東方幻想物語   作:空亡之尊

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四神と仲間と血染めの桜

神無 優夜side

 

 

屋敷から飛び出し、俺は都へと急いだ。

今のところ、そこから嫌な気配が嫌と言うほど感じる。

もしかしたら、邪神もそこに居るのかもしれない。だとしたら、桜良もそこに。

都へと辿り着き、羅城門を抜け、都の大通りを走っていると、嫌な気配を感じた。

 

俺はその場に立ち止り、周囲を見渡した。

真夜中とはいえ、そこには不自然なほど人の気配が無かった。

まるでゴーストタウンの様な不気味な雰囲気の中、俺に向けられる殺気だけがそこにいる存在を証明していた。

 

 

「――来るか」

 

 

周囲に気を張り巡らせていると、突如頭上から無数の火球が大通りに降り注いだ。

俺はそれをいち早く察すると、火球の雨を掻い潜るように走りだした。

それに続いて、今度は俺より一回り大きな氷柱が、その火球の合間を縫うように落下してきた。

火球と氷柱の僅かな隙間を掻い潜りながら、俺はそれらを行っている元凶を探した。

 

その時、俺の進行方向から凄まじい突風が吹き荒れた、俺の脚を止めた。

それと同時に、激しく光る稲妻が俺に迫るように次々と周囲に落とされた。

突風で足止めされていると、火球と氷柱と稲妻が俺に向けて集中砲火された。

それら全てが直撃すると、激しい爆発が俺とその周囲を包んだ。

 

間一髪で突風から抜け、直撃を避けた俺だったが、爆発の衝撃で身体のあちこちに傷を負った。

予想以上の威力、恐らく直撃していたら俺の命は持たなかっただろう。

 

 

「ったく、最初っから飛ばしてくれるな」

 

 

俺は悪態をつき、黒煙が晴れた先へと視線を向けた。

大通りの前後、そして俺の左右に並ぶ家々の上に、そいつらは囲むように立っていた。

 

東方地方に伝わる姿形をした雷を纏う青い龍、その手には蒼く光る宝玉を持っている。

凶暴な目つきと鋭い牙を持つ風を纏う白い虎、その口には白く光る宝玉を咥えている。

孔雀の様に派手な尾が付いた炎を纏う赤い鳥、その足には紅く光る宝玉を持っている。

その身体に蛇が巻き付いた冷気を纏う黒い亀、蛇の口には黒く光る宝玉を咥えている。

 

 

「四神が勢揃いか。皮肉なもんだ」

 

 

この平安京は中国の四神相応を参考にして造られた。

その都に、その四神は現れた。しかし、邪な神の下僕として俺に立ち塞がるために。

 

 

「悪いが、てめえらに構ってる暇はないんだ。通らせてもらうぞ」

 

 

その場を突っ切ろうと走り出そうとした時、俺は自分の足に違和感を抱いた。

よく見ると、俺をその場に留めるように氷塊が俺の足を地面にと一緒に凍らせていた。

 

 

「まさか、さっきの爆発で……」

 

 

気付いた頃にはもう遅かった。

身動きの取れない俺へと、再び奴等は攻撃を仕掛けた。

青龍は雷の塊を、白虎は風の塊を、朱雀は炎の塊を、玄武は氷の塊を、俺へと放った。

 

避けられない。そう諦めかけたその時、俺の目の前を黒い影が覆った。

その影は全ての攻撃を受け止めると、それをそのまま四神へと弾き返した。

予期せぬ反撃に、四神は避けることもできずに直撃すると、身体をよろめかせた。

 

俺は何が起こったのか分からず唖然としていると、懐かしい声が聞こえた。

 

 

「まったく。アンタの行くところは面倒事が絶えないわね」

 

 

呆れるような、でも少し嬉しそうな声。俺が振り返ると、そこに彼女は居た。

金色の髪を靡かせ、影を自由自在に付き従える常闇の妖怪、俺の大切な仲間。

彼女は俺の目の前に歩み寄り、微笑みかけた。

 

 

「久しぶり。ユウヤ」

「ああ。久しぶりだな」

「聞いたわよ。記憶、無いんでしょ」

「まあな」

「だったら。私のことも忘れてるわよね」

「忘れてた。でも、思い出したよ」

「たとえば?」

「あの日、お前に酷い事を言ったな」

「さあ? 憶えてないわ」

「俺は憶えてる。だから、ちゃんと謝りたかった」

「律儀ね。わざわざそんなことまで覚えてるなんて」

「当たり前だ。お前は俺にとって、大切な相棒だからな」

「……相棒、ね」

 

 

彼女は嬉しそうに頬を緩ませた。

 

 

「だったら、その相棒に心配かけるんじゃないわよ」

「ごめん。許してくれるか?」

「そうね。じゃあ」

 

 

彼女は俺の服の襟を掴むと、引き寄せて俺の唇を奪った。

しばらく間彼女はそれを堪能すると、満足そうに口を離した。

 

 

「これで許してあげる」

「お前、なんで」

「いい加減、少しは気付きなさい」

「それって……」

「あおの~お二人さん?」

 

 

俺とルーミアが声のした方へと顔を向けると、そこにはスキマから体を半分出した紫が居た。

なぜかその顔が赤いが、まあそこは追及することもないだろう。

 

 

「どうしたの? 紫」

「告白するのはいいけど、今はそんな場合じゃないでしょう」

 

 

紫が扇子で示す先には、先ほど反撃を喰らった四神が起き上がっていた。

その目は怒りに燃えており、俺たちへと殺意を向けている。

 

 

「ユウヤ、ここは私達に任せて先に行きなさい」

「頼むぜ。俺は桜良を」

「あの子なら、都の外れにある墓地、その先の広場よ」

「ありがとう。それと紫、お前に頼みがある」

「幽々子の事なら任せて。あの子が何をするのか、もう解ってるから」

 

 

紫は扇子を握り締め、その想いを堪えていた。

西行妖の封印する方法、それを紫も理解している。理解しているからこそ辛いのだ。

 

 

「紫」

「なに?」

「お前なら大丈夫だ」

「でも、失敗すれば」

「恐れるな。そんなんじゃ、出来ることも出来ねえぞ」

「そうは言っても、私はユウヤとは」

 

 

俺は紫の言葉を遮るように頭を優しく撫でた。

 

 

「お前しかできないんだ。紫」

「ユウヤ……」

「覚悟したからには『前のめり』だ。倒れるとしても、ただでは倒れるな。相手に噛り付け」

「前のめりに……」

「ああ、お前ならできるさ。お前はアイツの、幽々子の親友なんだろ?」

 

 

俺はそう言って微笑んだ。

変えられぬ結末だとか、救えない終わりだとか、そんなものは関係ない。

問題は、どこまで抗えるかだ。無様でもいい、醜い姿を晒してでも、少しでも良い結果にする。

それが、こんな俺が唯一出来ることだ。

紫の瞳には、もう迷いはない。そこには確かな覚悟があった。

 

 

「解ったわ。ユウヤ」

「よし。それじゃあ行くか」

 

 

俺は踵を返し、目の前の道を見る。

行く手には体勢を立て直した四神の姿、本気で俺を先に行かせたくないようだ。

 

 

「ユウヤ、道は私たちが切り開く」

「だから、安心して後ろは任せて」

「ああ。頼りにしてるぜ。ルーミア、紫」

 

 

俺は覚悟を決め、四神へと向かって走り出した。

青龍、朱雀、玄武が天に吼えると頭上から稲妻と火球と氷柱が降り注いできた。その合間を縫うように、白虎が俺に向かって走り出した。

 

紫はその手に持った御札を俺に向けて投げると、そこから結界が周囲に展開され降り注ぐ稲妻と火球と氷柱から俺を護った。

白虎は風の様なはやで俺に向かって走ると、そこから飛びかかってきた。俺はその下をスライディングすように滑り込むと、空中にいる白虎をルーミアが黒い剣で撃ち落した。

 

今度は青龍が俺に向かって飛んでくると、俺は底から飛び上がって青龍の背へと乗った。そこから迷わず青龍の尾へと向けて走りだすと、稲妻を次々と落としてきた。

威一人を避けながら走り続けると、その先では朱雀がその口に炎を集めて待っており、それを俺へと放った。前からは火球、頭上からは氷柱、後ろからは稲妻が迫る。

 

 

「紫‼ 結界を俺の足に集中させろ‼」

「解った‼」

「ルーミア‼」

「皆まで言わないでも」

 

 

ルーミアは空中に飛び上がり、その手に黒い球を作りだすと、それを青龍に向かって放った。

俺は青龍の尾から勢いよく飛び上がると、結界で強化された足で火球を蹴り返した。火球は燃えるような尾を引きながら下で待機していた玄武へと直撃した。

それに動揺して動きが一瞬止まった朱雀に、俺と落ちてきた氷柱を再び蹴り返し、それを朱雀の身体へと突き刺した。

 

地面に横たわる四神たち、それを尻目に俺は先へと走りだす。

紫は幽々子の下へと急ぐため、スキマを使って西行妖へと向かう。

ルーミアは、まだ完全に倒れていない四神を相手にするため、この場に残った。

 

 

さあ、ここからだ‼

 

 

 

 

 

???side

 

 

桜舞散るとある場所。

そこは西行妖に殺された者を葬るための墓地だったが、その先には一際大きい桜の木がある。

周囲を桜に囲まれた美しい広場、その奥に花びらを紅く光らせる妖艶な桜の木が在った。

 

その傍らに彼女、膨れ女こと黒扇は立っていた。

これから来るであろう待ち人に想いを馳せ、今か今かとその殺意を抑えるのさえ忘れていた。

 

その時、一人の人間の足音がゆっくりと黒扇に近付いてきた。

しかし、それは彼女が待っていた人間のものではなかった。

 

 

「この桜は、かつて西行妖と同じ苗木ものだった。

 今では誰もこの桜の存在は知らない。あった事すら覚えていないのよ。哀れなものね」

 

 

黒扇はそう言い、その桜を優しく撫でた。

 

 

「西行妖は人間の生気を取り込んで妖桜へと変貌した。

 でもこの桜は、ここに眠る罪人の怨念を取り込んでここまで成長した」

 

 

舞散る桜吹雪の中に、その桜の紅い花びらもともに舞う。

まるで人間の血に染められたかのような花びらは、他の桜よりも美しかった。

 

 

「貴女がどうしてここに来たのかは理解してる。

 愛識光姫という例外が存在した時点で察するべきだった。記憶を持ってる者が他にもいると」

 

 

黒扇は振り返り、その人物へと目を向けた。

その人物は二振りの刀を携え、彼女を見つめていた。

 

 

「愛する者の為に、貴女はまたその手を汚すのね」

「二度も失ったこの命、どうせなら、あの人の為に使いたいですからね」

「みんな同じことを言うのね」

 

 

黒扇は呆れるように、でもどこか楽しそうに笑う。

 

 

「羨ましいわ。正直者は」

 

 

 

 





思い出していく大切な仲間たちの記憶。
ユウヤは信頼する仲間に、自分の後ろを任せた。
一人は西行妖を止めるため、一人は四神から都を護るために。
三つの出来事が同時に進行される中、黒い扇の邪神と双花の少女が対峙する。


次回予告
覚醒した西行妖、それに立ち向かう紫と妖忌、そして幽々子が見せた笑顔の裏には?
東方幻想物語、妖桜編、『親友と主と笑顔の別れ』、どうぞお楽しみに。


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