神無 優夜side
突然だが、俺は今絶体絶命のピンチだ。
実は俺は自分の世界の崩壊を防ぐために九つの世界を旅していていたが、その正体は世界征服を企む悪の首領で、仮面ライダーを………ってこれは元ネタだ。おのれディ〇イドオオオオオオオオオオ‼‼‼‼‼
とまあ、くだらない茶番はこのくらいにして、本当に俺はピンチだ。
金髪少女をお姫様抱っこし、後ろからは百人隊のように大勢の男共が追いかけてくる。
これだけ見ると俺の方が悪者のように見えるので、簡単に事のあらましを説明したい。
あれはいつもと変わらぬ昼間のことだった。
俺は幽々子に頼まれてうどん用に油揚げを買いに都まで来たのだが、その店がなかなか見つからず、小一時間ほど彷徨っていたところでようやく目的の店を見つけた。
油揚げは無事に変えたのだが、その後に向こうから走ってきた少女が俺にぶつかって尻餅をついてしまった。これでもフェニミストな俺は少女に手を貸して起こした。
「大丈夫か?」と声を掛けると、「すみません」とだけ言って足早に走り去っていった。
妙な虚しさで黄昏ていると、少女が来た道から数人の男共が俺を横切っていった。その時「ガキ」「見つけろ」「殺せ」という物騒な単語が聞こえた。
直感で察した俺は男共を呼び止めると、少女が向かった方向とは全く別の道へ逃げたと嘘を吐いた。それに騙されて男共はそっちへと走っていった。
俺は急いで少女を追うと、そこでは既に別で動いていた男共が少女の手を掴んでいた。
涙ぐむ少女、それを見て怒りが有頂天に達した俺は走った勢いを付けて男に飛び蹴りを喰らわせた。
吹っ飛ぶ男、それを見て目を見開く周りのその他、そして俺を見る少女の瞳。
一瞬の間が開くと、周り胃に居た男共が俺に襲い掛かってきた。
俺は向かってくる男共の攻撃を受け流しながら拳や蹴りを撃ち込むと、物の数分でその場に居た奴等は片付けた。
俺が少女の方に振り返ると、怯えて膝を震わせていた。
あゝ、完全に恐がらせてしまった。と、この時の俺は強く反省した。
だが、後悔してる暇はなく、さっきの男共に加えてまた別のグループが集まってきた。
俺は怯える少女に優しく微笑みかけると、そのまま抱きかかえた。
お姫様抱っこされて目を白黒する少女、俺はそれに構わずに一目散に逃げた。
その後を追いかけるように、男共は群衆となって俺を追いかけ始めた。
そして、現在進行形でこうなっているというわけだ。
だから俺は悪くない。悪いのは少女に乱暴しようとする醜い男共だ。
「あ、あの」
「なに?」
「何で私を助けて……」
「なんとなく」
「なんとなく!?」
「少なくとも、義賊なんかしてる君には驚かれたくないけどね」
俺は少女にそう言った。
ここ最近起こっていた貴族を狙った盗み、その犯人はこの子だと思った。
「アイツ等、どっかの貴族の護衛だろ?」
「何でそれを?」
「一度アイツ等に喧嘩売られた時にそういう事を言ってたのを思い出した」
「よくそれで私が義賊なんて」
「アイツ等にこうも追いかけられる理由なんて、そういうことしかねえからな」
俺は口元をニヤッとさせると、足を踏みしめる。
「掴まってろよ」
「え?」
「さあ、振り切るぜ‼」
俺は思いっ切り地面を蹴り、脇道へと飛びこんだ。
迷路のように入り組んだ路地裏を、俺は迷うことなく全力疾走した。
当然、それに付いて来れるはずもなく。いつの間にか俺の背後は静かになっていた。
それと同時に、抱きかかえた少女も目を回して静かになっていた。
少 年 祈 祷 中
しばらくして辿り着いたのは、都の西側にある民家。
比較的に貧しい人達が住むここを、周りの奴等は貧民区と呼んでいる。
俺はそのうちの一軒の戸を開けると、そこには一人の女性が布団で寝ていた。
「おや。珍しい来客ね」
布団から起き上がった女性は、顔をこちらに向けた。
「アンタが、この子の母親か?」
「そうよ。……気絶してるようだけど、怪我はないみたいね」
「すまん。ちょっと追っ手を振り切るのに全力出し過ぎた」
「構わないわよ。そのくらいで気を失うその子が悪いわ」
彼女は楽しそうに笑った。
俺は少女を彼女の横に寝かせると、その時彼女の違和感に気付いてしまった。
「なあ、アンタ」
俺が目を凝らして彼女を見ると、その背後にゆらゆらと揺らめく九本の尻尾が見えた。
銀色の狐の尻尾、妖力は衰えているが、彼女は立派な九尾だった。
「どこで気付いたんだ?」
「実は、この子を見た時に懐かしい気配を感じたんだよ」
「それを辿って、ここに着いたってことかい」
「ああ。でも、目的はもう一つあるんだ」
「なんだい?」
俺は自分の記憶が一部失っていることを伝えた。
彼女はそれを黙って聞いていてくれた。
「つまり、私のところに来ればその手掛かりが掴めると」
「まあ、俺の思い過ごしかと思うけどな」
「それでもいいさ。アンタは私の娘を助けてくれたのだから」
「そんな事………」
『他人の命より復讐を優先するような奴が、綺麗事で偽善を騙らないでほしいわね』
ふいにそんな言葉が俺の頭を過った。
吐き気を模様すような感覚、その言葉は俺の心臓を掴んでいるようだった。
彼女に悟られまいと平然を装うが、彼女は俺の事を抱きしめた。
「え……?」
「何をそんなに怯えてるの?」
「俺は……アンタが言うような立派な人間じゃない。
復讐に憑りつかれて、他人の命を見捨てた。偽善も騙れないどうしようもない奴だ」
俺は無意識にその言葉を紡いでいた。
記憶はないのに、言葉だけが出てくる。その言葉は、懺悔のようだった。
彼女は俺の言葉を聞くと、静かに語りだした。
「昔、私の親友が住む島が凶悪な化け物に襲われたことがあった。
その時、偶然訪れた旅人はそれを助けようとしたけど、その旅人は復讐の相手を見つけてどこかへと行ってしまった。
襲われた島は旅人の連れが救ってくれたけど、旅人はその事を悔やんでいた。
他人の命よりも、復讐を優先してしまった。旅人は島の人達と距離を置き、何も告げずに去ってしまった。
でも、だれも旅人の事を攻めようとしなかった。むしろ感謝したかったのよ」
「どうしてだ? そいつは誰一人救っていないのに」
「いえ。救うっているのよ。たった一人だけど」
彼女は俺の事を見つめる。
「島の危機を教えてくれた子、その子は旅人に救われたのよ」
「でも、それだけじゃ」
「いいじゃない。復讐の事で頭一杯なら、旅人はその子も顧みずに行っていたわ」
「だが……」
「人なんてそんなもの。いくら偽善を並べても、本心は嘘を吐けない。
復讐というものは、自分の決着がつくまで終わらない。なら、終わらせてから罪を償えばいい。悪いと思ったのなら謝ればいい。貴方には、皮肉にも時間が余ってるのだから」
彼女はそう言って笑った。
そうか。俺は罪を悔やんだだけで、償おうとはしなかった。
復讐することだけを考えて、何もしてこなかった。たしかに、それは偽善ですらない。
今更自覚しても、記憶は戻らない。でも、やるべきことは見つけた。
「ありがとう」
「ふふ。衰えた狐でも、これくらいはできるわ」
彼女はそう言って笑った。
「そうだ。まだ名前を聞いてなかったわね」
「……神無 優夜。アンタは?」
「天……いえ、もうどうでもいいわね」
「どうした?」
「なんでもないわ。私の本当の名前は『琥珀』、この子は『藍』よ」
「琥珀か……よろしくな」
「ええ。こちらこそ、よろしくね。優夜」
俺と琥珀は互いに笑い合った。
その後、都での妖怪騒ぎが一つ消えた。
秘との繋がりは忘れても、罪の意識だけは忘れず。
復讐に憑りつかれた哀れな彼は、その事をずっと憶えていた。
しかし、彼が出会った九尾の狐は、そんな彼を許した。
例え復讐に目が眩んでいても、人を助けることを忘れない彼の優しさに知っていたからだ。
そしてまた、彼は一つ思い出した。
次回予告
失った記憶の中には、一体どんな人との思い出があるのだろうか?
東方幻想物語・妖桜編、『友人と爛々と失くした記憶』、どうぞお楽しみに。