リミットラバーズ   作:ホワイト・ラム

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はい、だいぶ作品もクライマックスです。
あと、一話くらいで終わらせる予定です。
最後までよろしくお願いします。


いつからかわからないけど

朝一番、リビングに入ってきた天峰に、大きな声であいさつする。

「お、おはよう!!」

 

「やぁ、夕日ちゃん。今日は早起きだね」

あっさりと、非常にあっさりした対応で天峰が食卓に着く。

今日は金曜日、土日と休みが続いている。

いろいろバタバタした夕日の家の騒動もようやくひと段落できるだろう。

 

「………天峰、明日どこか行かない?」

 

「ん?うーん、夕日ちゃんちょっと疲れてるでしょ?

バタバタしたし……おとなしく休んだ方がいいんじゃない?」

こちらを気使う言葉、だが本心は一体どうなっているのかわからない。

 

「いただきまーす」

両手を合わせ、天峰がトーストにかじりつく。

 

「うっす!夕日!!」

それと同時に、天音が部屋に入ってきた。

天峰の様に、食卓に着き朝食を取り始める。

 

「…………」

何も可笑しなことは無い、普通の朝食の風景。

そうだ、自分がこの家を出る前まで有ったナンの変哲もない《《普通》》の風景だ。

 

「ん?俺の顔に何か付いてる?」

夕日の視線に気が付いた天峰が、自身の口の周りを手でさする。

 

「……別に……なんでもない……」

そっけない態度で応え、自分のパンを食べる。

 

『あいつは、ずっと昔の私を探してるの――』

脳裏に浮かぶのは、卯月の話。

夕日は卯月にすべてを聞いていた。

 

まだ二人が小学生だった頃の恋人関係、卯月の両親の都合で離ればなれになった事、そして再びまた会えた事。

二人の間に起った事をすべて聞いた。

 

最早狂気と言っても過言ではないハズの日々。

目の前に自分の愛した者がいて、そしてその面影を探し続ける日々。

 

(ずっと、一人なんだ――可哀そう)

可哀そう。この感情は卯月だけではない。

天峰に対しても思っている嘘偽りの無い言葉だ。

 

(天峰は、ヒーローじゃないんだね……

私の時も助けてくれた。晴塚さんも助けたって聞いた。まどかと木枯の為に頑張ってるのも知ってる。玖杜を一緒になって助けようとしたのは、つい最近――

ずっと、ずっと、ヒーローだと思ってた……

都合のいい、便利なヒーローにしてたんだ……)

 

それはずっと天峰が続けていた事、困った幼女に手を差し伸べ自分すらも後回しにする。

一体どれだけ、天峰は幼女の為に自分を捨ててきたのだろうか?

自分を捨て、自ら傷つき、刹那的に交わす幼女たちの中に、在りし日の自らの恋人を重ね続ける。

おそらくこのサイクルは永遠に続くだろう。

彼が生きている限り、ずっとずっと過去の面影を探し在りもしない存在を求めてひたすら彷徨うのだろう。

 

そして彼は、それを良しとする。

 

(そんなの、ダメ……

そんなの――――悲しすぎるから。

そんなの――――報われないから。)

過去の思いでという檻の中から、天峰を解き放ちたい。

なぜなら天峰は――――

 

(私の心をさらった責任、取ってもらう)

 

 

 

 

 

「……天峰」

いつになく真剣な顔をして、夕日が大切な人の名を呼ぶ。

 

「ん、どうしたの?」

 

「……やっぱり……土日何処かへ……行きたい。

《《連れてって》》」

断ることなどさせない。そう言いたげな強い口調で夕日が頼む。

 

「ええー、正直言ってめんどくさいなー。

俺としては、少し休みたいんだけど……」

夕日の心を無視したような無情の一言。

以前の天峰なら、わずかな心のうちまで読み取り色々お節介を焼いてきたのに、今となってはこの様だ。

 

見えていないのだろう。相手の心が、興味を失った相手の心など天峰にはもう関係ないのだろう。

 

「……お願い……」

 

「はぁ、天音か、玖杜ちゃんと行って来た――」

やはりめんどくさげに、夕日の頼みを断ろうとする。

その態度に悲しくなるが、ここで引いたら絶対に二度と近づけなくなる様で夕日は必死に食い下がった!!

 

「天峰が良い!!」

 

「うぉ……」

 

「うわ!」

突如見せた夕日の激情に、天峰は勿論天音まで目を丸くする。

 

「おめぇ~ら~……朝っぱらからうるせぇ~ぞ~……」

3人がまるで地獄の底から響いてくるかのような声にビクリとする。

リビングのドアを開け、3人の母親が顔を出す。

彼女は低血圧でどうしても朝が苦手だ。朝食、弁当は基本的に父が作っている。

要約すると、朝は非常に機嫌が悪いのだ。

 

「ん~、どうした夕日……お前が声を荒げるなんて、珍しいな」

 

「……天峰と……思い出が……作りたい」

じっとこちらを見る夕日の目を見て、母親が何かに気が付く。

 

「ふぅん……そうか、なら――ちょっと待ってろ」

小さく頷いて、戸棚をごそごそと漁る。

数秒後にその音がピタリと止まり、一つの封筒を持ってくる。

 

「あったあった……こういうのは、取っておくべきだな……

期限は――大丈夫だな。

おい、これやる」

そう言って、食卓の机の上に封筒を投げすてる。

 

「ん?墺歳(おうさい)町、傾山(かたむきさん)麓旅館館長イゴース・ド・イカーナ?外国人?」

夕日の前で、天峰が封筒の差出人を読み上げる。

 

「昔のツテだ。そいつ、山奥の村で旅館をやってるらしい。

少し前に軌道に乗って来て余裕が出来てきたからって、そこまでの電車の切符と旅館のタダ権をくれたんだよ。

二人で行ってこい」

 

「はぁ!?」

突然の、それもまさに『降って涌いた』話に天峰が驚嘆の声を上げる。

 

「夕日。おまえも思う所はいろいろ有るだろう……

だが、最初に言っておく。

後悔はしても良い、だが絶対に腐るな。

お前が不貞腐れて、腐っている間にチャンスはどんどん逃げてく。

前を向いても一日、下を向いても一日は一日だ。

時間を無駄にするなよ?」

いつになく真剣な言葉。

ひょっとしたら、母親は自分の心を見透かしているのかと、思うが夕日が頭を振った。

知っていてもおかしくない。この人は《《そういう人だ》》。

ならば――

 

「……わかった」

夕日は力強く頷いた。

 

そのあと、小さく「学校行ってくる」と言い残し部屋を出ていった。

 

「あー、えっと母さん?因みにこの人ってどういう関係?」

珍しい外国人の名をみて、天峰が訝しがる。

コーヒーを一杯沸かして飲んでから母親が話し始める。

 

「あー、昔の話だよ……どっかの国の旅行者のイゴーズが日本の田舎に行って、泊まった宿が気に入ったらしい。けど、その宿っ後継者がいないから閉めるって言っててな?

イゴースが後継者に名乗りを上げたんだよ。

ま、金の問題も有ったみたいだし?話はそんなに単純にはならない。

仕方ないから、イゴースはインターネットで金銭的支援を求めた。

んで、その旅館を知ってた私たち夫婦は、援助したってだけ」

 

「援助って……そんな、個人の金額は微々たる――」

 

「2億」

 

「は?」

突如母の口からこぼれた言葉に、天峰が固まる。

一体何の意図があって、この言葉を出したのだろうか?

日常ではあまり聞かない言葉、一体何が『2億』なのだろうか?

 

「まさか――」

 

「2億援助した」

 

「どこに有ったその金!?うちって金持ちなの!?」

まさかの実家の経済状況に天峰が驚く。

確かに、家は一軒家だし特に貧窮した生活はしてないハズだが――

 

「宝くじ。それと株だ。言っておくけど、家のローン払うのとその他もろもろでほとんど使い切ったから、親の遺産当てにすんなよ?」

当たって、派手に使い終わった両親をみて天峰が啞然とする。

色々と剛毅な母親だったが、まさかこれほどだとは思っていなかった。

勿体ないような、これで良かったような、不思議な感覚が天峰を襲った。

 

「ほら、早く学校行ってこい」

追い立てられるように、天峰は学校に向かった。

 

 

 

 

 

学校昼休み――

夕日は、学校の高校生用の校舎にいた。

目的の人物は天峰ではない、《《彼女だ》》。

 

「あら、いらしゃい」

 

「……」

思わず見とれてしまうような美人がいた。

華が咲いたような、周りまで明るくする笑顔を振りまき、自分との違いをいやでも実感させる美少女、卯月だ。

恐ろしい事にこれで成績や性格まで完璧というのだから、神様は不平等だ。

夕日は無言で頭を下げ、挨拶をした。

 

「天峰なら、ヤケ君と一緒に居たわよ?

多分学食じゃないかしら?見に行ってみましょうか」

 

「……話が……あります……」

楽しそうに話す卯月に水を差す様にゆっくりと夕日が口を開いた。

 

「わかったわ……この時間なら、校舎裏かしら。

付いてきて」

卯月は夕日の真剣な顔をみて、人通りの無いトコロに呼ぶことにした。

 

 

 

「で?話って何かしら?」

 

「……私……天峰が……好きに成ってた……

いつからか知らない……けど……天峰の『特別』に……なりたいって思った。

だから――」

 

「宣戦布告って訳ね?」

夕日の言葉を受け取って、卯月が言った。

厳しい目をして、こっちを見ている。

 

「『いつからかわからないけど』か……

私は覚えてる。小学生の頃から、アイツの全部が好きだった。

一生懸命な所も、自分を二の次にして他人の為に尽くせる所も、立ち直りが早くて、いつまでもウジウジしてない所も好きだった――いいえ、今でも好き。

私が……私が一番最初に天峰の隣にいたのに!!あなたがシャシャリ出てくる前から私がいたのに!!けど……一緒に居られなくなって……

訳わかんない理由で振られて!!そのくせ、昔の私が好きって何よ……何よ!!

あんな奴!!あんな奴……なんで、すきに成っちゃったんだろ?」

卯月が激情を夕日に見せる。

何時もみんなの近くでニコニコ笑っていた卯月の、本心に近い部分だ。

これが本来の卯月なんだろう。

卯月の脳裏には、数か月前の出来事が浮かぶ。

 

思い切って告白しようとした場所がここだ。

大切な瞬間なのに、藍雨からメールが来た。そして天峰は走り去っていってしまった。

あの時、私を優先させれば結果は変わっていただろうか?

もしかしたら、天峰は怪我を負わず夕日と会う事すらなかったのではないか?

連鎖的に思考が動き、後悔の念がわく。

だが――

 

ひとしきり、激情をぶちまけた卯月が静かになった。

 

 

 

「ふぅ、少しすっきりしたわ。

ごめんね?急に怒鳴ったりして……

別にあなたが天峰を好きに成っても構わないわよ。

あなたも、天峰の素敵な所一杯知ってるんでしょ?じゃなきゃあんなロリコン野郎好きに成る訳ないわよね。

私は天峰が好き。あなたもそうなんでしょ?

なら、お互いライバルよね」

さっきまでの様子がうその様に霧散する。

その顔には、すがすがしい物さえあった。

 

「……うん……私も……そう」

小さく、しかし確かに夕日が頷いた。

 

「そっか、やってごらんよ。天峰のバカを振り向かせた方が勝ちなんだから。

これからは容赦しないわよ?」

そう笑って、夕日の頭を優しくなでた。

 

「さ、天峰を探してお昼を食べましょ?」

 

「……うん」

二人は笑い合って天峰を探しに行った。

 

 

 

 

 

夜、駅にて――

「天峰……電車……来た」

 

「うん、ああ」

気の抜けた返事をして、乗る予定の電車に乗る。

明日の早朝には旅館のある町だ。

 

誰にも邪魔されない、二人きりの旅行だ。

 

絶対に自分に振り向かせて見せる。

夕日はそう決意して、電車に乗った。




珍しく明確に、ガールズの気持ちが出ましたね。
はぁ、幼女に好かれたい……

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