東方幻想物語   作:空亡之尊

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渡舟は六文銭で

神無 優夜side

 

 

前回のあらすじ、狐と狸になぞかけを挑まれたが難なくそれをクリアした。

こういうのをするのは初めてだからか、何だか新鮮だ。

 

さて、その二人は今現在ルーミアからの仕置きを受けて並んで正座している。

あれからルーミアの説教に加えて影からの攻撃で彼女たち二人の身も心はボロボロだ。

一応心配していたが、妖怪なだけあって意外と二人とも無事そうだ。

 

 

「無事ならいいか」

「よくないわよ」

 

 

右に座っている女性、『ソウカ』は目に涙を浮かべながら言った。

肩まで伸ばした長い白髪、着崩れた巫女服の上には蒼い羽織を羽織っている。着崩れた部分からは肩や胸らへんが露わになってる所為でまともに直視できない。だが、頭に生えた白い狐耳と、後ろで揺らめいている九本の尻尾が何よりも目を引いている。

 

 

「本気でやってあげてないだけまだ良い方よ」

「やれやれ、思った以上に厄介な奴を相手にしたもんじゃな」

 

 

左に座っている女性、『コノハ』は溜息を吐いて首を振った。

赤み掛かった茶色の長い髪、黄緑色の紋付羽織で、下に黒の長着を着ている。首には焦げ茶色と白の市松模様柄のマフラー、前髪には木の葉の髪留めを付けている。当然のように頭には狸の耳、後ろには一回り大きな尻尾が生えている。

 

二人共原作のキャラではないが、妖気からして強い部類の妖怪であることはたしかだ。

 

 

「聞き忘れてたけど、アンタたちは何者?」

「見たところ、ただの悪戯好きな狐と狸じゃねえよな」

「うぅ……申し遅れました。私は九尾の狐の『天狐 蒼香(あまぎつね そうか)』」

「儂は佐渡を根城にしている化け狸の『八百狸 木ノ葉(やおり このは)』じゃ」

 

 

二人はそう言って互いに自己紹介した。

九尾の狐に佐渡の化け狸、聞けば聴くほど妙な組み合わせだ。

 

 

「二人ってどんな関係なんだ?」

「腐れ縁ですよ。子供頃から化かし合いばっかりやって、今でもこうして競ってるの」

「今では互いに立場も偉くなったが、偶に抜け出してこうして遊んでるというわけだ」

「まあ、周りにこのことがバレたら大騒ぎでしょうけどね」

「大変ね。上に立つ者の立場ってのは」

「慣れれば楽しいものですよ。下の者達の成長とか見れて」

「うちの若いのも、将来が楽しみな奴が居るからの」

「そういうものなのね」

 

 

ルーミアは興味なさそうに振舞っているが、内心では少し羨ましそうな表情をしていた。

 

 

「ルーミアにはそういうのは向かないだろうな」

「わざわざ言われなくても分かってるわよ」

「今は二人だけで十分、だろ?」

「そうね。周りにがうるさかったら調子が狂うわ」

「本当に仲が良いようですね。お二人共」

「なるほど。妖怪に好かれる理由もなんとなく分かるな」

 

 

二人は俺たちの方を見て感心するように頷いている。

 

 

「さて、俺たちは旅を続けるが、お前達はどうする?」

「そうですね。私達はもう少し遊んでいくとしましょうか」

「懲りない奴等ね。まあ、精々退治されないようにすることね」

「また出会うことがあるなら、その時は旅の話でも聞かせてもらおうかの」

「わかったよ。じゃあ、二人とも気を付けて」

「ええ。そちらこそ、道中には妖怪に気を付けて。なんてね」

 

 

蒼香はそう言って笑うと、二人の姿が煙のように消え去った。

俺たちは再び佐渡に向かうために、歩き始めた。

その時、地蔵の横にある卒塔婆に何かの名前が書いてあるのに気付いた。

 

 

「…季…映…? ダメだ、読めない」

「ユウヤ、早く行くわよ」

「わかった。………じゃあな」

 

 

俺はそう言い残すと、その場を後にした。

 

 

 

少 年 少 女 祈 祷 中

 

 

 

一週間後、佐渡へと渡る渡船場。

そこにはいくつもの渡船があったが、どれもこれも渡し賃が高い。

まあ、本土から佐渡まで最短でも32km、それなりに労力の掛かることなのは俺でも理解している。

 

 

「さて、どうするか」

「せっかく溜めたお金は美味しい物を食べるために使いたいわ」

「そうだな。だとすると、一番安いのを見つけるしかないな」

 

 

守銭奴の思考に陥っていると、渡船場の奥にポツリと一つだけ小舟が浮かんでいた。

気になって近くに歩み寄ると、その近くの河原に赤い髪の女性が寝ていた。

 

 

「女性の船頭なんていたのね」

「こうなったら、この女性に乗せていってもらうか」

「まあ、むさ苦しい男よりは幾分マシね」

「と、いうわけで、お~い」

「……ぅん? 誰だい、あたいの睡眠をじゃあすんのは?」

 

 

女性は欠伸を掻きながら起き上ると、寝惚け眼を擦りながら俺らへと向いた。

 

 

「おや? お客さんかい。これは失礼したね」

「いや、気にしないで。それより、ちょっとお願いしてもいいか?」

「いいよ。どこまで行くんだい?」

「佐渡の島までだ」

「構わないよ。ただ渡し賃の方だけど」

「多少高くてもいい。いくらだ?」

「一人六銭、それでいいよ」

「「え?」」

 

 

俺とルーミアは自分の耳を疑った。

いや、六銭って、その値段だと数cm漕いだだけで終わるぞ‼

 

 

「もしかしてからかってる?」

「あはは、やっぱりそう思うか。でも、本気だぜ」

「なんでそんなに安いんだよ」

「まあ、あたいは商売がしたくて船頭をやってるわけじゃないしね。本当なら金なんて」

「それでも六銭は安すぎる。何か裏でもあるのか?」

「あると言えばある。あたいの船に乗った奴は死ぬっていう、根も葉もない噂がね」

「根も葉もない噂、ね」

 

 

おそらく、無償同然で船頭をやっている彼女に対して他の船頭が流したデマだ。

いくら安くても、悪い噂があれば人は乗らない。なんともまあ、小さい人間だな。

 

 

「まあ、働き詰めよりこうやってのんびりできるのはありがたいんだけどね」

「そうか。なら、久しぶりに働いてもらうとするか」

「お? さっきの話を聞いても乗る気かい?」

「ああ。今の俺達には命よりも金の方が心配なんでね」

「面白い兄さんだ。気に入ったよ、乗りな」

「ありがと」

「こっちこそ。久々に仕事のし甲斐があるよ」

 

 

そう言って船頭は舟に飛び乗った。

それに続いて、ルーミアが飛び乗る。

短い船旅の無事を祈りながら、俺は舟に飛び乗る。

 

 

「そうだ。折角だから名前、教えてくれないかい?」

「いいぜ。俺は優夜、通りすがりの旅人だ」

「ルーミアよ。ユウヤと一緒に旅してるわ」

「あたいは小町、見ての通りしがない船頭だよ」

 

 

互いに自己紹介が終わると、小町の舟はゆっくりと動きだした。

佐渡に渡るまで、俺たちは楽しく語り合った。

 

 

 

 

 

???side

 

 

「さて、神無は佐渡に向かったようね」

 

 

邪神が巣食う館の一室で、彼女は妖しく光る水晶を眺めていた。

そこには、舟の上で楽しく談笑しているユウヤ達が映っている。

 

 

「呑気なものね。本当にアヴァンがやられたのか疑うわ」

「残念ながら本当よ。“膨れ女”」

 

 

彼女、“膨れ女”の背後に紅いドレスの女が立っていた。

かつてユウヤの前に現れた“赤の女王”、どちらも這い寄る渾沌の配下だ。

 

 

「その呼び方やめてくださらない? 可愛くないわ」

「そうだったわね。“黒扇”」

「なにかしら?」

「アイツの行動を見てるってことは、今度は貴女が動くのかしら」

「どうかしら。でもアヴァンを殺した実力、ちょっと見てみたいわね」

 

 

そう言うと黒扇は黒い扇子を広げ、テーブルの上を横切らせると、そこに四枚のカードが現れた。

それぞれ、『渾沌・窮奇・檮杌・饕餮』と書かれている。

 

 

「すでにペットたちは外で遊ばせてる。後は獲物が着くのを待つまでよ」

「趣味が悪いわね。」

「ふふ、佐渡の島では今頃どうなっているかしらね」

 

 

黒扇は楽しそうに笑う。

 

 

「さあ、中国で悪神と称される『四凶』、貴方に敵うかしら?」

 

 

 





空亡「以上、オリキャラと原作キャラによく似た人でした」
優夜「どうせこれ以上語る気はないんだろ」
空亡「すぐに再登場しますから、その時にでも」
優夜「オリキャラの二人って、もしかして藍様とマミゾウに関係あるのか?」
空亡「まあ、そうですね。木ノ葉はマミゾウさんの上司みたいな立場です」
優夜「じゃあ蒼香は?」
空亡「さあね?」
優夜「語る気ねえのか」
空亡「その通り、ですね」
優夜「やれやれ、ただでさえ不安だというのに」


次回予告
彼が行く先で災厄は待ち受けるのか、それとも彼が行くから災厄が訪れるのか?
東方幻想物語・探訪編、『訪れる災いたち』、どうぞお楽しみに。


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