレポート課題を彼女は抱えている。

昨日今日で何とか、3つまでは終わったのだが最後の一つに苦戦しているのだ。

 

「うっ……土曜日もダメ?」

不機嫌な天音を見て尚も天峰が、質問する。

手に持っていた紙を、胸の前で握りしめる。

 

「あー、一応話は聞いてやる」

 

「本当!?」

天音の言葉に、天峰の表情がぱぁっと明るくなる。

いそいそと手に持っている紙を広げ、天音に見せる。

紙の内容は簡単だった。今週の土曜日に河川敷の一部で養殖していたホタルを見る祭りが有るというチラシだった。

市がそこそこ力を入れているイベントで、当日には出店も多く出店するらしい。

 

「お祭り!!ホタルの!!」

 

「ホタルぅ?アンなの尻が光るゴキブリだ。俺はキョーミ無いね」

しかし今の天音にとっては睡眠時間の確保が優先だった。

天峰には悪いが、一人か友達と行ってもらう事になるだろう。

 

「えー。ホタル、ねーちゃんと見たいよー!」

珍しく天峰がごね始める。

寝不足の天音の脳に、その声はひどく耳障りに聞こえた。

 

「うるせー!!俺は忙しいんだよ!!えーと、ヤケだっけ?ソイツと行ってこい!!誘って来たのもソイツだろ?」

パソコンの画面に視線を戻しながら天音がそう言い放つ。

カタカタとキーボードをたたく音が、部屋に響き始める。

 

「ねーちゃん……わかった、坂宮さんと行ってくる」

瞬間、部屋に響いていたキーボードの音がぴたりと止まる。

ゆっくりと天音が天峰の方へと振り返る。

 

「おい、天峰……今、誰と行くって言った?」

 

「ん?さかみ――あ!『夕日おねーちゃん』って言わないとダメだった!!夕日おねーちゃんと行ってくる!!」

走って部屋から出ようとする天峰を、天音が手を取り捕まえる。

 

「天峰。2、3質問させてくれ。夕日をこれから誘うのか?それとも誘われたのか?」

天峰の目を見ながら、質問を始める。

アノ危険人物(夕日)が関わっているなら、事態は思ったより深刻になりそうだった。

 

「夕日おねーちゃんに誘われたんだよ。今日学校の帰りに会ったんだ」

 

「学校の帰り!?なんだ!?お前の通学路知ってんのか!?」

予想外の言葉に、慌てる天音。

更に天峰が衝撃の言葉を繰り出す!!

 

「夕日おねーちゃんには帰りに良く会うよ?今日もアイスおごってくれたー!!」

天峰が嬉しそうに話すが、天音の背中にさーっと冷たい物が走る気がした!!

 

「おいおいおい……アイツどこまで……他にはなんか有ったか?」

 

「うーん、と……『おねーちゃん』って呼んでって言われたり、声を携帯の着信に使うから録音させて欲しいって――」

 

「OK!!もうわかった、もう言わなくていい。天峰、悪いが俺少し用が出来たみたいだ。

安心しろ、祭りには俺が連れて行ってやるから」

 

「本当!?やったー!!」

天音の言葉に天峰が、両手を振りあげて喜びご機嫌で部屋から出て行った。

居なくなった天峰を見送ると、深いため息をついて携帯電話を取り出した。

友人のナンバーにかける。

言わずも名が、相手は夕日である。

 

トゥルルルルルルルルルン

トゥルルルルルルガチャ!!

 

「よう、夕日。なんで電話したかわかってるよな?」

なるべく怒りを堪えて、絞り出す様に言葉を紡ぐ。

一歩間違えば、八つ当たりで自身の携帯を叩き壊す事に成りかねないからだ。

 

「あ、あら~。ハイネ……み、未来の義妹に挨拶……かしら?」

 

「ほざくな!!このガチ小児性愛者!!お前ウチの弟に何してるんだ?っていうか祭りの会場で何する気だよ?」

受話器越しに相手の慌てる態度、がひしひしと伝わってくる!!

 

「な、別に何も?ただ一緒にホタルを見たいな~、なんて……?」

 

「ふぅん?夜の出店で餌付けしようとしたんじゃなくてか?」

探りを入れる様に、天音が言葉を並べる。

一瞬あとに、夕日が息を飲むのが聞こえる。

 

「馬鹿ね!!ハイネ!!餌付けはそこらのコンビニでも出来るでしょ!!

此処で重要なのはシチュエーションよ!!

『二人で夜にホタルを見た』ってのが重要なのよ!!思い出は心に残り記憶になるわ!そしてその中にある、私が天峰君を染めていくのよ!!

まぁ?もちろん周囲に人気のない茂みが有る事は事前の調査で確認済みなのよね!!て天峰君が、大人の階段を私と一緒に――」

 

「あ、言い忘れてたけど、この会話録音してるからな?」

ブラフ込みで、通話口をUSBでコンと叩いた。

 

「いい!?」

さっきまでのテンションは一変!!

饒舌に話していた夕日がぴたりと言葉を止める。

 

「おい、どうした?急に静かになったみたいだが?」

 

「べ……別に?もともと私物静かなタイプだし……」

夕日が沈黙したのを確認して、再び天音が口を開いた。

 

「お前が家の弟を気に入ったのなら、俺は別に文句は言わない」

 

「流石、義姉さん!!話が――」

 

「黙ってろ!!祭りは今週の土曜だな?お前と天峰を二人にすると何をするかわからんから、俺も行く。いいよな?」

 

「えー?せっかくの二人のデートなのに?」

 

「録音した音声持って警察行こうか?」

再び通話口をUSBで叩く。

 

「待ってください。やめてください。逮捕されてしまいます」

ヤケに丁寧な口調で、夕日が謝り始める。

 

「よし、録音した天峰の声も消してもらおうか?」

 

「ッ!?それは……」

先ほどとは違い明確に夕日が拒絶する。

 

「警察行くか?」

 

「………………」

 

「おい、どうした?」

せかす様に、黙りこくった夕日に天音が声をかける。

 

「ハイネ!!あなたはわかっていないのよ!!ショタの音声の貴重さが!!良い事!!このボイスはこの世の至高のお宝よ!!それを壊すなんて出来ないわ!!」

急に大きく成る声のボリュームに、驚き耳から携帯を離す。

 

「それはお宝じゃねー!!」

その後約30分以上二人の電話口での言い争いが続いた。

 

 

 

 

 

時は飛び、その週の土曜……

祭り囃子が、夜の闇に響いていく。

その人込みを幻原姉弟の二人が歩いていく。

「金魚すくいだー」

 

「ほら、後にしろ!!」

出店に目を輝かせる天峰と、眠気に必死に耐える天音約束の場所まで歩いていく。

待ち合わせ場所に付くと、もうすでに夕日が待っていた。

 

「おう、夕日。来てやったぞ」

 

「あら~、ハイネも来たの?家で寝てて良かったのに」

天峰を見た瞬間目の色を変えた、夕日をけん制気味に天音が挨拶をする。

 

「うわー!!夕日おねーちゃんキレイー!!」

天峰が夕日の浴衣を見て、声を上げる。

夕日は濃い紺色の紫陽花をあしらった浴衣を着ていた。

夏の風物詩ともいえる姿で、夕日本人の姿と相まって非常に艶やかである。

 

「ありがと、天ちゃん」

しゃがむようにして、夕日が天峰の頭を撫でる。

嬉しそうに天峰が目を細める。

 

「ハイネは浴衣着てきてないの?」

不思議そうに夕日が尋ねる。

それに対して、天音が平然と答えた。

 

「あ?俺はその服苦手なんだよ。咄嗟に足が上がらないし、下駄は足の重点を掛けるのがうまくいかないからな……」

 

「ハイネ……一体何と戦ってるの?女の子はもう少しおしゃれすべきじゃない?」

そういう、天音の服はズボンに、シャツという非常にボーイッシュな姿だった。

正直言うと洒落っ気とは無縁といえる。

 

「別にいいんだよ。さて、ホタルだっけか?見に行くんだろ?」

先頭を切る様に、天音が歩き出す。

その後は天峰、夕日が付ていく。

 

「天ちゃん。はぐれるといけないから手をつなぎましょ?」

 

「うん!!」

夕日が天峰の手を取り、二人で歩幅を合わせて歩き出す。

歩幅の小さい天峰と、浴衣のせいで歩幅が小さくならざる得ない夕日。

にぎやかな祭りの空気を受けながら、ゆっくり歩いていく。

 

「あれ?おねーちゃんは?」

目の前にいたハズの天音が見えなくなり、少し天峰が不安そうにする。

人込みが急に恐ろしい物に見えてくるのだった。

 

「大丈夫よ。私がいるわ」

天峰の不安を感じ取ったのか、夕日が天峰の手を引き抱き寄せる。

ポンポンと安心させる様に、背中を撫でる。

 

「おかしいわね……天ちゃんを放っておいて何処に行ったのかしら?」

天峰を抱き寄せながら、夕日が辺りを見回す。

別にこのまま見つからずに、二人で歩いても良いのだが後々天音と合流した時、本人からいろいろ言われてうるさいだろうから我慢した。

 

(あーあ、惜しいなー。少し姿を消して一人で不安そうな顔をした天ちゃんを見てみたかったなー。

それどころか「おねーちゃん一人で、行っちゃったね。わがまま言った天ちゃんを嫌いになったのかな?」とか言って不安にさせて私に依存さてもいいんだけど……たぶん、ハイネはすぐ戻ってくるのよね。

何だかんだ言っても、天ちゃんが好きなんだから……)

夕日が一人恐ろしい事を考えているが、無垢な天峰は気が付かない。

ちなみに夕日に紺色の浴衣は、夜闇に身を隠すステルス性がある。

夕日がこの浴衣を選んだ理由の最たるものの一つである。

 

「あ、天ちゃん見て。ホタルが飛んでるよ」

夕日が、天峰の顔を横に向けさせながら河の方を指さす。

対岸には木で作られた遊歩道があり、そこから河に生息するホタルを見ることが出来る仕掛けに成っている様だった。

 

「ホタル……?」

目を凝らしながら天峰が対岸の小さな光を見る。

 

「ねぇ、天ちゃん。ホタルがどうして光るか知ってる?」

 

「お尻に電球が付いてるの?」

 

「あはは、違うよ。ホタルが光るのはそういう成分があるから、「どうして」っていうのは「なんの為に」って事。

何のためにホタルは光ると思う?」

天峰を撫でながら夕日が、天峰に再度聞く。

 

「前が暗いから?」

 

「ううん、アレはね、仲間を探してるの。

いや、仲間ってのは違うかな?

ホタルは自分のお嫁さんを探しているんだよ?」

 

「お嫁さん?」

天峰がオウム返しする。

さっきまで天音を探していたのをすっかり忘れている様だった。

 

「自分の好きな人に見つけて貰いたくて、ホタルたちは頑張って光ってるんだよ。

ねぇ、天峰君。じゃ、なんで私達人間はお尻が光らないと思う?」

 

「……わかんない……」

 

「そっかぁ」

天峰の答えに少し残念そうな顔と声色を使いながら、夕日がつぶやいた。

 

「私達には、そんなのいらないから。

出会う人ってのはね?人生で必ず出会う事に成ってるの。

たとえどんなに、時代が変わっても、それこそ世界が変わっても出会う人とは出会えるの、だからね?」

 

心配しないで――その言葉を出そうとして夕日は口を止めた。

 

人込みをかき分け、出会うべき人間がこちらに走って来たからだった。

天音が息を散らしながら、話しかける。

 

「おい!!二人ともこんな所で何してんだよ!!早くホタル見に行かないのか?」

 

「ねーちゃーん!!」

天峰が夕日の元を離れ、天音に抱きついた。

衝撃に、一瞬天音が姿勢を崩す。

 

「おっとおっと、どうした?一体?

ハッ!?まさか夕日お前、天峰に――」

戦慄きながら、殺意のこもった目で夕日を睨みつけた!!

 

「ちょっと、何もしてないってば!ハイネが見つけるまで待ってたの」

疑われた夕日が同じく眉を釣りあげながら、指を振るう。

 

「まってた?それはこっちも同じだよ、橋を越えて向こう岸までいって、ホタルの並び口でお前たちが来てないのに気がついて、射的で時間つぶしてたらこっち側にお前らが見えたから急いで戻って来たんだぜ?」

今まで何をしていたか、天音が説明する。

さらっと言っているが、橋からこっちを往復するにしても、向こう岸から二人を見つけるのも驚異的な身体能力である。

 

「あのね……天ちゃんがそんな早く移動できる訳ないでしょ?」

 

「え……あ!!」

夕日に指摘されて、ようやく天音は自分が悪かった事に気が付いた様だった。

浴衣と小学生が、天音の歩くスピードについて来れる訳ないのだ。

 

「あー、すまねぇ……ちょっと、気が利かなかった……」

バツが悪そうに、頭の後ろを掻く。

 

「ちゃんと弟はしっかり見てなきゃダメでしょ?攫われたりしても知らないわよ?」

 

「攫いそうな奴、筆頭が何言ってるんだ?」

夕日の言葉に天音が、ジロリと厳しい瞳を向ける。

 

「ねーちゃん!!お腹空いた!!」

そんな空気を読んでか、天峰が近くにあった焼きそばやを指さした。

 

「あー、そういえば夕飯まだだよな。待たせた詫びだ。好きなの買ってやる」

 

「ほんとう!?やったー!!」

 

「義姉さんごちそう様でーす」

天峰と夕日が同時に口を開いた。

 

「お前は自分で買えるだろ!?」

天音が夕日に指摘するが……

 

「えー?ハイネが居ない間私が面倒見たんだよ?ベビーシッター代は?私ー天峰君が食べたいなー」

 

「家の弟は非売品だ!!……まぁいい、待たせたのは本当だしな、焼きそば位なら奢ってやる」

そういって、天音が出店に向かって歩き出して、歩みを止める。

 

「おっと、今度ははぐれない様にな」

天音は天峰と手をつないだ。

 

「夕日おねーちゃんも!!」

そういって反対側の手を夕日に向ける。

 

「ありがと、天ちゃん」

三人は今度こそ同じ歩幅で歩き始めた。

 

 

 

「夕日おねーちゃんの手、少し濡れてる?」

 

「気にしないで!!少し興奮して手汗で濡れただけよ!!」

 

「……おまえ、もう帰れ……」




おねショタが書きてーなーで、始まったこの作品。
世界が変わっても、夕日と天峰はめぐり合う的なストーリーを目指したのですが……

夕日が……暴走気味に……
なぜだろう?

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