記憶の片隅で   作:to110

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第十話 彼はこれからも得るものが増える。

八幡「おはよう」

 

 

雪乃「ええ、おはよう。それといらっしゃい」

 

 

八幡「お邪魔します」

 

 

クリスマス当日、雪乃の家に来た。雪乃のお願い通り朝からの行動。現時刻、7時25分。眠いが、まぁ雪乃の顔を朝から見られたということで眠気もなくなったがな。

 

 

雪乃「お茶出すから掛けてて」

 

 

八幡「あぁ、よろしく」

 

 

自分の彼女と、クリスマスを、彼女の家で過ごす。憧れはあったが、まさか本当に実現するとは。1年前の俺に自慢してやりたい。自慢対象は過去の俺以外にいない。

 

 

雪乃「はい、お待たせ」コトッ

 

 

八幡「あぁ、いただきます」

 

 

雪乃「ええ、どうぞ」ニコッ

 

 

雪乃の服装は、真冬の格好ではなく、終秋・初冬な感じだ。まぁ冬だから長袖なわけだが、細く伸びたその腕はよくわかる。まぁなんでそんな格好かというと、結構暖房が効いているからだろう。俺も一枚脱いだし。

そんな彼女とのお茶、楽しい。特に会話があるわけでもなく、紅茶の香りを楽しみながら飲むだけだが、静かなのもいい。紅茶を飲む音だけがこの場を支配し、紅茶の香りが嗅覚を刺激し、脳の奥まで届く。まぁどれもこれも、雪乃の紅茶を淹れる腕があって、雪乃がかわいいからなのだろうけど。

 

 

雪乃「………か、かわいいのは関係ないじゃないの///」

 

 

八幡「いやいや、雪乃がかわいいのも一つの要因だぞ」

 

 

正確に言えば雪乃のかわいいところだけではなく雪乃の全てが要因である。

 

 

雪乃「」ボンッ

 

 

あれ?これでもだめなの?このくらいなら平気じゃなかったっけ?ま、俺は楽しいのでいいんですけどね。

 

 

雪乃「」 プシュー

 

 

雪乃「」ポワポワ

 

 

さて、雪乃を〔膝枕〕して起きるのを待っていよう。

膝枕を括ってみたが、やばいな。なんか違う存在感を醸し出してる。

 

 

八幡「」ナデナデ

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

八幡「」ナデナデ

 

 

雪乃「………ぅん………んっ………あ………八幡君」

 

 

八幡「よう、おはよう」ナデナデ

 

 

雪乃「それで、いつまでその手は動くのかしら?」

 

 

八幡「さぁ?どうだろうな。嫌か?」ナデナデ

 

 

雪乃「いや、じゃ………ない………けれど………」

 

 

恥じらいながら顔を少し横にそらし、頰には暖色系の色が現れた。

 

 

八幡「かわいいやつめ」ナデナデ

 

 

雪乃「………ばかっ」ボソッ

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

と、そんな感じに午前は消化された。

 

 

雪乃「そ、そろそろ………」

 

 

八幡「昼ごはんだな」ナデナデ

 

 

雪乃「ご飯作ってくるから………その………」

 

 

八幡「またあとでやってやるよ」

 

 

雪乃「ち、違う………わよ………」プイッ

 

 

八幡「ご飯よろしく」

 

 

雪乃「わかったわよ」タッ

 

 

早い早い早い早い。耳赤くしながらすすすすーっと台所へ。いや〜、見ててあきないな。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

雪乃「できたわよ」

 

 

八幡「ありがとう。いただきます」

 

 

雪乃「召し上がれ」

 

 

………おいしい。いや、おいしいのはわかってたんだけどさ。やっぱおいしい。語彙力なさ過ぎるだろ。

 

 

雪乃「それで」

 

 

八幡「ん?」

 

 

雪乃「昨日、どうだったの?」

 

 

八幡「何がだ?」

 

 

雪乃「由比ヶ浜さんとのこと」

 

 

八幡「解決した」

 

 

雪乃「解決、なのね?」

 

 

八幡「あぁ、解決、だ」

 

 

解消なんかじゃない。今までの俺を否定するために由比ヶ浜と出かけたんだ。解消なわけがない。

 

 

雪乃「そう。なら、よかったわ」

 

 

八幡「具体的には聞かなくていいのか?」

 

 

雪乃「別にいいわよ。なんとなくはわかるもの。知りたかったら由比ヶ浜さんに聞けるのよね?解決したということは。それとも、彼女以外の女の子との出来事を自慢したいのかしら?」

 

 

八幡「自慢しようか?」

 

 

雪乃「いえやめて。やけもちなんて焼かせないで」

 

 

八幡「はいはい」ナデナデ

 

 

雪乃「」♪

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

八幡「なぁ、夕ごはんどうする?」

 

 

雪乃「どこかに食べに行く、というのは無理そうだから、買ってくるということになるわね。クリスマスなのだから」

 

 

八幡「そうなるな」

 

 

雪乃「どこか、夜景の綺麗なところで食事、なんてプランはないのでしょう?」

 

 

八幡「俺にそんなん求めてねーだろ?」

 

 

雪乃「もちろんよ。八幡君は一般的に見たらつまらない男の人ですもの」

 

 

八幡「そこまで言わんでいいだろ」

 

 

雪乃「どこまででも言うわよ?私から見た、八幡君のかっこいいところ」

 

 

八幡「っ………///」プイッ

 

 

雪乃「ふふっ」

 

 

八幡「そ、それで、今から買い物に行くか?」

 

 

雪乃「そうね、この時間より遅くなると混雑してまともに見れないでしょうからね」

 

 

八幡「なら、とっとと行くぞ」

 

 

雪乃「ええっ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

八幡「この時間でも結構な混みだな」

 

 

雪乃「そうね」

 

 

近場のスーパーで買い物。この時間でこの人混みは、やばい。

 

 

八幡「まぁ行くぞ」ギュッ

 

 

雪乃「ひゅっ⁉︎………っ………///」

 

 

たかだか手を握っただけだろ。そろそろ慣れろよ。一緒に風呂入ったくらいなんだし。

………俺も慣れてないんだけどな。

 

 

雪乃「かっこ良くなったじゃない………」ボソッ

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ご飯は日本のクリスマスらしく無難にチキンである。別に俺が食べられるわけではない。いやしかし、俺がこれを食べると共食いだな。それは俺の性格に合ってていいな。仲間を犠牲にしてでも生き残る。

 

 

雪乃「では、食べましょうか」

 

 

八幡「そうだな」

 

 

雪乃「いただきます」

 

 

八幡「いただきます」

 

 

チキンとジュース、その他諸々が机を制する。雪乃の手料理が一つもないというのも、違和感があるな。

 

 

八幡「なぁ雪乃。雪乃ってクリスマスになんか思い入れとかあるか?」

 

 

雪乃「なぜかしら?」

 

 

八幡「いやなんとなく」

 

 

雪乃「そうね………小さいころからの夢は彼氏とクリスマスに遠くに旅行、かしらね」

 

 

八幡「ふーん。なるほどね」

 

 

雪乃「言っていたらやってくれたかしら?」

 

 

八幡「やるわけねーだろ。そんな面倒なこと」

 

 

雪乃「彼女の夢くらい叶えなさいよ」

 

 

八幡「夢は叶わないくらいが丁度いいんだよ」

 

 

雪乃「夢なのだから叶えようと努力するものよ?」

 

 

八幡「ならその夢は諦めるんだな」

 

 

少し間があいて互いに目を見る。

 

 

八幡「ははは」

雪乃「ふふふ」

 

 

同時に吹いて、そして笑った。

家族以外と過ごす初めてのクリスマス。そんな日が訪れるとは俺も驚きだ。

というか、雪乃が紅茶以外の飲み物を飲んでいるというのが一番の驚きである。

 

 

雪乃「私だって紅茶以外飲むわよ」

 

 

八幡「それにしても、雪乃にサイダーか。合わねえな」

 

 

雪乃「私だって飲んでみたかったのよ。炭酸飲料」

 

 

八幡「飲んだことないのか炭酸」

 

 

雪乃「ええ、紅茶以外だと緑茶やりんごジュースかしらね」

 

 

雪乃とりんごジュース。ふむ。そのうち飲んでもらうとしよう。

 

 

八幡「それで雪乃さん?なんで顔赤くしてんの?」

 

 

雪乃「しょんなことないわよ」

 

 

八幡「おい、どうした」

 

 

雪乃「にゃんのことかしら?」

 

 

ここで一つ、俺の中で考えが出てきた。

 

 

八幡「………お前、酔った?」

 

 

雪乃「お前じゃらくて雪乃よ。しょれより、アルコールをにょんでにゃいのだから酔うわけないじゃらいの」

 

 

八幡「あーはいはい。そーですねー」

 

 

母曰く、酔った人の相手の仕方は雑にあしらうべし。

 

それにしても、雪乃の呂律が回ってないとか、すげえかわいい。にゃんとかしょうとか、やばい。

 

 

そんなこんなでクリスマスという1日は過ぎていくのだ。こんなクリスマスを来年は味わえないと思うと、なんだか寂しくなってしまう。

 

 

雪乃「私と別りぇるつもりにゃの?」ウルウル

 

 

本当に酔ってんだな、こいつ。

 

 

八幡「いや、来年受験だろ」

 

 

雪乃「あ〜そうらったわね〜」ニコッ

 

 

ぱ〜っと花開いたような笑顔でいわれた。受験か、どうするかな。というか、どうなるかな。


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