一応本編でもリンクしているのでお楽しみください。
特別短編No1
女々しくてナヨっとした男、口先だけの女、狡賢しいヤツ、後こんにゃく。
この世には俺にとって気に入らないモノが多い、まあ気に入らなくても基本的に無視すればいいだけなんだが……そうも言えない奴も偶には有る、たとえば……
「……坂宮 夕日です……よろしく……」
目の前のコイツみたいにな!
事の始まりは2日前、ゴールデンウィークを利用して日本の主要な温泉をまわるっていう、疲れを癒しにに行くにか溜めに行くのかわからん休暇の過ごし方してたんだが、俺のかーちゃんのケータイに着信が入ったみたいなんだ。
んで、次の日俺のかーちゃんが言ったんだよ。
「アンタに妹出来たよ」
先ず訳がわからなかったね、妹?昨日旅先で新しく製造したのかってね、いやー俺ももう小学生じゃねーし?無条件に兄弟ができることを喜んだりしねーのよ、つか今産んだら年齢差が有り過ぎるしな……
だがそうじゃ無かった、なんと大学時代の後輩の姪を預かるらしい。
我が母親ながら大胆というか、どっかおかしいというか……犬猫預かるんじゃねーんだぜ?ま、一回かーちゃんが決めたことはどーしょもねーんだがよ?とにかく旅先に呼んで落ち合う事になったんだよ。
電車から降りてきたヤツを一目見て思ったね「あ、コイツ気に入らねー」ってな、なんていうか「守られている」タイプの人間なんだよ、他人に助けられて生きているのが当たり前みたいなタイプ。
あ?いいじゃねーか、どっかの善人ぶった奴みたいに「誰とでも仲良く~」なんて言うつもりか?そんなんで仲良く出来たら戦争なんて起きねーんだよ!どうしても気に食わない奴ってのは絶対居るんだよ。
話を戻すぞ?そいつの第一印象は「人形みたいなヤツ」だった、見た目だけならそこそこ美人だからな、その見た目も相まってそう感じるのを後押ししてたみたいだな、けどなんか生きてる感じがしないっていうのか?無機質っていうのか?良くできた人形が人間のフリしている感が有るんだよ、それが俺にはとにかく不気味だった。
んで最悪なのはここからだ、俺はその不気味人形としばらく二人で街の中を散策することになったんだ。
明後日には家に付かなくちゃいけないんだが、かーちゃん曰く帰りのルートで買う土産物を調べているらしい、どーしてそんな事で時間食うかね?俺にはトンと理解できねー。
「おい、おまえ」
俺は不気味人形に話しかけた。
「……ん?」
今までどこ見ていたわからない、そいつの眼帯をしてない方の目が俺の方を向いた。
「聴いてのとおり、俺達二人でしばらく街中見て来いってよ、はぐれんなよ?」
「……ん……わかった」
不気味人形はそういって頷いた。
ぼそぼそしゃべって、しかも声が小さい、気に入らないポイントその1だな。
最初に二人で腹ごしらえすることにした、テキトーに街歩いてたらラーメン屋があった、いちいちどっかのレストランとか入るのもメンドイから、そこにした。
そこで俺はふと思ったんだ、この不気味人形はラーメンを食うのかってな?ラーメンやバーガーなんて食ったことないようなヒョロヒョロ体型、ひょっとしたらどっかの漫画みたいに「これ、どうやって食べるの?」って聞いてくるかもしれないって思ったんだ、いま思えば我ながら馬鹿だよな~
「いちいち探すのメンドイからここで良いよな?」
俺は不気味人形に話しかけた、相談じゃなくて決定したっていう報告だがな。
「……ん……わかった」
不気味人形は俺の後をついてラーメン屋に入った、ラーメン屋はガヤガヤしてゴチャゴチャして店員が「らしゃーせ!」っていい声であいさつしてきたし俺好みの内装だった、話少し変わるけど壁に貼ってあった「冷やし中華滅びました」はマジに爆笑しかけた。
カウンター席に座って、不気味人形に注文を聴く、俺は何処でも味噌チャーシューか豚骨の大盛りって決まってるからな。
「……しょうゆで」
店員は俺たちの注文を聞いたあと、厨房に戻っていった。
しかししょうゆか、塩みたいなシンプルさもないし、味噌みたいな深味もないし、豚骨程のインパクトもない、コイツラーメン音痴だな気に入らないポイントその2だな。
困ったことに注文を終えた俺にはコイツと話す話題が無かった、向こうも黙ってるまんまだし、そういうことは気にしない方がいいみたいだった。
手早く腹ごしらえを済ました俺たちは、そのまま適当にぶらつく事にした。
コンビニで立ち読みしたり、河原で水切りしたりしていた、全部俺しかやらなかったがな!
何をしていてもホントにそいつは表情一つ変えなかった、たぶん今までならどっかの誰かがその心情を察してなんかしてくれたんだろうが、俺にそいつを求めるのはお門違いだ、自分で主張しない奴はもともと好きじゃないし、周りが何とかしてくれるのを待ってるだけの奴はもっと気に食わない!
「お!今12回いかなかったか!?」
思わず自分の記録を塗り替えちまった!俺は確認のため不気味人形に聞いてみた。
「……見てなかった」
あー!使えねーな!
俺は次の一投に向けて新しい石を探し始めたが……
「……ちょっと行ってくる」
不気味人形が突然走り出した。
「あ!お前どこ行くんだよ!」
そいつは河原の端に居るやつの所に走って行った。
「おい!今日の金は?」
「さっき1000円だして……」
「足りるかよ!?休み中だろ?バイトして稼げや!」
「ぎゃはは!ゲームソフト売らせればどうだ?」
河原の端にはこれまた俺の嫌いなタイプのナヨットしたデブとキッタネー色に染めた髪の毛の二人組がいた、体格的には高校だなイジメか?あの歳でまだやってる事はガキだ。
何を考えたのか、不気味人形がその男の所に向かってるみたいだ。
「……やめなさい!」
不気味人形が男たちの間に入り込んだ、馬鹿が!喧嘩していい相手の判断も出来ねーのかよ!不気味人形の腕は一発蹴れば折れちまうような細腕、拳の握り方からして格闘技どころか喧嘩自体したことのねーのが一発で解る。
「なんだお前?なんか用かよ!?」
「ん~俺達になんか用ですか~」
完全に馬鹿にされてやがる……俺には関係ないからしばらく様子を見ていたがとうとうバカ高生どもにキレられたみたいで不気味人形が蹴られた、それでおとなしく帰った来ると思ったら様子が違う、不気味人形のヤツ何度蹴られてもバカ高生に向かっていきやがる。
もやしの癖によ、根性ありやがる。
そーゆー奴は俺嫌いじゃあねーんだわ!
「おい!バカども!そこまでにしろ!」
俺は夕日を庇うようにして、馬鹿高生の前に立った。
「あー、なんだよ、次から次へと?」
「おおー勇ましいね?」
近くで見たらわかるけどコイツら見てるとイラつく顔してやがる、特に二人目。
「あー、ハイハイそんなん良いから、チャチャッと来い!えっと……ウシとカエル!」
「「てぇんめ!よくも!」」
第一印象でニックネーム付けたがどうやらクリティカルで癪に障ったらしい、芸人張りのリアクション芸を見せてくれた、コイツら芸人になった方が金儲かるかもな。
なーんて事を考えてるうちに、ウシカエルは俺にぼっこぼっこに、のされていた。
コイツらなんちゃって不良だな、雑魚……
「こいつ!殺す!」
カエルの方が懐からバタフライナイフを取り出した。
一昔前の漫画みたいな武器だが危険な事には変わりない。
さーて、ドウすっかな?
そんな心配をよそに隣にいた夕日がケタケタ笑い出した。
「あはぁ!……ナイフだぁ……せーとーぼーえーせーりつぅー……!」
チキ……チキチキ……チキチキ!
夕日は自分のズボンのポケットからデカいカッターナイフを取り出した!
おいおいおい!アイツ今日一日ずっと持ってたのか!?
そん時俺はマジに「コイツはヤバイ!」って思った。
だってすんげー笑顔なんだぜ!?そんですんげー怖いんだ!
それ見たバカ高生どもは逃げてった、俺も逃げたかったけどよ……ちなみに最初に蹴られてたやつは5000円を黙って夕日に差し出してた、持ってたんだな。
いじめられたデブは置いといて俺は夕日に話しかけた。
「お前、なんであんなことしたんだ?喧嘩自体した事ねーだろ?」
「かわいそうだったから……」
夕日はさっきとは打って変わって最初みたいな静かな声で言った。
「かわいそうって……おまえ」
「……この前自分を犠牲にして私を助けたくれた人がいる……その人に酷いことをしたけど……その人は許してくれた……私はその人に強くなるって約束した……だからあれはその一歩目」
夕日はやたらはっきりした人間味のある表情でそれを言った。
「ふーん、そいつすげーな、けどあんまヤバイ事はすんなよ?正直見てらんねー、イザとなったら俺を呼べ、ちょっとだけ助けたやんよ……まあなんだ今日から姉妹なんだからな」
「……うん」
夕日ははっきりと頷いた。
「ま!いきなり姉貴って言わせんのはハードル高いよな、俺の事はハイネって呼んでくれ」
「……ハイネ?」
夕日がオウム返しする。
「そ!本名は天音(あまね)なんだが……なんかこっちの方がしっくりくるんだ、本名じゃねーがみんなそう呼ぶ」
余談だがあのカッター刃は前後ろ逆で正しい方向からは切れないらしい、「逆刃刀かよ!?」って突っ込んだら知らないらしい、マジかよ……二重の極みとか牙突とか練習したことないのかよ……
まあちょっとだけ、夕日の事が嫌いじゃなくなったオレでしたっと。
「そういえば夕日お前誕生日は何時だ?盛大に祝ってやるよ!!」
「……4月13」
「え!?」
俺の誕生日は9月9日つまり……
「……私の方が年上……姉貴って呼んでいいよ?」
「ゼッテー呼ばねー!」
やっぱりコイツは気に食わない!
ハイ!お楽しみいただけましたか?
本日ついに天峰の妹の名前が決定しました!
応募してくれた方ありがとうございます!