ラストまでお付き合いお願いします。
この作品もいよいよ100話!!
飽き性な自分がここまでこれたのもすべて、読者のおかげです。
本当にありがとうございます。
「すいませーん、これください」
見知らぬ街の靴屋で天峰が、一足の女性用の靴を買っていた。
「プレゼント用の包装しますか?」
女性店員が、笑顔で聞いてくる。
「いいえ、結構です。けど、すぐに履かせてあげたいのでラベルを切ってもらえますか?」
「はいわかりました」
店員が手早く鋏を取り出して、靴のラベルを止めているピンを切り落とした。
「ありがとうございます」
笑顔を向けた天峰が靴を持って店を出る。
少し離れた公園で、夕日が裸足でベンチに腰かけている。
「夕日ちゃんお待たせ」
ピンクのかわいいデザインの靴を持った天峰が笑う。
「はい、これ履いてね?」
そう言って、夕日の足元に跪いて足をつかんだ。
手早く夕日に買ってきた靴を履かせる。
「うん、かわいいよ。これでお城の舞踏会へ行けるね」
まるでシンデレラの童話の様に、天峰が笑うが――
「……うるさい……」
軽く足を上げ、天峰のあごを軽く蹴った。
「いて……ひどいなー」
あごをさすりながら、天峰が立ち上がった。
「……なんで……こんなこと……」
「何度でも言うよ?俺がしたいから、ただそれだけ」
天峰は楽しそうに夕日の手を取った。
「さて、誘拐の再開だね」
天峰の言葉に夕日が少しだけ頷いた。
電車、バス、そして歩き。
すべてを駆使して、天峰は夕日を自分の家へと連れて帰っていく。
今は、電車をおり家の近くのバス停にバスで移動中だ。
「あ……」
見覚えのある街並みに、夕日が安堵の声を漏らす。
心では強く突っ張っていたつもりだが、やはり心の中では哀愁の念がたまっていた様だ。
何でもない事なのに、目頭が熱くなってくる。
「天峰……私……」
「さ、もうすぐ家だよ」
何事もなかったように、天峰が夕日の手を引いてバスを降りる。
当然だが、ここでも天峰は夕日の分の運賃を払っている。
天峰とて一介の高校生。他県の夕日の家に往復、さらに帰りは二人分の運賃、さらには自身のための靴となればかなり痛い出費のハズだ。
「お金は――」
「ん?そんなのいいよ。けど、どうしてもって言うなら……体で払ってもらおうかな?」
天峰がわざとらしい悪い笑みを浮かべて見せる。
「……バカ」
夕日は聞こえない様に小さくつぶやいた。
「はい、着いたよ」
天峰に手を引かれ、その家の前にたどり着く。
懐かしの幻原家の家だ。
「ただいまー」
「……お……おじゃま……します……」
夕日は一瞬自分が「ただいま」と言いそうになったのを何とかこらえた。
それに気が付いたのか、天峰が少しだけ悲しそうな顔をした。
「ん?おお、天峰。学校から連絡来たぞ?授業ほっぽり出して、何処行ってたかと思ったが……なるほどな」
天峰の母親が、夕日を見て何かを理解したような気がする。
「よ。
「た、ただいま……」
最早他人のハズなのに、母親はとてもやさしく夕日を迎え入れてくれた。
そっと伸ばした手、頭に置かれ少し乱雑になでる手に遂に夕日が、感情をこらえきれなくなった。
「……うぐ……ぐすぅ……ヒック……ひっく……」
「おーおー、どうした?なんで泣いてるんだ?
天峰に襲われたか?」
茶化しながらも、母親は夕日を抱きしめゆっくり背中をなでてくれる。
暖かい、とても暖かい気持ちになった夕日だった。
「うわぁあぁぁぁぁ……!!うわぁあああん……
わたし、わたし、この家にいたい!!
もう、お家に帰りたくないの!!!ここに居させてほしいの!!」
「んん?よしよし、かまわないぞ?お前が望むなら好きなだけいていいんだぞ?」
「けど、お母さん。うちにいるから……起きたから、家族なら一緒に居ないと……!!」
なおも泣きながら、天峰の母親に縋りつく。
何度も何度も、優しくなでてくれたようだ。
数時間後――
「泣きつかれて寝ちまったみたいだな……」
布団を敷いて夕日を寝かした母親が、天峰に尋ねる。
「かぁさん……」
「さてと、お前が学校をバックレた事はひとまず後だ。
むしろ、よくここまで夕日を引っ張って来たな」
天峰と母親のそれぞれ横には、天音と父親も座っている。
父親をはじめ、いつもは元気な天音すら黙っていた。
「引き取るぞ。預かるんじゃない、夕日を家で引き取る。
文句のあるやつはいるか?」
「居ないよ」
「天唯ちゃんの考えなら、賛同するよ」
「シャーネーよな?」
幻原家、4人の意見が一致した。
その日の夜遅く。
霧崎経由で、夕日の母親からのメッセージを受け取った。
『お宅の気狂いの息子に拉致された娘を取り返しに行く。場合によっては法的処置も辞さない』
申し訳なさそうに、霧崎はそう言ったらしい。
トン――トントン――
もう寝ようとする天峰の部屋のドアが叩かれる。
ノックの音だけで、天峰はだれが来たか分かった。
「やぁ、夕日ちゃん。いらっしゃい」
「…………………………うん」
扉の向こう、深夜の暗闇の中で小さな影が立っていた。
ギシッ――
小さな音を立てて、夕日が天峰のベットに座る。
そのすぐ横に、天峰も腰かけた。
「……私……わがまま……言っちゃった……」
「別にいいさ。これくらい」
『これくらい』と到底言えない状況でもなおも、天峰は夕日を見て笑った。
「……優しいね……天峰は……優しい……」
「うーん、どうだろ?優しくするつもりでやってる訳じゃないし――」
何かを考える様に、自分のあごに手を当てる。
「私……天峰に会えてよかった……本当に……会えてよかった……」
見上げるように、夕日が天峰を見る。
「夕日ちゃん……ん?それって――」
「ん?」
ごめんと一言謝ってから、天峰が夕日の右目の義眼に触れる。
「傷がついてる……どこか、ぶつけた?」
窓に映る自分の姿を見て夕日が確認する。
言われて通り確かに、小さな傷が付いてしまっている。
当然、家に有るスペアなど持ってきていない。
「多分……あの時……」
今日の昼、母親の投げたカッターで傷が出来たのだろうと勝手に理解する。
そして――
「天峰……見てほしい……」
ベットから立ち上がり、上着を脱ぐ。
ズボンも同じく脱ぎ捨て、傷のついた体を天峰の前にさらす。
そして傷のついた、義眼も外す。
「夕日ちゃん?」
「私の体は……醜い……目すら片方しか……ない……
お母さんに……言われた……『お前は、傷物。女としてすら不具だ』って……
実際そう……誰かに……体を見せれない……傷は……消えない……
それでも……私に優しく出来――」
「もう飽きたよその展開」
思い切った夕日の発言だが、天峰は夕日を強く抱きしめた。
「バッカだなぁ……俺が、夕日ちゃんを見捨てる訳ないじゃない。
たとえ、体が傷だらけでも俺はそれでも夕日ちゃんを大切にするよ?
さてと――――そろそろ服着ない?今更だけど、半裸の夕日ちゃん見てたら理性が危険な状況に……」
「天峰なら……いいよ?……一生大事にしてくれるなら――いいよ?」
真剣な夕日の言葉、茶化した様子などない。
本気の言葉。
「そ、そういうのは、きちんとやることを終わらせてからね?
けど、それよりも――」
夕日に服を着る様に促し、天峰が自身の机の引き出しをあさる。
「有った、有った。そういえばさ、いつか入れてあげる約束だったよね?」
大切に取り出した、指輪の様なケース。
それを開くとそこに有ったのは――
「私の――眼?」
「そう、病院から退院する時にくれたんだよ、覚えてる?」
「うん。覚えてる」
夕日は天峰に優しく微笑み返した。
そして翌日。
霧崎の運転する、車に乗って夕日の母親は姿を現した。
「二度目、ですかね?」
「ああ、一回目はさっさと帰っちまったからな。
きちんと挨拶をするのはコレが初めてになるな」
二人の女が向き合って、リビングの机に向き合う。
片側には、霧崎。そしてそれに対する様に、天峰と夕日が座っていた。
口火を切ったのは、霧崎だった。
「先輩。ご無沙汰してます」
「おう、霧崎。元気でやってるか?」
「はい、おかげさまで……」
「うっさい!!黙れ!!こいつらは敵だ!!頭なんて下げるな!!」
ペコペコと頭を下げる霧崎に、夕日の母親がいきなり叫び声をあげた。
突然の怒鳴り声に、夕日がビクリと体を縮めこめる。
「本来、こんな場は必要ない!!夕日は私が産んだ娘だ!!
連れて帰るのが当然のハズでしょ!」
威嚇するように、机を夕日の母親が叩いた。
「………夕日ちゃんは……この家に居たいって言ってくれてます!!」
「本人の考えなんて関係ない!!親子は一緒に居るものなの!!
私から生まれた夕日は、何が有っても私の家に居なくちゃならないわ!!」
天峰の言葉を無視して、母親が容赦なく言い放つ。
「俺、あんたの家の前に行ったから知ってるぞ!!あんた、夕日ちゃんに酷い事言っただろ!!夕日ちゃんの悲しさが分からないのかよ!!」
天峰のセリフに、霧崎がわずかに眉を動かす。
一瞬だけ、夕日の母親が言いよどんだ。
「真実を言っただけよ。本当にこの子は女として不遇よ。
傷だらけの体に、片方しか見えない目。
良い?女の幸せはいい男に貢いでもらって生きること。
私はそれができる美貌を持ってた!!あの人との子を産んで結婚してもらえるハズだった……けど、あの人と一緒になれなかった時点で、この子はもう私の人生の障害でしかないの!!殺さない所か、食事まで上げてるんだからいいでしょ?
死なずにここまで、育ったんだから。これからは私に恩返しするべきなのよ!!
私の子は、私のいう事だけを聞くべきなのよ!!それが当然の――」
「ふざけ――」
「ふざけんな!!」
天峰がいきり立つ前に、天峰の母親が夕日の母親を殴り飛ばした!!
「かぁさん!?」
止める天峰だが、なおも母親は倒れた相手の方へと向かっていく。
「立て……立てぇ!!」
首根っこをひっつかんで、無理やり夕日の母親を立ち上がらせる。
「な、なにを――」
「お前は人間だろうが!!犬猫とは違うんだよ!!
子供ってのはそんな簡単じゃねーんだ!!
孕んだ瞬間から一生守るて決めるもんだろ!!てめーは何だ!?
相手と結婚するための手段!?殺していない!?ふざっけんな!!
ちげーよ!!子供は子供だよ!!実家に勘当されようと、何が有っても守らなきゃいけないモンだよ!!
自由にしていいもんじゃねーんだよ!!それをなんだ?お前は何度夕日の心を殺した!?なんど、冷たく突き放した!?
やらねぇよ!!おまえなんかに、
まくし立てるような、言葉。
そこにいた全員が、呆然として固まってしまった。
そんな中、ずっと黙っていた天峰の父が話し出した。
「坂宮さん。私の旧姓は倉科って言います。
江戸末期から大昭中期まで宿泊系の産業を牛耳って、爆発的な発展を遂げた一族です。所謂旧華族って奴ですね。
私が大学時代、初めて好きな相手が出来ました。
けど、家から反対されまして……相手の子の年齢も問題だったのかな?
だけども、どうしてもその子が好きで、好きで……
実家に絶縁状を叩きつけて、苗字も捨てて、今の嫁さんと一緒になりました。
息子も娘も生まれて、毎日楽しく生きてます。私の家族は宝物です。
最初はあなたもそうだったんじゃないですか?どうか、どうかもう一度初めて娘を抱いた時の事を思い出してください」
「とっとと帰れよな!!おい、霧崎ぃ!!お前の姉貴だ、責任もって持て帰れよ」
そういうと、両親二人は部屋を出ていてしまった。
「夕日……あなたの……あなたの幸せは此処なの?」
「……ごめんね……私は……ここに居るって決めたから」
弱弱しい母親の声、それを夕日ははっきりと断った。
「ふぅ、いろいろと聞くことが有りそうだな……
すまない、夕日。おまえには無理させちまった」
うなだれる母親を、連れて霧崎はその場をさった。
嵐の様な一日は過ぎて――
「えっとー、復学に……戸籍?だっけ?」
「まだ養子のままだから、キャンセルの方が先かな?」
両親が、忙しそうに話している。
アレから元の学校に戻る事が決まり、その処理に大忙しの様だ。
「夕日ちゃん、一人で大丈夫?俺、ついていこうか?」
「……大丈夫……一人でできるから……」
心配しすぎな天峰に対して、夕日がなだめる様に答えた。
「ううっ……夏休みの終わり位から……夕日ちゃんの成長がすごい……」
何処か、悲しそうな顔をして天峰が話す。
その様子が、すこしおかしくて夕日は笑って
可笑しな話だが、また天峰の家に住むことになるという事で、夕日は親しい人にあいさつ回りをすることにした。
藍雨、まどか、木枯、玖杜と次々挨拶を済ませていく。
そして最後に――
「そっか。戻ってきたのね、よかったわ」
天峰のクラスメイト、卯月がそう話す。
「……はい……また……よろしく願いします……」
笑顔を浮かべ、挨拶した。
「夕日ちゃん少し明るくなった?」
「……うん……そうだと思う……天峰にも……成長してるって言われた……」
「え?」
その一言で、卯月が固まった。
「?」
何か不味い事を言ったかな?
と思い、聞き返す。
そして、卯月はゆっくり語りだした。
「ねぇ、夕日ちゃん。天峰がみんなの事、なんて呼ぶか知ってる?」
幻原家――天峰の部屋。
「はぁ、夕日ちゃんも成長したか……仕方ないよね……どうしようもないよね……
かわいかったのに……残念だなー、
はぁ、成長したんなら――――――
卯月に言われたことを、考える夕日。
嫌な予感が脳裏を過ぎる。
「えっと――【藍雨ちゃん】【まどかちゃん】【木枯ちゃん】【クノキちゃん】?」
「そうね、それと【ヤケ】君ね」
「じゃ、
暗い、とても暗い、まるで追い込まれた自分の様な真っ暗な目をして、卯月が尋ねる。
「【卯月】……?」
「そう、そして私の名前は【卯月 末理】!!」
「あ……」
夕日は気が付いた。
卯月だけ苗字呼びなのだ。ほかの仲間は下の名前なのに――
「天峰はね?成長した幼女に興味はないんだって……
私はもう、アイツの目には映ってない……」
悲しそうな眼に夕日はぞくっとしたのだ。
ずっと、ずっと孤独に耐えていたのか?
卯月はずっと、天峰の目に映らない自分に耐え続けていたのか?
そして――
「次は――私が……」
夕日が震える。天峰が自身に興味を失う事を理解して。
「はー、仕方ないなー。俺『幼女が好き』だから、成長した子には興味ないんだよなー」
一人部屋の中、夕日よりもずっとずっとずっと心を黒く濁した男が嗤った。
Qいつから天峰が病んでないと錯覚してた?
最初から主人公はロリコンです。
それも末期の――