東方幻想物語   作:空亡之尊

72 / 106
訪れる災いたち

神無 優夜side

 

 

何事も無く佐渡島へと辿り着いた俺たちは、小町と別れて島を歩くことにした。

佐渡島はカタカナの『エ』みたいな特徴的な形をしているが、今俺たちは中央に位置するところをぶらぶらと歩いている。

 

 

「意外と何も何も無いわね」

「何も無いだろうな」

「じゃあ、何でここに来ようと思ったのよ」

「旅の目的もないからな。暇潰し日本全土でも旅しようと思ったからな」

「その行動力には恐れ入るけど、付き合わさられるこっちの身にもなりなさい」

「次はどこに行こうか」

「美味しいものがあるならどこでもいいわ」

「あら、ここにも美味しいものは意外とありますわよ」

 

 

俺たちの会話に割り込んできた声、聞こえてきた方へと向くとそこには意外な人物が立っていた。

白い毛並みの尻尾を九本も持った狐、天狐 蒼香がそこにいた。

 

 

「お久しぶりですね。神無さんに、ルーミアさん」

「蒼香、どうしてお前が」

「ふふ、友人のうちに遊びに来るのに理由はいりませんわ」

「ここって狐一匹いない狸の王国って有名なはずなんだけど」

「確かに、狐は居ませんね。でも、そんなことは気にしないわ」

「ブレない奴ね。バレたら大変よ」

「それがこやつの良い所じゃよ」

 

 

蒼香の横にいつの間にか、ここ佐渡の化け狸である木ノ葉が木に寄り添っていた。

 

 

「またお前らと会うとはな」

「儂の庭にわざわざ来るとは、これも何かの縁かの」

「偶然よ。コイツの気紛れで寄っただけよ」

「まあ、そうだな」

「どうせだから、木ノ葉の隠れ里にでも寄って行ってみてはいかがかしら?」

「隠れ里?」

「ただの化け狸の集落じゃよ。そんな期待されても何も無いのはお主が知っておるだろ」

「あら、折角の客人を退屈させたまま帰られるのは失礼だと思うのだけど?」

「………まったく、お主には口で何を言っても無駄だな」

「うふふ♪」

 

 

蒼香は嬉しそうに笑い、木ノ葉は呆れて溜息を吐いている。

この二人の関係は古くからの腐れ縁というよりは、少し仲の悪い姉妹のように見える。

何だか二人を見ていると羨ましく思えてくる。

 

 

「ところで、あれからどうなの?」

「ああ~実はあれから何人か化かしていたのだけど……」

「何かあったのか?」

「偶然通りかかった妖怪に返り討ちに遭ってしまってな、逃げて帰ってきたところじゃよ」

「お前ら、結構強いはずだよな」

「それ以上に強かったってことじゃよ。たしか、ルーミアと同じ髪の色をしておったな」

「それって………」

 

 

ルーミアと俺には心当たりがあった。

そういえば、アイツも幻想郷作りのために各地を飛びまわってるのか。

 

 

「なるほど。俺らのいない場所でも頑張ってるみたいだな」

「知り合い?」

「俺の弟子みたいなもんだな」

「なるほどね。今後は気を付けるとしましょうか」

「根は優しい奴だからさ。何かあれば頼りにはなると思うぜ」

「覚えておくわ」

 

 

そんな他愛のない会話をしていると、頭上を大勢の野鳥が通り過ぎていった。

丸で何かから逃げるように、一目散に飛んでいっている。

 

 

「何だか騒がしいな」

「そうだな。………不吉だ」

「いつもみたいに狸たちがへまやってるってわけでもなさそうね」

「だとすると、何かしらね」

 

 

その時、俺達がいるすぐ横の草むらが不自然に揺れた。

咄嗟にその場にいた全員が警戒するが、そこから出てきたのは一匹の狸だった。

真っ先に木ノ葉が駆け寄ると、狸は力尽きるように地面に倒れた。

 

 

「大丈夫か‼」

「狸、よね」

「そうね。それも木ノ葉のところの若い奴ね」

「そいつがどうしてこんな所で………」

「俺が聞く」

 

 

俺は『さとり』の能力を発動させると、狸の傍に歩み寄って心を読んだ。

 

 

『……里が…化け物に………みんなが……』

「わかった。だから、今は休んでいろ」

『あり………がとう……』

 

 

そこで狸の声は聞こえなくなった。

どうやら眠ってしまったらしいが、心まで相当疲れ切っている様子だった。

 

 

「どうだった?」

「里が襲われているらしい。詳しいことは行ってみないとだな」

「悪いが、儂は先に行く」

 

 

木ノ葉は我先にと里がある方向へと走っていった。

 

 

「里の事になると周りが見えてないわね。まったく」

「私たちも急ぎましょうか」

「ああ」

「里へは私が案内するわ。ついて来て」

 

 

蒼香の先導で里へと向かおうとしたその時、俺の視界に妙なものが映った。

 

 

「美命……っ!?」

 

 

それは間違いなく美命だった。

奴は俺を一瞥すると、木々の暗がりの向こうへと歩いて行ってしまった。

まるで俺を誘っているような雰囲気だったが、どこか違和感を感じていた。

だが、ただの他人の空似とは思えない。

 

 

「ルーミア」

「わかってる。私も見たわ」

「里の方は任せるぞ」

「そっちこそ、気を付けて」

 

 

俺は狸を道の端に隠すように寝かせると、美命が歩いて行った方へと走った。

もしも、本当にアイツなら、今ここで決着を…………‼

 

 

 

 

 

???side

 

 

里へと向かったルーミアたちは、そこで里を荒らす三匹の化け物を目の当たりにした。

それは妖怪と呼ぶにはあまりにも凶暴で、それと同時にあり得ない姿形をしていた。

 

翼を生やした虎の化け物、人面と猪の牙を持った化け物、仮面を被った羊の化け物。

どれもこれも妖怪とは違い、悪意に満ちた邪気を漂わせていた。

 

 

「こいつらが、里を……」

「余所者にしては、随分と好き勝手やってくれたみたいね」

「この感じ………邪神の配下ね」

 

 

対峙する三人の妖怪と、四凶と呼ばれる三柱の悪神。

 

 

そして、優夜が追った先では、海岸の前に一匹の化け物が待っていた。

目はあるが閉じており、長い耳と尻尾を持った犬のような化け物だった。

 

 

「てめえ、美命はどこだ」

「そんなものは居ないよ」

 

 

化物は三日月のように口を吊り上げて笑う。

 

 

「お前、何者だ?」

「四凶、そう言えばお前らにでもわかるだろう?」

 

 

四凶、中国で災いの象徴と呼ばれる四柱の悪神をそう呼んでいる。

誠実な人間を喰い、悪人へと貢物を送る『窮奇』。

野原を好き勝手に暴れ、争いでは死ぬまで戦う『檮杌』。

財を貪り、食物を喰い、魔をも喰らう『饕餮』。

 

 

「善人を忌み嫌い、悪人に媚びる『渾沌』。それが俺だ」

「他の三柱は村ってわけか」

「一番面倒そうなのを俺が引き受けることにしたんだよ」

「お前一柱で何ができるって言うんだ」

「何って、そりゃあ………」

 

 

その瞬間、俺の背後から何かが襲ってきた。

咄嗟に避けた俺は顔を上げると、そこには信じられない者がいた。

 

 

「………俺?」

 

 

真っ黒に塗り潰されたような姿の俺が、そこに居た。

 

 

「さあ、始めようか。自分との戦いだ」

 

 

渾沌が三日月のように口を吊り上げて笑った。

 

 

 

 

 





空亡「さあ、次回は張り切っていきましょうか」
優夜「また面倒なのが来やがったな」
空亡「ちなみにイメージの方は『シアンのゆりかご』の画像を元にしてます」
優夜「お前あそこの画像好きだよな」
空亡「東方影法師で俺の心はもう虜になりましたよ。まったく」
優夜「そういえば、ここに出てくる邪神や神話生物ってそこからもってきてるのか」
空亡「文字で表現するのが一番の難問ですけどね」
優夜「ところで、ここでこんな話して大丈夫なのか?」
空亡「………大丈夫だ、問題ない」
優夜「ダメなフラグだよ、それ」


次回予告
人生は歩き回る影法師、人間は自由意思も実体もない、哀れな役者に過ぎない。
東方幻想物語・探訪編、『心の奥に潜むモノ』、どうぞお楽しみに。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。