東方幻想物語   作:空亡之尊

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大晦日コラボ企画・午後の部

マツタケさん作、『東方忘却記』のボス?が登場。

力を失った魔女と通りすがりの旅人との、とある雨の日の物語。

(東方忘却記のネタバレが含まれます。ご注意を)



忘却の魔女

???side

 

 

多元世界、それは今和僕たちが過ごす世界とはまた別に存在する無数の世界。

ゲームの選択肢次第でストーリーやエンディングが変わるように、僕たちの世界にも違う選択肢をしていた世界、『If(もしも)の世界』がある。

 

今回お話するのは、選択肢どころか物語自体が違う世界。

記憶を操り、楽園から追放され、どん底で生きたいと願っていた少女の世界。

転生され、邪神との戦いに巻き込まれた少年の、旅の終わりまでを紡ぐ世界。

 

この二つが交り合う選択肢など存在しない。

だが、どこぞのバカの突拍子もない考えの前では、世界の法則など簡単に破られる。

 

今宵の物語は、“忘却の魔女”と“通りすがり”との邂逅のお話。

読者も、作者さんも、どうか最後までお付き合いください。

 

では、始まりはじまり……………………。

 

 

 

 

 

神無 優夜side

 

 

女の心と秋の空、ふとそんな言葉が思い浮かんだ。

人の心や愛情などが変わりやすいことにたとえた言葉だが、本当にその通りだ。

先ほどまで晴れ渡っていた空も、今はバケツをひっくり返したような大雨が降っている。

 

道行く人々は雨宿りする為に、急ぎ足で駆けていく。

それに比べて、俺は寄り道して買った唐傘を差してゆっくりと歩いていた。

 

 

「また面倒なことになったな」

 

 

俺は雨の中を歩きながらそう呟いた。

さっきまでルーミアと一緒に歩いていたはずなのに、この村に来てから突然姿を消してしまった。そういえば、雨が降り出したのもこの村に来てからだった。

何だか面倒事に巻き込まれたような気がしながらも、俺は村を歩きながら彼女を探した。

 

そんな時、俺の視界の先に一人の少女が映った。

降りしきる雨の中、民家の壁に寄り掛かりながら座っている町娘が居た。

俺は彼女の傍に歩み寄ると、彼女は虚ろな目で俺を見上げた。

 

 

「……あら、どちら様ですの?」

 

 

小さな声で彼女はそう尋ねた。

奇妙なお嬢様口調だが、身体がやせ細り、ボロボロの着物を纏ったその娘が、よく物語で見るような『貧民街に流れ着いた落ちぶれたご令嬢』のように見えた。

 

 

「……見世物じゃないんです。用が無いなら帰ってくれませんこと?」

「別にいだろ。俺に帰る場所なんてねえよ」

「奇遇ですね……私もですわ」

 

 

彼女がそう言って笑うと、小さくくしゃみをした。

 

 

「っくしゅん。失礼」

「いや。それより、ちょっといいかな」

「なんですの?」

「お人好しとして、少しお節介させてもらうぜ」

「え?」

 

 

俺は彼女を抱き上げると、彼女は驚いて固まった。

 

 

「な、なにを……!?」

「この近くに宿屋ってあったっけ?」

「それならこの道の先に………って、それより」

「なら、行くぞ。風邪引いたら大変だからな」

「ちょっと‼ 話を聞きなさい‼ はな、離しなさーい‼」

 

 

俺は腕の中で暴れる彼女に耐えながら、宿屋へと走った。

奇妙な出会いというものは、いつもこんな雨だった。

 

 

 

少 年 祈 祷 中

 

 

 

村にあった小さな宿屋、そこの一室で俺は降りしきる雨を眺めていた。

しばらくして、風呂から上がった彼女が襖を開けて入ってきた。

 

 

「久しぶりに生きた心地がしましたわ」

「それは良かった。あのまま濡れていたら冷えるからな」

「そんなこと、もう慣れましたわ」

 

 

彼女は綺麗になった黒髪を掻き上げると、俺と対面するように座った。

 

 

「貴方、少し変わっているわね」

「何がだ?」

「私みたいな小汚い娘を助けるなんて、変としか言いようがありませんわ」

「雨の中に捨てられた子猫を拾うのと同じだよ」

「何が望みですの?」

「何も望まねえよ。ただの村娘に過度な期待はしない」

「あら、てっきり夜のお相手の為に助けたのだと思いましたわ」

「そんなこと考えるかよ。………これでも俺は一途なんだ」

「純粋なこと。なら、何で助けたの?」

 

 

彼女の言葉に、俺は深い溜息を吐いた。

 

 

「同情だよ。それ以外に何かあるか?」

「正直ですね。そこまではっきり言われると、納得せざるを得ないわね」

「気に障ったか?」

「いいえ。まだこの世界にも、貴方のようなお人好しがいる事に、むしろ喜んでるわ」

 

 

彼女は無駄に上品な仕草で笑った。

 

 

「一つ、名前をお聴きしても?」

「神無 優夜だ。ただの通りすがりだよ」

「私は『月詠 鈴芽』、今はしがない村娘ですわ」

 

 

俺と鈴芽は、互いに顔を見合わせてそう答えた。

 

 

「面白い人ね」

「ん?」

「言動や素振りから見ても、私に対して嘘なんて吐いていない」

「普通は見てわかるモノじゃないだろ」

「解かるわよ。今まで人を騙してきた詐欺師ならね」

「詐欺師、ね………」

「ここは一つ、滑稽な御伽話でもしましょうか」

 

 

鈴芽はそういうと、楽し気に、哀し気に、語りだした。

記憶を操る魔女の話、魔女は記憶を書き換えることで望んだ物はすべて手に入れてきた。

貴族の裕福な暮らし、村娘の平穏な暮らし、占い師として頼られる暮し、何もかも魔女が望むままだった。

魔女にとって能力を使うことがいけないことだと思うことは無かった。人間が四肢を使うのと同じ様に、それが魔女に取って自然だったから。

 

しかし、魔女は気付いてしまったのだ。自分だけが狂っていたと。

独りで世界を傍観し、勝手に見切りをつけ、無様に踊り続けていた。ただの道化だと。

もう何もかも、どうでもよくなった魔女は、すべてを洗い流すような雨を降らした。

魔女は理想郷を守る賢者に倒され、能力を封じられると、その身一つで追放された。

 

 

「めでたしめでたし。如何でしたか?」

「哀れな結末だな」

「そうですね。お蔭で今は生きるのに精一杯ですよ」

 

 

鈴芽はまるで他人事のように鼻で笑う。

 

 

「結局、私は記憶が宿った人形に囲まれて生きてきたに過ぎなかった。

 八雲紫や幽々子、それに夢で見た魔神と名乗る彼の方が、人間染みてましたわ」

「だろうな。自業自得だ」

「ええ。では、お次は貴方の物語をお聞かせ願えませんか?」

「いいぜ。在り来たりな物語ならな」

 

 

俺は記憶を辿るように、静かに話し始めた。

この世界に転生し、ルーミアに殺されそうになりながらも、必死に生き延びたこと。

月の民が居た街では永琳や月美に世話になり、そこで個性的友人ができたこと。

邪神によって愛する者を失い、不老不死の力を手にしてしまったこと。

 

数億年の時を経て、諏訪の国で諏訪子や星羅たちと仲良くなったこと。

大和の神の軍勢に一人で挑み、三貴子と互角に戦ったこと。

そこでまた、俺は大切な者を一つ失ってしまったこと。

 

八ヶ岳の樹海でゆかりと出会い、俺たちと共に暮らしたこと。

鴉天狗と白狼天狗に一度負けるも、最終的にはリベンジしたこと。

力を無効化する鬼姫と一対一で戦い、苦戦の果てに打ち勝ったこと。

 

 

都へと向かい、そこでひったくりに遭った阿礼と出会ったこと。

光姫や妹紅と一緒に、難題の弓を探しに行く旅に出たこと。

月の使者から輝夜を守り、友との再会を果たしたこと。

そして、また俺は大事なものを守れずにいたこと。

 

 

「こうして俺の旅はまだ途中、ってわけだ」

「やっぱり面白い人ですね」

「気に入ったか?」

「ええ。私の知らない世界というものが、他には在ったんですね」

「まあ、平行世界だからな」

「ですわね」

 

 

互いの不幸自慢を騙り尽した俺たちは、お互い黙り込んでしまった。

静かなこの部屋に、激しい雨足の音だけが響いていた。

 

 

「なあ、鈴芽は雨を降らして記憶を消そうとしたんだよな」

「ええ。そうですよ」

 

 

俺は窓の外で振り続ける雨を見つめ、そう尋ねた。

鈴芽は「何を今更……」とでも言いたいように、ぶっきら棒に答えた。

 

 

「俺は雨に打たれていると、嫌なことを全部忘れられてスッキリするんだよな」

「それはよく言いますね。もっとも、嫌な記憶はそう簡単に消せないものですけど」

「でもさ、雨でも一つだけ隠してくれるもんがあるんだよな」

「なんですか?」

「涙だよ。泣いてる姿を見られなくない奴は、大抵雨の所為にして誤魔化すんだよ」

「初耳ですわね。そんな話」

 

 

鈴芽は目を逸らした。

 

 

「あの時、お前が消したかったのはみんなの記憶か?

 それとも、今まで共に過ごしてきた、友との記憶だったのか?」

「さあ? それは神のみぞ知るってことで、どうですか?」

「ああ。いいぜ」

 

 

俺は口元をニヤッとさせながら、彼女に微笑んだ。

 

 

「本当に面白い人、もっと早く出会いたかった」

「俺もだよ。お互い、出会いには恵まれないな」

「同感です。以前の私なら、貴方とはもっと話が合ったような気がしますわ」

「なら、次会った時は、もっと面白い話でもしようか」

「そうですね。次があったら」

 

 

鈴芽はそう言って笑うと、窓の外へと視線を向けた。

俺は振り返って外を見ると、雨が止み、空には綺麗な虹が掛かっていた。

俺と彼女は窓から身を乗り出してそれを見つめると、日の光に当たって彼女の瞳は黄金色に輝いていた。

 

 

「綺麗ですね」

「ああ、綺麗だな」

「それでは、もうお別れですね」

「ああ。そうみたいだ」

 

 

日の光をに照らされて、俺の身体が徐々に消えていってるのが分かった。

それと同時に、彼女も消えようとしていた。

 

 

「今度は、幻想郷で会えるのを楽しみにしてますね」

「戻る気かよ」

「ええ。紫に会ったらまず、思う存分暴れてやりますわ」

「程々にな」

 

 

俺と鈴芽は、互いに見合わせて笑い合う。

 

 

「………貴方との出会い、忘れはしないと思いますわ」

「俺は決して忘れねえよ。お前が居たという事を」

「では最後に………貴方は、一体何者なんですか?」

「――通りすがりの破壊者だ、憶えておけ」

 

 

互いに別れの言葉を交わすと、日の光に導かれるように姿を消した。

次に目が覚めると、俺は何も無い大草原でルーミアと一緒に寝ていた。

あれが夢だったのか、それとも現実だったのか、それは分からないが……………。

 

 

「お前のことは死んでも忘れねえだろうな」

 

 

『月詠 鈴芽:記憶を操る程度の能力』

 

 

スマホに表示された名前、それが彼女との絆の証のようだった。

さあ、次はどこを旅しようか。

 

 

交わるはずのない世界で紡いだ絆、それは決して忘れられぬ思い出となった。

 

 

 




空亡「えぇ……とういうわけでゲストの月詠鈴芽さんです」
鈴芽「なによ、そのやる気のない紹介は?
   この私がこんな年末なのに何一つ掃除されてない部屋に来てというのに」
空亡「おい、それ以上俺の部屋の事で語るな。これでも片付けた方だ」
鈴芽「うわ、埃が……」
空亡「リアルな方で引くな‼」

鈴芽「さて、それでは前の二人同様に私の事を紹介して頂戴」
空亡「ワガママ、エセお嬢様、オタク知識に浸食されつつある変な子、以上」
鈴芽「忘却『フォーゲット……」
空亡「はいはい。そんな反則級のスペカはアマノジャクで使ってください」
鈴芽「いや、それよりもさっきの紹介は何よ?」
空亡「あちら側にいるという貴方のご友人たちに聞いてみた印象です」
鈴芽「友人?」
空亡「左から良也さん、古河音さん、紫さん」
鈴芽「紫いいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」

空亡「しかし、意外とシリアスな話になってしまいました」
鈴芽「貴方、さっきのことをまるで無かったかのように」
空亡「知りませんでした? あの空白で一時間は経過してるんですよ」
鈴芽「どうでもいい所で明かされる、どうでもいい真実ね」

空亡「そんな事より、やっぱりギャグ回の方が良かったかな?」
鈴芽「例えば?」
空亡「優夜の歌声から始まるドタバタコント」
鈴芽「それ、ウチの作者がよそ様とのコラボでやった奴よ」
優夜「一万年と二千年前から、愛してるううううううううううう」
鈴芽「いきなり歌いだした!?」
空亡「八千年過ぎた頃から、もっと恋しくなった…………はい」
鈴芽「え、いきなりマイク渡されても――一億と二千年経っても」
三人「「「愛してるううううううううううううう」」」
鈴芽「って、何やらせるのよ‼」

空亡「さて、鈴芽さんのノリツッコミも堪能できました」
鈴芽「おかしいわ。私は本来ゲストの筈なのに、作中でも強いキャラなのに」
空亡「こっちの世界では無力ですね。後でマツタケさんに謝っておかないと」
鈴芽「もう嫌……家に帰りたい」

空亡「あはは……マツタケさん、コラボありがとうございました。
   また機会があれば、今度は面白可笑しくしたいです。それでは皆様」
優夜「良いお年を」
空亡「またか!?」


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